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14話 独占欲

 レオンとリセナが組み立てたテントは、中に入ってみると二人で寝るのがやっとの小さな空間だった。

「昔、レオの家でテント張って泊まったの思い出しますね。秘密基地みたい」


「そうだね!」と、レオンがうなずく前の一瞬、リセナは彼がなにやら難しい顔をしていたことに気づく。

「どうしたんですか?」

「えっ、あ、いや~。今日は色々あったけど、もうちょっと上手くやれたんじゃないかな~って考えてただけ」


 レオンが、毛布をかけた膝を抱える。

 彼はリセナに対するあれこれも含めて考えていたけれど、彼女はワイバーン強襲の件だけに触れた。


「まあ、最善じゃなかったかもしれないけど、なんとかなったじゃないですか。……いや、本当、女の子を巻き込みそうになったのはヒヤリとしましたけど」

「あれはリセナにも無理させました……。というか、馬から飛び降りてたけど、足は大丈夫なの?」

 彼女自身はむしろ誇らしげに、Vサインをして見せる。

「うちのローブは、全身に衝撃吸収魔法がかかるようになってますから。あと、メィシーさんのレッスンのおかげで、私も身体強化に回せるくらい魔力量が増えたんですよ」


 後半はものすごく複雑な気持ちにならざるを得なかったけれど、レオンは世間話くらいの気軽さを装う。

「そういえば、リセナ、メィシーの里について行くの? 美味しいもの食べさせてもらえるって言ってたじゃん」

「そうなんですよね……! すごく興味はある、んですが……」

 リセナが、あごに手を当てる。

「グレイさんの方も、魔王討伐でしょ……? 今は向こうからの侵攻も止んでるけど、またいつ再開されるかわからないし……。順番、に悩んでるのかなぁ……」

「それなら、メィシーを先にしたら?」


 はじめてこの件で背中を押されて、リセナは目をまたたく。

「なんでですか?」

「だって、メィシーは、里の試練とかいうのをクリアしたいんだろ。もしかしたら、それで、ものすごい武器とかもらえるかもしれないじゃん。魔王と戦うなら、あいつも戦力にしようよ」

 本当は、

 ――メィシーを味方にすれば、グレイの隙をついて逃げるくらいは出来るかもしれない。

 と考えていたが、レオンは無邪気な顔のままだった。


「たしかに、戦力は多い方が――」くしゅん、とリセナが鼻を鳴らす。

「大丈夫? さすがに外は冷えるね」


 レオンの膝にかかっているのは、二人分の大きな毛布の半分だ。彼が横になって肩まで引き上げる動作をすると、自然とリセナも隣で同じ体勢になる。


 一枚の毛布に一緒になってくるまっているけれど、まだ、昔よりは二人の間に距離があった。


「……レオ、もうちょっと、そっちに行っていいですか?」

「うん! それじゃあ、難しいことは明日にして、もう寝よっか」


 爽やかな対応に全力を注いだあと、レオンは目を閉じて羊を十匹単位で大量に数え、そのモコモコで邪念を埋めた。

 実は、リセナが王太子の婚約者になってからというもの、彼は一度も安眠したことがなかった。昼間の疲れもあって、レオンは意外と早く眠りに落ちる。


 彼が静かになってから、リセナは寝たふりをやめた。


 ――レオ、普通に寝ちゃったな……。いや、当然といえば当然だけど。


 そっと、彼の寝顔を盗み見る。


 ――さりげなく、メィシーさんとのレッスンの話をしてみたけど反応ないし。……いや、別に変なことをしてるわけじゃないから、何も言われなくて当然なんだけど……。


 彼の鼻先で手を振ったり、指をふよふよ動かしてみるけれど反応はない。熟睡しているようだ。


 ――レオは私の幼馴染で、友達で、一緒にいると安心して……。それだけなのに……。


 本当に、それだけのはずなのに。


 ――おかしいよね。異性として意識してくれるか試してみる、なんて。よくない。そういうの、よくない……。


 こんなの、ただの独占欲だ。まだ添い遂げる相手を選ぶ勇気もないのに、彼は自分だけのものでいてほしいだなんて。


 ――よくない、なあ……。


 胸がきゅっとなって、すがるように毛布の中で彼の手を探る。温かな手にほんの少し触れるだけで、やはり心が落ち着いた。


 ――レオの手、いつの間にか大きくなったなぁ……。


 時の流れに感じ入りながら、夜は更けていく。

 外では、また、流れ星が夜空に線を描いていた。


 ◆


 空気が澄み渡った清々しい朝は、メィシーのいれた謎のハーブティーと共に始まった。


「はい、みなさん、よく眠れましたか? もう昨日あんなことがあった後なので、全体公開の情報共有といきましょう!」


 明るい調子のわりに、話の内容は全く清々しくないものだった。

「ええと、まず、先日襲ってきた甲冑ですが――ダンに調べてもらったところ、鉄の中に、この星には存在しないはずの元素が混ざっていました。これは、最近よく落ちてくる隕石の中にも含まれているそうなんですよ」

 レオンが首をかしげる。

「その隕石から作られたってこと?」

「いや、甲冑自体は一般的に流通しているもので間違いないよ。武具屋の話によると、工場から出荷前の甲冑が大量になくなった事件もあったそうだし……。人知れず汚染された、というイメージかな」

「……?」

「つまり、隕石が、普通の甲冑になんらかの異常を引き起こした可能性が高い。それも、勝手に動いて人を襲うような。――なにせ宇宙からの飛来物だからね。僕たちの常識が通用しない出来事が、これからも起こるかもしれない」


 そんな馬鹿な、と笑い飛ばしたかったけれど。昨日のことを思い出したレオンが、冷や汗を流す。

「……たとえば、様子のおかしいワイバーンとか?」

「ああ――それなら、勝手に検体を持ち帰ったダンが、検査結果に発狂してるんじゃないかな。彼、特殊な魔法で調べるから、人間には見えないものが見えてしまうんだよね」

 メィシーの言う通り、ダンは研究所で「ハッハァ、またこの元素か! これは生物っぽいぞぉ! しかも世界樹を狙う大馬鹿野郎か、根絶やしだなァ!」と叫んでいた。


 ハーブティーを飲みほしたリセナに、メィシーが優しく声をかける。

「それ、リラックス効果のあるハーブなんですよ。大変なことが多いけれど、気持ちを落ち着けていきましょうね。あと、免疫力を高める作用もあるんです」

「つまり、ワイバーンみたいに、人間が謎の存在に汚染される可能性もあるので気休めでも対策しておこうってことですね……」

「……はは、余計なことを言いました。どうか気を確かに」

 メィシーが苦笑する。彼もそれなりに動揺しているようだ。


 宇宙からの飛来物が、なぜ世界樹に仇をなすのか。レオンには見当もつかない。それよりも、いま言わなければならないことはハッキリとしていた。

「大丈夫! リセナのそばには、必ずオレたちがいるから! ――いや、まあ、信用ならないやつらはいるけど」

 レオンがグレイとメィシーを見る。

(ちなみに、グレイはメィシーを見ている)


 未だに疑われているメィシーは、しかし、潔く片手をあげた。


「その件でしたら。僕はリセナに危害を加えないと、法の神に誓います。一度誓えば、国王ですらもその拘束力からは逃れられないという、絶対法神への宣誓書――。違反時には死罪で構いませんので、ぱぱっと書きに行きましょう」


 そんな気軽な感じで、次の行き先となる街が決まった。

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