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10話 買い物デート?

 様々なジャンルの商店がある大通り。観光客相手なのか、宙返りしながらジャグリングをする曲芸師がいて、リセナも興味深そうに見ながら歩いていた。他にも、おどけた動きで笑いを誘う道化師がいたけれど、小さな子どもたちにばかり人気があるようだ。

 そんなにぎやかな中を、レオンはグレイに叩かれた右手をさすりながら散策する。


「まだ痛い……身体強化してなかったら折れてた……。リセナ、回復薬とか持ってない?」

「あっ、一応あります。でも……あれ、ほとんど『急激に老化する薬』なんですよね」

「なにそれ、こわ……」


 彼女は指先で宙に線を引いて、開いた空間から小瓶を取り出す。


「うちの商品の試作品、というか、失敗作です。体内時間を早送りして傷を治すんですが、人間の体だと耐えきれなくて老化しちゃうっていう……」

「怪我でいま死ぬか、ちょっと後に老衰で死ぬかってこと? どっちも死じゃん」


 消毒液みたいなノリで持ち歩かれているけれど、とんでもないものだった。


 しかし、メィシーは興味深そうだ。

「へえ、それ、エルフには普通に売れそうですね。僕たちは人間と比べて、ずっと老いるのが遅いですから、メリットの方が多いと思います」

「でも、確実に寿命は削れますよ?」

「ええ、でも、長すぎる時間でやることがなくなって、早めに自死する者もいるくらいですから。まあ、魔法で寿命を分け与えるのと同じくらい、里の掟で固く禁じられてはいるけれど……。回復薬としての販売なら」

「ギリギリ合法ってことですか。うん、いや、いやいや、さすがに……」

「僕についてきてくれたら、里で販売するお手伝いをしますよ」

 メィシーがリセナの耳元でささやくものだから、レオンは大声でショーウィンドウを指差した。


「わーっ! リセナ! あれ買ってほしいな!!!!」


「え、ソードベルトですか? ああ、あのタイプなら柄だけでも落ちないですね。入ってみましょうか」


 武具屋に入店したレオンは、自分の買い物よりも、まず壁にかかっている女性用のバトルドレスに目がいった。リセナがローブの下に、まだ、王太子からもらったのであろうレースとフリルのドレスを着ているのが気になるのだ。あと、魔力探知を妨害するアイテムに過ぎなくても、メィシーが渡した首飾りを彼女が着けていることも本当に気になる。


「リセナ、あれ、試着してみない? 動きやすそうだし、デザインもたくさんあるよ」

「あ、本当ですね、いいなあ。でも、色々ありすぎて決まらない――」

「オレ、選んでみていい!?」


 食い気味に聞いて、うなずかれると同時にレオンは並んだ商品を見比べ始めた。


 ――リセナに合わせて、すっきりした色合いがいいかなあ。アレ……は、ちょっと体のラインが出すぎるな。見せられない。あいつらには絶対……。


 レオンが(彼は知るよしもないけれど、リセナの体のラインどころか一糸まとわぬ姿を見たし抱え上げてもいる)グレイをちらりと見ると、彼女の後ろにじっと立っていた。リセナはローブの予備でも買おうとしているのだろう、高い所にある商品を取ろうと背伸びをして手を伸ばしている。


 それを、グレイは彼女の後ろからいとも簡単につかむと「ほら」とだけ言ってリセナに差し出した。


「え、あっ、ありがとうございます……!」


 彼女が、まんまるにした目をぱちぱち瞬いた。そして戸惑い気味にはにかんで、取ってもらった真紅のローブを抱きしめる。――その光景を、レオンは目の当たりにした。


「あぁああ~! そのくらいならぁ! オレにも届きますけどぉ!?」


 勝手にグレイと張り合うレオンそっちのけで、今度はメィシーが白いブーツを持ってくる。


「リセナ、こちらに履き替えてみませんか? きっとあなたに似合うと思います」

「あっ、はい、えっと……」

「こちらへどうぞ」


 メィシーはリセナをイスに座らせると、自分はひざまずいて片手を差し出した。


 一瞬遠慮がうかがえたものの、リセナはそれを合図に片足を浮かせる。メィシーは自然な動作で彼女の足に触れ、パンプスを脱がせるとブーツをあてがった。――また、レオンの目の前で。


「んんんん~ッ、リセナは靴くらい自分で履けますけどぉ!? なんならオレより早く靴ひも結べるようになりましたけどぉ!!!!」


 もはや何に対してマウントを取っているのかもわからない。彼女は少しおかしそうにしながら「これにしますね」と言うだけだった。


「リセナ、この服を着てみて!」


 選んだ服を渡し、リセナを試着室へ誘導する。彼女を待つ間、レオンは込み上げてくる嫌な予感に眉をひそめた。


 ――あれ、リセナ、あいつらとの距離近くなってない? ちょっと一緒に過ごしただけなのに? リセナは、もっとこう、誰にでも心を許す感じじゃなくて……オレが誰より一番仲が良くて……えっ? おかしくない?


 レオンの頬を、冷や汗が伝う。


 ――もしかして、オレ、早く告白しないとまずい……? いや、でも、そういうのってタイミングとか雰囲気とかあるし。というか……もし、断られて、今の関係性すら壊れたら……。


 彼女は、王太子を受け入れることができなかった。けれど、それは、彼が先に手を出して、先に拒否されただけなのではないか。自分も、同じ道をたどる可能性があるのではないか――。レオンの思考が、マイナス方向に振り切れる。


 固まる彼の前で、試着室のカーテンが開いた。白を基調としたデザインで、生地と胸元の造りは軍服と同じものだが、ワンピースのようなシルエットがリセナの可憐さを引き立てている。

「どうでしょうか?」

 彼女が両腕を広げて、軽く左右に身をひねって見せる。かわいい。とても。しかし――


 ――落ち着け、今のオレは、とにかく安心を提供する係だ。気持ち悪い反応はするな。下心を隠せ……!


「うん、似合ってる! やっぱり、リセナは格好いいね!」


 晴天の太陽みたいな、カラッとした笑顔で彼は言う。

 リセナは少しの間をおいて、茶目っ気のある笑みを浮かべた。

「そうでしょう? 私には、レースとフリルだけじゃないですから」

 これは、なかなか爽やかな対応ができたのではないか。レオンは内心で自画自賛する。


 一方、リセナは、そんな彼の様子をすみずみまで観察していた。


 ――レオ、やっぱりいつも通り……? そうだよね、ずっと、幼馴染として守ってくれてるんだもの。……やきもちを妬いてる、だなんて、私の思い上がりか……。


 マイナス思考とマイナス思考は、一緒にいるだけではプラスにならない。隣にいすぎてぶつかることすらできない二人は、手を繋げる距離で、平行線のまま進んで行った。


 ◆


 自分とレオンの買い物を終えて、リセナが店を出ようとすると、メィシーが狙撃銃型の魔導具の前で立ち止まった。


「メィシーさん、銃も扱えるんですか?」

「あ、いえ。今の戦い方より、こちらの方が的を絞りやすいし興味はあったのですが……。エルフの間では、人間の造った魔導具は環境に悪い、だなんて話がありまして」

「えっ? ……ああ、ハルバ鉱石のことですか?」

 リセナが、銃の中心辺りを指差す。

「魔導具としての銃は、弾薬の代わりに、威力を上げるためのハルバという鉱石を内蔵してあるんです。最近になって言われ始めた話なので私も詳しくはないんですが、ハルバが放出するエネルギーが自然環境に悪影響を与えるとかなんとか……」

「うーん、それは迷いますねえ……」


 いつまで経ってもメィシーたちが動かないので、レオンが口を挟む。

「とりあえず買っちゃえば? ほら、メィシーが使ってる杖の宝石、代わりに入れたりできないの?」

 適当に言ったつもりだったが、リセナが両手をぱんと合わせる。

「あっ、私、その辺の改造ならできるかもしれないです! アレなら連射も広範囲の溜め撃ちもできるので使い勝手がいいですよ!」

 一番高価な商品――銃身に金のラインが入った『アルテンシア』を指差されるメィシー。

「……へえ、やけにお詳しいですね」

「うちが出してる商品です!」

 なるほどな、という顔をしてから、メィシーはうなずいた。

「それなら、買ってみましょうか」


 彼が会計をしている間、レオンとリセナが店を出ると、先に外で待っていたグレイが空を見上げていた。


 二人がつられて顔を上げると、高い所を飛ぶ一匹の竜の姿が見える。

「ワイバーン……?」リセナがつぶやいた。

「へえ、オレ、はじめて生で見た……! ていうか大丈夫かな、世界樹に近付いてるけど、ぶつかったりしない?」

「さすがに、保護結界は張ってあると思いますけど……。それに、魔物にだって世界樹は必要なので、気をつけて飛んでるんじゃないかなぁ」


 そんな話をしている最中、ワイバーンは保護結界にぶつかる手前で止まると――


 世界樹に向かって、火炎の息を吐き出した。


「えっ」

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