街道にて
北の街道に出た神達一行。彼女を待ち受けるものは?
小説 風の吹くままに
第五章 街道にて
北に延びる街道では、たくさんの人が往来していた。商人、軍人、旅人、さまざまな人がいた。そんな中に神たち一行もあった。
「やれやれですねぇ、今のところは無事なようですが~。」
ミルが、多少くたびれたように言う。それに答えて神が言う。
「まだ二日目だしね。街道の人々がもう少し減ってきたら、来るんじゃないかな?」
彼女はさも楽しげに言った。どうせなら早く来い、と言わんばかりに。苦笑しながらアーレフが言った。
「早く来て欲しいって言うような感じですね。恋人でも待ってるかのような。」
「んな!・・・」
意表を衝かれた言い方をされて神は戸惑ってしまった。
「そんな人はまだいないわよ!」
「まだ・・・ですかぁ・・・これは可能性があるかもですよぉ?」
ミルがからかう様に言う。神が顔を真っ赤にしながら言った。
「ミル~~。何の可能性かしらねぇ・・・主人で遊ぶとは・・・どうしてくれよう・・・。」
「マスター、怒らないでくださいよ~。っていうか、どうして顔が真っ赤なんですか~?」
「こら~!ミル、分かってて言ってるわね~!」
とまぁ、二人がはしゃいでいた。なんとも微笑ましい光景だ。そうアーレフは見ていた。
「さて、微笑ましいですがそろそろお開きかもしれないですね。」
アーレフがそういったのを聞いて二人はお互いに顔を見合わせて、その後アーレフのほうに向き直る。
「そのようね。楽しめるといいのだけれど。」
神がそう言った。ミルも言う。
「今度はミルも楽しみたいですねぇ。」
これから、起こる事に期待を抱いて高揚している様子だった。
街道の往来がまばらになっていた。丁度、周囲も木々が増え、やや、見通しが悪くなっていく。
「場所的には頃合いですよねぇ。そろそろですかね?」
「恐らくそうでしょう。と言うか、お二人ならすでにお分かりでしょうけれど。」
アーレフはそう言って、二人に目配せをした。二人はそのまま手で合図を送る。
周囲にざわめきが広がる。もちろん「普通」の人間には分からないであろうが。
「来るのが分かる、か。やはり只者ではないな。」
そう言って一人の男性が木陰から出てきた。それを見て神が言う。
「あら、志郎おじ様、いらっしゃい。」
「あれ?マスター知り合いですか?」
ミルが疑問に思って問うた。神が答える。
「ええ、少し前に出会ったカッコいいおじ様よ。」
「へぇ。よろしく御願いしますぅ。」
ミルがそう挨拶をしたのを見て、志郎が答える。
「やれやれ、どこまで「普通」離れしてるんだか・・・」
「まぁ、それはお互い様ですよ。」
アーレフがそれに答えて言った。まぁ、確かにそうであろう。状況的にはそういう会話をするべきときではないだけに、「普通」の感覚ではないことは明らかである。
「まぁ、分かってはいたが、とりあえず今回は少しだけお相手して欲しいのでな。」
そう言って志郎が構えた。武術家らしく隙のない構えである。それを見て神が言った。
「じゃあ、今回はデートのお誘いはあたしね。みんなは見てて。」
「あ、ずるいですぅ。」
ミルが異論を唱えたが、神がさっさと前に出て、構えに乗ってきた。
「今回は、神さんのやったもの勝ちみたいですよ。それよりも、後ろの団体さん用に二人で準備しませんか?」
アーレフがそうやってミルを説得した。ミルが仕方なしに答える。
「む~~。またマスターに取られちゃったか。まぁまだ始まったばかりだし、次こそはもらいますからね~。」
そう言って、神たちから離れて、「準備」を始めた。
「さすがだな。武術の心得があると見える。」
志郎はそう言った。神の姿を見て、隙がないことを見て取ったのだ。
「ん~。でも、実戦はほぼ無いわよ。」
「何?」
「こっちに来てからまだやったこと無いしね。」
「こっち、だと?」
「ああ、あたし個人の話よ。まぁ、とりあえず始めますか。」
と、話を途中で断ち切って神が前に出てくる。志郎は神をかわしながら体制を整えなおす。
「聞かれたくないって事か。」
志郎が避けながら言う。神が答えて言う。
「今はね。」
そういいつつ。回し蹴りを入れる。もちろん志郎からすれば予想された動きのため余裕でかわす。
「今は、か。どうすれば、教えてもらえる側になるのかな。」
誘うように志郎が言う。それに神は答えずに、次は手刀を出す。志郎は予測してるかのようにそれもかわす。
「なるほど、そういうことか。」
神の行動で、志郎は何かを理解したのかそう言った。そして、志郎が、攻めに入った。
左右から、行動を迷わせるような移動を繰り返した後で、回避しにくい、斜めの斬撃を繰り出す。相手にかわす行動を阻害するために、基本とも言える戦闘示威行動だ。神は慣れていないのか、それを受け止める。
「なるほど、慣れていないと言うのは本当のようだ。しかし動きは「普通」ではない。」
志郎は冷静に判断しながらそう言った。神は答えて言う。
「それがすぐに分かるおじ様もすごいと思うんだけど?」
「まぁ、それが商売のようなものだからな。」
そう言って、志郎は神に攻撃を加えていた。
アーレフとミルは、まもなく来るであろう「団体さん」に対しての準備をしていた。
「さっきの方とは違い、つまらない人たちのようですねぇ。」
ミルがそう「感想」を述べていた。アーレフも同調して言う。
「そのようですね。では、あっさり片付けますか。」
二人はうなずき、「仕掛け」を作っていった。
神と志郎は、格闘を続けていた。とはいっても二人とも本気と言うわけではない。もちろん、手を抜いてるわけでもない。言うなれば「楽しんで」いるのだ。はたから見れば、見れるならばだが、二人は楽しんでいた。どれだけやり合ったかわからないが、ふと、神の手が止まった。それに気づき志郎も攻撃をやめた。
「どうした?」
志郎が問う。神はそのまま歩いて志郎の前にやってくる。
「おじ様、何がしたいの?」
神が率直に聞いてきた。志郎は突然の質問に戸惑う。
「そ、それはお前と戦って魔道具を・・・」
そこまで言ったところで神に遮られる。
「嘘が下手ね。あたしたちに興味を持ったって所かしら?」
そう言われて、志郎は両手を広げながら答えた。
「やれやれ、さすがと言うか、お見通しってわけか。」
「全部を見るのは嫌だから、多少「読んだ」だけよ。」
そう神は答えた。言い換えれば、見ようと思えば「すべて」知れる、と言ってるようなものである。志郎は呆れながら言った。
「いやはやそこまでとはな。なら、俺は向こうに付く義理も無いな。」
「ん?どういうことか説明してくださる?」
神はそうやって志郎から経緯を聞くことにした。
剣志郎は依頼者の前で依頼を聞いていた。そう、彼は冒険者であり、その並外れた体術を駆使して、数々の依頼をこなしてきたかなり優秀な冒険者であった。
「つまり、この魔道具を取り返して欲しいと?」
志郎がそう言うと、依頼者は頷いた。
依頼者によると、それは重要な触媒で、それを用いてある魔道具が完成すると言う。しかも奪われた魔道具は重要な「核」で代用品が無いと言うのだ。
「ぜひ、奪い返していただきたい・・・ほかの者にも頼んだがあなたにも個別に依頼したいのだ・・・。」
そう言って、依頼者は志郎に依頼料を提示した。その価格は破格であった。
「そういった経緯でまず街中で出会った、と言うわけだ。」
「なるほどねぇ。」
志郎の経緯を聞いて、神は大体を納得した。
「「核」か。と言うことは、魔道具でも意思を持つクラスか、それ以上のものね。」
「意思だと?」
「ええ、付与魔術の上位だと物質に意思を持たせるものがあるから、それの高位応用作品か、ホムンクルスのような魔道生物あたりでしょうね。」
神はそうやって、魔道具を特定した。志郎は驚いて言う。
「たいした魔道検査道具も無いこの状況でそこまで分かるのか?」
そういわれて、神は、けろっとして答える。
「必要ないから。」
「必要ない、だと・・・」
言い換えれば、そこまですごい、と言ってるわけである。
「これはもう話にならんな。俺では相手にならん。こう言っては何だが、しばらく俺もお前のもとで付き合わせてはもらえんかな?」
「あたしはいいけど・・・あなたはそれでいいの?」
神が肯定しつつ、逆に問いただしてくる。それに志郎が答える。
「どうやっても依頼は完遂できそうに無い。それに、完遂できないとなれば追っ手が恐らく来るであろうが、お前たちと一緒なら楽しめそうだしな。もちろん、一人で逃げることも出来るが逃げるだけでは楽しくない。御主と同じで俺も楽しみたいのでな。」
「あら、あたしと同意見だなんて、嬉しいわね。では一緒に楽しみましょうか。となればそろそろ向こうも掃除が済んだでしょうし向こうと合流しましょうか。」
「了解した。」
神と志郎は、二人でそう結論付けて、ミルたちがいるであろう方向へと進みだした。
「やれやれ、こんなものも分からずに追ってくるなんて三流以下ですねぇ。」
ミルは、アーレフと二人で仕掛けた魔術罠に引っかかった追っ手たちを呆れてみながらそう言った。アーレフは苦笑しつつ言った。
「まぁ、「普通」の人間には無理な話ですよ。先ほど居られた方ならともかく。」
「あのおじ様か~。マスター楽しんでるんだろうなぁ。」
ミルがそう言ってると、
「誰が楽しんでるのかしら~?」
と、後ろから声が聞こえてきた。ミルがびっくりして言う。
「あ、あれ?いつお帰りになったんです?マスター。というか、おじ様も一緒??」
神と志郎が一緒にやってきたのでミルが驚きつつ見ていた。アーレフは微笑みながら見ている。神が答えた。
「まぁ、「いろいろ」あって今からしばらく一緒に行動することになったのよ。」
「剣志郎と申す。体術くらいしか取柄は無いのだがよろしく頼む。」
そう言って志郎は挨拶をした。
「私はアーレフ=レミアルトと申します。しがない神官ですがよろしく御願いします。」
アーレフが返す。それを見てミルも言った。
「あ~あたしも~。あたしはミル=フェリシア。マスターの使い魔ですぅ。よろしくね。」
「なんともすごい顔ぶれだな。」
志郎がそう感想を言う。神がそれに答えて言った。
「だから、ついて来たんじゃない?」
「確かに。」
くすりと笑いながら、志郎は答えた。
「さて、では街道を北上しましょうか。」
神はそう言った。三人は頷いてそれについて行く。
三日目、街道を歩いてるところで志郎が言った。
「ところで、あの魔道具だが・・・」
「ん?あれがどうかしたの?」
神が答えて言う。志郎が続けて言った。
「そのままだと面倒ではないか?どうせ奴の事だ、探査しつつ追いかけてくると思うのだが?」
もっともな意見である。神はそれを聞き、答えた。
「あぁ、それなら問題ないわよ。これからやるから。」
「これからだと?」
「ええ、ちょっとそこの外れにいきましょうか。」
そう言って、神は街道から少し外れて大きな広葉樹のそばに立った。ほかの三人もついて行く。神は懐から例の魔道具を取り出した。
「で、どうするんですかぁ?」
ミルがそう聞いた。神が答えて言う。
「探知されないようにしたいからね。「核」なわけだから、こっちから「創れ」ばいいのよ。」
「なるほど、向こうは使うために探してるわけですから先にこっちで使えばいいという事ですね。」
アーレフが神の意図を理解して言った。神が答える。
「さすがアーレフ、鋭い洞察ね。さて、始めますか。」
神はそう言って、「力」を使い始めた。あたりに、「力」が集まり始め、次第に目に見える形に凝縮していく。眩く輝いて収束していくとそれは人の形を取り始めた。様子を見ていた志郎が感嘆して言う。
「いやはや、これ程とはな・・・形容する言葉が見つからんな。」
「ん~、おじ様、マスターはまだ「ちょっと」しか力を使ってないですよ?」
ミルが説明する。そう、神はわずかしか「力」を使っていないのだ、言い換えるなら、「力」を発揮すれば何が起こるか人では想像が付かないと言うことである。
「これはますます、ついていくのが楽しみだな。」
志郎はそう言って、神の様子を見ていた。それは、光がだんだん収まっていき、少女の姿が見えてきた。
「さて、これで完成だけど、このままじゃちょっとまずいわね。」
出来上がりに満足しながらも神がそう言った。
「え?どうしてですか~?」
ミルが聞く。神が答えて言った。
「裸じゃまずいでしょ?」
そう言われて、皆はそれを見た。藍色の髪、蜂蜜色に輝く美しい瞳、色白の美しい肌、とても可愛い少女だが、確かに素っ裸であった。
「た、確かにそうですね・・・ミルさん、神さんの服で、彼女に合う物を出してあげれませんか?」
アーレフもさすがに恥ずかしいと言う表情でミルに言った。ミルは答えて言う。
「あ~そうですね~。ちょっと、鞄を調べてみます~。」
そう言って、ミルは鞄をごそごそとあさり始めた。
「さて、あなたの名前はなんと言うのかしら?」
神は、「それ」に尋ねた。「それ」は答えて言う。
「レスフェミュナシュア(神を狩る者)。」
淡々と、そして抑揚が無く答える。機械的な返事だった。
「神を狩る、ねぇ。これって偶然にしては出来すぎてる感じよねぇ。」
神はそう言った。志郎が言う。
「つまり、そういう目的のために作られたものって事かな。」
「恐らくそうでしょうね、悪魔崇拝もあるそうですし、そっちの関連かもしれないですね。」
アーレフがそう説明した。レスフェミュナシュアは、神に向かって言った。
「マスター、指示を御願い致します。」
神は、それを聞いて少し躊躇したがこう言った。
「そうね、まずはミルが持ってくる服を着ること。そして、あなたの名前は長いから愛称を決めるわ。そのまま呼んでると至らない揉め事も起きそうだしね。」
「あ~確かにそうですねぇ。神を狩る者、って名前では誤解を招きそうですしねぇ。あ、これを着てくださいねぇ。」
そう言いながら、ミルは彼女に服を手渡した。少女は、手渡された服を多少もたつきながら着ていく。それを見ながら神が言った。
「ラミュア(刃となる者)と言う名前を与えます。これからは、こちらを使いなさい。」
そう言われてラミュアと呼ばれた少女は、軽く頷いて答えた。
「はい。」
「さて、これでいいかしらね。これで「探知」は出来ないし、ラミュアに攻撃しかけようなら、彼女自身が反撃をするわ。」
神はそう言った。得心してアーレフが言う。
「なるほど、彼女自身を創り出す事で敵にも対応できる武器まで作ったって事ですね。」
「ラミュア、彼らはあたしたちの仲間。覚えておきなさい。」
神はそうやって、ラミュアに指示を出す。
「了解しました。指示を実行します。」
淡々と返事をして、ラミュアは仲間を「覚えて」いく。
「しかし、何だな。こうして見ると、まるっきり違うな。」
志郎がラミュアを見て感想を述べた。ミルがそれに答えて言う。
「何が違うんですか~?」
「ああ、ミルとラミュアだよ。全然異なるな、と思ってな。」
そう、志郎は言った。アーレフも同調して言う。
「ああ、確かに。ミルさんは確か、神さんが直接創られたんですよね?」
「はい~。そうですけど~。ですから「使い魔」なんですよ~。」
「ですよね。ですが、今、創られる様子を目の前で見ていたラミュアさんは「核」のせいか、感情も希薄だし、すごく機械的ですよね。そういう意味で、まるっきり違うって言ってるんですよ。」
アーレフはそう説明した。
「なるほど~。確かにラミュアちゃんは、あたしとは全然違いますねぇ。」
「姿、形、名前、皆異なりますが。」
ミルは得心して答えたが、ラミュアが無機質的に答えた。そう、こういう「違い」である。
「それはね、ラミュアには、模擬的な心しかないからよ。」
神はそう言って、説明し始めた。ミルは神自身による完全な作品だが、ラミュアは魔道具による「核」を基本として補完し神が創り上げた、一種の補強作品である。「核」は魔道生物の要と言える機関で、生命維持と心を機能している。それが、神の作品で無い以上、ミルのような存在にラミュアがならない所以であった。
「なるほどな、根幹となる機関が異なるからか。そう言われれば納得できるな。しかし、と言うことは、だ。神、やろうと思えばミルのような存在をいくつも創れるという事か。」
志郎がそう言って、神に聞いた。神が答える。
「違うわよ。」
「出来ないんですか?」
アーレフも聞いてくる。神がさらに言う。
「あたしと姿形、そして能力がまるで同じ存在をほぼ無限に創ることも可能よ。」
神の言った台詞に、皆が唖然とする。言うなれば、今の姿は仮のものでやろうと思えば好きなように出来る、と言っているわけである。
「いやはや、想像を絶すると言うやつだな・・・。まぁ、楽しませてもらうとしよう。」
志郎がそう言った。神が言う。
「そうしなさい。せっかくの機会だしね。さて、これでいいわ、皆行きましょうか。」
ラミュアの準備も整ったので、神がそういった。皆は頷き街道に戻って北上を始めた。
「後半日程度でレミアルト王国の境界の町であるラミュソスに着きますね。」
アーレフは地図と街道を確認しながら言った。
「そう、ならそろそろかもね。」
神が確信に満ちた様子で言う。
「何がそろそろなんだ?」
分からないので志郎が聞く。神が答えて言う。
「アーレフを襲う算段をしてる奴等がいるって事。」
「私、ですか?」
「そう、正確には、あなたが持つ神器を求めて、ね。」
「ああ、そうか、この問題もありましたね。」
アーレフはそう言いつつ、胸元にしまってある「神器」を取り出した。
「そういえばそっちの問題もありましたねぇ。マスターどうするんです~?」
ミルが神に指示を仰いで来る。神は答えて言った。
「言わずもがな、よ。」
「マスターは徹底的に叩き潰せ、と言われています。」
ラミュアが意図を要約する。
「ほう、ラミュア、そんなことまで理解できるのか。」
志郎がラミュアの反応を見て感心しながら言う。ラミュアは答えて言う。
「マスターのご意思は分かりますので。真意までは分かりかねますが。」
淡々と機械的には述べるが洞察力等はありただの機械的な魔道生物ではない特別な存在であることが分かる。
「なら手っ取り早いし、戦闘時も無駄な指示はしなくていいから楽だな。ラミュア、俺たちの意思もある程度は分かるのか?」
志郎がそう言ってラミュアに聞く。
「データが少ないので、どれだけ反映できるかは分かりかねますが、最善は尽くします。」
ラミュアは模範的回答とも言える機械的な返事を返した。苦笑しながら志郎が言う。
「何ともはや・・・まぁ、最善を尽くしてくれ。」
「了解しました。」
二人のやり取りを見てアーレフは微笑んでいた。
木々がまばらに立ち、やや視界が悪い箇所に一向は通りかかっていた。
「このあたりのようね。さて、パーティを始めるわよ。」
神がそう言う。それにあわせて、ばらばらと十数人の人物が一行を囲んできた。
「団体様ですねぇ。」
ミルがそう言う。団体の中で、少し後方にいる人物が口を開く。
「アーレフ殿下、あなたのお持ちの「神器」をお渡しいただこう。」
やや低い、よく通る声だ。そういわれてアーレフが答えた。
「それは無理な相談ですよ。これは、私が守護するように言われたもの、もしお渡しするとすれば確たる方にお渡しするときですから。」
それを聞いて、リーダーらしき男が片手をあげながら言う。
「それは残念だ、では仕方が無い、そこにいる者共と一緒に、私たちについて来てもらうとしよう。」
男がそう言うと、周囲で囲っていた者達が胸元からなにやら道具を取り出し使い始めた。その道具が輝きだすと周囲の様相が変わり始めた。
「結界発生。解除しましょうか?」
ラミュアが状況を淡々と伝える。神が答えて言う。
「まだ要らないわ。まずは、少々遊ばないとね。」
「了解しました、マスター。」
ラミュアがそうやって神の指示に答える。そのやり取りを見て志郎がミルに言った。
「おい、ミル。ラミュアって遊びを理解できるのかな?」
「さ~?彼女なりの「遊び」じゃないですかねぇ・・・あたしにも分かりかねますけどぉ。」
「まぁそんなものか。」
神たちの周囲にいた者たちは囲いを狭め始めた。神は口に笑みをたたえながら言う。
「さて、楽しみましょうか!」
そう言って戦いは火蓋を切った。
「ば、馬鹿な・・・選りすぐりのものを集めたと言うのに・・・しかもこの結界の中をなぜ貴様らは・・・。」
と、言いかけたときに、ラミュアが自分で作り出した「剣」で男に止めをさした。
「なぜ、か。一番答えの出ない質問を簡単に言うのが人間の悪いところかもね。」
神は皮肉混じりにそう言った。アーレフが自重混じりに言う。
「まぁ確かにそうですね。エゴで生きる部分が多い故に人にはそういう傾向が強いでしょう。エルフたちのように達観はしてませんしドワーフたちのように気長に考えれるほど、心がおおらかでもないですから。」
「確かにな。故に人は事象の責任を自分には向けずに他人に押し付けることが多いからな。」
志郎も賛同しつつそう言った。神がそれに答えるように言う。
「おじ様も長生きしてるのねぇ。」
「長生きだけ余計だ。」
志郎がそうやって注文をつけた。
「敵、沈黙。対象消滅、マスター、結界解除行いますか?」
ラミュアが淡々と処理をしながら神に指示を請うた。神は答えて言う。
「そうね、御願い。あ、そうそう、こいつらは向こう側に放置で、こっちに持ってこなくていいわ。」
「了解しました、実行します。」
ラミュアは、無機質に返事をして行動を開始した。
「これでとりあえず、一旦は終了ですかねぇ?」
ミルが問うて来た。神が答えて言う。
「まぁとりあえずはってところじゃないかな。やつらが何者か、とかはあたしにはどうでもいいし。調べようと思えばすぐ調べられるけどね。殲滅したからどうせ、調べるのに時間がかかって次に手出しできるのはずいぶん先でしょう。」
「まぁ、そうなるだろうな。俺が手を出す暇がほとんど無かったからなぁ。次は少し増やしてくれ。」
志郎がそう言って注文をつけた。神が答えて言う。
「それは向こうに言わないと。軍隊か、強力な魔術師団でもつれて来いってね。」
「やれやれ、神さん相手では戦争起こす気でないといけないですね。」
アーレフが苦笑混じりに言った。ミルがつられて言う。
「ミルも居るんですけど~。」
「私もいます。」
さりげなくラミュアも言った。神が言う。
「要するにみんなやる気満々ってことよねぇ。」
そう言われて、皆で笑った。
「さて、もう少しでラミュソスね。そこで小休止としますか。」
神は皆にそう言って歩き始めた。皆もそれについていく。
風が静かに吹き抜けていた。
「ユアシム様の気が無くなりました。部隊は全滅したと思われます。」
呪術師らしき男が呪術用具の前で祈りながらそう答えた。後ろで聞いてた男は戦慄きながら言った。
「何だと!ユアシム以下十七名選りすぐりを揃えて向かわせたのにたった数人にやられたと言うのか?!」
「は、結果ではそうなります・・・」
呪術師はそう答えた。彼の遠見は外れたことが無い、故に間違いは無いであろう。男はそう結論付けた。
「奴ほどの結界術師が、しかも結界内で倒されるとは・・・アーレフの周りにいる者は何者なのだ・・・まずはそれから調べねばなるまいな・・・」
男はそう結論付けて、部下を呼び出し、指示を与えていった。
「あれを早く手に入れなければ・・・「神」の力を手に入れねばならぬのだ。」
男は自分に言い聞かせるように言った。
次回「国境の町ラミュソス」。神達は国境に位置する一大交易都市ラミュソスに到着する。そこで待ち受ける事件とは・・・。次回もお楽しみに。