表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

宇宙飛行士も恋をする

 ラファエルとマヌがリビングから出て行った。

 マヌはコーヒーカップを手にして一口、喉を温めて、香りを味わいながら仕事の続きをする。実際、仕事はシステムを常時監視するだけなので、忙しくはない。まれに発生するエラーに対応するが、重大な事案はほとんどない。今、チェックしているシステムも問題なく動作している。


 突然、非常事態警報エマージェンシー・コールが鳴って、モニターに赤い点が光った。非常事態警報は汎用型アンドロイド『チヒロ』から発せられている。場所はシャワールームだ。なんだろう? マヌはシャワールームへむかった。




 シャワールームの掃除をしていたチヒロの下に、全裸のカルロスが現れた。口から出ない悲鳴をあげて、チヒロは壁に張り付いた。

 なに? どういう状況? カルロスはなんで全裸? シャワーを浴びに来た?

「すいません。今、清掃中です」

「知ってる」

 知ってる? ますますわけがわからない。

「どのようなご用件でしょう」

 自分で言って、なんか変だと思った。

「俺はチヒロが好きだ」

 はい? 好き? アンドロイドの私が?

「すいません。おっしゃっている意味がよくわかりません」

「言葉どおりだよ。俺はチヒロが好きだ」

 動揺が隠せない。私、襲われる? 身体はロボットだけど心は人間。それは嫌だ。

「私はアンドロイドです。人間ではありません」

「俺はアンドロイドのチヒロが好きなんだ」

「どうして全裸なんですか?」

「教科書では全裸で愛し合うんだろう。男と女は」

「それはそうだけれども、それは愛する男と女どうしでおこなうものであってですね。って、教科書どおり?」

「ここからどうしたらいい? 教えてくれ」

 あれ? もしかして、愛し合うことの意味を理解していない?


 にじり寄るカルロス。私は壁に張り付いたまま、逃げ場はない。カルロスが私を壁ドン。熱い息が顔にかかる。怖い。逃げたい。誰か助けて!


「カルロス! なにやってるの!?」

 マヌがシャワールームに入ってきた。

「鍵は掛けたはずだ」

「チヒロの非常事態警報を探知したから、鍵は開けさてもらった。あなた、チヒロになにをしようとしていたの?」

「俺はチヒロを愛している。だから、愛し合う」

「チヒロはアンドロイドよ」

「わかってる」

「わかってないのはあなた。チヒロはアンドロイド。生殖器は搭載されていません。セックスはできないの」

「セックスできない?」

「あたりまえでしょう。生殖器がないんだから」

「そうなのか? チヒロ」

「はい。そのとおりです」

「服を着てリビングに来て。チヒロもね」

「わかりました」

 なんかよくわからないけど助かった。


 マヌの心臓はバクバクで、破裂しそうだった。教科書で見たことはあったけど、本物を見たのは初めてだ。本当に付いているんだ。男性にあんなモノ。




 リビングにカルロス、マヌ、私の三人がいる。

「最初に言っておきます。アンドロイドが非常事態警報エマージェンシー・コールを発した以上、上へ報告しなければなりません。カルロス、状況を説明してください」

「してみたかったんだよ」

「なにを?」

「男と女が愛し合うっていう行為を」

「セックスのこと?」

 カルロスは顔を赤らめる。

 ちょっと待って。私はそんなことのためだけに、犯されそうなったってこと!? こちとらトラウマレベルの衝撃だったのだが。

「アンドロイドがセックスできないって知らなかったの?」

「アンドロイドは人間を精密に再現して作られたから、できるものだと思ってたよ」

「どうしてしたいと思ったの?」

「そんなの、男なら誰でも思ってるだろう」

 おまえは思春期まっただ中の男子か!

「チヒロはどうして非常事態警報を発したのですか?」

 え? どうして私にその質問をする。誰だって襲われそうになったら悲鳴をあげるでしょう。

「カルロスによって破壊される危険を感じました」

 嘘は言っていない。

「カルロスは裸であり、武器の類いは持っていませんでした。その状況でアンドロイドを破壊することは難しいと思いますが?」

「鬼気迫るカルロスの迫力に気圧されました」

「わかりました」


 会話は録音され、マヌの作成する報告書とともに上へ報告される。




「今回の事案についてはこれで終わります。ここからは私の個人的な感想ですが、恋なら現実の人間相手にしてはいかが?」

「世の中にはアンドロイドと結婚した人間がたくさんいるぞ。男女問わず」

「そうだけど、あなたの周りには生きている人間がたくさんいるでしょう。興味はないの?」

「あるけどさ、人間って怖いだろ」

「否定しないけど、話し合ってお互いを理解するのが人間じゃない?」

「話すの怖いな」

「まったく、そんな素質でよく宇宙飛行士に合格したわね」

「学力と体力には自身があるから」

「そうね。数学や物理で博士号を持っていて、水泳の世界選手権記録保持者だからね」

 へ~。カルロスってそんな凄い奴なんだ。

「マヌも考古学や歴史、人類学や民俗学、地政学でいくつもの博士号を持ってるじゃないか。水泳も得意だったろ」

「だったろ? ではなくて、今でも得意です」

「今度、勝負するか?」

「いいですよ。ただ、任期が明けて地上に戻ってからになりますけど」

「言質、とったぜ」

「望むところです」

 あれ? このふたり、良い雰囲気なのでは?




 整理しよう。


 ラファエルはマヌが好き。これは確定でしょう。カルロスは私が好きと言っていながら、マヌに気を引かれている。マヌもカルロスに好印象。李はラファエルとゲームで仲が良い。その関係が友人なのか、恋心なのか。そこを見極める必要があるな。




 メタバースの中で戦っている、ラファエルと李。私が第三の敵としてゲームに参戦し、ふたりの関係を探る。


 メタバースは空間がリアルに広がる3DCG。なにをするかはゲームとプレーヤーしだい。私が前回、プレイしたのはオープンフィールでお互いを倒すゲームだったけど、今、ふたりがやっているゲームはちがう。


 肉弾戦に必殺技をくりだすあたり、ス●リートフ●イターに似ているがフィールドが広い。縦横斜め上下左右360°がステージだ。スキルによっては空から攻撃することも、地中から攻撃することも可能。これが100年後のゲームか。軌道エレベーターからして科学技術の進歩に驚くけど、ゲームの世界も進化したな。まるで魔法みたいだよ。


 ステージは砂漠。マヌが操作するキャラクターは、ボディービルダー並みに筋骨隆々のバニーガール『リンダ』。ラファエルが操作するキャラクターは、サソリのように鋼の身体を有した細マッチョな男『ストレングス』。

 リンダの蹴りや打撃は、硬いストレングスになかなかダメージを与えられない。ストレングスの武器はサソリのように背後から伸びる後ろ足の蹴り。毒ダメージが付与されている。リンダは素早く攻撃を交わす。汗を飛ばし蹴りや拳をくりだすリンダに対して、砂に隠れて攻撃を交わすストレングス。戦いは拮抗している。




 どうなる、この戦い。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ