第1.3話
私は暗い夜道を歩いた。空には白い月が力強く輝いている。両親の話で聞いた建物といくつも通り過ぎた。ボウリング場、ラーメン屋、病院、銀行。コンビニという建物が一番多い。メトロ駅。「メトロ」は昔人々が使っていた移動手段の一つらしい。地下に掘った穴を使っていろんなところに行けるという仕組みだ。私はメトロ駅の下に下る階段を下りて行った。この黄色い枠線のある階段、昔は動いたらしい。人々を上から下、下から上に運ぶそうだ。昔の世界はどれほどのユートピアだったのだろうか。そこは私の想像力で何とかするしかなさそうだ。
ユートピアのエンターテインメントの中にはお話などがあり、アポカリプスというジャンルがあったらしい。そして私の住む世界もまた、アポカリプスらしい。両親の話を聞くと昔は今と比べて夢のような世界だ。なぜこの世界のようなお話を好んだのだろうか。昔の人間は理解しづらい。
エスカレーターの下まで降りるとゲートのようなものが四つ並んでいた。改札というらしい。私は親が言っていた話を思い出して手のひらサイズのコンクリートの破片と手に取って改札にあてながらピッという効果音を口で出してみた。さらに進み、もう一つのエスカレーターを降り、「駅」の「ホーム」に来た。長いプラットフォームとそれを挟む両側の溝。私はその溝に飛び降り、ため息をつくと暗いトンネルへ入っていった。ホームはすでに暗く、かすかに入ってくる月明りだけで進んできた。朝は寝て、真っ暗な夜だけに活動していると目は暗い光に慣れ、微妙な月明りでも見えるようになった。これは進化というものなのだろうか。私はコンクリートの塊を蹴りながら懐中電灯を一番低い設定にして進む。電池は四本。一本で一時間。昔の人はどうやってこんな地中深くにトンネルを掘ったのだろう。そして、生き残った人はここに住めば良いじゃないかと思うだろう。しかしその二つは両親が言葉と身で教えてくれた。大きな機械を使えばトンネルを地下深く掘るのは容易いということ、そしてトンネルなどの地下には確かにかつて生き残りの人が住んでいた。でもその人だまりのせいでアレを引き寄せてしまった。夜は暗い時間に行動する人間を狩り、昼に寝床がバレればもうおしまい。日災屍病の徘徊者ども。日の光を浴びすぎて癌のカイブツと化したもの。いつこのトンネルの中であってもおかしくない。奴らに光はいらない。なぜなら奴らは私たちのように五感を使わない。体中の癌細胞が感知する現人間の正常な細胞、皮膚から落ちる細胞や息から出る細胞を感じ取る。逆を言えば、私のように進化はしていないため、浸食されてかすかにしか聞こえずと見えずの耳と目を頼って人間以外のものを感知するしかない。つまり何かしら盾に進んだり、全身を覆うことで感知されにくくでき、飛び道具などに手でベタベタ触って投げれば自分から当たってくれる。