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13話 キャンプデート?

 日が暮れた野道を、レオンはメィシーと一緒にかなり低いテンションで歩いていた。


「本当に追いつけないんだけど、なに……? 誘拐事件のふりをして後で合流するって流れなんじゃ……? というか、メィシー、お前が杖を取りに店まで戻ったからだろ……」

「八つ当たりしないでくれないかな……。どのみち馬には追いつけないし、まあ、リセナは無事だろうから落ち着いてよ」

「お前はいつもそう……! 能天気すぎるんだよ……!」

「ははあ、きみ、僕のことを見くびっているね。実は、リセナに渡した首飾り、一回だけめちゃくちゃすごい防御魔法が発動するよう細工してありまーす」

「わーすごーい、ってなるか……! 一回だけかよ、この状況じゃ時間稼ぎにもならないから!」

「これだけ引き離されるとは思っていなかったんだよ!」


 次第にヒートアップしていく二人の口論に、横から知らない男性の声が飛び込んできた。

「お兄さんたち! 今日の宿はお決まりかな? 今なら『安心・安全・野営体験所』空いてるよ!」

「はあ――?」

 レオンが見ず知らずの男性にまで八つ当たりしかけた時、指し示された森の方からリセナが小走りで駆け出てきた。


「レオ……! あのね、今日はここに」

「泊まる~!!!!」

 それだけで、レオンはころりと満面の笑みになった。


 野営体験所という名の宿泊地。テントや調理器具の利用料を支払って、あとは勝手にというスタイルだったので夕食は自分たちで準備する必要があった。

 レオンがテントのある場所に向かうと、香ばしい匂いが漂ってきた。先にいたグレイが、焚き火で大きな肉の塊を焼いていたのだ。


 リセナがそっと耳打ちする。

「いや、もう、すごかったですよ。剣で仕留めて剣で捌くんです。あれ、イノシシみたいな魔物の肉なんですけど」


 そうこうしている内に、グレイが塊のままの骨付き肉をリセナに差し出す。彼はなにも言わないが、これを全部くれるらしい。

「え、あ、えっと……」

 困惑する彼女に代わって、レオンが調理器具の中から包丁を取り出した。

「まったく、そのままだと食べにくいだろ――」

 振り返ると、グレイが剣で肉をスライスしようとしていた。

「待て待て武器を使うな! それ魔物斬ったやつだろうが!」

「……もう何も付着していない」

「細菌ってのはぁ! 目に見えないんだよ!」


 グレイは魔力で滅したと言いたいのだが、なにしろなんの説明もないので何も伝わらない。

 リセナもおろおろしているので、彼は大皿に肉を乗せると食器入れからナイフとフォークをわしづかみにした。そして、意外にも綺麗な所作で肉を固定しスライスするものだから、レオンは文句に困って「なんでナイフとフォークは使えるんだよ……」とつぶやいていた。


 肉を取り分けた皿を、グレイが無言でリセナに渡す。

「……ありがとうございます」

 彼はいつも通りだった。今日はじめてグレイの魔力を受け入れた時、レオンやメィシーとは明らかに違う悪寒を感じて、リセナは今でも少し警戒しているのだけれど。


 ――やっぱり、普通の人とは違うのかな……。


 スライスされた肉を口に運ぶと、豚に似た味だったが、こちらの方が弾力があって味が濃かった。

「……はじめて食べたけど、美味しいですね、これ」

 距離感を測りかねながら言うと、グレイは「そうか」とだけ答えた。やっぱり、彼のことはよくわからない。


 結局、彼女の前にはあと二品の料理が並んだ。一品目は、レオンが持ってきたキノコのソテーだ。彼の指には、包丁で切ったのであろう傷がいくつも増えている。そんなに不器用ではないはずなのに、料理をすると怪我をする呪いにでもかかっているのだろうか。


「はいっ、リセナどうぞ!」


 ニコッと笑って彼女に皿を渡したあと、彼はグレイとメィシーの前にもガシャンと音を立てて同じものを置いた。


「お前らにも作ってやったんだから感謝しろよな」


 グレイは訝しげに皿を持って匂いを嗅ぐと、メィシーを見やった。

「……お前、先に食え」

 すかさずレオンが噛みつく。

「毒なんて入ってないからな!」

 メィシーは真面目な顔でキノコを眺める。

「いや、きみの立場としては、ここで我々を亡き者にする計画もあり得るかと……」

「正直、正気を保っているオレを褒めてほしい」※訳(毒キノコを入れそうになりました)


 すると、リセナがくすりと笑う声がした。彼女の顔には先程まで緊張が見え隠れしていたけれど、今は純粋に機嫌が良さそうだ。


 リセナが料理を口に運ぶと、なんだか食べ慣れた爽やかな味がした。

「美味しい……。あ、これ、私が好きなハーブも入ってるんだ」

「そうそう、見つけたから入れてみたんだ! リセナ、前にこれ好きだって言ってたから」

「言ってたっけ……? いつですか?」

「うーんとね、十年くらい前!」

「じゅうねん……」

 自分すら覚えていない話を出され呆気にとられるリセナだったが、レオンはメィシーたちの方を向いて勝ち誇った顔をしていた。


 それを挑戦と受け取ったのか否か、メィシーはキノコのソテーを食べ終えると澄ました顔で立ち上がった。

「さて。それではデザートにしましょうか」

 彼から渡された白い平皿を見て、リセナは目を丸くした。

 メィシーが上品な笑みを浮かべる。

「どうぞ。木の実と果実の蜂蜜がけです」

 各種ナッツと柑橘、ベリー類が中心に寄せられており、そこから黄金の蜂蜜がなんかオシャレな模様を描きながら白い背景に広がっている。アクセントに、鮮やかな花びらまで散らされていた。


 どう見ても高級レストランの創作料理を出され、リセナは「はわ……」としか言えない。レオンは(自分の分は当然のようにないので)彼女の持つ皿を指差した。


「なんでキャンプでこれが出てくるんだよ、おかしいだろ……! ここは森だぞ!」

「おや、森は僕たちエルフの庭だよ? 見くびってもらっては困るね」


 意味のわからない理論で勝ち誇った顔返しをしてから、メィシーはおかしそうに笑った。


「いや、実は百年前から料理の練習はしていたんだ。うちの里は変化が少ないから、父様がつまらなさそうにしていてね。日々の食事で変化をつけようと思って」


 ひゃくねん……と思いながら、リセナはデザートを口に運ぶ。ローストしたナッツの香ばしさに、蜂蜜と果実の甘酸っぱいハーモニーが贅沢な一品だった。

「すごい。美味しい……。メィシーさん、これ、レストランで出しませんか? 実はうちの商会、新しい事業を検討してて――」

「おや。では、ぜひ、うちの里で採れる食材も試していただきたいですね。滞在中は、僕が毎日あなたの食事をご用意しましょう」

「わぁ……!」


 リセナが目を輝かせるものだから、レオンは後ろの方で「あ~~っ」とか「ウ~ッ!」とか言って色んな感情を押し殺しきれないでいた。

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