Staat(シュタート)「国家」
会戦が終了した。
次に神は新たな国家を作成し始める。
其処から何が始まろうとするのか……
(今回から、場面及び時間変化時に状況を分かりやすくする為に( )表示で説明を加えてみました)
小説 風の吹くままに
第二十二章 Staat「国家」
(サディルウム城玉座の間の入り口付近で)
「ふむ、なるほどな。」
ランカスターはセイルから事の次第を聞きそう言っていた。セイルはやや驚きつつ言う。
「あまり驚かれないのだな、ランカスター殿。俺は、彼女が力を発揮した時「驚異」を感じたのだが。」
其れに対しやや苦笑しつつランカスターは答えて言った。
「まぁ、立場上、「神」とは近い関係だったのでね。帝国に拉致される迄は一応神官として諸国を旅していたからな。」
其の答えに頷きつつセイルが答えて言う。
「なるほどな。グレイハワードがお前を嫌っていた理由が良く分かったよ、此れで。あいつはお前が物知りなのを嫌って居たんだな。」
「まあ、そんな所かな。其れはそうと、恐らく陛下はこのまま帰ってはこないだろう彼女の「本当の姿」を見て無事では済むまい。此れから如何する積もりだ?」
ランカスターは答えつつセイルにそう尋ねた。セイルは答えて言う。
「其れは俺が言う事じゃない、もう暫くすれば神殿がこっちに戻って来られるだろうから彼女に聞いた方が早いだろう。」
「なるほど、確かにそうだな。一応私は皇帝の最期を見届けた生き証人と為る訳だし、私にも役割が与えられそうだな。」
「ああ、今後もな。」
二人はそう会話をしていた。そんな折、二人の後ろ、つまり玉座の間に通じる扉が開く。そして其処から神が出てきた。神は泣いていた。驚きつつセイルが言う。
「神殿?如何為されたのだ?」
涙を拭きつつ神が答えて言う。
「ああ、御免なさいね。何でも無いわ。さて、次のステップに進みましょうか。あ、そうそう、ランカスターでしたっけ?」
神にそう呼ばれてランカスターが答えて言う。
「あ、ああ。私がランカスターだが、何かな?」
「貴方が皇帝の最期に立ち会った帝国側の生き証人と為るから暫く付き合って欲しいのだけど良いかしら?」
神がそう聞いてくる。ランカスターは笑みを湛えつつ答えて言った。
「其れに関しては問題ない。しかし、暫くで良いのかな?」
「如何言う事?」
「其方が良ければ、私は幾らでも付き合うが。」
要するに神の手を貸そうか?と言っている訳である。苦笑しつつ神が答えて言った。
「有り難い申し出ね。帝国内にはこんな人が沢山要るのかしら?」
「恐らく沢山な。逆に、利益が無くなると踏んで不平を述べる者も沢山居るだろう。其の点に関しては如何するのかな。」
ランカスターの質問に神は悪戯小僧のように微笑みながら答えて言う。
「簡単な事よ。先の会戦の帝国軍兵士が戻ってきたら、あたしの言葉に皆震え上がるから一月程猶予を与えて、選択させるだけよ。此処に留まるか、適当な財産を持って逃げるか、ね。」
そう、神は其の為にも先の会戦で帝国兵をわざわざ生かしておいたのだ。つまり、神にコテンパンにされた事を先の会戦に出た兵士達が帝都で宣伝する事に為る。其処に神が帝国崩壊と其れに伴い神に服従するかの選択を迫るという事なのだ。帝都に居座る為には神の方針に従わねばならずグラフェルトのような事をすれば如何為るかは彼自身が既に証明している。そして其の報告は兵士達によって為されるのだ。つまり、今までの不正や悪事を行うなら此処には居られないと。神はそう警告している訳である。
「成程な…此の会戦自体が帝国崩壊のシナリオに組み込まれていたという事か。」
セイルが感心しつつそう言った。神は其の言い分に頷いて肯定する。そして言う。
「さっき、志郎達、ってああ、あたしの旦那達だけど連絡したから帝国軍兵士を連れてこっちに来ると思うわ。レミアルト王国軍の方は帰っていくと思うしね。と言う訳で、セイル、此れからが貴方の腕の見せ所よ。」
「出来るだけ、味方は多く、敵は少なく、だな。」
ニヤリとしつつセイルがそう答える。神はその答えに満足しつつ笑顔を返した。セイルは続けて部下達に向いて言う。
「話は聞こえたな?今から俺達の任務が発せられた。先ずは城内から味方を増やすべく行動を開始する。ジェネット、お前は単独で説得に当たれ。後のメンバーは基本的に俺に付いて来い。状況に応じて俺が指示を下す。行くぞ!」
セイルはそう言い終えると素早く行動を開始した。部下達もそれに合わせてすぐさま移動する。其れを感心しつつ神は見ながらこう言った。
「流石「切り込みのグラハム」よね。素早い行動だわ。」
「そうだな、処で神殿。ご主人達が参られるまで如何為さるかな?」
ランカスターがそう聞いてくる。神が答えて言った。
「そうね、少し時間があるし、貴方と暫くお話しましょうか。」
そう言って、その場に座り込んだ。
(ほぼ同じ頃、レウネキアス丘陵の合戦場にて)
「成程、分かった。」
志郎がそう言う。そして、レオンハルトに向いてこう言った。
「神から連絡が来た。皇帝は崩御したそうだ。此れから俺達は帝国兵と共に帝都に向かう。」
それに答えてレオンハルトが言った。
「そうか、予てよりの計画通りだな、流石は神殿だ。分かった。俺は本国に戻り国王に報告する。またな、志郎。神さんに宜しく。」
「ああ。お前も頑張れよ、色々な意味で。」
志郎が冗談交じりにそう言う。レオンハルトの周囲に居た兵士達から笑いが起こった。レオンハルトは顔を赤くしながら言う。
「な!お前!何時其れを知った?!」
それに苦笑しながら志郎が答える。
「あれだけ兵士達が噂してるんだ。知らない方がある意味天然だと思うぞ?」
「くそっ……今度は俺が言われる番か…でも、まあいいか。」
やや、諦め気味にレオンハルトはそう言っていた。志郎はレオンハルトに別れの手を挙げながら帝都のほうに向きを変え進み始めた。志郎の動きに気づき、惺達が近づいてくる。
「父上、そろそろ移動か?」
惺がそう尋ねる。志郎は答えて言った。
「ああ、神から連絡があった。帝都に帝国軍兵士を連れて来い、だそうだ。ミル、「時空門」を御願い出来るか?」
「はい~。此の程度の距離なら何とか~。ああ…え~と…ウィサウレルさんでしたっけ~済みませんが増幅サポートを御願いしたいのですが~。」
志郎にミルが答えつつミルはウィサウレルに頼みながらそう言った。ウィサウレルは答えて言う。
「了解した。「時空門」の補助で良いのだな。」
「はい~。兵士さんも連れて行かないといけないので、大きいのが必要なのですがあたしではちょっと自信が無いので~」
「分かった、存分にやってくれ。」
ウィサウレルはそう答えて「力」を展開しミルのサポートに付いた。ミルは其れを確認してから言う。
「では開きますね~。帝国軍の方には伝えて下さいね~。」
そうしてからミルは「時空門」を展開し始めた。暫くして其れは巨大な光の門として完全に出現した。
「よし、では行こうか。帝国軍の皆さんも俺達に付いて来てくれ。」
志郎はそう言った。そうして、志郎一行と帝国軍兵士は全員「時空門」に入っていったのだった。
(帝都内のある酒場で)
シェレーヌは老婆の状態から何時もの美女の姿に戻り、酒場で話していた。
「其の話は本当なのか?だとすれば、俺も手伝いたいが…。」
そう言っているのはアイランズである。帝国が崩壊するという情報が舞い込んだのだ。疑問に思いつつも興味がある。シェレーヌが其れに答えて言う。
「まあ、信じられないのが普通さね。もう少しすれば、あたしたち全員に聞こえる「声」で宣誓がされるだろうさ。現帝国は崩壊し新国家が樹立する、其れに従いたくない者は速やかに立ち去れ、とね。」
其の情報に興味を示しつつレミーナが言う。
「いいねぇ、帝国だった時は文字通りやばい仕事しか碌に無かったけれど、役人とかが刷新されるなら期待出来るかもねぇ。」
「まあ、そうだな、先ずはその「声」を待つとするか…。」
アイランズはそう言いながら手にしていた酒を飲んでいた。シェレーヌは関心を示す其の二人を微笑みながら見ていた。
(帝都、そして視点は城へ移っていく)
帝都にレミアルト国軍と戦った兵士達が帰ってきた。其の報告は帝都に広がった。しかし、それだけでなく驚異的な情報も縦横無尽に広がった。帝国軍は一度、数十人の存在により完膚なきまでに叩きのめされ壊滅したのだと。しかも、大将軍グラフェルトは敗北を皇帝に報告して死を賜ったと。其の原因と為った人物は「杜神」、そう言うのだと。シェレーヌが仕掛けた事もあるが帝国兵達により瞬く間に広がっていった。何せ、約九万近いメッセンジャーが宣伝するのである。其の宣伝速度は凄まじいものであった。二日もたたない内に帝都全体に動揺が広がった。同時にセイル達は城内をほぼ掌握。同意しない人物は一時的に牢に放り込みセイル達は玉座に居る神の前に居た。
「よくやったわセイル。「切り込みのグラハム」の名に恥じない行動、とくと拝見しました。此れから行う宣誓の後で、貴方達のことは決めるわ。」
神が玉座に座りながらそう言う。セイルは答えて言った。
「いや、俺も部下の事を思ってやったまでの事。仕事をこなしただけだ。大した事をした訳ではない。」
其の答えに満足しつつ神が言う。
「そう、今度の国家にはそう言う者が頂点に近い場所に立つべきなのよ。まあ、裁定は後で言います。先ずは宣誓のほうね。玲、サポートをお願いね。」
神にそう言われて近くに立つ玲が答えて言う。
「分かりました母上。何時でもどうぞ。」
其れを聞き届けてから神は全帝都に向けて話し始めた。
『あたしは杜神。サディルウム帝国皇帝ヴェルザイライド十四世はあたしの前で崩御した。証人はランカスター殿である。故にあたしは此の帝国を掌握した。此処にサディルウム帝国解体を宣言する。今後、あたしが任命する国王を基にした神権国家「ザード=フェリティア」を設立する。其処では、今までのような帝国で行われていた不正、悪事は一切容認しない。万が一そう言う者を見つけた折には極刑を以って処罰するであろう。故に、諸君らに一月の猶予を与える。新国家に追従するのであれば城に赴き所定の手続きにそって住民として登録するが良い。些かの負担がある代わりに相応しい保護を授けよう。もし登録しなくても此処に留まるのであれば法は遵守されるべきである。何故ならその様な者は外人居留者であるからだ。勿論ある程度の保護は得られるであろう。法を守るのが嫌いな者、また、今までの悪徳から抜け出せない者は至急、荷物を纏めてこの都市から出るが良い。もし居座るなら相応しい報いを授ける。以上、あたし、杜神が自分の名を持って宣誓する。此れが聞こえた者は皆心せよ。守らねば、次に失うのは己の命だ!』
厳しい口調で神はそう言った。その後、一息吐きながら言う。
「さて、国王を創らないとね。」
そう言って神は「力」を使い始めた。其れにより神は輝き始める。セイル達は見る事が出来ず目を覆った。輝きが収まって見ると其処には一人の女性が立っていた。光沢のある緑髪で背も高く非常に美しい女性だった。
「さて、永目覚めなさい。」
神はそう言う。永と呼ばれた女性は目を覚まし答えてこう言った。
「お早う御座います。神様。」
「此れから此の国を貴方が治めて貰うわ。」
神がそう言う。永が答えて言う。
「畏まりました。私の全てを持って神様の期待にお答え致します。」
「御願いね。あ、そうそう、少しだけ此処の任命をあたしにさせてね。」
神がそう言う。永は答えて言う。
「ご自由にどうぞ。」
其の答えに苦笑しつつ、神は言う。
「ライル、貴方を此の国の大将軍に据えます。ラーナは其の補佐に。そして、貴方達部下全員は最低2~3階級特進、細かい昇進内容はセイルとラーナで決めて頂戴。そして此の部下達は貴方の直属として置く事。いいわね。」
きつく言われて、セイルはつい、
「承知した。」
と言ってしまう。此れでセイルの将来は決まってしまった。神は続けて言う。
「ランカスター。貴方は永の補佐として立ち会って欲しいわ。先日の皇帝と同じ様にね。勿論永はおかしな事はしないけれど、此の子も「神」だから「人」としての助言を貴方からお願いしたいわ。」
そう言われてランカスターは頷きつつ答えた。
「分かりました。そう言うご依頼であれば引き受けましょう。非才な身ですがご助言役受けさせて頂く。」
其の答えに満足しつつ神は次に言う。
「次はラミュア。貴方は此処に残り、此れからディルサイヴを呼ぶから一緒に住んで彼の研究を手伝いなさい。緊急時には永が呼ぶときがあるかも知れないけれどその時は手伝ってあげて。」
それに答えてラミュアが言う。
「分かった。有難うマスター。」
其の答えに神は微笑んだ。
「まあ、こんな所かしらね。ディルサイヴはこの後呼ぶ事にしてっと。後は、永、御願いするわ。細かい事はランカスターやセイルと相談しながら御願いね。」
神がそう言う。永は答えて言った。
「畏まりました。ご命令忠実に果たして御覧に入れます。」
「御願いね。」
神は微笑みつつそう言った。そして玉座から立ち上がり、永に席を譲る、その後神は言った。
「さて、ここ、ザード=フェリティアは此れでいいけど、帝国に主従していた各都市は素直には従わないでしょうからあたし達は其の対策からかしらね。」
それに答えて志郎が言う。
「つまり、向こうに出向いてって事か?」
「ええ、まあ、あちらが態度を決めてからだけどね。大半は日和見でしょうけれど、もし、敵対する者があれば徹底的に叩き潰すわ。」
神がそう言った。全員は其れに頷く。更に神が続けて小声で言った。
「でないと、彼が可哀想だもの…。」
志郎は其れが聞こえたが無言で神の肩を抱いたのであった。そうして、新国家「ザード=フェリティア」は誕生する事に為った。
(城内の廊下にて)
「あ~あ…承知なんてするんじゃなかったかな…。」
廊下を歩きつつセイルはぼやいてそう言っていた。一緒に歩きつつラーナが苦笑しながら言う。
「セイル様…あそこで承知した以上、諦めざるを得ないでしょう…。」
「と言うか。あの状況に流石のセイル殿も呆気に取られていたと言う事かな?」
ローギュンターはセイルに対してそう言った。セイルは苦笑しながら言う。
「まあ、そんな所さ。神殿が「神」と言うのは分かっていた。しかしだ。目の前で我等の「国王」が創られる場面を目撃したのだ。驚かない方が如何かしてるがな。」
「確かに其れは言えます。ですが、引き受けた以上我々も最善を尽くして参りましょう。我等も直属として任命された身。此れからもセイル殿に誠心誠意仕えさせて頂きます。」
ジェネットがそう言う。苦笑しつつセイルが答えて言った。
「結果としてお前達を巻き込んだな。済まないが、此れからも宜しく頼む。」
其の言葉に、セイルの部下全員が敬礼して答えた。
(暫く経った城内のある部屋で)
「ディルサイヴ!」
そう言ってラミュアはディルサイヴに抱きつく。ディルサイヴは驚きつつラミュアを抱いた。そして言う。
「元気だったか?」
「ああ、私は平気だ。ディルサイヴこそ大丈夫なのか?」
「わたしは神殿に助けられてから元気其のものだよ。」
「此れからは、私もディルサイヴの研究を手伝えるのだ。」
「ああ、神殿から話を聞いた。荷物も後日こちらに来る。そうすればお前にも手伝ってもらおう。」
「分かった、私も頑張る。」
「頼りにしてるぞ。」
二人はそう言ってしっかりと抱き合った。其の姿を志郎と二人で神は見ていた。そして言う。
「やはり、あの二人は一緒のほうが良いようね。」
「そうだな。お互いが心の拠り所なんだろうな。」
志郎がそう答える。神は志郎に振り向きつつ言う。
「あたしは貴方なんだからね。何時までも一緒よ。」
「ああ!勿論だ。放しはしないさ。」
そう言って志郎は強く神を抱きしめた。神は其れを幸せに感じていた。
(其れから更に時間が経ち、神一行が部屋に集まっている時に)
「グラニデウスに会いたい?」
神は玲にそう聞いていた。玲は頷きながら答えて言った。
「はい。私もお父様にお会いして少しお話がして見たいのです。志郎様とお話した折、このザード=フェリティアが誕生して母上が少し暇に為った時なら行けるだろうと助言を頂きましたので。」
玲にそう言われて神は志郎のほうをキッと見つめた。志郎は惚けたように視線を逸らす。ため息を一つ出しながら神が答えて言う。
「分かったわ。彼も会いたいと言っていたしね。但し、ひとつだけ言っておくわ。玲、貴女の「融合した力」はまだ彼に見せないように。」
「はい。分かりました。ですが何故でしょうか?」
玲が疑問に思いそう尋ねる。神は答えて言う。
「玲に施したこの方法は恐らく今まで誰も考えなかった事なの。と言う事は、グラニデウスも言っていたけど私達に関心を示して私達を見ている者は沢山いるって事。其の者の中には玲の「融合した力」を個人的利益に使えるものと考えて自分の為に使うものが必ず現れるわ。何せ、グラニデウスはいい人だけど魔族は全てそんな存在では無いからね。」
其の答えに納得しつつ玲は答えて言った。
「なるほど、良く分かりました。母上は、父上をいい人と見られているのですね。」
そう言われて、神は顔を赤くしながら答えて言った。
「な…そんな所は覚えなくていいの!ったく、どうして私が係わった者はこうもお節介なのかしら…。」
「言わなきゃいけないか?」
志郎が神にそう言う。神は顔を真っ赤にしつつ答えて言った。
「要らないわよ!」
其の答えに聞いていた全員が苦笑していた。神は「力」を使い「時空門」を開き始める。そして言った。
「では、とりあえずグラニデウスの所に皆で行きましょうか。」
それに皆は頷き、全員で「時空門」に入って行った。
外では静かにそよ風がなびいているのであった。
神権国家を設立させ、また一つ事を果たした神。
彼女達はグラニデウスに会おうとしていた。
其処では何が?……
次回「Holle und himmel「地獄と天国」」
貴方にも良い風が吹きますように。
(次回から原稿のストックが切れた為に更新が大幅に遅れます。マッタリと御待ち下さい。)