4話 相部屋
「……なんか、普通に寝ちゃったなあ」
隣のベッドで、すやすやと穏やかに眠っているリセナ。当然といえば当然なのだけれど、普通に食事をして各自シャワーを浴びて、二つあるベッドに別々にインしたことにレオンはなんだか拍子抜けしてしまった。片想いをこじらせまくった健全な十八歳は、何かと夢見がちなのだ。
「え、ほんとに? リセナ~……?」
小声で呼びながら彼女の顔をのぞき込みに行くけれど、特に反応はない。眠る彼女はいつもより幼く見えて、まるで天使のようだった。
――かわいい……。え、これ、触っても起きないんじゃ……?
鼓動が早まる。
そろりそろりと、彼女に手を伸ばす――が、
――うっわあぁダメだぁ! オレを信用してるから安心して寝てるのにっ! てかコレやっぱ他のやつらと寝かせられない! 絶対なんかされちゃうぅ!!!!
頭を抱えてジタバタする彼は、ちょっとリセナには見せられないような顔をしていた。
――うう、頭を冷やそう……。
苦悶の末、彼はよろよろと窓を開ける。すると、夜空に光のすじがいくつも降るのが目に入った。
「あっ」
――流れ星だ。……そういえば、リセナが城にいる時、なんとかこっちに帰って来ますようにって何度もお願いしたっけ。
そして、彼は不思議そうに目をまたたくのだ。
――なんか、最近多いよな、流れ星。なんでなんだろう……?
◆
草木も眠る深い夜。グレイは部屋の壁に背を預け、座って剣を抱えたまま目を閉じていた。
そこへ、足音も立てずに忍び寄る人影。彼の頭に向けられた杖の先では、透明な宝石がわずかに月明かりを反射して――。
「――お前、俺の寝首をかこうとしてるだろう」
彼の前に立っていたメィシーは、まるで別人かのように表情が抜け落ちていた。グレイと目が合って、ようやく、ぱっと悪戯な笑みを浮かべる。
「あはっ、バレたかぁ。まあ、僕のことを襲う素振りもなかったし、このくらいにしておこうかな」
至近距離から頭を吹き飛ばそうとしておきながら、今度は一転して親しげに、彼はグレイの隣に腰を下ろした。
「ところで、きみ、昼間に襲ってきた甲冑はなんだと思う?」
「……わからん。少なくとも、魔物の類いではなかった」
「そうなんだよねえ。……そして、誰かが魔法で操っている様子でもなかった」
てっきり、他の魔法使いが寄越したものだと思って対応したけれど。甲冑の残骸からは、魔導具としての特別な構造も、魔法陣も見つけられなかった。
「おかしな話だよ、甲冑が勝手に動くだなんて」
メィシーの声が、真剣味を帯びる。
「気をつけた方がいいね。僕たちの知らない何かが、この国で起こっているのかもしれない」
「…………」
グレイは、わずかに眉をひそめたあと、何も答えずに再びまぶたを下ろした。