思い出カフェのホットケーキ
ここは都内某所知る人ぞ知る隠れ家的カフェ、その名も「思い出カフェ」
お客様にご注文いただいた思い出のメニューをわたくし店主自らが調理しご提供させていただいております
さて...本日のお客様は....
綺麗な白髪にダンディなスーツを着こなされた紳士
5つしかないカウンター席の真ん中にお座りになり、ニコニコと私を見つめておられます
「ホットケーキを」
その紳士が穏やかなお声でご注文されます
「ホットケーキですね、かしこまりました」
ホットケーキを作るわたくしの手元を見つめながら、紳士が穏やかな、でも若干寂しそうなお顔で先月亡くなられたという奥様の話をしておられます
そのエピソードを聞きながら作ったわたくしのホットケーキは、紳士の記憶の中の奥様のホットケーキに仕上がったはず
「どうぞ、ホットケーキでございます」
わたくしはできたてのホットケーキを差し出しました
紳士は甘い香りの湯気が立ち上るホットケーキにナイフを入れ、一切れフォークに刺して口へと運ばれます
「....うん、この味だ」
紳士は小さく頬を綻ばせました
そのままホットケーキを見つめて話し始めます
「私の妻はね....料理が苦手だったのだよ。結婚以来、彼女は何年も何十年も私のために努力し続けて、美味しい料理を作れるようになった。が、彼女は言うんだ「どうしても美味しい料理が作れない」と。「何かが違う」といつも悔しそうにため息をついていた。ある時私は妻に聞いてみたのだよ。「今まで作ってくれた料理の中で、君が1番美味しく作れたと思うものは何だい?」
すると妻はこう言うんだ。「結婚初日に作ったホットケーキです」と」
もう一口ホットケーキを口へ運んだ紳士の瞳から、涙が一雫頬を伝います
「彼女は言うんだ。あのホットケーキは彼女が生まれて初めて愛する私のためだけに作ったものだから、一生忘れることのない、最高の料理だったと....。彼女と出会って幸せな人生だったよ。このホットケーキは幸せの味だ。」
紳士は穏やかな声で仰いました
「ありがとう」とニコニコと微笑んで帰って行かれた紳士見送って、わたくしはからのお皿を片付けます
さて、次はどんなお客様がどんな思い出をご注文されるのか
楽しみに待つ事にいたしましょう




