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一陣の風

とある村に向かうことになったしの達。彼女はどんな選択をしていくのか・・・。

小説 風の吹くままに


第三章 一陣の風


「しかし、物好きよねぇ・・・」


と、ふとあたしはぼやいた。ミルがそれに答える。


「え?と、いいますと?」


「わざわざ、世界を用意して、まぁ、歴史もあるみたいだからすでにあった世界でしょうけれど、そこに行って「旅」をして来い。だなんて、酔狂って言うか、物好きって言うか・・・」

「はぁなるほど。でも、マスターも見たことあるんじゃないですか?」


ミルはあたしの意見に答え始めた。


「正確な意図は、あたしには分かりかねますが、もし、ご性格があたしたちと差異の無い方であって、あたしたちを省みられる方なら、いろいろな形で介入したり逆に、じっと見守ったりして、私たちや世界を楽しんで見ていらっしゃるのではないでしょうか。」


ミルのその言葉に、あたしは、はっとした。確かに、人間でも、そのように感じるはずだ、まして「神」があたしたちをもともと「そういう風に」創られたのであれば、「神」はそれ以上に関心を示されて当然である。


「さすがね、ミル。あたしには考え付かなかったな。」


少々感心してあたしは答えた。ミルはそれを見て、少し偉そうに、


「でしょ~。あたしにお任せください♪。」


と、上機嫌に答えた。それを見て、苦笑しながら、


「まぁ、お願いするわ。でも、調子に乗りすぎないこと。」

「う・・・、はぁい。」


くすっ、とお互い笑って、笑顔になりながら麓の村に向かった。



その村は小さなものでざっと見ても家が数十戸あるか、というほどのものだった。恐らく開拓村の一つなのだろう。村の境界となるものはほとんど無く、各戸が恐らくは自由に引いたものであろう、杭があちこちに、各家々の敷地を分けるように立っていた。村は小さいながらも、活気に満ち、子供たちの声や大人たちの声が聞こえていた。


私たちの姿を見つけた子供があたしたちに近づいてきた。


「お姉さんたちは、どこから来たの?」


見知らぬものがいない、小さな村では当然の質問である。


「遠いところから旅をしてきたのよ。」

と、答えた。まぁ、別世界から来たのだから「遠いところ」であるだろう。


「ふ~ん。」

子供はそう答えてさらに言った。

「ようこそ、暁の村へ。静かで何も無いところだけど、楽しんでいってね。」


そう言って、あたしたちを村の中心部へと案内してくれた。

村の中心部では小さなバザーが行われていた。お互いに作ったものを交換したり、購入したり、談笑したり、ごく普通の村々である一般的な光景であった。そんな中、あたしたちは子供に導かれるようにして、そこに入っていった。あたしたちを見た村人たちはにこやかに迎え入れてくれ、また会話もしてくれた。そして、初老の男性が話しかけてきた。村長らしい。


「初めまして。わしはここの村長をしておるルーベンスという爺じゃ。」


そう言って、挨拶をしてきた。あたしはそれに答えた。


「初めまして。あたしはあかなししのと言います。彼女はミル=フェリシアあたしの付き人をしてもらっています。」


そう言ってミルも紹介した。ミルも軽く会釈をする。それを見て、村長は、やや感心しながら言った。


「お嬢さん方は二人で旅をしておられるのかね?」


「はい、そうですが・・・なにか?」


そう答えると、興味深そうに、あたしのほうを見ながら答えた。


「ほほう、とすると付き人の方が優れているのか、もしやお二人ともかな。このあたりは、ここはまだ平穏じゃが、奥の街道は物騒でな、噂では野盗共も出ると言うのでな。これからも旅をされるのであれば気をつけられるといい。できることなら、ここで落ち着かれると、村のものも喜ぶがのう。」


半分本気、半分冗談とも言える口調で、村長は語った。事実、この周囲は危険なのかもしれない、広大な大陸すべてに治安を安定させるのは並大抵ではないので大抵、悪さをする者が出るのは日常茶飯事だが、この世界も同様のようである。


「お心遣い感謝します。ですが、あたしは世界を見聞する旅の途中ですので、お気持ちだけ頂いておきます。」


「そうか、まぁ、無理はなさらぬようにな、ここは宿屋が無いので今日はわしの家で泊まるといい。あまり広い家ではないが、妻と二人暮らしゆえに、多少は自由が利くのでな。」


「ありがとうございます、ご好意に甘えさせて頂きます。」


村長の親切に、ありがたく応じ、その日はそこに泊まる事にした。

村長の家では村長婦人が親切に対応してくれ夕食を振舞ってくれた。


「美味しい食事をありがとうございます。旅の身ではこういう料理は大変ありがたいです。」


多少儀礼的にあたしが言うと婦人は答えていった。


「かしこまらなくていいですよ。年頃的にも孫のような方をもてなしてますから、気楽にしてくださいね。」


温かいもてなしにあたし達は喜んでいた。村長が語る。


「で、お二人はどちらに向かわれるのかな。」


「そうですね。とりあえず街道に出て、多少大きな街に行って見ようかと思います。お勧めの場所とかご存知であればお教え頂きたいのですが。」


あたしの返答にやや困惑しつつ村長は語った。


「ほう・・・この辺りをご存じないのかな?まぁ、詮索はしないほうがいいじゃろうな。そうじゃな、街道は西に行けば北と南に延びておるがお勧めは北のレミアルト王国のほうかのう。南のサディルウム帝国はいささか物騒だと聞いておるからのう。」


「南が面白そうですねぇ。」


ミルが楽しそうに言った。あたしはたしなめながら言った。


「ミル・・・。単に暴れたいだけでしょ。とりあえずは街道の北を目指してみますか。どうせ南にもそのうち行くでしょうしね。それに、結局はいろんなところに行くわけだし。いいわね?」


「は~い。あたしはマスターに従うのみですよ~。」


「まったく、調子がいいんだから・・・。」


あたしたちがそう会話してると、それを見ていた村長夫妻が微笑ましそうにあたしたちを見ていたことに気づいた。


「村長?あたしたちに何か?」


「ああ、いや、出て行った娘を思い出してな・・・」


「娘さんですか?」


「もう30年もなるか、旅の男について行ってどこに行ったのやら便りすらしてこないんじゃよ。」


村長は、やや悲しそうに語った。


「まぁ、今晩はゆっくりしてくれ、妻も楽しそうだしのう。」


「はい。」


今晩はゆっくり団欒ができそうだった。



そこは、荘厳な場所だった。ただし物質的なものではない。すなわちそれは、別の次元であることを指していた。つまり、「天」と呼ばれる領域である。

「で、報告は?」

中央に立つ威厳のある人物が、部下らしきものからの報告を待ってる様子だった。

「はっ。しの様はレイグラード中央部暁の村付近に現れたそうです。」

「そうか、分かった。今後も定期的に報告してくれたまえ。」

「かしこまりました。で、大天使様。とりあえず今まで通りで構いませんでしょうか。」

「問題ない。どうしてもと言う場合は、私が使者を出して判断を仰ぐとしよう。それにしても・・・」

ため息をつきつつ「大天使」と呼ばれた人物は語った。

「相変わらず、この世界は、振り回されているな。いや、それこそが、かの方の望みなのかもしれないが。」

「はっ?」

「いや、なんでもない。下がりたまえ。」

「かしこまりました。」

そう答えて部下らしき人物は下がっていった。「大天使」と呼ばれた人物は、「外」を見つつぼやくように言った。

「相変わらずだ。だが、それこそが、望まれてることなのかもしれないが。今度はどうなるのやら。」

彼は、振り返って「奥」へ進んでいった。



「ほう、魔法が使えるとは、見かけによらず学術も学んでおいでかな。」

村長はミルに対してそう語った。そう語ったのを聞いてあたしが喋った。

「魔法って学術なんだ?」

「あれ?しの様ご存じなかったんですか?」

ミルも村長も少し驚いてあたしのほうを見た。

「あ、うん。魔法の認識が違うのかも。こちらではどうなってるのかな?」

あたしが聞いてきたので、ミルが答えて言った。

「では、お教えしますね。こちらでは「魔法」と言う名のとおり「魔」つまり、超越的な力を行使する「法」法則、またはやり方を体系化したものなんですよ。ですから、しの様の世界では「科学」と呼ばれていたものに、「魔」の力を作用させる術を加えたものと解釈すれば分かりやすいと思います。」

「なるほど。ある意味便利な力ってわけね。」

あたしが答えると、村長が付け足して言った。

「そして、強いが故に悪用もされやすい力じゃな。」

「そう・・・ですね・・・」

少し声を落として、ミルが村長の意見に賛同した。

「実際、この力を悪用して犯罪なども行われています。逆に、それを防ぐためにも使われていますけどね。」

「なるほど、じゃああたしも学べば使えるわけね。」

あたしが納得してそう聞くと、ミルがそれに答えて言った。

「まぁ、しの様だとすぐ扱えますけど・・・。」

「けど?」

「そんなことをしなくても、しの様だと・・・」

と言いかけてから、あたしはそれを遮った。

(「奇跡」はほいほい使っていいものなの?」)

(「あ、気づいていらっしゃいましたか。」)

(「気づかないわけないじゃない・・・で、どうなの?」)

(「使うこと自体には、まったく制約はないですけど、使いすぎれば、人の形でこうやっているのが大変になるのは間違いないかと。物理法則ですら容易に捻じ曲げますので。」)

(「だよねぇ・・・地上でのんびり旅をするなら人の状態でいるのが一番だよねぇ・・・」)

(「そうですね。」)

あたしたちが念話テレパシーで語っていたので村長は黙っているように見えて語ってきた。

「どうされたかな?そろそろ休まれるかな?」

「あ、いえ、少々考え事を・・・あははは(^^ゞ。」

軽く笑って誤魔化した。そして、話題を変えて、あたしは言った。

「この辺りの国家情勢とかは、いささかご存知ですか?」

「ふむ、わしも詳しくは知らぬが、たまに来る旅人から情報程度ならあるな。最近の情報では南のサディルウム帝国はいろんな周囲の国家にちょっかいを出して侵略行為を仕掛けようとしてるらしいと言われてるな。」

村長はそう、情勢について話してくれた。ミルがそれに答えた。

「結構不穏なんですね。じゃあ、まずは北の王国からですかね。」

「そうね。まずは、レミアルト王国と言うところに向かいましょうか。」

あたしも賛同した。村長がそれにあわせて言った。

「なら今晩はもう休んで、明日村で支度してから旅立つといい。生活必需品くらいなら用意できるからの。」

「ありがとうございます。」

村長の申し出に、あたしは謝意を述べた。そして、そのまま就寝することにした。



朝日は心地よく、すがすがしい始まりだった。

「ん~。いい朝だ。」

背伸びをしながらあたしは言った。

「まったくですねぇ、いい旅になりそうです~。」

ミルは身支度をしながらあたしの意見に答えていた。

「用意ができましたよ。マスター。」

手際よくミルが仕度をしてあたしに言ってきた。村長が近づいてくる。

「何ももてなせんだったが、無事に旅を続けなされ。」

ねぎらいの言葉に感謝しつつ、あたしは答えた。

「ありがとうございます。村長も、ご婦人もお元気で。」

村長夫婦に別れを述べてからあたしたちは旅立った。

村で必需品を分けてもらい、村を出た。



西に半日歩くと大きな街道に出た。通りには、商業用の馬車、軍の戦車、一般の旅人等、さまざまな人々が北に南に行き来している。

「しっかりした街道ねぇ。人の往来も多いし。」

あたしがそう言うと、ミルが答えて言った。

「いいですねぇ、近くに大きな街があるってことですね。」

そう、人の行き来が多いと言うことは人口の多い都市が近いという事だ。そして商業等は盛んになり逆に人が多いうえでの問題も発生する。それはある意味人が生活する上での常とも言えるだろう。

「さて、ではまず北に行きますか。」

あたしは北に向けて歩き出した。ミルがそれに続く。

「あ、待ってくださいよ~。」


一陣の風が吹きぬけようとしていた。

次回「レミアルト王国」。しの達は中堅国家レミアルト王国へと進む。彼女達はどういう風を吹き続けるのか・・・。

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