第十一話 「辞めたい下女と、辞めさせない男」
ご覧いただきありがとうございます。
本作は
「中華風後宮ファンタジー」
「年上攻め×主人公受け」
を詰め込んだBL作品です。
シリアスになりすぎず、基本はコメディ寄りで進みます。
どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください。
地下を抜けた後は、大騒ぎだった。
玄曜は後宮内の武官や護衛を叩き起こし、
地下で眠る下女たちを次々と運び出させた。
現場の指揮を執り、医家(医者)を手配し、
混乱する文官たちに的確な指示を飛ばす。
その姿を、香炉を抱えたまま少し離れた場所から見守りながら、
オレは思わず呟いていた。
「……すっげー仕事できるやつだ」
なぜか「一人で帰るな」と釘を刺され、
オレは大人しく待機させられていた。
数時間後。
ようやく事態は収束し、
疲労困憊のまま、オレたちは離れへ戻ってきた。
「玄曜! とりあえず上着だけ脱げ!
そのまま寝たらシワになるから!」
眠気で半分落ちかけている玄曜の衣を、
オレは必死に剥ぎ取る。
「ほら! これでいい! 寝ろ!」
そのまま玄曜をぐいぐい引っ張り、
半ば強制的に部屋へ連行する。
寝台に寝かせようとした、その瞬間――
「……」
眠気が限界の玄曜の腕が、ふいに流星の身体に回った。
「え?」
次の瞬間、そのまま――
オレごと寝台へ倒れ込む。
「ぎょえっ!?」
「……寝る」
「はあ!? ちょっと――!」
「……狭い。奥に詰めろ」
玄曜はオレを抱えたまま、
ぐいっと寝台の奥へ押し込んだ。
「もう! 玄曜!」
押し返そうとするが、
腕をがっしり掴まれて、まったく動けない。
え、なにこの力……!
身長差のある二人。
オレは完全に包み込まれる形で密着してしまう。
背中越しに、いや、全身から――
玄曜の体温がじんわり伝わってくる。
「おい、玄曜……放せって……」
だが、耳元から聞こえてきたのは、
――すぅ、すぅ。
「……え? もう寝たのか……?」
今日は、色々あったからな……。
本当に……色々あった。
疲れと、無事に帰れた安堵に、
オレの意識も次第にまどろんでいく。
そのまま――
玄曜と共に、深い眠りへ落ちていった。
――翌朝。
「なんでオマエが一緒に寝てんだよ!!」
寝起き最悪の玄曜の声とともに、
オレは寝台から蹴り落とされた。
「痛った!!
アンタのせいだろうがあああー!!」
……あー! 腹立つ!!
*
香炉を回収した後、下女たちは全員無事に救い出された。
命に別状はなく、数日安静にすればすっかり回復し、
皆それぞれ後宮での生活へ戻っていった。
誘い込まれた時の記憶は誰にもなく、
なぜ地下にいたのかもわからない。
下女たちの間では、
「神隠しにあったらしい」
そんな噂だけが、ひっそりと残った。
地下牢に取り残されていた亡骸は、
その後すぐ、手厚く埋葬された。
側には――
想い人が好きだった夜来香の木が、
特別に植えられていた。
……たぶん、誰かさんの計らいだろう。
こうして、後宮の下女行方不明事件は解決し、
人手不足もひとまず解消された。
……それなら。
「オレも、帰ろうかな」
後宮ではない、街の実家へ。
稼ぎは減るけど、地道に働いて、
慎ましく暮らす――
それが、オレには似合って――
「バカか。辞められるわけないだろ」
「玄曜……。オレのモノローグに割り込むなよ」
玄曜は腕を組み、露骨に不機嫌そうな顔で睨んでくる。
「なんで辞めんだよ」
「だって!女装して後宮で暮らすなんて、
リスクありすぎだろ!」
玄曜は袖から、あの灯りの龍霊雨器を取り出した。
「な……なに?」
「オマエ…オレの龍霊雨器を落としただろ」
「はあっ!?あれは仕方なかっただろ!?」
「これはとんでもなく高価な龍霊雨器でなぁ……」
意味ありげに、玄曜は目を細める。
「オマエが落として、傷がついた。
弁償してもらわないとな」
「……は?」
「妹も可哀想だな。父親の借金に、今度は兄の借金か」
「街の稼ぎで……
払い終わるのに、何年かかるんだろうなぁ?」
楽しそうに笑う玄曜を見て、背筋が凍る。
「アンタ……!
まさか、最初からそのつもりで……!?」
「はっ。さあな」
玄曜は一気に距離を詰め、
オレを壁際へ追い込んだ。
手を掴まれ、倉庫で壁ドンされた時の記憶が蘇る。
顔を近づけ、じっとオレを見つめる玄曜。
「絶対に手放さない」
低く、静かな声。
「オマエの力……オレがもらう」
真っ直ぐな視線に、
息が詰まりそうになる。
次の瞬間――
玄曜はフッと意地悪く笑い、
何事もなかったように手を離した。
どかっと椅子に座り、腕を組む。
「おい、流星」
「なんだよっ!!」
「腹減った」
「自分で作れっ!」
「バラすぞ」
「うぐぐ……!!」
歯ぎしりしながら厨房へ向かうオレを、
玄曜は少しだけ――
本当に少しだけ、優しく微笑んで見送っていた。
結局。
オレの女装後宮下女生活は、
こうして強引に続くことになった。
だけど――
これが、オレと玄曜、
そして後宮中を巻き込む
とんでもない騒動の始まりになることを――
この時のオレは、まだ知らなかった。
※作者より
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
後宮での生活は、まだまだ続きます。
引き続き、気軽にお付き合いいただけたら嬉しいです。




