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35話 衝突

 明朝、リセナに迎えの馬車が来る時間。ライランド領にある荒廃農地に、グレイは立っていた。


「……なんのつもりだ、こんな所に連れて来て」


 向かいには、メィシーがいる。


「ここなら少々荒らしても問題ないと、レオくんに言われてね。――まあ、足止めかな。きみを、リセナから引き離すよう彼に頼まれている」


 背中の魔導銃(アルテンシア)に手をかけたメィシーは、魔力を込めながら、まだ対話をやめない。


「きみだって、本当は、彼女を魔王討伐に連れて行きたくはないんじゃないのかい? 情が湧いたんだろう」

「……どうするか決めるのは、あいつだ。俺でも、お前たちでもない」

「そうだね。けれど、僕は、できるだけ足止めしてみようと思う。――後から追いかけても無駄だよ。彼女は王太子殿下に会いに行くけれど、先方から城以外の場所を指定されている。その後は、しばらく行方をくらましてもらう予定さ」


「つまり、今ここでお前を斬り捨てて行けということか」


「言うと思った。僕はもう半人前じゃないからね、そう簡単には倒せないよ」


 苦笑してから、メィシーは魔導銃(アルテンシア)を構えた。


 ◆


 馬車が到着したのに、グレイとメィシーの姿がない。リセナが辺りを見回していると、遠くの方で、光と闇の魔力がぶつかるのが見えた。

「え……まさか……!」

 そちらへ駆け出すリセナ。すぐに、レオンが彼女を追いかける。

「リセナ! 戻って!」

「でも、二人が……! 止めなきゃ――」


 レオンが彼女の手首をつかむ。


「いいよ、放っておこう! 大丈夫だって、どうせただのケンカだよ!」


 上手く笑えているつもりだ、と、レオンは思う。

 なのに、彼女は、彼の言葉を信じなかった。


「……レオ。あなた、わざと、二人をぶつけた?」


「―――」


 ずっとグレイを追い払おうとしていたから、疑われるのは仕方のないことだった。レオンは、観念して、それでも笑うのをやめない。


「だって、魔王討伐なんて危ないよ。個人がやることじゃないって。国に任せておこう!」

「国がやらないから、私がやるんです」

「まずは自分を優先して。どうしても人を助けたいなら、きみの領分でやって。新しい事業、考えてるんでしょ? 命をかけて戦うのは、違うよね」

 一応、口角は、持ち上がっているはずだ。目も、たぶん、笑えているはずだ。

「リセナが傷付いたら、ご両親だって悲しむよ。きみだって、魔王と戦うのは怖いでしょ?」


 リセナは口をつぐむ。そんなもの、怖いに決まっている。それに、自分を大切にしてくれている両親を悲しませるなんて、あってはならないことだ。


「…………」


 彼女が黙った。説得できた、と、彼は思った。


 だけど、


「……怖いです。でも……大切な人が傷付くかもしれない、という可能性の方が、もっと怖いです。明日には、魔王がここへ攻めてくるかもしれない」


「考えすぎだよ」

 レオンは、力を入れて、彼女を馬車の方へ引っ張った。

「でも、それならオレの気持ちもわかるでしょ? きみに傷付いてほしくない。ごめんね、ちょっと、力づくで連れて行くから」


「っ……」


 痛いかもしれない。いや、こんなの、痛いに決まっている。それくらいの力で彼女の腕をつかんで、引いて、罪悪感でおかしくなりそうだった。


 それでも、これで彼女の命を守れるのなら――。そう、思っていたのに。


「――!」


 リセナが、魔力増幅(アンプリフィエ)をかけた身体強化で、レオンの手を振り払う。


 肌同士が擦れて離れる、乾いた音が響いた。


 振り払われた手を下ろすこともなく、こちらを見て絶句しているレオンに、リセナはやわらかく笑いかける。


「レオ。ありがとうございます、今まで私を守ってくれて。――次は私の番です。あなたは、ここに残って」


「……え?」


 固まっていたレオンの手から、力が抜ける。


「なに、言って……」

「あなたの縁談のこと、聞きました。次は彼女と一緒にいてあげてください。私も、必ず魔王を倒してきて、二人の式に参列しますから」

「待って、オレは――!」

「お幸せに……!」


 リセナは彼に背を向けて、足早に遠ざかって行く。


 彼女は、本当にそれでいいのか。本当は何を望んでいるのか。

 そんなことを考えられる余裕は、いまのレオンにはなかった。また一人で遠くへ行こうとする彼女に、ただ、ひたすら追いすがる。


「待って……!」


 もう説得する言葉なんて残っていなかった。彼女をそばで守ることすら許されない自分が情けなくて、悲しくて、彼女がどうしようもなく恋しくて。次々とあふれだす涙をそのままに、リセナを後ろから抱きしめる。


「いやだ、行かないで。オレを独りにしないで。どこへだって、ついて行くから……!」


 少しも取り繕うことなく、リセナの肩口で嗚咽を漏らすレオン。これでも聞き入れてもらえなかったら、もう、なんにもできない。


「…………」


 彼女が、なにもしゃべらない。


 ああ、もう、駄目だ。


 自分たちは、もう、これきりなのだ。


 彼がそう打ちひしがれているところに、頭を優しくなでられる感触がした。


 すぐ近くで、リセナの震えた声がする。


「これでも、まだ、離れて行かないんですね」


 彼がこんなに泣くなんて、彼女は思ってもみなかった。もう自分だけのものにしておくなんて許されないのに、こうやって求められることに、どうしようもなく安堵してしまう。

 そして、彼があまりに取り乱すものだから、まるで、これが今生の別れかのようで――。魔王との戦いで自分が命を落とす光景が、リセナの頭をよぎる。

「……わかりました、もう少しだけ、私のそばにいてください。もし、この先、私が死ぬようなことがあったら、この手を握っていてください」

 それだけで、どんなに救われるだろうと彼女は思う。


「リセナ……」

 彼女が共にいることを許してくれただけで、レオンには、なんでもできるような気さえしてきた。

「死なせないよ、きみだけは。危なくなったら、きみだけでも逃がす」


 ぐずぐずと鼻を鳴らして体を離す彼に、彼女は涙をこらえながら微笑んだ。

「どうして、そこまでするんですか?」

「……いま言うと、泣き落としてるみたいで格好悪いから言えない……。全部終わったら言う……」

「いや、いま言ってくださいよ。それ、生きて帰って来られないやつじゃないですか」

 リセナが真顔になる。

 レオンは急いで涙を拭った。向こうからグレイと共に歩いて来ていたメィシーが、わざとらしく首をかしげる。


「おや、お取り込み中だったかな。これ以上は、ただじゃ済まなさそうだったから切り上げて来たんだ。……初手で首を狙われたし」

「こっちも、話がまとまったところ……。この先も四人で行動する――。いや、違うな。魔王を倒すまでは、だ」


 最後にリセナと共にいるのは自分一人だと、こんな時でも彼は二人を牽制していた。

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