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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
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百合短編

果(は)てのない凪(なぎ)

作者: 転生新語
掲載日:2024/03/09

「私の遺骨箱(いこつばこ)は、花柄(はながら)で包(つつ)んでほしいな」


 先生が二人(ふたり)きりの時(とき)、そう呟(つぶや)いた。以下(いか)は中学生(ちゅうがくせい)時代(じだい)の、私の回想録(かいそうろく)みたいなものだ。




 私は美術部(びじゅつぶ)で、顧問(こもん)の先生(せんせい)に恋(こい)をした。綺麗(きれい)な女性で、同性(どうせい)を好(す)きになったのは初(はじ)めてで。危(あや)うい瞬間(しゅんかん)もあったけど、卒業(そつぎょう)まで互(たが)いにプラトニックな関係(かんけい)を続(つづ)けた。


「どうして、そんなに絵(え)が上手(うま)いんですか?」


 先生の家(いえ)へ遊(あそ)びに行(い)って二人(ふたり)きりの時(とき)、飾(かざ)られていた作品を見(み)ながら私は尋(たず)ねた。今(いま)でも私の、絵(え)の技術(ぎじゅつ)は中学生時代に先生から学(まな)んだことが大半(たいはん)で、全(すべ)てと言(い)ってもいい。そして私は、先生のレベルで描(か)けるとは当時(とうじ)も今(いま)も思(おも)えなかった。


「専念(せんねん)できれば、誰(だれ)でも上手(うま)くなるわ。例(たと)えば無人(むじん)島(とう)で、ずっと絵(え)だけ描(か)き続(つづ)ければね」


 冗談(じょうだん)かと思(おも)ったけど、昏(くら)い表情(ひょうじょう)で先生は続(つづ)けた。


「変化(へんか)がない生活(せいかつ)で、ずっと絵(え)を描(か)き続(つづ)けただけよ、私。カミングアウトもできず、結婚(けっこん)退職(たいしょく)もできない。好(す)きな人(ひと)と手(て)をつなぐことも交際(こうさい)もできない。凪(なぎ)みたいなものね。何(なに)も変(か)わらない、見(み)た目(め)だけは穏(おだ)やかな海(うみ)。そんな生(い)き方(かた)だっただけ」


「……芸術(げいじゅつ)には孤独(こどく)が必要(ひつよう)ということですか」


「いいえ、違(ちが)うわ」


 真剣(しんけん)な顔(かお)で、先生が私の言葉(ことば)を否定(ひてい)する。そして続(つづ)けた。


「人間(にんげん)なんだもの、人生(じんせい)には変化(へんか)があって当然(とうぜん)よ。結婚(けっこん)に限(かぎ)らず、将来(しょうらい)は親(おや)の介護(かいご)だってあるわ。状況(じょうきょう)に適応(てきおう)して、流(なが)れを受(う)け入(い)れるの。その上(うえ)で芸術(げいじゅつ)を嗜(たしな)みなさい。私みたいになっちゃダメよ。独(ひと)りで、絵(え)を描(か)くことに寄(よ)りかかって生(い)きては駄目(だめ)なの」


 もし先生が絵(え)を描(か)けなくなったら、どうしますか? そう尋(たず)ねた。


「その時(とき)は死(し)ぬでしょうね、私」


 そう言(い)われた。遺骨箱(いこつばこ)の話(はなし)は、この時(とき)に出(で)てきたと思(おも)う。




 私が中学を卒業(そつぎょう)した後(のち)、ややあって先生は亡(な)くなった。死因(しいん)は明(あ)かされず、タイミングが合(あ)わなくて葬儀(そうぎ)にも私は行(い)けなかった。きっと先生なら、『来(こ)ないで』と私に望(のぞ)んだ気(き)がする。


 今(いま)、彼女(こいびと)と手(て)をつないでデートしながら、『私には変化(へんか)があったよ、先生』と胸(きょう)中(ちゅう)で私は呟(つぶや)いた。

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