Krieg(クリーク)「戦争」第二部
会戦が始まろうとしていた。
そこで神達は何を為すのか…。
小説 風の吹くままに
第二十章 Krieg「戦争」第二部
合戦の舞台となるレウネキアス丘陵では神ズが着々と仕込みを済ませていた。
「こっちは此れで良いわね。」
「向こうは済んだわよ。」
「あっちはまだだったかしら?」
そんな感じで事が為されているのだった。其の「仕込み」が何かは合戦が始まって明らかに為る。そう、神の「計画」である「帝国解体作戦」が。
「さて、皆準備はいいのかな?」
レオンハルトが全軍に対してそう言った。皆は答えて言う。
『Ja!(はい!)』
其の返事を聞きレオンハルトは神に向かって言った。
「では、神さん、お願いします。」
「分かったわ。では行くわよ。時空門が出来次第全軍行動開始してね。」
神はそう答えて「力」を使い始める。それにより神の前に巨大な光の門が出来上がっていった。本来、この「時空門」は魔術部が両方に立会い魔道触媒を用いて魔術により空間を繋げる手間の掛かる技なのであった。しかも距離があればあるほど其の手間と労力が掛かる代物であった。しかし、神はたった一人でそれをやっているのである。しかも、到着地には誰も居ない状態で。其れが如何に凄い事かは目の前で見ている全員が理解していた。そうして、神が創り始めた時空門が完成した。
「全軍、進軍開始せよ!」
レオンハルトがそう指示を出す。其の号令によりレミアルト王国国軍は進軍を開始した。そして次々と「時空門」に入っていく。志郎たち一行も中に入っていった。
「此れが「時空門」ですか。初めてですので不思議な感覚ですわ。」
セレナがそう言う。惺が答えて言う。
「そうか、セレナは初めてか。俺は二回目だからな。慣れたものだ。」
そう言われてセレナは少しはぶててしまった。其の様子を見ながら志郎微笑みながら見ていた。エミリアは感動しつつ言う。
「素晴らしいですわ。此れ程までの「時空門」をお一人で創られるなんて…流石は神様ですわ。」
感嘆しつつ歩いているエミリアを見つつ玲は満足そうに歩いていた。全軍が完全に入り、入り口側の「時空門」は閉じていった。其の様子を見つつ神が言う。
「さて、第一段階は終了、次に移らないとね。」
神はそう言うと「力」を使い空へと飛び出していった。其の様子を眺めつつアーレフが言う。
「言っても無駄かもしれませんが無理はしないで下さいね。」
何に対しての「無理」か、分かってはいるがあえて言いたくは無い、アーレフであった。
帝国軍は緊急招集を終え、レミアルト王国軍との会戦をすべく部隊を揃えていた。集まった事を伝えるために伝令が大将軍の元に来る。
「大将軍閣下。帝国軍侵攻部隊全軍総員86753名準備完了しております。」
其れに答えてグラフェルトは言った。
「分かった、魔術部隊が開く「時空門」を確認次第、全軍進軍せよ。」
そう命令され、兵士は「Ja!(はい!)」と答える。そして魔術部隊は詠唱を開始し魔法により「時空門」を開き始めた。
「さて、とうとう始まるか。俺の天下の分け目の大舞台になるな。ラーナ、しっかり付いて来い。」
セイルはラーナに対してそう言った。そう、彼は戦場にも彼女を連れて行っているのである、逆を言えばそれ程彼女は有能なのであった。ラーナは答えて言う。
「はい。しっかりと付いて行きます。ラーナにお任せください、セイル様。」
其の返事を見届けて、自分の部下に指示を出しながらセイルは此れから行く自分の希望に期待を込めて足を進めていた。
「時空門」を抜けてレミアルト王国軍はレウネキアス丘陵に到着した。レオンハルトが点呼をする様に命令を出す。それにより、各隊の隊長達が自分の兵士達の点呼を開始し始めた。丘陵を眺めながら志郎が言う。
「何も無い場所だな。此れは完全に帝国に分がある地形か。まあ、守りに徹してれば問題は無いが向こうは其れで満足はしないだろうな。」
レオンハルトが答えて言う。
「ああ、問題は其処だけだ、だが神さんにお前達が居る。だから俺は何の問題も抱いていない。」
「そいつは重畳。まあ、神の手腕を拝見しよう。あいつは何時も驚かせてくれるからな。」
志郎はそう笑顔で答えた。そうしている内に点呼を終えた隊長達が人数の報告をして来ていた。それをライザが集計しレオンハルトに報告する。
「レオンハルト閣下、レミアルト王国軍、今回動員した全ての人員47281名無事到着しております。次の指示を。」
其の報告に頷きつつレオンハルトは声を上げてこう言った。
「さあ、神殿が作られた作戦を遂行し我々も神の恩寵を受けて勝利を得るのだ!作戦開始!」
そう言われて、各部隊は作戦通りに部隊を展開していった。
帝国軍も「時空門」を抜けてレウネキアス丘陵に到着していた。周囲を確認しながらグラフェルトが言う。
「まずは部隊の点呼だ。それと、敵軍の配置の確認をしろ大至急だ!」
側近が「はっ!」と答えてすぐに移動する。グラフェルトは手にした遠眼鏡を使いながら言う。
「既にレミアルト国軍は展開しつつあるな。我等も急がねば…。グラハム、守りは頼んだぞ。」
「はっ。お任せあれ。我々で防ぎ切れない事態が起こりえない限り将軍閣下を安全にお守り致します。」
セイルはそう丁寧に答えた。グラフェルトは其の答えに満足したようだった。しかし、セイルの答えには逆の意味も含まれていたのだ。
「我々で防ぎ切れない事態が起こりましたら将軍閣下を安全に守ることは出来ません。」
と言う趣旨である。勿論、「普通」の事態しか想定していないグラフェルトがそんな意味など考えるはずも無かった。しかしセイルは違う。彼は既に保証を得ていたから。そう、此れから「神」が「普通」でない事を始めると言う保証が。心の内にそう言う思いを秘めながらセイルは仲間達に指示を飛ばしていた。
上空では神の一人が見守っていた。
「両軍が来たわね。展開の速さはレミアルト軍のほうが少ないだけあってやや早いか。まずはどう出るのかな。レオンハルトのお手並み拝見ね。」
そう言いつつ、神は上空で此れから起こる事柄を事細かく見つめているのであった。そう、上から見ているので様子はまるで将棋や囲碁の様に兵士達が動く様が見て取れるのである。一部始終見れるこの状況であれば素早く指示が出せるな、神はそう感じていた。
「やはり向こうはこちらの約倍か。我々が先に攻めるのは不向きだな。」
レオンハルトはそう言っていた。しかし、横に立つ志郎は違っていた。
「いや、攻め時期だろう。」
「何?!」
レオンハルトが驚いて言う。しかし、しばし考えた後レオンハルトは気づいて言った。
「なるほど、各個撃破する気か。」
「ああ。やはりお前も気づいたか。」
志郎はそう言って微笑んでいた。どう言う事か?通常の軍隊の考えで考えてはこの二人の言葉は理解できないのである。要するに彼ら二人は個人的感性で考えていたのだ。そう、軍単位では前進して攻撃の意思を示す。まず其処まですれば敵方は何らかの反応を示すのである。無論守りに入れば此方から敵陣に楔のように食い込んで崩壊させれば其の侭勝てる。敵が分散して方位殲滅を狙ってくるなら敵本陣を急襲して指揮系統を失った後に同じく殲滅できる。また、敵軍が二つに分かれて一方(本陣側)がこっちの攻撃を受けて別働隊が挟み撃ちをする作戦で来れば別働隊側を本体で相手をして本陣側に志郎達が行けば良いだけの事なのである。つまり、志郎達が居るから出来る作戦であり、レオンハルトは其処に気づいて言ったのである。苦笑しつつレオンハルトが言った。
「俺も馬鹿だな。お前達が居る事を計算に入れないとはな。」
「それだけお前が軍人暦が長いってことさ。若い頃ならすぐお前も考え付いただろうがな。」
志郎がそう答えた。レオンハルトは頷く。そして、全軍に対し命令した。
「全軍、敵本陣に向かって進軍を開始せよ!」
単純で分かりやすい命令が発せられた。そう、真っ直ぐ進んで敵を討つ。簡単なものだった。
「おいおい、このまま進んで行っていいのかよ?」
レミアルト軍最前列に位置している兵士の一人サイスは友人のガイルにそう言っていた。ガイルは答えて言う。
「しかし、そう命令があるんだし、問題は無いと思うが?」
「いや、敵軍は俺たちの倍って言うじゃないか、このまま叩きあったら俺たちが不利じゃないのか?」
サイスがそう意見を述べる。其の意見に異論が出た、別の場所で。
「ばかだねぇ、サイス。レオンハルト様がそんな事も分からずに命令される筈が無いじゃないか。」
「そうは言うがよぉ、ジェニー。一応俺たち最前線なんだぜ?真っ先に死にかねないじゃないか。」
サイスはそう不安を述べた。ガイルが答える。
「お前、セレナ姫や惺様を見た事が無いのか?」
「あ~…遠巻きにしか見た事が無い…。」
サイスはそう答える。溜息を吐きつつガイルが言った。
「なら暫く見てろ。もう少ししたら最前線に彼女達や志郎様たちが来る。レオンハルト閣下は責任ある立場だから行きたくても来れないだろうがな。もう少し、お前は俺達の上官の事を覚えたほうがいいぞ。」
ジェニーが其の意見に口笛を吹きながら賞賛して答えて言った。
「ヒュー♪流石だね、ガイル。良く見てる男は違うねぇ。サイスも少しは見習いな。」
「五月蝿い!俺は今の状況だけで精一杯なんだよ…」
サイスはそう言って行軍する最前線で歩きながら愚痴を言っていた。それを見て二人はやれやれと手を開いて表現していた。
「て、敵軍進軍してまいります!如何致しましょうか、将軍閣下?」
敵軍を観察していた偵察兵がそう報告をしてきた。グラフェルトは其の報告に驚いていた。敵は縮こまって専守防衛に徹すると思っていたからだ。
「何…何故、敵は我が軍に其の侭進軍してくる?状況は圧倒的にこちらが有利なはずなのに、何かあるのか?」
グラフェルトは驚きを隠せずに声を荒げながらそう言った。側近が答える。
「閣下、魔術隊の報告では、周辺には我々を阻害する術式結界等は発見できなかったとの報告であります。まずは、魔術部隊による遠距離攻撃から開始して、弓部隊、それから本隊と側面に待機する別働隊2部隊を回して包囲殲滅、というのは如何でしょうか?」
基本的な迎撃作戦を側近はグラフェルトに提唱した。まあ、複雑な提案をしたとしても彼に理解できるか問題であろうが。彼は其の提案に満足しこう言った。
「よし、其の作戦を基本として行動を行うとしよう。伝令!基本迎撃体勢の後、側面に居る左右2部隊を敵部隊の包囲殲滅用に回す事を、各個伝達せよ!」
「了解致しました、早速向かいます。」
伝令は素早く命令に応じ、すぐさまその場を走り去っていった。状況を見守るべくグラフェルトは遠眼鏡を手にしていた。傍でセイルは苦笑しつつ其の様子を見ているのであった。
「セイル様、レミアルト軍の動きどう思われますか?」
ラーナがセイルの傍に近づいて聞く。セイルが答えて言った。
「簡単な事だ。こっちが迎撃で来ると見込んで其の裏をかく作戦で行くんだろうさ。勿論俺が総大将ならそんな事は百も承知で対応するが豚将軍様には其れは分からないだろうからな。恐らく、向こうも其れを知ってるから、あえてこんな作戦を使うんだろう。」
「しかし、そうなるとレミアルト軍は初めに多少被害を受けませんか?」
ラーナは危惧をしつつそう言う。セイルは答えて言った。
「ジェネットが報告をしてくれたんだが、軍所属とは別に常人以上の優れた戦士や魔術師が参加しているらしいのだ。恐らく神殿の縁者だろう。と為れば、あの女神の関係者だ。只者ではあるまい。」
其のセイルの結論にラーナは納得しつつ答えて言った。
「なるほど。そう言うことであれば敵軍の行動も理解できますね。さすがはセイル様、今後の為にも今回の作戦は是非成功させます。」
「ああ、頑張るぞ。」
セイルはラーナにそう答えた。そして、まもなく来るであろうレミアルト軍のほうへ顔を向けるのであった。
「よし、俺たちは最前線に行こう。セレナ、ラミュア、行くぞ!」
惺はそう言って飛び出していった。慌てながらセレナが言う。
「ちょっと惺、待ちなさい!ああ、もう!ラミュアさん、行きましょう。」
セレナはラミュアにそう言いながら自分も走り出した。ラミュアは其れに頷いて答えながら二人を追いかける。其の姿を見つつ志郎は苦笑して言った。
「やはりそうなるか。俺と同じ考えだよな惺は…。よし、俺も行くかな、ミル、レネアお前達も一緒に行くか?」
志郎はそう言ってミル達に声を掛ける。ミルは答えて言った。
「は~い。私達も参りますよ~。ミル達は魔法で皆さんのサポートに回りますね~。」
そう言って、ミル達は惺たちを追いかけるようにして走り始めた。志郎が其れを見つつ言う。
「既に己の役割をそれぞれが考えるか。既に、俺達は一つの家族となってるのかもしれないな。」
感慨深くそう言いながら志郎も走り始めた。そんな志郎達の姿を見ながらレオンハルトが言う。
「くそ!俺も総大将じゃ無ければなあ…。前線で戦いたいぜ。」
くすくすと笑いながらエミリアが言った。
「お父様も相変わらずですわね。ライザさんがお困りになってますわよ。」
そう言われて、ライザが顔を赤らめながら言う。
「な!ちょっと、エミリア様。私はそんな…。私は部下としてレオンハルト様に御仕えするだけです。」
期待しない答えが返ってきてエミリアはやれやれと両手を広げつつ言った。
「定番過ぎる答えですわね。私も玲御姉様と前に出ますので、少しはお二人の中も進展して下さらないと、困りますわよ?」
「おい…エミリア…。」
苦笑しつつレオンハルトがそう言う。エミリアは、笑顔で答えてこう言った。
「お父様も頑張って下さいな。さあ、行きましょうか。シェルエル、ライエル、ウィサウレル。参りますわよ。」
「はっ。」
エミリアに言われリッター達はエミリアについて移動を始めていった。其の様子を見つつレオンハルトが言う。
「やれやれ…娘も旅立つ…か。寂しくなるな…。」
「閣下、私が傍に何時までも居りますわ。」
ライザが傍でボソッとそう言った。苦笑しながらレオンハルトがライザに手を掛けながら答える。
「よく言えたなライザ。エミリアのお節介があったとはいえ俺もお前の気持ちに応えるとしよう。この会戦が終わって暫くしてからで良いかな?」
レオンハルトの其の質問にライザは無言で頷いた。其の様子を見ていた周囲の兵士や上級士官達は二人を笑顔で見ているのであった。
前線はもう間も無く交戦する範囲まで来ようとしていた。まずは、魔法による長距離の砲撃から始まるのが軍での戦いでは常であった。機動力のある馬などの騎乗動物を使う戦法も考えれるが集団戦闘の場合、その様な運用で有利に運ぶには、対象が強力な飛び道具を持たないか、または其れを無効化する術が無い限り不可能であった。今この世界では、魔法は多々に渡って研究されており、その用途は広く、戦場でも重宝されているのであった。身近な「お守り」に込められたものから、武器の威力を上げる為、または「属性」を付与し強化する為、自身を守る防御壁として、護身の為の変わり身、究極的なものでは自立式魔法生命体つまりホムンクルスまでが既に実用化されていた。単純に力を具現する上でも、大量の魔道触媒等を使用するとはいえ「時空門」「長距離魔法攻撃弾」「対魔法用障壁」「蘇生術」等、様々に用いられていた。
「間も無く交戦範囲に入る。魔術部隊、対魔法攻撃用魔法障壁、用意せよ!」
指揮をしている隊長がそう言う。後方に位置していた魔術部隊が、部隊全体に効果を及ぼす魔法の障壁を作り出すために所定の手順に従い詠唱を開始し始めた。其れを見つつエミリアが言う。
「ウィサウレル、私達の周囲にも障壁をお願いしますわ。シェルエル、ウィサウレルの障壁が完成したら二人で魔法攻撃の準備を、ライエルは至近戦まで待機しなさい。」
「はっ。」
リッター達は指示に従い素早く行動を開始する。其れを見つつ玲も言った。
「エミリア張り切ってますわね。では私達も頑張りましょうか。アイン、魔法反射を行います。ゼクスを基点として増幅反射の構成を組みなさい。」
「了解致しました。」
アインはそう返事をする、すぐに他のガイストたちは行動を移し準備を完了するのであった。二人を見つつミルがレネアに言った。
「お二人とも凄いですねぇ。レネアちゃん、私達も張り切りましょうか~。まずは精霊たちに言って、元素乖離からはじめましょうか~。」
「分かりました~。サポートはレネアにお任せです~。」
レネアはそう答えて、素早く精神を研ぎ澄まし、ミルが行おうとする魔法のサポートを開始し始めた。そんな彼女達を見つつ志郎が言う。
「魔法に長けた者達の独壇場だな、長距離戦は。」
「そうですわね。でも志郎様、私達の活躍はその後にありますわ。」
セレナがそう言う。頷きつつ惺が言う。
「ああ、矢が来る範囲まで来れば今度は俺たちの番だ。」
「そうだな、もう少しだ、彼女達が頑張った後で俺たちも頑張るかな。」
微笑みつつ志郎はそう言った。
「敵、魔法攻撃有効範囲に間も無く入ります。」
伝令がそう連絡する。グラフェルトは魔術部隊で一気に掃討すべく命令を出す。
「よし、魔術部隊に一斉攻撃命令だ。ありったけの攻撃魔法を叩き込め。」
「はっ。」
指示を受け伝令が伝えに去っていく。其れを見つつセイルがラーナに言った。
「どう思う?敵の動きを、真っ直ぐすぎる気がするが。」
ラーナはしばし考えてから答えて言った。
「恐らく、魔法を無効化及び反射をして此方の士気を挫きつつ直線的に突っ込んで壊滅させると言う単純な戦法かと。此方は指揮官が指揮官ですので、恐らく混乱し其の間に勝敗が決するでしょう。」
ライルは其の答えに満足したように答えて言った。
「流石によく見ているな。恐らく其の通りだろう。まあ、俺が神殿に伝えた情報も利用してるとは思うがな。」
其のライルの台詞にラーナは頷いた。戦争は基本的に情報と補給と伝達が重要であり、実際に戦う事も大事だが、まず其れが出来なければ集団での勝利など不可能だからだ。無論、一人で集団に勝てる存在なら無問題だが。一騎当千の存在も大事ではあるが、軍である以上、組織として脆弱であっては勝ち目は無い。ライルは其れを知り尽くしているが故に今回の判断は正しいと結論した。
「よし、敵軍の動きに合わせて我々も行動を開始する。仲間全員にその旨を伝えておけ。」
セイルがそうラーナに命じた。ラーナは、「はっ。」と短く返事をして素早く移動し始めた。不敵に笑いながらセイルが言う。
「さあ、今度は俺は何処へ切り込めるのかな。楽しみな事だ。」
そう言っている内に帝国軍魔術部隊の魔法砲撃が始まりセイルの後方から無数の魔法の力が撃ち出されて行った。放物線を描くようにしてそれらは飛んでいく。そう、実際の戦いが今始まったのだ!
「シャァァァァァ!」
空間を滑るような音がしてくる。直線系の魔法弾が来るときの特有の音だった。ウィサウレルは「力」を展開し其の魔法弾を中和する。空中に六亡星が浮かび上がり、其の光る六亡星に魔法弾が直撃する。
「ジュッ!」
昇華するような音と共にエネルギーの塊は中和され空中に四散する。其れを確認しつつウィサウレルは報告した。
「まずは一つ。」
「では、お返しを致しましょう、ウィサウレル、サポートをお願い致します。」
シェルエルがそう言う。ウィサウレルは頷きすぐさま「力」を展開する。シェルエルが「力」を発動した。上空に五亡星が浮かび上がり其処に、三つの力の塊が現れた。
「さあ、三様之力を受け取りなさい。」
シェルエルがそう言うと、三つの力は捻り合いながら急速に前方に進み始め、見る見るうちに一本の線のように敵陣に向かっていく。
「キュゥゥゥゥウァァァァァ!」
耳に障るけたたましい音と共に其の力は突き進んでいった。様子を見ながらエミリアが言う。
「さすが玲様のリッター素晴らしいですわ。」
「ゴォオ!」
巨大な火球が着弾点目掛けて落ちようとしていた。其処へミルが来て言う。
「全ての精霊よ、其の属性から開放され、この世界より立ち去れ!」
そう言って全精霊力解放を唱える。レネアは後方で一生懸命にサポートをしていた。ミルの上空に巨大な光の壁のようなものが出現した。
「サァァァァァ…。」
火球は其の壁のようなものに触れた瞬間、解れる様に消えてゆく。そう、炎の精霊力を失った為、無と化したのである。其の様子に納得しながらミルは言った。
「いい調子ですねぇ。この調子で他にも展開してゆきましょうか~。」
「はい~。」
レネアがそう答えてミルに付いていく。前線の兵士達は行軍しながら其の様子を感心しつつ見守っていた。
玲の方向には、巨大なエネルギーの塊が近づきつつあった。魔法弾の中でも一際強力なもの「魔力焼夷弾」であった。精霊力を使わず、魔力を利用し魔法の作用で魔力が展開し周囲の空気を人が呼吸できないものに変えて敵を戦闘不能に至らせる強力な魔法弾である。玲は其れを眺めつつこう言った。
「アイン、おやりなさい。」
其の命令によりアインは仲間に素早く指示を出す。ゼクスを基点として既に空中に待機していた6名のガイストは「力」を展開し巨大な力場を形成した。魔法弾は其処の中に入り込む。
「キュゴォ!」
轟音と共に魔法弾は効果を発するかと思われるが力場により其れは発揮されずに保持された。アインが其処で「力」を使い力場内にある魔法弾を送り返す。
「ゴォォォォォォゥゥゥゥゥゥ…。」
轟音と共に其れは送り返されてしまった。そう、玲が言った魔法反射である。しかも、只の反射ではない、ガイストの力を利用して威力を増幅して送り返しているのだ。帰ってきて受けるほう側はたまったものではない。玲は冷笑ともいえる笑みを湛えつつ立っていた。
「敵と交戦を開始いたしました。前線では、エミリア様の姿も見えます。魔法戦にて善戦しておられる模様。」
伝令はそう報告してきた。レオンハルトは苦笑しつつ其の報告を聞いていた。あのリッター達がエミリアを守っているのである。間違いなく無事であろう。確信しつつレオンハルトは命令を出した。
「次は遠距離武器により実弾戦だ。負傷者もそろそろ出始める、衛生班、各自いつでも前線に出れるように最終確認をしろ!」
そう命令され、待機していた衛生班達は慌しく準備を始めた。其の様子を見ながらレオンハルトはぼやいて言う。
「俺も前線に行きたかったなぁ…。」
そんなレオンハルトをライザは苦笑しつつ見守っていた。
「キュゴォォォォォ!」
其れはけたたましい轟音と共にやってきた。そして地面に着弾すると、
「ゴオッ!」
強力な衝撃波と共にエネルギーの波が辺りを襲う。着弾点近くの兵士達は文字通り吹き飛ばされた。
「ドドドドォォォォォ…」
地面の凄まじい振動といまだに空気を振るわせる独特の揺れが身体に響く。其の様子を目の当たりにした兵士は唖然として立ち尽くしてしまう。自分達には強力な魔法障壁が掛けられていたにも拘らず其れを突き破り着弾したからだ。
「御報告致します。前線付近、本陣から見て左方向において魔法障壁をさえ破る強力な魔力弾が到達、周辺被害の詳細は不明、付近の兵士に動揺が見られます。」
伝令が至急で報告してきた。グラフェルトが焦りつつ言う。
「な、何だと!魔法障壁の強化を伝えよ。そんな強力な魔法が本陣に来たらたまったものではないわ!」
あくまで自分の保身しか考えてないグラフェルトの命令であったが伝令は返事をして指示を伝えに行った。苦笑しつつライルがラーナに言う。
「帝国の魔法障壁を破ると為ると連中だろうな。」
「は、恐らく其の通りかと。将軍閣下が動揺されましたら事を起こされますか?」
ラーナは答えながらそう聞いた。セイルが答えて言う。
「いや、神殿が直接来られるそうだ、軍の士気を奪う為にな。その後一緒に帝都へ向かう。」
「了解しました。では、神殿を確認後、すぐ行動出来る様に手配致します。」
ラーナがそう答えた。セイルは頷き前線に視線を向けていた。前線は矢が飛び交う戦況と為っていた。そんな時、セイルの上空を一際大きな魔法弾が飛び去っていた。
「キャパッ!」
後方で空気が劈く様な音が聞こえた。其の後で、ばたばたと後方に居た魔術師達が倒れ始める。其の合間を縫って伝令が報告に来た。
「緊急報告、敵陣から飛来した魔法弾により後方に控えていた魔術師部隊九割方戦闘不能になりました!今現在衛生班による治療を始めておりますが、魔法焼夷弾による被害と思われます。」
「何だとぉぉぉ!では、魔法障壁も強化出来ぬでは無いか!魔法攻撃より魔法障壁に精力せよと魔術師部隊には言え!くそっ、なんて奴等だ。」
グラフェルトは怒号を上げつつ命令をしていた。自分の立場は危ないかもしれない、そう考え始めていた。そして言う。
「左右に待機している遊撃部隊に命令を出せ。敵側面より攻撃を開始せよと。」
伝令は返事をして其の命令を伝えに言った。グラフェルトは歯軋りしながら言う。
「おのれ…数に物を言わせて其の侭畳み込んでやるわ!」
セイルは其れを聞きながら、簡単に其れができるなら苦労はしないな、そう心の中で思っていた。
前線では矢が届く位置まで接近していた。各兵士は小型の弓を掲げて盾の合間から矢を射始める。そうしなければ自分も矢の被害に遭うからだ。
「シュッ…シュッ…シュッ…」
前線の兵士から撃たれる矢が軽く弧を描きながら飛んで行く、其れは放物線を描き、重力によって加速をつけながら地面に、また敵兵士に向かっていく。しかし、上空に掛けてある対弓用の防御魔法で大半は弾かれてしまう。ごく一部が敵兵士の間に落ち、且つ盾で防御されていない部分に運が悪く落ちた兵士が呻きつつ倒れて行った。しかし、レミアルト軍の方には殆ど矢は落ちてこなかった。
「よしよし、殆どの矢は防げましたねぇ。レネアちゃん流石ですねぇ。風の精霊のお偉いさんとお知り合いだったのですねぇ。」
ミルはそう言ってレネアを褒めていた。レネアは自分が契約を元に呼び出した風の大精霊と話をしている所だった。
「今回は有難うね、あなたのお陰で皆が助かります~。大精霊シャレニューム。」
「いや、私は現れて少し力を使っただけだ。お前との契約に比べれば大した事では無い。」
謙遜に大精霊シャレニュームはそう答えていた。レネアは一通りの感謝を述べた後、彼を元の世界へと返した。
「此れで矢に関しては大丈夫ですね~。」
レネアがそう言う。そんなレネアを撫でながらミルが言った。
「大活躍なレネアちゃんにはミルから御褒美をあげないといけないですねぇ。」
ミルにそう言われてレネアは喜びながらミルに抱きついていた。前線は間も無く接近戦の距離に近づきつつあった。
「よし、俺は行くぞ!」
惺はそう言って前線から抜け出し敵陣に切り込んで行った。其れを見てセレナが叫びながら言う。
「惺!もうっ!いっつも先走りするんですからぁ!」
セレナはそう怒鳴りつつ惺を追いかけて行った。苦笑しつつ志郎が其れを見ながら言う。
「俺と神を足して二で割ったような振る舞いだな、惺は。」
「二人の娘だから当たり前だな。」
ラミュアが当然とも言える答えを提出する。志郎は「違いない。」と苦笑して敵陣に走り始めた。ラミュアも付いて行く。そう、とうとう戦線は接近戦へと展開して行くのだった。
上空では風が強く吹いていた、そう、此れから荒れると言わんばかりに。
魔法による交戦が開始され間も無く近接戦闘も始まろうとしていた。
縦横無尽に戦う神達。
此の戦いから得られる結果は如何に為るのか…。
次回「Krieg「戦争」第三部」。
貴方にも良い風が吹きますように。
(次は、人物紹介第二部、その次は、魔法や術式に関する説明の回です。ご了承下さい。)