12.懐に入れたものは
子供の行方(全17話)
一方その頃、逃げ出した日向は未だに深川仲町の近くにいた。
目立つ深川不動尊や富岡八幡宮があったので、大体の場所は察していたが、そろそろ木戸が締まる頃。
時間的に、このまま徒歩で歩いて行ったのでは、どこかで締め出されてしまうはず。
神保町の屋敷に帰るに帰れない状況に陥っていた。
悪い事に商家の箱入り娘の格好で来たものだから、屋根に登ったりと木戸を超えていくことも出来ない。
やろうと思えばできなくはないのだが、着物や履物がダメになる可能性もある。
家出屋を抜け出す時ほど緊急性もない。
変装用の衣装は日葵、日向コンビの趣味で買い揃えたものだから、傷を付けるのは望まないだろう。
「この格好で野宿かぁ。本当に家出娘みたいになっちゃったよ」
下手に移動するより、大きな寺などがある、この地で野宿をする事にしたようだ。
住宅の多い神保町方面と違って、岡場所があるせいで夜遅くても人が多く、店の明かりが連なっている。
そのおかげで潜む場所を探しやすかったというのも理由だろう。
「お腹すいたなぁ。そういえば……じゃん! 家出屋でくすねてきたお饅頭!」
懐をごそごそと探っていたと思ったら、むき出しのお饅頭を出す日向。
家出屋に置いてあった菓子を勝手に持ってきたようだ。
「ふふふ、敵の兵糧を奪うのも兵法です。それにしても、なぜお団子を用意しておかないのでしょうか。それだけが不満です」
不思議な論理だが彼女なりの理屈があるらしい。
飯や菓子をあれだけ食っておきながら、品揃えにはご不満のようだ。
この分なら一晩の野宿も問題なさそうである。
そもそも、忍びである彼女は、一晩眠らない事くらい大した事でもないし、隠形の術を用いれば、良からぬ男に見つかる事もないのだが。
明くる日、木戸が開く刻限の鐘の音を聞くと日向は動き出した。
結局、大きなトラブルもなく、野宿の疲れも感じさせぬ足取りで神保町の屋敷へと戻っていった。
※
野宿明けの日の夕方。日向は哲太がいると言っていた、件のヨモギ団子屋の側の稲荷神社に来ていた。
「哲太さん、こんにちは」
「おお! 日向だっけな。無事だったのか!」
「もちろん無事ですよ。家出屋のお屋敷に行ってきましたけど、《《おみよ》》ちゃん居なかったです」
「そうか……どこ行っちまったんだよ。あいつ」
「それなんですけど、あんまり良くない懸念があって……」
「なんだよ懸念って。難しい言葉使わず、俺にわかる言葉で話してくれよ」
「良くない予想といえばいいのですかね」
「予想?」
「《《おみよ》》ちゃんの行き先の手がかりなんですが、心当たりがあるのです。その前に確認しておきたいことがあって。哲太から見て《《おみよ》》ちゃんは可愛かったですか?」
「ばっ、バカな事言うなよ! 俺は別に《《おみよ》》の事、可愛いだなんて思ってねえよ!」
「あー、はいはい。そういう意味じゃなくて。他の子と比べて、愛らしかったり、顔が整ってました?」
「あ? そうなんじゃねえの。そういう事を言う奴もいたと思うぜ」
「やっぱり」
「やっぱりってなんだよ! ちゃんと説明しろよ!」
「実はですね……」
この後の日向の説明は哲太を驚かせるものだった。
その内容はこうだ。
家出屋から戻ってきた後、日向はある疑惑を確認するため、聞き込みをしてきたらしい。
探索を花月屋を中心にして、その界隈を聞き込んできたという。
ここ数年で、神隠しが増えていないかと。
(江戸時代、子供が失踪すると神様に隠されてしまったという考えがありました)
そうすると、最近神隠しにあったと言っていた家が多いという。
その家々に訪れてみたところ、何件か話を聞く事が出来たそうだ。
その子供たちの特徴を聞くと、女の子は見目麗しく顔立ちが綺麗だと評判の子ばかり。
そして、男の子は早熟で頭の回転が早かったり、利発な子だという家が多かった。
割合で言うと女の子が八割、男の子が二割という結果だった。
そこから導き出した日向の結論として、女の子は泥亀のような女衒に遊女候補として女郎屋に売られてしまっているという事。
男の子は、家出屋の噂話に上がっていたように、どこぞの商家に斡旋されているのではという事。
つまり家出屋は、子供を保護する善意の施設ではなく、人身売買の狩場になっていたのではないかという事だった。




