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竜族との出会い

オーソストラム平野を旅するしの達一行。平野部は無事に旅を終え次に行く街が見えそうな所に来たのだが・・・。

小説 風の吹くままに

第八章 竜族との出会い



一行はオーソストラム平野を旅して約二週間になろうとしていた。あたりの風景も次第に変わり平野部が少なくなっていっていた。

「そろそろこの平野も終わりのようね。」

(しの)が周囲を見ながらそう言った。アーレフが答えるように言う。

「そうですね、二週間歩いてますからもう少し行けばアーキレストの街に着くでしょう。あそこはそこそこの街なので今までとは違う楽しみがあると思いますよ。」

そう言われて、ミルがはしゃぎつつ言った。

「なら、頑張って進みましょう~。楽しみだなぁ~。」

そんな彼女を見て、皆は微笑んでいた。ふとラミュアが言う。

「遠くで火災を確認。」

「え?」

「どこ?」

「何?」

そう言われて皆が周囲を見る。(しの)も気づいて言った。

「北のほうね。開拓村か何かで火事かしら?・・・ちょっと待って!空に何か居ない?」

「空だと・・・?」

志郎がそう言いながら空を眺めた。何か飛んでる様にも見える。晶が気づいて言う。

「あれは、竜族のようです。大きさはそう大きくないので、下等種かも知れないですが。」

「レッサードラゴンか。獣とほとんど変わらないから厄介なほうね。話が基本的に通じないし。しかし、村を襲ってるようなら行った方が良さそうね。被害にあってる人も居るはずだから助けないと。開拓村じゃ、戦える人員なんて居ないでしょうしね。」

(しの)がそう言った。志郎が答えて言う。

「分かった、なら急いで向かおう。」

皆も頷いて走り始めた。



天空を舞う竜は怒り狂っていた。咆哮を上げ、体内に宿したエネルギーをここぞとばかりにブレスとして人に向けて吐き出していた。竜が吐き出すブレスは電撃となり建物、地面、木々、動物たち、人間を襲っていた。建物が壊れるとき、人が使っていた火に引火して周囲は炎上し始めていた。しかし、竜はすべて焼きつくさんとばかりに暴れていた。そう、自らは滅びてでも、その場を滅ぼし尽くそうとして。

「出来る限り、地下や洞穴に逃げろ!建物は危険だ。木々もだめだ。奴は電撃を使うから、出来る限り地に近い場所に身を潜めるんだ!」

村の自警団と思われる男が周囲を逃げ惑う村人にそう指示をしていた。しかし、村人は混乱しているため、なかなか伝わらない。やきもきしながらも、一人でも助けるため、彼は走り回りながら伝えていた。

「なんてこと・・・。」

晶は村の傍まで来てそう言っていた。村は悲惨な状況だった。建物の大半は壊滅し、一部からは炎が上がっている。木々は倒され、家畜も殺され、人々も幾人か倒れているのが見える。(しの)は、動転してる晶を励ますように肩を叩きながら全員に言った。

「さて、行くわよ。ドラゴンには、あたしと志郎が行くわ。ミル達ほかは村人の救援と救出、そして救護を出来るようなら蘇生も御願いね。」

「分かりました。」

全員は肯定の返事をした。そして各自、目的地へと向かった。



「戦うは良いとして、どうやって奴を止める?」

志郎が(しの)に竜に向かいながら聞いた。(しの)は答えて言う。

「あたしに直接攻撃を向けさせる様にしてから、止めるのみよ。」

「分かった。俺は何をすれば良い?」

「覚えたあれを試して竜の気をこちら側に向けさせること。御願いできるかしら?」

「あれか、分かった。やってみよう。」

(しの)にそう言われて志郎はそう答えた。竜に近づく。竜は村の中央部を旋回していた。志郎は「気」を練り始め拳に「力」を集める。次第に拳は輝き始め、そこに「力」が集まっていくのが人でも分かるほどになった。

「行くぞ!」

志郎はそう言い、竜に向かって拳にたまった「力」を撃ち放した。「力」は意思を持つがごとく竜に向かっていきそのまま竜に当たる。そのダメージで竜は体勢を崩した。竜はすばやく体勢を立て直すと、自分を攻撃したものを探した。その時、

「あたしはここに居るわ。」

声がした。竜はそこに目を留める。人間だ。竜は、新たな対象を定め地面に着床する。

「ズンッ。」

竜が降り立つとそう地面が揺れた。(しの)は竜が降りたのを見て笑みを浮かべる。

「これで村の被害も無くなるわね。」

(しの)はそう言った。その時、

(私の子。私の子がさらわれた。私の我が子が居ない。私の子が消えた。憎い。さらった「人間」が憎い。憎い!)

悲しみと憎悪の感情が「聞こえ」てきた。(しの)は、いきなり来たその感情に身を竦ませてしまう。その時、竜は(しの)を薙いでいた。

(しの)!。」

志郎は、(しの)が竜に薙ぎ倒されるのを見て叫んでしまった。しかし、(しの)は体勢を立て直しつつ答えて言う。

「あたしは大丈夫よ。こっちはもうあたしが済ませるから、皆のほうを手伝って。」

志郎は頷き言う。

「分かった。でも、無茶はするなよ。」

「ええ。」

(しの)はそう返事をした。志郎は(しの)を見つつ仲間の元に向かった。

「さて、あなたが可哀想なのは分かるわ。でも、だからといってこうして無差別に攻撃するのを許せるほどあたしは寛容じゃないのよ。」

(しの)はそうやって竜に語ったが、竜は怒り猛りながら咆哮を上げ上半身を上げて(しの)に覆いかかろうとした。

「ズンッ。」

これで邪魔なものは消えた。竜はそう思った。しかし、別の場所から声が聞こえてくる。

「無駄よ。あなたの攻撃は効かないのよ。感情のままに行動しているあなたには分からないでしょうけど。」

(しの)はそう答えていた。目には涙が溢れていた。そう、彼女(竜)には悪いところは基本的には無い。彼女には人間の区別など出来ない。あくまで彼女はわが子を奪った人間に復讐しているだけだ。しかし、それでも関係の無い者を襲っていい理由とはならない。竜はさらに怒り狂い周囲を薙ぎ回していた。

「悲しいね。辛いね。苦しいね。悔しいね。・・・これで、その思いも終わりにしてあげるわ・・・。」

(しの)は自分の涙が流れていることを気づいていたがあえてそのままにしていた。そして、「力」を解放して行く。



向こうで「閃光」が起こった。

「終わった。」

ラミュアはそう報告した。アーレフも答えて言う。

「そのようですね。こちらも頑張りましょう。」

ミルは少し悲しみつつ言った。

「マスター・・・。」

「ミル、気持ちは分かるが今はこっちを済ませよう。」

志郎がミルの肩を叩きつつ言った。ミルも頷く。



彼女は何が起きたか理解していなかった。「人間」に憎しみを持っていた。わが子を奪った人間に。しかし、今、目の前にいる「人間」は自分のために涙を流しつつ傍に立ってくれていた。

「わ、私は・・・。私は、我が子の為に・・・。」

彼女はそう言いかけて、命の火を落とした。(しの)は彼女の傍にずっと立っていた。

「ゆっくり眠りなさい。あなたの心は「老人」に間違いなく届けるわ。」

(しの)は彼女にそう語りかけた。悲しい、そして苦しい、そんな結末だった。



(しの)、お疲れ様。」

志郎が帰って来た(しの)に言う。(しの)は答えて言った。

「ただいま・・・。」

(しの)はまだ、涙を拭いていなかった。いや、拭きたくなかった。彼女への手向けと思うから。アーレフは(しの)を見て言った。

「お帰りなさい。今こちらも、治療などをしています。もうすぐ終わりますので(しの)さんはゆっくりしててください。」

「ありがとう。無理をしないでね。」

(しの)がそう答えるとアーレフはにこりと笑みを見せながら仕事を続けた。

「辛かったか?」

志郎が聞いた。(しの)が答えて言う。

「そうね。でも、彼女の悲しみに比べれば全然問題じゃないと思うわ。」

「彼女?」

「ええ。あの竜のことよ。彼女は母親だったの。人間が彼女の卵を奪ってしまったので、彼女は怒り狂っていたって訳よ。」

「なるほどな。」

(しの)の説明に志郎は納得して答えた。志郎は続けて言う。

「それは、そうと、竜はどうなったんだ?」

そう言われて(しの)は答えて言う。

「ああ、村の中心部で静かに寝ているわ。永遠にね。」

「そうか。」

志郎はそう答えつつ(しの)の肩を抱いた。(しの)はその優しさに包まれながら目を閉じた。



(しの)は懐から黄色く輝く宝石のようなものを取り出した。

「それは何ですか?」

煌びやかに輝く輝きに気づき晶が言った。(しの)が答えて言う。

「竜の思いよ。それが結晶化したもの。」

悲しげな目で、(しの)はそれを見ていた。志郎が言う。

「ドラゴンドロップ。幻の宝石の一つだな。」

「哀愁が見える。」

ラミュアがそう素直に言う。(しの)はくすりと笑っていった。

「良く見てるわ、ラミュア。これは彼女の思い。「老人」に手渡すべきものよ。」

「老人。ですか。」

アーレフが仕事を済ませてやってきて言った。それに気づいて(しの)が言う。

「お帰りなさい。とりあえず手当て等はもういいのかしら。」

「そうですね。この村には幸い、薬師の方もいらっしゃったので応急的なことだけ済ませておきました。」

アーレフはそう言った。(しの)はそれに答えて言う。

「そう。ならしばらく逗留して村を立て直すことや治療の補佐を手伝いましょう。その間にあたしはこれを届けてくるわ。」

「お前だけでか?」

志郎が疑問に思って聞く。(しの)は答えて言った。

「あなたにも付いてきて貰いたいわ、志郎。」

「あ、ならあたし達も~。」

ミルが同乗を述べる。しかし(しの)はそれを制しつつ言った。

「ミルやラミュアはアーレフや晶を手伝ってあげて欲しいの。村はほぼ壊滅状態だし、たまたまあたし達が来てるとはいえ手伝える人は少ないはずよ。いいかしら?」

そう言われて、ミルはしぶしぶしながらも答えて言った。

「は~い。残念ですがマスターのご指示に従います~。」

「了解。」

ラミュアも答えて言う。アーレフは疑問に思って言った。

「どれくらいかかるのですか?そこに行くのには。」

「せいぜい二週間よ。向こうでそんなに長くは留まらない予定だしね。」

(しの)が答えて言う。それを聞いて、安心したようにアーレフは言った。

「分かりました。ミルさんたちも居ますし、私達は村の手伝いをしましょう。」

「御願いするわ。とりあえず、この村の責任者にあたしが彼女を倒したことを告げてからそこに行くつもり。でないと、どうして彼女が死んでるか見当がつかないでしょうしね。」

(しの)はそう言った。納得しつつ志郎が言う。

「確かにな。村のど真ん中に居るわけだし、まぁ、向こうとしては困るだろう。」

「そう言うこと。対処方法も伝えておくつもり。「老人」に話せば報復も無いでしょうしね。」

(しの)がそう言った時点で、晶は(しの)が何を為そうとしているかに気づいた。そう、被害を最小にするために話しに行く訳である。

「お気をつけてくださいね。」

晶はそう言った。(しの)は笑みを浮かべながら言う。

「あたしは大丈夫よ。皆も無理をせずに頑張るように。」

そう言って(しの)は立ち上がった。志郎が付いて行く。



村長は事態が理解できなかった。竜が村を襲って来た時もそうだった。なぜ、竜がこの村を襲ったのか。それすら分からなかった。必死で村人達を逃がしていた。そうすると、今度は村の中心で閃光が起こり来て見ると竜は倒れている。何がなんだか、まるっきり理解できない状況であった。

「いったい誰がこんなことを・・・。」

村長がそうぼやいていた時、後ろから声がした。

「竜には眠ってもらったわ。永遠にね。」

そう言われて、村長は声のほうに振り向く。そこには、一人の女性と一人の男性が立っていた。

「御主達がやったのか?」

村長はそう聞く。女は答えて言った。

「ええ、あたしがやったわ。彼は村人達の救出を手伝ってただけよ。」

「そうか・・・しかし、これでまた次が来ることになる・・・。」

村長は、恐れつつ言った。しかし女は答えて言う。

「そんなことには為らないわよ。あたしが話を付けに行ってくるから。」

「話、だと?」

村長は理解できずに、女に問うた。女は答えて言う。

「ええ、竜たちの長の一人にね。彼に話せば報復は無くなるわ。あなた達は村の再建に力を注げばいいのよ。あたしの仲間も手伝うしね。」

突拍子も無い言い分で、村長は面食らう。もしそれが事実ならありがたいことではあるが・・・。

「御主達は一体何者なのだ?」

当然とも言える疑問を村長は投げかけた。それに男が答えて言う。

「なに、ちょっとばかり御節介な女性とそれに連れ添う旅の仲間達さ。」

そう言われて女性はくすりと笑いながら加えて言った。

「あ、そうそう、竜の亡骸はそのままにしてあげてね。そのままにしておけば痛まずにそこにあり続けるから。そうすれば村のモニュメントにもなるし、村を脅かしかねない五月蝿い魔物の魔除けにもなるわよ。」

「そうか・・・。分かった、そう通達しておこう。誰かは知らぬが感謝する。」

村長は、全ては理解できないにしても、この御節介な者達のおかげで村が救われることを自覚した。そして礼を述べた。

「さて、話も終わったし、行きましょうか、志郎。」

女は男にそう言った。男が答えて言う。

「ああ、分かった、(しの)。」

二人はそこを離れて北へと向かって行った。



そこには大きな山があった。険しいというほどではないが高い山だった。そしてその中腹には、巨人も優に入れようかというほどの巨大な洞窟があった。

「ここか。」

志郎がそう言う。(しの)が答えて言う。

「ええ。さあ行きましょう。」

そうやって、中に入り始めたその時、

「我の敷地に入るものは誰か?」

そう、頭に響くような「声」が聞こえた。志郎は吃驚して周囲を見回す。しかし何も居ない。(しの)はくすりと笑い、志郎を軽く叩いた。そして言う。

「大丈夫よ。これは「彼」の声だわ。」

そう言われて、志郎は理解した。(しの)がその質問に答えて言う。

「あたしはあかなししの。あなたに話があって来たのよ。」

そう答えてから、少しの時が流れた。そうしてまた更に「声」が聞こえてきた。

「御前が彼の者か。分かった、ゲートを出すゆえ、それに入ってくるが良い。」

「だ、そうよ。」

(しの)がそう言う。志郎は苦笑しつつ頷いた。しばしの後、(しの)たちの前にゲートが開かれた。二人がそこに入るとそれは消え、後にはただ洞窟が何時もの様に口を開けていた。



「良く来られた。かの方に選ばれし者よ。」

巨大な竜が(しの)に対しそう言った。ゲートから出た二人は、その巨大さに目が追いつかないほどであった。苦笑しつつ竜が言う。

「この姿では、そなたらの首が疲れてしまうな。しばし待たれよ。」

そう言って、竜は身体を輝かし始めた。眩く輝くと、身体が次第に縮み始め形を変えていく。光が収まったときには老人の姿があった。

「なるほど。それで「老人」か。」

志郎は彼の姿を見て納得しつつ言った。(しの)はくすりと笑っていた。

「ほう。そなたは、人でありながらこの者と一緒に居るのか。」

老人は、興味深そうに志郎に問い尋ねた。志郎が答えて言う。

「ああ、そうだな。今は、俺にとっても大事な奴なんでね。」

「そうか。それは重畳。おお、済まなかったな。私はグランモスキャメラウル。多少長い名前なのでな。グラルまたはグラン爺とよく呼ばれておる。このあたり一体の竜族を治めておるものだ。よろしくな。」

老人はそう言った。志郎も答えて言う。

「おっと、俺も言ってなかったな。俺は剣志郎。宜しく頼む。」

グラルはそれを聞き笑みを浮かべた。そして、語る。

「言いたいことは先日の件かな。」

「ええ。」

(しの)が肯定して言う。続けて言った。

「これをあなたに渡したくてね。」

そう言って(しの)は懐からドラゴンドロップを出した。それを見てグラルが呻く。

「ルミル・・・そうか、お前は眠ったか・・・。」

「ごめんなさい。彼女を一番楽にさせるのはそれが一番だと思ったの。咄嗟だったしそれが必ずしもいい選択とはいえないかもしれないけど。それを報告しにここに来たというわけ。後、彼女が襲った村に関して少し御願いをね。」

(しの)はそう説明した。グラルは答えて言う。

「いや、あれが最善であろう。わが子を失い怒り狂う女性を助けるには眠らせるのが一番だ。私からも感謝する。」

そう言い、グラルは礼を述べた。そして続けて言う。

「御願いとは、村を襲わない様にと言う事かな。」

「ええ。」

(しの)は即答して言った。グラルは理解し、答えて言う。

「その点は問題は無い。私からも言い含めておこう。ところで、彼女の身体はどうした?」

グラルの問いに(しの)が答えて言った。

「傷一つつけないように言い含めて村の中央に置いてあるわ。身体はそのままだから痛まずにそこにあり続けるわ。」

それを聞きグラルは答えて言う。

「それは感謝する。ではルミルのこの心は私がしっかりと預かろう。おぬしと出会えて本当に良かった。また、出会いたいものだな。」

「そうね、そんなときは今度はあたしがあなたを直接呼び出すときかもね。」

(しの)は、少しにやりとしつつ言った。グラルは笑みを返しながら言う。

「確かにな。まぁ、その時はぜひ呼んでくれ。では、帰りのゲートを開けよう。」

そう言ってグラルはゲートを開き始めた。

「そうだ。志郎と言ったな。」

グラルが志郎に言う。志郎が答えて言った。

「ああ、なんだ?」

「御前がこれから行く道は果てしないものになるかも知れぬがそれでもいいのかな?」

グラルが謎めいた事を言う。志郎は即答した。

「なに、こいつを失うことに比べれば、造作も無いことさ。」

「そうか、お前達の前に幸あらんことを。」

グラルは、二人の前にそう、祝福を述べた。二人はゲートに入っていった。



二人は村に向かって歩いていた。志郎が言う。

「なあ、(しの)。」

「なあに?」

「なぜ俺を連れてきた?」

志郎の当然とも言える疑問に(しの)は答えて言った。

「今後も連れて行きたいからよ。」

「ん?それはどういう意味だ?」

良く理解できずに志郎が更に問い尋ねる。(しの)ははぶてながら言う。

「馬鹿!グラルの前ではあれだけ啖呵切ってるのに、あたしの言葉は分からないのね!」

志郎は(しの)が怒ったことが理解できずにあわてて言った。

「ちょっと待て。どうしてそこで怒るんだよ。そりゃ、お前の言うことが良く分からないんだが、頼むから教えてくれ。」

そう言われて、ため息混じりに(しの)が言う。

「はぁ。分かったわ。はっきり言います。」

そう言われて、志郎も身構えて言う。

「分かった。」

「志郎はあたしのことが好き?あたしは大好きなんだけど。」

そう言われて志郎はすぐに返答が出来なかった。しばらく時間が過ぎる。

「志郎?」

(しの)が覗き込みながら言う。志郎は後ずさりしながら答えた。

「あ、ああ、すまん。もちろん好きだ。」

「あたしは一緒になりたいんだけど。あなたと。」

(しの)は志郎にそう言う。またもや時間が過ぎて行く。

「し~ろ~う~?」

(しの)が顔を近づけて志郎に迫る。志郎はあわてながら言う。

「ああ、済まない、その・・・そんな話とは思わない・・・訳じゃないがその・・・心の準備というものがな。」

しどろもどろになりつつ志郎は一生懸命に説明する言葉を捜した。

「あ、いや、お前のことは大好きなんだ。うん。それに今の旅もやめたいとは思わないし。その、なんだ。うまく言えないんだが・・・」

(しの)ははぶてつつ言った。

「何よ。接吻したときには、責任は取れるとか言いながら、いざって時にはしどろもどろで誤魔化すのね。」

そう言われて志郎はあわてて言う。

「いや、そうじゃないんだ。もちろん責任は取らせてもらうさ。じゃなくて・・・あー、くそ。なんて言ったらいいんだ。」

言葉がまとまらずに志郎は自分自身に歯噛みをしていた。

「なんというか・・・俺でいいのか?」

志郎のその質問で(しの)は怒って言った。

「馬鹿!なぜ分からないのよ。あたしは、「あなた」がいいの!こっちは一生懸命言ってるのに、どうして肯定も否定もしないの。そんな生殺しでいいと思ってるの?!」

そう言いつつ、(しの)は涙を流していた。志郎はばつが悪く思い、俯きながら言った。

「あ・・・済まない・・・お前は真剣に言ってくれてるのに。俺は、自分の立場とか、能力とかそんなものを考えて逃げていた様だ。そんなものは下手な言い訳でしかないのにな。俺自身の気持ちは決まっているのに何でそんなことを考えるんだろうな・・・。馬鹿だな、確かに俺は・・・。」

それを聞いて(しの)が言った。

「で。そのお馬鹿な志郎さんはどうするのかしら?」

しばらく間が空いた後、意を決して志郎が言った。

「是非、お前と一緒になりたい。」

少しの間の後、(しの)はため息しつつ言った。

「この言葉が聞きたいがだけに、どれだけ今日は疲れたのかしら・・・。」

「すまん。」

志郎が済まなそうに言う。それに答えて(しの)が答える。

「馬鹿・・・。」

そう言って、ようやく二人は顔を合わせた。そして笑みが広がる。

「やれやれだな・・・。」

志郎がそう言う。その時、手前から声が聞こえた。

「何を言ってるんですか。これからですよ?」

吃驚して二人は前を見る。前にはアーレフたちが来ていた。

「あ、あんた達・・・。」

(しの)が手を震わしながら言う。

「また見てたわね~!!。」

「そうは言いますが、(しの)さん達が勝手にやり始めたんじゃないですか。」

アーレフが抗議する。(しの)が有無を言わさず言う。

「五月蝿い!毎回毎回、こっちは恥ずかしいんだから~!」

「え?マスターあれって恥ずかしいことなんですか?」

ミルが突っ込んで言う。(しの)は顔を真っ赤にしつつ言う。

「ミル~~~~。今日はあたしは気分が悪いからただじゃ済まないわよ~~~。」

「ちょ、ちょっとマスター、目が危ないってば~。」

ミルは逃げ出しながら言った。ラミュアがボソッと言う。

「楽しそう。」

晶も微笑みながら言った。

「そうですね。私も同じように言えたらいいな・・・。」

「何が?」

ラミュアが聞く。晶があわてて言う。

「あ、いえ・・・何でもないです。」

ラミュアがしばらく考えて言う。

「アーレフの事か?」

自分が考えてることを当てられて晶は焦りながら言う。

「あ、えっとその・・・今はまだ・・・ラミュアさん黙っててくださいね。」

「分かった。」

ラミュアは淡白にそう答えた。晶は胸を撫で下ろしながら言う。

「なんだか、志郎さんの気持ちが分かりますね・・・。」

「そうですか?」

突然アーレフが傍に来てそう言っていた。晶は吃驚して言う。

「きゃぁ!」

アーレフもそれに驚いて言う。

「あ、驚かせてしまいましたか。申し訳ない。」

「あ、いえ、突然だったので・・・」

晶はそう言って誤魔化した。アーレフは(しの)たちを見ながら言った。

「本当にいいですね。私もああいう風に言えればいいのですが。」

「何を?」

ラミュアが疑問に思って聞く。アーレフが苦笑しながら答える。

「ああ、ラミュアさん。(しの)さんや志郎さんの様に素直に言い合えたら良いだろうなぁと思いましてね。」

「なるほど。覚えておく。」

ラミュアがそう返答するのを見て、アーレフは苦笑しつつ(しの)たちを見ていた。そして言う。

(しの)さん、日が暮れる前に村に戻りましょう。今後のことを話し合いたいですし。村長さんに報告もあるのでしょう?」

ミルとじゃれあってた(しの)はアーレフにそう言われて志郎と顔を合わせながら笑って答えた。

「そうね、そうしましょう。まずは村長にも報告しないとね。遅い様なら、明日の朝にでも言わないと。」

そう(しの)が言うと皆は頷きつつ村に向かって行った。



次の日。早朝。志郎は何時も通り朝の修練をしていた。しかし、今日は珍しく(しの)の姿が居なかった。

「珍しいな、(しの)が起きて来ないのは。」

志郎はそう言いつつ修練を続けていた。アーレフが起き上がって外に出てきた。

「あ、志郎さんおはようございます。何時も修練流石ですね。」

「何、日課さ。」

志郎にとっては何時ものことなので、そう答える。

「ところで。」

アーレフがそう話題を変えつつ話し始めた。

「結婚式はいつされるんです?」

「な・・・!」

意表を衝かれて志郎は手を止めて立ち止まってしまった。

「いや、だって、正式に決まったんでしょ?」

アーレフが追い討ちをかけるように言う。志郎はしどろもどろになりながら答える。

「う、いや、それはそうなんだが・・・。」

「だったら早いほうが良いじゃないですか。」

アーレフはそう言う。志郎は決心したように言った。

「ま、まぁ、(しの)と話して決めるさ。」

そう言いつつ志郎は仕度をしに戻っていってしまった。

「相変わらずですねぇ。」

アーレフは笑いながらそう言った。



「なるほど。お話は分かりました。こちらでも、竜族の意思を尊重していきましょう。」

村長は(しの)の言葉を聞いてそう答えて言った。(しの)は、今までの「老人」とのあらましを伝えたところであった。それを聞いて(しの)が答えて言う。

「ありがとうございます。あと、彼女の亡骸にはあたしが不用意に触れるものが居ないように呪詛を掛けておきますのでその点も皆さんに伝えて置いてください。」

「分かりました。しっかり言い含めておきましょう。ところで、この後はどうなさるのですか?」

村長は(しの)たちの今後を聞いた。(しの)は答えて言う。

「街道を西に旅をしていたのでそのまま進もうと思っています。」

「ほう、では、アーキレストの街に行かれるのですな。」

「あ、そうですね、次はそうなるかと。」

「分かりました。どうかお気をつけて。」

「ありがとうございます。村長も再建は大変ですが頑張ってください。」

「はい。」

村長が返事を返したのを見て、(しの)はそこを後にして、皆の場所へと向かった。



「皆、仕度はいいのかしら?」

(しの)がそう尋ねる。志郎が答えて言う。

「俺はもう終わってるぞ。」

アーレフも答えて言う。

「私も済ませています。晶さんも済んでるみたいですね。」

晶は、そう言われて頷いた。

「ミルも大丈夫ですよ~。ラミュアちゃんも済んでるみたいです~。」

ミルがそう報告する。ラミュアも頷いた。

「そう、なら、街道に戻って西に進んでいきましょう。」

(しの)がそう言って、皆も付いて行く。村から一行は旅立った。

「アーキレストの街まではどれくらいかしらね。」

(しの)が問うた。アーレフが答えて言う。

「平野部がそろそろ終わりですし。今日明日中には街が見えると思いますよ。」

「楽しみです~。」

ミルがそう言った。



風が今日も吹き抜けていった。

志郎に思いを伝えたしの。しかし彼女の旅は始まったばかり。次に向かう場所では何があるのか?

次回「(しの)の結婚式」お楽しみに。

貴方にも良い風が吹きますように。

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