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44話 彼と彼女の夢

 熱が交わる、その、直前に。レオンは、自分と、彼女の唇の間に右手を差し入れていた。手のひらに、やわらかくて、あたたかなものを感じる。


「それは、全部終わって、ちゃんと告白してから……っ」


 わけがわからなくなって、いっぱいいっぱいになって、涙目になりながらも、レオンはそんなことを主張する。


 しかし、リセナは、不満そうに彼の服の裾から手を入れた。彼女の指先が、レオンの体をもてあそぶ。

 短い悲鳴を漏らして、彼は反射的に身をよじってベッドから転がり落ちた。


 ――駄目だ、これ以上は、本当に戻れなくなる……!


 もつれる足で、なんとか起き上がる。


「くそっ、ナメるな、こんなの夢で何度も見てるんだよ! もっと凄いやつも!」


 がむしゃらに走りながら、彼は誰かに向けて、捨て台詞みたいに叫んだ。


「覚えてろよ! 絶対に、実現させてやるからなぁあッ!!!!」


 ◆


 欲望の間を抜けたレオンが、階段をいくらか駆け上がって突っ伏すと、そこにはもう他の三人がいた。リセナが、ほっとした様子で彼に手を伸ばす。

「レオ。もう、全然来ないし、霧でどうなってるかもわからなくて心配したんですよ」

「リセナ……よかった、無事に出られたんだね。……あ、今はちょっと立てないです……」


 彼が元気そうなのを確認して、メィシーは肩の力を抜く。

「いや、実に高度な感覚支配だったね。普通は、無事に魔王城から帰還できた話でも見せられるんだろうけれど――」

 メィシーが、リセナの方を見やる。レオンも、グレイも、同じことをしていた。


 全員の視線を受けて、リセナがうろたえる。

「えっ、なんで私を見るんですか……!?」


 レオンは、彼女がなにを見てきたのか――その欲望がなんなのか、聞きたいような聞きたくないような――やっぱり、聞きたい気持ちを抑えられない。

「ねえ、そっちはどうだった……?」

「えっ、あの……私は……そうですね。この四人で、仲良く暮らしてる……光景でした」

「絶対実現しないやつだ……オレたち戦争になるもん……。えっ、待って、仲良くってどういう仲良く? それは朝なの昼なの夜なの」

「え……ご想像にお任せします……」

「あ、ごめん、まだちょっと頭がおかしいから殴っといて」


 そんなことを言いながら、レオンは自分の心がざわつくのを感じた。


 ――そっか、リセナ、まだオレと二人じゃなくて……四人でいたいと、思ってるのか。


 そして、彼女が曖昧な返しをしたのは、なにも教えたくなかったからというわけではない。断片的に、いくつもの光景が見えたのだ。時間帯はおろか、季節もバラバラで、どれだけ時間が経っても一人も欠けることなく、自分のそばにいてくれる夢。

『もう、愛してもらおうなどとは思わない』なんて、どこかの王太子みたいな台詞、誰も言わない――そんな、揺るぎない愛を願った、切なる夢。彼女はそれを、幼くて都合の良い幻想だと振り切ってきた。


 メィシーが、ごほんと咳払いをする。

「それで、グレイ、この先はどうなっているんだい?」

「十二人の騎士と連続で当たることになる。終われば、最上階の玉座の間だ。魔王もそこにいる」


 騎士と聞いて、リセナは眉をひそめる。

「それって……人間、なんですか? あなたのような」

「いや、全員魔族だ。……だが、そうだな、人間とあまり変わらない姿をしている。それでも、お前は、そいつらと戦うために力を使えるか?」


 彼女が逡巡に使った時間は、少しだけだった。


「私は、世界中のみんなが、幸せであることを願っています。でも、選ぶ必要があるのなら、敵対者から切り捨てます。……そうですね、人間かどうかなんて関係なかった。もしも話ができないのなら、それがなんであれ、今は構っている時間がない」


 レオンは、立ち上がって、リセナの背中に手を当てた。適切な言葉は見つからないけれど、背負いすぎる彼女と、重荷を分かち合えるように。

「行こう、リセナ」


 四人は、再び階段を駆け上がった。


 十二騎士、はじめの三人は、言葉を交わすだけで退散させることができた。次の一人は、戦力差を目の当たりにして撤退した。残りの八人は、身命を賭して抗ってきた。

 階を上がるにつれ、敵の強さが増していく。十二人目を打ち倒したとき、レオンはすでに体力回復薬を使っているうえに、全身傷だらけだった。全て軽傷止まりであることだけが救いだ。


「っ……なんとか、ここまで来れた……。次の階に、魔王がいるんだな?」


 彼が尋ねると、回復薬の瓶をあおったグレイはそっけなく答える。

「いや、次は俺が任されていた階だ」

 十三人目――おそらく、今までの暗黒騎士の中で最強なのは、彼なのだろう。はじめの三人が簡単に退いた理由がわかって、レオンは冷や汗を流す。


 ――こいつでも、魔力増幅(アンプリフィエ)がないと勝てない相手……。魔王は、一体どんなやつなんだ。


 しかし、恐れてばかりもいられない。


 ――いや……しっかりしろ、王族相手に宣言してきただろ。あいつに認めさせるために、オレが、魔王を倒すんだ。


 立ち止まらないように、己を焚き付けて階段をのぼる。


 騎士が不在の分、なにか代替があってもよさそうなものだが、次の階には静寂があるのみだった。それがかえって不気味で、リセナもメィシーも息をのむ。先ほど使った回復薬は効いているはずなのに、妙に心臓が跳ねていた。

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