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  作者: 相草河月太
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 僕は家に帰って、甘いカクテル缶を飲みながらパソコンを見ていた。


 漫画を買わなきゃいけないという面倒な思いと、でもこれで中川さんと漫画のやりとりというつながりができた、という嬉しさと、大沢のやつめ、という怒りなのか呆れなのか、感謝なのかわからない様々な思いでやや脳がスタックしている。


 何より、きっかけが嘘だった、ということが一番心を捉えていた。

 大沢は噂だよ、と言っていたけれど。


 僕は地味な見た目と性格の想像通り、生真面目で目立たない両親に育てられた。もちろん、二人には人とは違う特徴があるし、人より優れた才能も持ち合わせているのだけれど、基本的に行動が真面目で地味だ。


 そして僕はその両親の影響もあり、嘘をつくことが気持ちの悪い性格に育った。だから余計に気になるのだろうか。なんだか、騙しているような気がするのだ。


 だけど、一体誰を?


 酒を飲んでネットを見ていると、だんだん腹が立ってくる。

 噂、噂、噂。


 嘘か本当かわからない綺麗事やカッコつけのエピソードで、顔だけじゃなく人生まで着飾った芸能人や配信者たちが、人の視線を集めて話題になっている。そして支持者たちはネットに次々と追加のエピソードを書き込んで、それがまたネットで広がって、本当にいるのかいないのかわからないヌエのような何かが出来上がって、そいつが堂々と、さも自分はこの通りの存在でございと噂に乗っかって歩いている。


 人に聞いた話を自分のことのように話すやつや、レンタルした車を自分のもののようにSNSに写真をあげていいね稼ぎをするやつや、一個やったことを100倍やったかのような言葉で語るやつや。


 だけど、そうやって一度でも嘘が誠になって、人の耳目を集められたら、それがお金を産んで、嘘だったものが、別の本物を生み出すことになる。


 それでいいのか?

 だいぶ酔っ払って、もう頭がまわらない。


 真実など、真実を大切にすることなど、嘘をきっかけに新しい本物を生み出すことに比べたら、矮小で卑屈な考えなのか?


 いつの間にか、僕はどこかの書き込みサイトに、頭に浮かぶ噂を次々に書き込んでいた。


 

 「柳、お前やるじゃん」

 会社に着くと大沢が開口一番そう言った。周りの人たちも僕の方をみている気がする。


 「な、なに?」

 「いや、お前ネットゲームの大会で優勝したんだって?もっぱらの噂だぜ、なんか結構すごい大会だったって」


 「え?誰に聞いたの、そんなこと」

 「誰だっていいだろ?みんな言ってるぜ。お前ってほんとはすごかったんだな」


 馴れ馴れしく肩に手を回してくる大沢の態度がいつもより嬉しそうで、思わずそれに甘えそうになるが、僕はそれを否定した。今回は。


 実際に、役所の人が外国のゲーム大会で優勝したという噂が広まって、ついにはそれが新聞にも出てしまい、有名になったことで嘘がバレて大騒ぎになる、という事件があったからだ。


 「いや、そんなの知らないよ、ゲーム大会なんて出てないし」

 「え?なに?嘘?なんだよー」


 大沢が傷ついたような顔をするのが胸にささるが、嘘を本当というのはまずい。

 「そっかー。じゃあさ、お前実は家が金持ちで、この仕事は趣味でやってるってのも嘘?」


 「は?なんだよそれ」

 「やっぱ嘘かよー。かー、他にもいろいろ噂あったんだけどな、みんな嘘なのか〜」


 「ああ、そうだよ」

 大沢が呆れたようにみんなに手をふって声を張る。


 「皆さーん、解散かいさーん。全部うそだってよ、あーあ。盛り上がって損した」


 狐につままれたような僕は、その日1日戸惑っていたが、家に帰ってようやくわかった。


 *(朗報)柳悟、初出場の格闘ゲーム大会で優勝する、しかもEVO出場決定

 *現代のスネ夫こと、柳悟、一般市民の感覚を味わうため平社員として就職

 *俺、柳悟、5年間傭兵やってたけどなんか質問ある?

 *(祝)柳悟の書いた漫画が漫画賞受賞


 などなど。昨夜自分が書き込んだスレッドの数々。

 「こんなの書いてたのか、恥ずかしー」


 と顔を覆いながらふと疑問が湧く。

 「でも、なんでここに書いたことが会社の奴らに伝わってるんだ?」


 そう、おかしい。まあ、一人や二人これを見ている可能性がなくはないが、大沢をはじめとして会社のみんなが信じるような話になるはずがない。ありえない。


 「いや、でも今日大沢が言ってたのって、このことだよな、間違いなく」


 しばらく考えて、僕は新たな書き込みをすることにした。どういうわけか、これを書き込むのが一番いい気がしたのだ。

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