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ボクの配点40の雑文

作者: 白夜いくと

 死にたいと言えば身勝手なやつだと思われるだろうか。こういう言葉は、普段明るい奴が突然放つとはじめて重みを感じるものだ。


 ボクのように安易に使うと、人が離れる。それでも、ボクはSNSサイトに書き込む。


「死にたい」


 と。反応はナシ。外は雨。電話をする相手も居ない。特に腹が立つこともない。ワクワクすることもない。何もない。この虚無感が、堪らなく死にたい気持ちになる。


 贅沢、だと思う。

 必死に働いてる親の作ったご飯を食べて、自分はSNSサイトに『死にたい』と連呼する。何のために親はボクを育てたのだろうな。


 ボクの本音なんて、親は知らないだろう。言ってないからね。


「もうお昼ね、何か食べたいものはない?」


 母さんが買い物の準備をしている。ボクはソファの上でゴロゴロしながら「うーん……」と相槌のような声を出した。眠たいような、面倒くさいような、そんな声。母さんは、


「もう、はやく決めてくれないと。母さん仕事があるんだから」

「じゃあ、野菜炒め」

「え。作るの!?」

「じゃあ要らないよ」


 そう言うと親は、「はいはい。野菜炒めね、母さんの仕事が一つ増えました〜」と言って買い物に行った。


(……なら聞くなよ)


 親は常に正しい。

 ボクはもう高校生だ。欲しいものがあれば買いに行けば良い。でも、母さんが買い物しなければボクは一切食べ物を口にしない。心配して、いつも食べたいものを聞いてくれるのだ。


 そんな自分の自分勝手さに腹が立ってきて、行き場のない怒りをSNSサイトに書き込む。でもボクは言葉をよく知らない。今の気持ち。今の気持ちは……、


「死にたい」


 さっき書き込んだ時間がちょうど1時間前だった。1時間毎に『死にたい』と投稿している。こんなアカウントに誰も寄り付かない。


 実際に痛いのが嫌だから、死ぬ気なんて無い。でも、今を表す気持ちは『死にたい』なんだ。他にどんな言葉があるのか分からないけど、死にたいんだ。


(あー、なんだかなぁ)


 休みの日は、こんな気持ちが渦巻いている。どうしてボクは死にたいんだろう。どうしてボクは死にたいとSNSサイトに投稿するんだろう。


 何がしたくて、何が食べたくて、何が嫌で……そんな当たり前の感情が死んでいる。ボクの存在だけがあって、他の感情が死んでいる。


 だから、ボクも死んでしまいたい。


 こんなこと言えば、精神科とか紹介されそうで嫌だ。何でも病気にされちゃ困る。ボクはお風呂だって入れるし、バイトだってできる。学校生活で問題も起こしたことはない。


 なんにも問題ないよ。ただ、死にたいだけ。


 ────ガチャ。


 母さんが買い物から帰ってきた。

 雨が降っていたらしい、びしょ濡れで帰ってきた。


「もー! あの天気予報士嘘つきだわ! 思いっきり濡れちゃったじゃない!」


 親のヒステリックな声が聴こえる。それがなんだかムカついて、でも買い物に行ってくれた事は感謝すべきことで。何も言えずに居る。


「アンタも片付けるの手伝って!」


 母さんが怒りながらボクを呼ぶ。それがなんだかとてもムカついて。虚しくなって。死にたくなって。片付けて野菜炒めを食べたあとにSNSサイトに、


「死にたい」


 と投稿した。

 今度は、ボクの投稿を見た誰かがリプを送ってきた。


「私の友達は数年前に事故で亡くなりました。こういう投稿を見ると胸が痛くなります。あなたの『死にたい』は、誰かにとっての『生きたい』なんです」


 ……だから?


 ボクは君の友達なんて知らないし、ボクの言ってる『死にたい』とはずいぶん違う解釈してくれるな……。


 ボクの言う『死にたい』は、きっと『死ぬ』ってことじゃなくて、もっと他の『死ぬ』ってことなんだよ。ボクだってわからないよ。

 

 感動系の動画や泣ける系の動画もみたけど、ボクの『死にたい』を的確にあらわしてる気持ちが見つからなかった。

 だからボクはSNSサイトに投稿する。


「死にたい」

 

 と。


 ────TVラックが揺れる。地震が起こった。

 

 震度3。

 不思議と心が躍った。何故か生きた心地がした。『生きてる』と思った。不謹慎だろうか。


「結構揺れたね! 大丈夫だった?」


 あんなに機嫌が悪かった母さんが、ボクを心配して寄ってくる。この時の気持ちはあまり良く分からない。でも、心臓がトクトク言ってる。


 この、『トクトク』をボクは離したくないと思った。一瞬だけ『死にたくない』と思った。事故死したという、誰かの友達も同じ気持ちだったのかな。


 結局、ボクは『死にたくない』んだ。だけど、ある日突然とてつもなく『死にたい』と思う。この気持ちを追求するために生きてみるのも良いかな。


 ある日突然、地震で死ぬこともあるかもしれないし。雷に打たれることもあるかもしれない。誰かに道端で刺されて死ぬかもしれない。病死するかもしれない。


 そういう死に方はしたくない。やっぱり、ボクは根本的には『死にたくない』んだ。


 母さんがカーテンを開けた。


「晴れてきたわ!」


 遠くに見えるビルから虹がかかっていた。何を思うでなく、ボクは写真を撮ってSNSサイトに投稿した。いいねがついた。それをボクは『うれしい』と感じた。


 この時の気持ちを述べよ(自由記述:40点)


 



 おわり。

最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
 言葉に出来ない心を描く、その難しさを知る作家としての技量を自身で採点するかのようで、上を目指す心意気を感じられました。
【解】  なるようになる。  なるようにしかならない。  小難しいことを考えすぎても時間の無駄。
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