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レミアルト王国

しの達はレミアルト王国の王都に近づいていた。そこでは何が待ち受けているのか・・・。

小説 風の吹くままに

第四章 レミアルト王国


街の入り口、つまり城門に入ろうとしていた。この辺りは大きな都市はみな都市国家が中心で、それを元に集合体を形成して国家を作っているようであった。そして、その庇護を得るために大小の諸都市を取り合うような状況だと言う。元の世界で言う、「中世」辺りがふさわしいかもしれないと思った。

「さて、あたしたちってすんなり入れるのかしら?」

ふと、疑問に思ってあたしは言った。ミルはそれに答えた。

「そうですねぇ・・・お隣が紛争を起こしつつある状況では正式な身分証明がないとなかなか入れてもらえないかもしれないですねぇ。」

「そうよねぇ・・・「力」を使えば入れるでしょうけどそれじゃ、つまらないしなぁ・・・」

そう答えたあたしに、ミルが言った。

「つまらないって・・・マスター、楽しむの優先ですか~?」

「そうでもしないと意味がないでしょ?」

「まぁ、それはそうですけど・・・。」

あたしたちがそう会話していると、隣から、男性が声をかけてきた。

「お嬢さん方、お二人で旅ですか?」

振り向くと、神官の風体の男性が、にこやかに話しかけてきていた。姿形はきちんとしたもので、態度もしっかりとしている。恐らく修行僧か何かだろう。

「ええ、事情があって今は二人で旅をしています。城門での手続きが結構面倒そうなので、あたしたちは許可証のようなものは持ち合わせていないのでどうしようかと、思案していたところなんです。」

あたしは正直に、男性に答えた。男性はそれを聞いて、ふと目を閉じ、小声で何かを唱えた。その後、目を開き、にこやかな顔をしながら言った。

「お困りのようですね。私はさるお方から、特別に許可を得て通行許可証を発行されております。ご一緒して、中に入ることにしませんか?」

「いいのですか?見ず知らずですのに・・・。」

「ええ、神も、良かれと言って下さっていますから。是非、どうぞ。」

そう言って、にこやかに男性は答えた。思案していたときに、ありがたい申し出ではある。今回は、一緒に同行させてもらうか・・・。

「ありがとうございます。ご好意、甘えさせてもらいますね。」

「いえいえ、困ったときに手助けを差し伸べるのが、神官としての勤めですから。」

感謝を述べると、男性はすぐさま神官らしい返事をしてきた。

「助かりましたね、マスター。「力」を使う必要もなくなりましたし。」

「そうね。まずは、彼に感謝しないとね。」

二人でそう言い合った。その後三人は自己紹介をした。

「へぇ、アーレフさんは、今まで諸国を旅して修行してたんですか~。」

「まぁ、この大陸内ですけどね。」

「って、結構いろいろいかれたのでは?」

話は(アーレフ)の今までの旅の内容になっていた。

「あ、そうですね・・・国家数としては14くらいかな?」

「14ですか。いろいろ巡られて勉強になられたんですね~。」

「おかげさまで。たくさん修行させてもらいました。ミルさんや(しの)さんも旅の途中と伺いましたが、長いのですか?」

アーレフは、あたしたちのことも聞いてきた。ミルが答えて言った。

「あ、え~とですね。ここに来たのは初めてなんです。ですので、まだ知らないことだらけで・・・」

「なるほど、では、私と出会えてひとつ良かったと言う事で。」

「あはは。(笑)」

そうやって会話をしていると城門の衛兵の前まで、あたしたちの番が来た。

「お前たちは何者か?通行許可証があるなら見せなさい。」

型どおりの言葉で、衛兵は仕事をこなす。アーレフが進み出て、懐にあった許可証を出した。

「私は、レミアルト教会所属、アーレフと申します。旅路でめぐり合ったお嬢さん二人を教会に案内すべくこうやって戻ってきた次第です。」

アーレフがそう語って、衛兵は許可証を見ると、驚いて、言った。

「これは殿下!失礼致しました。そういうことであればお通りください。」

そう言って、他の衛兵に指示をして道を明けてくれた。

「やれやれ、だからこういう場所は苦手なんですよね。」

アーレフは苦笑混じりにそう言った。どうやら彼は権威者として扱われるのが苦手なようである。そういう彼を見て、微笑んでしまった。

「殿下だったんだ。そう見えないけど。」

あたしがそう言うと、彼は苦笑混じりに答えた。

「三男坊ですしね。かなり自由にさせてもらっていますから。兄上達など大変ですよ。」

権力者は大変なものである。ただ、経験してないものは大半が理解できないであろうが・・・。能力がないと自分のみならず他人も不幸にしてしまうが故に能力を持つことすら義務付けられてしまう。「力」を持つことの責任と苦悩が見て取れる。それに比べてあたしは・・・。

「気楽なあたしは贅沢をさせてもらってるのねぇ・・・。」

ふと、そう言ってしまった。ミルが答えて言う。

「まぁ、マスターの旅も大変と言えば大変ですけどねぇ。」

「そんなものかな・・・まぁ、これから分かるか。」

そんなことを語りながら城門をくぐっていった。


「で,首尾は?」

「今のところ万全です。襲撃時間、場所、抜かりはありません。」

人の往来は多いが、人目につかない場所で、男二人が話し合っていた。

「今度こそ成功させねばならぬ。あやつが持つ神器をなんとしても手に入れねば・・・。」

「はっ。」

なにやら、人を襲う算段のようであった。


「いい街ねぇ。」

そういいながら、あたしは街を眺めていた。きれいに整えられた町並みがきちんと行政区画してきたことを物語っている。きちんと区画整理がされれば管理も行き届き、不法もはびこりにくくなる。行政の基本だが、意外とされていないのはどこの世界でも共通だ。それが行き届いてるのだからここの統治者はかなりの切れ者だろう。

「曽祖父の時代から決め細やかな街の整備が行われていたそうです。今の街の区画の大半は父の時代にほぼ完成していますしね。」

アーレフはそう言って説明した。家族の偉業である、誇らしい一面もあるだろう。

「わぁ、市場もにぎやか~。何か買いたいなぁ。」

ミルがそんなことを言い出した。あきれ混じりにあたしが答えた。

「買うのは後で。まずはアーレフが案内する教会に行くのが先よ。」

「う・・・はぁい。」

しぶしぶミルは返事をする。それを見て、アーレフがくすりと笑った。

「その姿だと、なんと言うか、ギャップを感じますね。(しの)さんは小柄なのでミルさんがかしこまってるとすごく違和感があります。」

言われてみればそうかもしれない。身長150cm足らずのあたしが身長2m近くのミルに言い含めているのだ。しかもミルは可愛い言い草をするからなおさらそう見えるだろう。

「あははは。(^^ゞ」

つい二人で苦笑いをしてしまった。

三人は大きな教会の前に来た。荘厳な建物でかなりの年数がたっていることが見て取れる。

「りっぱねぇ。」

「そうですね、約千年前に建てられたと言われています。さて、参りましょうか。」

そう言って、アーレフは中に入って行った、あたしたちもついて中に入る。

中は、さらに荘厳さが増して見えた。装飾もさることながら、日ごろ如何に手入れがされまた愛されているかが分かる。奥に進むと、権威のある神官らしき人物が立っていた。どうやら大神官のようである。

「アーレフ=レミアルトただいま戻りました。」

そう言って、彼はその大神官の前で屈み、神官としての礼であろう、作法をした。それを見て静かに大神官は答えた。

「よく無事に帰ってきました。いえ、もちろん、無事に帰ってくることはわかってはいましたが。修行でますます力をつけたようですね。」

「は。これも神のお導きかと、ご指導も様々あり「力」も数多く教えて頂きました。」

「それは何より。さて、この子達はどちらさまですかな?」

大神官があたしたちに気づいてアーレフに問うてきた。アーレフは答えていった。

「はい。城門の近くで出会ったのですが、何かを感じましたので神に問い尋ねたところ一緒に行くよう勧められましたのでこうやって一緒にこちらに参った次第です。」

大神官はあたしのほうを少し見てから答えていった。

「そうですか。あなたにも分かりますか。分かるのであれば、神のお導きでしょう。(しの)さんと言いましたかな?」

不意にあたしの名前を言われて、あたしはびっくりしたがすぐ答えた。

「あ、はい。あたしは、あかなししのと申します。」

「よい目をしておられる。彼を一緒に行かせても構いませんかな?」

「あ、あたしとですか?」

「はい。」

落ち着いた声で大神官は語った。どうやら本気のようである。断る理由もないし、逆に彼がいることでいろいろ旅に役立つのは間違いない。むやみに「力」は使いたくないのでここは一緒に旅をするのが最善と思った。

「分かりました。あたしも旅人としては初心者なので逆にご迷惑になるかもしれませんがそれでもよろしければお願いいたします。」

そう答えると、大神官は微笑みながら答えた。

「早速の肯定の返事ありがとうございます。彼も、問題を抱えてる身なのであなたのような方とご一緒できるならいささか楽でしょう。」

「え?それはどういう・・・」

あたしが逆に問いただそうとすると、大神官は口に手を当てながら、

「あなたのことはよく存じております。今はアーレフの身を宜しく御願い致します。」

と、やや小声で言った。つまり彼は、あたしの存在について理解した上でアーレフを託すと言っているのだ。そう言われるならば、こちらは肯定するしかない。

「分かりました。では今後のことを話し合いたいのでこれで失礼させて頂きます。」

そう言って一礼をしてあたしは、そこから下がった。二人もその後あたしの元にやってくる。

「まさか、あたしを知ってる人とはねぇ・・・。」

恐らく、「神」またはそれに近い存在が伝えたのだろうが・・・

「アーレフ、報告とかは終わったの?」

あたしはアーレフに聞いた。彼は答えて言う、

「ええ、これからはあなたとともに旅をするように指示を頂きました。やはりあなたは特別な方のようですね。」

それを聞いてミルが言った。

「え?ってことは、はじめからそうじゃないかと思ってたんですか~?」

「ええ。あなた方と出会ったときに「祈り」を捧げて答えを求めたら一緒に行くように言われたのでね。」

「啓示をもらったんですね。すごいなぁ。」

「あ、いや、私も初めてだったのでびっくりしたんだけどね。」

アーレフは謙遜にそう答えた。たぶん事実だろう。

「さて・・・」

と、あたしは、話題を変えつつ切り出した。

「これからどうするかな。まずは街中見学かな?」

「あ、そうですね。あたし市場に行きたいです。」

ミルが早速さっき行きたかった市場見学を申し出てきた。

「ってことなんだけど、いいかしら?アーレフ。」

あたしがアーレフに聞く、彼は微笑みながら答えた。

「ええ、いいですよ。ではまずは市場に向かいましょうか。」

三人は、教会を出て市場方面に向かった。


教会では大神官が祈りを捧げていた。

「彼にも新たな使命が生まれたのですね。かの方との旅が幸多きものとなり、彼に課されている枷が少しでも軽くなりますように。」

彼は、意味深な祈りを捧げていた。


市場は賑やかだった。店の者の声、客の声、競り合う様子がすぐに分かる。より良い物を探そうとする者、逆に出来るだけ高く売ろうとする者、両者のせめぎあいである。言うなれば、目には見えない死闘であった。

「楽しそうねぇ。」

ふと(しの)はそう言った。しばらくこういう喚声には出会っていなかったな。しばし、立ちながらその聞こえる声に耳を傾ける。

「あれ?マスターどうしました?」

立ち止まった(しの)を見て、ミルがそう言った。(しの)は答えて言う。

「喚声を聞き入っていただけよ。こういうのは久々だから。」

「ここは国で一番賑やかなところですからね。」

アーレフが説明として語る。なるほど、確かに一番賑やかかもしれない。いろんな意味で。

「待て!」

突然、怒号が鳴り響く。何か騒ぎがあったようだ。少し離れた場所で、人々が騒ぎ出している。

「何でしょうか~?」

「大した事でなければいいですけどね。」

ミルとアーレフはそんなことを語り合っていた。騒ぎはこちらに向かってくるようだ。どうやら元凶となる人物がこちらに走ってくるようである。

子供だ!何かを抱えている。子供は(しの)を見るとすかさずその後ろに回りこみしゃがんで隠れる動作をした。

「お姉さんちょっと隠れさせてね。」

そう言って、子供は(しの)の髪をうまく自分に巻きつけながら(しの)の後ろに回りこむ。もちろんそのままではばれてしまうが、(しの)がさりげなく「力」を使う。

「くそ!どこにいった。あのガキ、見つけたらただではおかないからな!」

「向こうかもしれん。手分けをして探そう。」

男たちはそう言って、四方に分かれて捜しに行った。

「もう見えないわよ。」

(しの)がそう言うと、後ろにいた子供がすごすごと出てきた。

「あ、ありがとうお姉さん。後ろにいただけなのに見つからないなんて、何かしてもらったんでしょ?」

子供が恐る恐る(しの)に感謝を述べた。しかも、(しの)が「何か」をしたことに気づいているようだ。(しの)はくすりと笑いながら答えた。

「そうだけど、困って、急に助けてって言われたら、助けたくならない?」

逆に質問されて、子供は唖然とした。

「あ・・・うん。僕もそうするかも、出来るかどうかはともかく。」

子供が、よい返事をしたのを聞いて、(しの)はにこやかに笑いながら言った。

「そう思えるなら、あなたはいい子ね。やったことがどういうことかはともかく、少し静かなところでお姉さんたちに事情を話してもらってもいいかな?ここだと、またさっきの奴等が来るかもしれないしね?」

そう言われて、子供はしばし周囲を見回した後、(しの)のほうに向かって顔を深々と下げて言った。

「うん、ありがとう。じゃあ、僕の隠れ家に案内するからついてきて。」

そう言って、子供は走り出した。

「そう言う訳だから、みんな行きましょうか。」

(しの)はそう言って、二人についてくるように言った。

「マスター、いきなりそういうシチュエーションですか?」

ミルが少々呆れ気味でついて行く。アーレフも微笑みながらそれについて行った。

子供は、裏路地を通り、さらに倉庫街の裏手に入った。人通りは疎らになっていく。ある建物の横で、子供は立ち止まった。

「ここから入るんだ。」

そう言って、そこにある壁を触ると、多少きしみながらずれていき、大人一人がやっとは入れるぐらいの空間が出来た。そして子供はそこに入っていく。

「へぇ、いい感じの隠れ家ね。」

感心しながら(しの)はそこに入っていく、ミルたちもその後に倣った。子供と(しの)たちが入ると先ほどの壁は音を多少立てながら元の位置に戻っていった。どうやら仕掛け扉のようだ。

「これはすごい、よく出来ていますね。」

仕掛け扉であることに気づき、アーレフが言う。

「それは、僕たちで考え出したんだ。」

少し自慢げに子供が言った。

「この奥なの、ついて来て。」

そう言って、子供は奥に進んでいく。半地下から地下へそう下っていく感じを受けながら四人は進んでいった。そして、扉が見えてきた。

「到着。ここです。」

そう言って、子供は扉を開け、中に入っていった。(しの)たちも続く。

中は質素なものだが、生活が出来るように整えられていた。奥のほうで誰かが寝ている。

「お兄ちゃん?」

どうやらこの子の妹のようだ。そう言って起き上がろうとした。それを子供(少年)が制止する。

「だめだよマリン。まだ熱があるだろう。休んでるんだ。」

そういわれて、マリンと呼ばれた少女は、再び横になった。

「その子の為だったのかな?」

「あ、はい・・・」

(しの)が問うて少年が答えた。

「妹の熱がなかなか引かなくて、司祭様に御願いしようかとも思ったのですけど、僕たちお金なんてないから・・・。」

「ふむ・・・アーレフ、司祭とかって治療とかする時にお金取るの?」

多少疑問に思ってアーレフに聞いてみた。こちらの世界のことはまだ詳しくは知らないから無理もないが。アーレフはいぶかしげに答えた。

「司祭様がお金を?君、司祭様がお金を求めたのかい?お金をお求めるなんてことはないはずなんだが・・・」

「え?そうなんですか~?ってことは何かおかしいですねぇ・・・」

と、ミルが言った。確かにおかしい。間に何かかんでいると見るのがいいのかもしれない。

「あ、えっと。司祭様がそう言ったんではなくて、神官のエルセビア様が・・・」

少年はそう答えた。どうやら、悪事を企んでいる者がいるようである。

「エルセビア・・・彼が・・・」

少年の話を聞いてアーレフが驚いた様子で聞いていた。まるで信じられないといった面持ちで。

「知り合い?」

(しの)がそう聞くとアーレフは無言で頷いた。

「ところで坊や、いったい何を盗ってたの~?」

ミルが少年に聞いていた。少年は答える。

「えっと、これなんですけど・・・。」

そう言って、盗ったものを見せた。小さなものだが、鮮やかな装飾のある装飾品のようなものだった。(しの)はそれを手に取ろうとして触れた。

「ん?これは・・・」

「どうしました?マスター。」

(しの)が何かに気づき、ミルが問うてきた。

「何か「力」を感じる。普通のものじゃないわね、これは。」

(しの)は「何か」を感じてそう答えた。少年は驚く。

「お姉さんたちすごいんですね。これって高価なものなんですか?」

「え?あ、ああ・・・何と言うか・・・マスターどう説明しましょう?(^^ゞ」

少年に質問されてミルは困り顔で答えた。(しの)が言う。

「そうね。まずは自己紹介しましょうか。あたしはあかなししの、多少「力」のある旅人よ。」

(しの)がそういったので、ミルが続けて言う。

「じゃあ、あたしも言わないといけませんねぇ。(しの)様の付き人でミル=フェリシアといいます~。」

「じゃあ、私も言わないといけませんね。私はアーレフ=レミアルトこの国で神官をしています。今は(しの)さんと旅を始めたところなんですよ。」

アーレフも自己紹介をした。それを聞いて少年も答えた。

「あ、ありがとうございます。僕はレオンといいます。彼女は妹のマリンです。」

そう言って、自分と妹を紹介した。それを聞いて(しの)が満足げにして、話し始めた。

「そうねぇ。まずはそれを調べることからはじめましょうか。それから少しずつ話を整理していきましょう。」

皆がその意見に賛同した。(しの)はそれを手に取り「力」を用いて調べ始めた。

「ん・・・魔道の道具か。しかも結構強いものね。何かの触媒に使うものかしら。もっと調べれば分かるんだけど・・・今はこれくらいにしておきましょう。」

「何か分かりましたか~?」

「ええ、結構高価な魔道の道具みたいね。直接扱うものではなく触媒に使われるものみたい。さっきの男たちはお金になるからか、または使う目的だったから怒って追いかけていたのかもね。」

(しの)はそれを見せながら説明した。

「さて、どうしましょうかね・・・」

(しの)は思案した。ただ、お金を与えるだけでは、実質的にレオンやマリンの為にはならない。一時的に助かるだけだ。となれば、どこかで保護してくれる場所を確保するのがいい訳だが・・・

「私が大神官様に掛け合って彼らを保護してもらえるように御願いしましょう。それと同時に先ほどのお金の件も俎上すればいいですし。」

アーレフが提案した。確かに、その方法が最もいいように思われた。

「うん、それが一番いいかもね。アーレフ、マリンに治療魔法をかけてあげたら二人を連れて行ってあげてもらえるかしら?ミルもお供につけるから。」

(しの)はそう言った。ミルが疑問に思って聞く。

「えっと、お話は分かりましたけど、だとするとマスターはどうされるんです?」

「あ、あたし?あたしはもう少しその辺をぶらついてみようかとね。」

はぐらかすように(しの)が答えた。ミルはそれに気づき言う。

「何か企んでますねぇ・・・でも、その方がいいのかなぁ、わかりましたぁ、ミルはアーレフさんたちの援護に回ります。」

「御願いね。アーレフもいいかしら?」

「ええ、マリンさんを治療し次第すぐ向かいましょう。先ほどの男たちはかなり執拗でしたし早いほうがいいでしょう。(しの)さんもそれで別行動を提案されたようですし。」

アーレフが物分りよく答えた。(しの)は感心して言った。

「あら、さすがね。揉め事対処は一人のほうが楽だからねぇ・・・。」

「って、マスター楽しみたいだけでは・・・。」

「そこ、外野五月蝿いわよ。」

「え~・・・ミルは外野じゃないですぅ。」

(しの)とミルが微笑ましいやり合いをしていた。アーレフはそれを見て、微笑ましく思いながらマリンの治療を始めた。


「レオン、マリン準備はいいかしら?」

(しの)が二人に言う。二人は元気よく答えた。

「はい!大事なものは全部まとめました。」

「いい返事ね。じゃあ、二人ともアーレフについて行ってね。」

(しの)にそう言われて、二人は礼をしながら答えた。

「いろいろありがとうございます。今はもらうばかりですけどそのうちお返しを・・・」

そう言いかけて(しの)が制した。

「お返しなんていらないわよ。それより早く行きましょう。あなたは助けを求めたからあたしは助けてる。今度はあなたが助けを求められたときに助けてあげればいいからね。」

そう言って、(しの)はにこやかに笑いながらレオンの頭をなでた。

「じゃあ、アーレフよろしく。ミルもしっかりね。」

「はい。(しの)さんも気をつけて。」

「マスター、初めてなんですから気をつけてくださいね~。」

そう言いあって、(しの)は彼らとわかれて移動し始めた。


「ミルさん、(しの)さんに初めてっておっしゃってましたけど、あれはどういうことですか?」

レオンたちを連れて歩いてるときにアーレフは何気なくミルに聞きただしていた。

「あ、え~と・・・」

ミルは返答に迷っていた。あまり露骨に真実は言えないし・・・

「アーレフさんも知ってると思いますけど~ (しの)様は特別な方ですけど特別になられたのがつい最近なんです~ なので、初めて、って言っちゃったもので・・・」

と、多少濁す形でミルは答えた。アーレフはその説明で納得したようで、

「なるほど、(しの)さんも大変なんですね。」

と、返答して、それ以上追求はしなかった。彼なりの解決を得たのであろう。


「さて、っと。」

(しの)は、アーレフたちからは離れて、人気の少ない裏通りを歩いていた。

「そろそろかな?どうせ、こんなものを探してる連中だから、見つからないとなると、それなりの手段で探知するのが普通だろうし。」

(しの)がそう言ってると、前方から男の声がしてきた。

「ほう・・・魔道具を探知してるとこんなところで女性に出会うとは・・・」

姿形のいい男であった。恐らく武術を嗜んでいるのだろう。隙らしい隙はまるでない。もちろん、見た目にはそう見えないのだが。それ故に、かなりのものだと、(しの)は理解した。

「何か用かしら?おじ様?」

多少、おどけた風に(しの)が言う。それを聞いて、男はやや目を細めて答えた。

「ふん。分かっていて言うとはあえて挑発してるのか、それともただの馬鹿か・・・」

「試してみてもいいわよ?」

(しの)が挑発的に、言った。しかし、男はそれには乗らずに話を続けた。

「別にやり合うのが目的じゃない。お前が持ってるその魔道具が欲しいだけだ。依頼主からの希望なのでな。」

「へぇ・・・上げる気がないって言ったらどうするのかな?」

(しの)がさらに挑発的に言う。男はさも冷静そうに答えた。

「そうだな、今回は引かせてもらおう。お前は正直、気味が悪い。面と向かっているのに、まったく強さが読めない。そういう対象とやり合うほど私は若くないんでね。」

相当の修羅場の抜けたもののみが言える台詞である。相手が分からないのにやり合うのは愚の骨頂だがそれが理解できないものが多いのも人の特徴である。彼はそれをわきまえているようだった。

「あら、案外賢いのね。でも、あなたの周りの連中は間抜けっぽいようだけど。」

「そのようだな、私は退散するとしよう。巻き込まれるのはごめんだからな。」

そう言って男は姿を消した。それと同時に、十数人の男たちが現れた。

「ここに反応があったぞ。」

「あらあら、団体客ねぇ。」

(しの)がそう言って、ややあざける口調で言う。男共は周囲を囲みながら、威嚇するように言った。

「女、お前が持っている魔道具を出せ。出さないと、ひどい目にあわせるぞ。」

彼らから見ると、数で威嚇し簡単に入手できるものと考えていたのであろう。しかし(しの)は鼻であしらうように答えた。

「ふぅん。じゃあ、どういう目にあわせてくれるのかしら?」

要するに、渡さない、どうするかやってみなさい、と挑発しまくっているわけである。男たちにすれば考えられない状況な訳だ。一瞬ひるんだ後で、男たちのリーダーっぽい男が言った。

「嬲られてももう文句は言えないな、やれ!」

そう命令されて、ほかの男たちが一斉に(しの)に襲い掛かった。

男たちは(しの)を捕らえて一斉に服をはぎ始めた。見る見るうちに服ははがされていき裸になったあらわな姿が見えるはずであった。しかし、服をはぎ終わったかと思った時そこには誰もいなかった。

「くっ。どこに行った?」

男たちは周囲を見回した。しかし誰もいない。いや、周囲が変だ。さっきまでと様相が違う。

「何だここは?さっきまでの裏通りと違う。」

状況が違うことに気づいた男が叫んだ。

「あら。目ざとい奴がいるのね。その通り、あなたたちはあたしの結界の中よ。生きて帰れないと思いなさい。」

どこからともなく聞こえる「声」がさっきの女のものであることは明白だった。しかし、彼らはもう何も出来ない。(しの)の作った結界の中で右往左往するのみであった。

裏路地には(しの)の姿だけがあった。

「全く。これだから男ってのは・・・」

自分が襲われかけたせいもあって(しの)はやや不機嫌だった。彼女は襲われる瞬間、「力」を使い結界を張って彼らを閉じ込め、自分はそのまま抜け出して今の場所にいる、という訳であった。

「ま、そこで死ぬまで永遠に彷徨っていなさい。」

残酷にそう宣告して、(しの)はさらに先へと歩いていった。


「さて、ここですよ。」

アーレフはそう言って、(しの)と出てきた神殿の前に来た。

「あら?ここはさっきいた神殿じゃないですかぁ。」

ミルが気づいて言う。アーレフは微笑みながら答える。

「そうですよ。まずは二人を大神官様にお届けしましょう。」

「はぁい。二人とも行きましょ~。」

彼らは神殿の中へと入っていった。


「ほう、どうやったのかはともかく奴等はあっさり倒されたのか。」

男の声がした。(しの)が答えて言う。

「あら、おじ様、お早いお帰りね。」

(しの)の前に、さっき現れた男性が現れた。(しの)は平然として立っている。

「魔道具を渡して欲しい。といっても、まぁ返してはもらえんだろうな・・・。」

男はそう、自問気に言った。(しの)が答えて言う。

「今は無理よ。こっちも振り回されて今に至っている以上はね。」

「ふむ、なるほどな。十数人を短時間にしかも街に被害なく倒す人物だ。私如きでは話になるまいな。今回は退散して報告しておこう。私の名前は剣志郎つるぎ しろうと言う。よければ御主の名前を聞きたい。」

男はそうやって自己紹介し、(しの)の名前を問うてきた。(しの)は答えて言う。

あかなししのよ。よろしくね。」

「ほう。答えてくれるとは重畳。では、(しの)殿、またお会いいたそう。」

男はそう答えて去っていった。

「ふ~ん。結構いいおじ様だったけど。また会えそうだから、まぁいいか。」

(しの)は進路を変えアーレフたちが向かった神殿へ向かっていった。


「ほう。神官でお金を強要するものがいると・・・。」

アーレフたちは大神官の前で報告をしていた。

「はい、この子がエルセビアが要求していたことを証言してくれました。」

「そうですか、それに関しては審問会にかけて審査しましょう。よく報告してくれました。して、言うべきことはそれだけですか?」

そう言われて、ミルが切り出した。

「あの~、この子達をしかるべき施設か、里親などに出していただけるように手配を御願いしたいのですけど~。」

「なるほど、こちらの話がメインのようですね。」

大神官はそう言って、にこやかに笑った。

「分かりました。手配いたしましょう。二人とも安心してください。私が責任を持ってふさわしい場所を案内いたしましょう。」

それを聞いて皆は喜んだ。

「よかったですねぇ。」

「ええ。しかし・・・」

アーレフはそう言って後ろを振り向いた。

「まだ(しの)さんのほうの案件が残っています。すぐ彼女を追いかけましょう。」

アーレフがすぐにでも行こうとしていたのでミルはそれをとどめながら言った。

「あ~、マスターなら、もう少しすればこの神殿の近くまで来られますよ~?」

そう言われて、アーレフはきょとんとしながらミルを見た。

「ミルさん、どうしてそこまで分かるんです?」

もっともな疑問をミルにぶつけていった。ミルは答えて言う。

「それは、あたしがマスターの「使い魔」だからです~。」

「使い魔ですか・・・詳しく話していただけますか?」

アーレフはそう言ってミルに説明を求めた。ミルは、仕方ないといった表情で答える。

「今後、一緒に旅をするわけですし、お話しますけど、少し長くなりますよ~。」

そう言って、ミルは説明を始めた。


「なるほど・・・そういう事ですか。それで、私にも啓示があったんですね。」

アーレフは、ミルの話にうなずきながら答えた。ミルのほうが逆に驚いて言う。

「あれ?驚かれないんですねぇ。」

「はは、「力」に係わり深い場所で学んでいますからね。まだ、私自身は「奇跡」などは見ていませんが大神官様からいろいろ教えていただいてますし、耐性があるのかもしれないですね。」

軽く笑いながらアーレフは答えていった。ミルは、逆に感心して言う。

「すごいですねぇ。ミルはこれが当たり前なので普通ですけど~。いわゆる「普通」の方には大変なお話だと思いますしねぇ。」

「そうですね。まぁ立場上、私は普通ではなかったですからね。一応「殿下」ですから。」

「あ、そう言えばそうですねぇ。」

二人は笑い合っていた。


神殿の前で(しの)はミルとアーレフに合流した。

「お帰りなさいマスター。追っ手の方はどうでした?」

ミルがそう聞いてきた。(しの)が答えて言う。

「一人素敵なおじ様がいたけど後は烏合の衆だったわね。とりあえず永遠に彷徨ってもらってるわ。」

いやなことを思い出したのか、少し不機嫌に答えていた。

「よほど乱暴されたんですねぇ・・・ということは、結構な代物だったって事ですねぇ。」

「まぁ、そういうことね。後で、詳しく調べてみましょうか。」

「そうですね。こちらのほうは片付きましたよ。」

アーレフは、自分のほうは片付いたことを報告した。それを聞いて(しの)は満足げに答えた。

「それはよかったわ。これでレオンやマリンも困った生活から抜け出せるといいけれどね。」

根本的な解決にはならないとしても、当座の解決が出来たことに(しの)は喜んでいた。

「では、とりあえず次の目的地に出発でいいのかしら?」

(しの)がそう提案した。ミルが答える。

「いいんじゃないんですか~?市場見物も楽しみましたし~。」

「私も依存はないですね。ただ・・・」

アーレフはそう言いかけて戸惑った。

「ん?アーレフ気にせず言っていいわよ。ミルからあたしのことは聞いたんでしょ?」

(しの)はそう言ってアーレフに語るよう進めた。

「そうですか・・・私もいささか問題を抱えてるので恐らくあなた方を巻き込むことになるかと思います。」

そう言ってアーレフは懐から小さな装飾品を出した。

「これは何ですか~?」

ミルが聞く。アーレフはそれに答えて言った。

「これは神器のひとつと言われています。」

「神器ですか~。って、神器って何なのでしょう~?」

「もっともな質問ですね。まずはそこからお話しましょう。」

神器、それは、神の器という言葉が指すとおり、神の力を秘めた魔道具のことで、物によっては国家ですら左右しかねない代物である。もちろん、強い力を扱うにはただ持っていればよいというものではない。物にもよるが、大抵は、必要な儀式があったり、使用に手順があったりする。一介の人間が扱うのであるから、所定の手順をふまなければ扱えないのはもちろんのこと、「普通」の人間だと場合によっては、触れるだけで死に至る事もある危険な代物なのであった。

「なるほど~。確かに厄介なものですねぇ。でもどうしてアーレフ様が?」

「王家伝来の神器のひとつで、まぁ、なんといいますか・・・厄介ごとを押し付けられたようなものです。以前も言いましたけれど、私は三男坊ですから。」

アーレフはそう説明した。事情が理解できた(しの)が答える。

「なるほどね。手に余る厄介な「物」を、比較的被害が少ない、あなたに押し付けたってところね。」

「はは・・・簡潔に言うとそういう事です。」

恐縮そうにアーレフが言った。ミルはそれを聞き憤然とした。

「え~、それってつまり、厄介ごとが無理やり来たってことじゃないですか~。」

「まぁそうですが、兄上たちが抱えるものに比べれば個人で済みますからまだ楽なほうですよ。」

アーレフは、謙遜にそう答えた。確かにそういう見方も出来るが、結局は押し付けである。対処できなければそれこそ、死ね、といってるようなものだ。

「なるほどね、それで大神官が「御願いします」と言った訳だわ。」

以前の経緯を思い出しながら(しの)が言った。

「大神官様がそんなことを・・・重ね重ね申し訳ないです。」

アーレフがさらに恐縮そうに言う。それに反応してミルが言った。

「ん~でも、逆を言えば、いい機会になったってことですよねぇ、マスター?」

「そうね。結果論になるけど、「神」のお導きってやつね。まぁ、あたしが言うべきことじゃないかもしれないけどね。」

そう、(しの)は言ってくすりと笑った。これから楽しいことが起きる、そういう笑いであった。

「ところで、その神器はどう言うものか理解してるんですか~?」

ミルが疑問を呈した。アーレフがそれに答える。

「あ、いえ、私も詳しいことは知らないのです。重要なものであることは「分かり」ますが・・・。まだまだ私も未熟なもので・・・」

「まぁ、人が知るには大変な代物だしね。無理もないわ。それはそのうち分かるでしょうし、どうせ、あたしの手の内なんだし、ね。」

(しの)がそういった。彼女はこの世界の「神」である以上、確かに手の内にあるものだろう。それを理解して二人は頷いた。

「さて、では、行きましょうか。街中で、奴等を相手するのは面倒だしね。」

(しの)はそう言って歩き始めた。すでに次の算段を考えているようだった。ミルとアーレフの二人が顔を見合わせて笑いながら後についていく。

「は~い。」

「分かりました。御供させて頂きます。」

彼らの旅は始まったばかりである。


次回「街道にて」。(しの)達は王都を出て街道を北上し始める。そこで出会う人物とは?次回もお楽しみに。

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