30話 看病に来たのでは? メィシーのターン
メィシー発見の翌日、リセナは雨でずぶ濡れになったせいで風邪をひいていた。熱が下がるまで、メィシーの部屋を借りて養生する。
扉がノックされたのでベッドの上から返事をすると、片手に皿を持ったメィシーが入ってきた。
「リセナ、具合はいかがですか?」
「はい、もう大分いいです。まだちょっとだけ、ぽーっとするけど、明日には治ってると思います」
「それはよかった」
皿の上には、ウサギの形に切ったリンゴが乗せられていた。彼はそれをサイドテーブルに置くと、リセナの額に触れる。
「失礼しますね――うん、薬草が効いたみたいだ」
そして、彼はリセナの顔をまじまじと見ると、目を数回瞬いた。
「あなた……僕が触れても、眉ひとつ動かさなくなりましたね」
この期に及んで、なにを言っているんだ、とリセナは思う。
「だって、メィシーさん、私のこと別に全然なんとも思ってないでしょう? さすがにそれは、冷静にもなります」
「……自業自得なのだけれど、ちょっと悔しいなあ……」
メィシーは、自分の額を押さえてつぶやく。
「……いや、これは寂しいのかな」
「――?」
「なんでもないです。ところで、魔王討伐の件、僕もお供することにしました。あなたには、長生きして、僕たちが世界を変えていく様を一緒に見てもらわないといけませんので」
「……! ありがとうございます! でも、私、長くてもあと八十年くらいしか生きられないけどいいですか……? 人間なので」
メィシーが、また額を押さえる。
「どうして、そんなにすぐ死んでしまうんですか……?」
「人間なので……」
「……こうしてはいられませんね」
彼は、リセナの頭を何度も優しくなでる。
「今のうちに、たくさん愛情を注いでおかないと。――よしよし、可愛いですね」
「……メィシーさん、私のこと、犬やネコか何かだと思ってます?」
「ふふ、それにしては僕たちと形が似すぎていますからね」
「つまり子ども扱いですか……一応、大人になったんですけど」
照れくささと不満で口をとがらせるリセナ。彼女の頬に手を添え、その唇に、メィシーがそっと親指を当てた。
「あなたはひとつ、勘違いをしていますね。僕はあなたのこと、全然なんとも思ってない――なんて言ったこと、一度もありませんよ?」
「え……?」
「僕だって、愛らしいものを愛でる感性は持ち合わせているつもりです」
メィシーの指が、リセナの唇をゆっくりとなでる。気品と色気が混ざり合った眼差しが、彼女をのぞき込んでいる。
「おや、どうしたんですか? 昨日はあんなに威勢がよかったのに、黙ってしまって――。ほら、もっと、こっちをよく見て」
呼吸のひとつ、まばたきのひとつまでじっくり観察してから、メィシーは愉快そうにパッと手を離した。
「ふふ、今日はこのくらいにしておきましょうか。ゆっくり休んでくださいね」
にこやかに手を振って出ていくメィシー。取り残されたリセナは、ウサギの形をしたリンゴをかじりながら呆然とする。
心拍数が、いつもより多い。
――今のは、なに……?




