Krieg(クリーク)「戦争」第一部
ついに帝国から宣戦が布告され戦争が始まる。
神達は忙しく準備をはじめ各人はそれぞれの思いを秘めながら準備を進めていた。
たどり着く先には何が待ち受けているのか…。
小説 風の吹くままに
第十九章 Krieg「戦争」第一部
レミアルト二十四世の前に一人の使者が来ていた。サディルウム帝国からの者であった。
「以上、我が帝国からの宣戦布告の報告、お伝えいたします。」
使者はそう言っていた。そう、帝国から正式に宣戦布告が為されていたのである。この世界では基本的に侵略行為を行う際、目的や統治者の用途により其の方法が異なるとは言え、人の社会では一般的に統治者が変わる事を争うために戦争と言うものは手段として用いられていた。つまり、町や農地など統治者達の直接利益のある場所では争わずに、会戦地を荒野などの一般に被害の無い場所に選びそこで、文字通り力でぶつかり合う事を主眼と置くのである。その結果により勝ち負けが算定し勝敗がつくのであった。そう、戦争はあくまで生存競争的に行われるのでは無く「政治」の中の「一手段」として行われていたのである。故に、軍人の政治に対する発言力も強くなるのであるが、レミアルト王国では筆頭将軍がレオンハルトと言う事もあって軍部が政治に口を挟むことは無く、政治機構として上手く機能していたのであった。
「承知した、と皇帝陛下には伝えてくれ。」
短く国王はそう返事をした。つまり開戦がこの時点で確定したのである。布告を受諾した時点で戦争は始まったのである。歴史上の記録は何時もそう書き留められていた。使者は短く答えて言う。
「分かりました。ご報告いたします。」
そう言って国王の前から引き下がった。下がっていく途中。神の前を過ぎる使者が神に向かって何かを手渡した。神はそれを受け取って見るなりくすりと笑って使者に軽く返事をした。使者はそれを見届けた後、謁見の間から下がって行った。
「国王、して布告の内容は如何に?」
レオンハルトがそう聞いてくる。国王は説明を始めた。
サディルウム帝国は本日未明よりレミアルト王国に対し軍事行動を行う旨決定したことを報告する。故に会戦地として帝都とレミアルト王都を結ぶ街道より西にあるレウネキアス丘陵を合戦地として希望する。其処は広く両軍が展開しても十分な広さであり、また、両国の資産に害を為さない為である。合戦開始時はこの布告が伝えられて約四日後、満月であるアウソウイムの日とする。以上、これを我が帝国からの布告とし貴国の返答を求める事とする。
国王はそうやって布告文を読み上げた。それを聞きその場に居たものは答えて言う。
「これまで、帝国が向かって来る事を予期して準備して参りました。其の成果をこの会戦で示しましょう。」
「レウネキアス丘陵か。あそこは広い上に基本的に何も無いからな。真っ向からの力と力のぶつかり合いになるぞ。」
「何、我々も只待っていた訳では無い。準備はしていたのだ。後はそれを発揮するのみ。」
彼らはそう言っていた。国王は指示を出す。
「さて、諸君らの気持ちは良く分かった。受けた以上は勝たねば為らぬ。幸い我々は防戦に掛けては負け知らずではある。しかし、今回は勝たねば為らぬのだ。しかも、出来るだけ敵に被害を与えずにな。」
そう言われて、レオンハルト以外の城内の将は動揺していた。レオンハルトがそれを制しながら言う。
「落ち着け、皆の者。先日アーレフ王子の式の時の事を忘れたのか。我々にはありがたい事に「神」の恩寵がある。しかも其の神の提案により帝国を解体する案が出されたのだ。」
彼がそう言うのを見て安心したように国王が言い添える。
「そうだ、我々には神殿が居られる。わざわざ我々の様な者に関心を示される優しい神がな。彼女の提案に従い、我が軍は帝国を引き止めておき其の間に神殿に帝国解体の行動をして頂く事になった。我々は帝国軍を出来る限り引き付けておく事だ。無論戦闘はするが、がっぷりあって殺し合う様なものとは為らないであろう。無論、戦である故に死者や怪我人は出るであろう。しかし、それを出すのが目的ではない、我々は只戦に勝つのではなくそれより先の事を考えておられる神を支持するが故に戦うのだ!」
国王はそう激励した。それに対し其処に居る者が全員、大きな喚起の声を上げて応える。それを国王は満足しつつ見るのであった。神は国王の前に出て来て言った。
「では、あたしは予定通り行動を開始するわ。他のメンバーは将軍と行動を一緒にさせるから後はよろしく。」
そう言って、神はスタスタとその場を去っていった。それを見ながら国王は苦笑しながら言った。
「本当に優しい方だな。ああいう場では、自分に栄光を帰させても良いものであろうに。」
国王は神が見えなくなるまでじっと彼女を見続けていた。
神は先程の使者がくれた手紙を見ていた。それはシェレーヌからの物であった。
「なるほどね、かなり有能な将校を仲間に出来たようね。これなら帝国内の安定化も早いでしょう。」
シェレーヌの報告を見ながら神はそう言っていた。そう、其処にはセイル以下帝国軍第三遊撃部隊が神に加勢する旨が記してあったのである。神は前途に起きる事を楽しみにしつつ城下を歩いていった。
「とうとう始まるのか、楽しみだな!」
惺はセレナにそう言っていた。セレナは今部屋で惺と一緒に仕度をしている。そう、今回は自分も出るつもりで居た。仕度をしながらセレナが言う。
「惺、今回はどの様に為さいますの?」
「ん?戦に参加する場所のことか?」
「ええ、レオンハルト将軍から何か指示でもあるのでしょうか?」
「母上の話では本陣で戦えとの事だったぞ。恐らく母上以外は皆そうなのではないかな。」
惺はそう答えていた。セレナは不思議そうに言う。
「どうして神様だけ違うのでしょうか?」
其の答えに惺は微笑みながら言った。
「俺も同じ質問を父上にしたな。父上は笑いながら言ってくれたよ。神は優しいからだ、とね。」
其の答えに、セレナは頷きつつ答えて言った。
「そうですわね。「神」で在られるのにわざわざ私達に目を向けて下さるんですもの。優しい方ですわ。」
「よし、俺は仕度ができた。セレナ、先に兵士の所に行って来るからな!」
惺はそう言って走り出す。セレナが不満げに言う。
「ああ、惺!待ってくださいな…。もう!こう言う時は子供に為るんだから!」
そう、文句は言いつつも顔は微笑んでいた。そう、自分の愛する人と一緒に自分が好きな事が出来るのだから。
「戦争ですか~。人間は政治ショーが好きですよねぇ。」
レネアは皮肉気にそう言っていた。エルフは生存競争でも無い限り争う事はしない。基本的に話し合いで事を解決するからである。故に、知的で知識と知恵に満ちる事こそが強さとなるのである。そう言う文化的違いもありレネアはそう言っていたのであった。ミルは苦笑しながら答えて言う。
「まあ、そうですが~。今回はマスターが大々的に介入なさるので只の政治ショーでは終わらなくなりますよ~。レネアちゃんもミルと一緒に手伝って下さいね~。」
ミルにそう言われて、レネアはミルにくっつきながら答えて言う。
「ミル様が張り切るならレネアは進んでお手伝いしますよ~。また後でレネアを可愛がって下さいね?」
手伝うことを表明しつつさりげなく御褒美を期待するレネアであった。ミルは苦笑しながらレネアに優しく手を置き、撫でた。其の感触にレネアは満足しているようであった。
志郎とラミュアはレオンハルトの元に居た。神が居らず、またラミュアは惺がセレナと一緒に為っている為にとりあえず一緒に行動する者が居ないので志郎の傍に居たのであった。
「さて、今回は楽と言えば楽な訳だが、志郎、まさかここまで神さんが介入するとは俺には考えられなかったぞ。」
レオンハルトはそう言った。苦笑しつつ志郎が答える。
「あいつは自分で決めたらとことんやるからな。優しすぎるんだよ。「力」があるからいいのだが、時折俺も心配になるさ。」
そう言うのを見てラミュアとレオンハルトはお互いに頷いていた。ラミュアがふと言う。
「志郎。私たちは今回どうすればいいのだろうか?」
それに志郎はふと考えた後、話してこう言った。
「そうだな、極力敵は殺さずに戦闘能力を奪う形で倒して行くのがベストだろうな。恐らく神の事だ、帝国解体後に今の帝国軍を其の侭組み込むことを計算に入れてるだろうしな。それにラミュア、お前も帝国に残ることに為るとあいつは言っていたぞ。」
「マスターが?志郎、それは本当か?」
疑問に思いラミュアがそう尋ねる。志郎は苦笑しつつ答えて言った。
「ああ、俺も全貌はまだ教えて貰ってはいないのだがな。帝国を解体後に神が新たに創り出す存在を国王とした神権国家を樹立させるのが目的らしい。で、其の元でお前は補佐として其処に居ることに為ると言っていた。更に、神はディルサイヴをお前の元に呼ぼうとしているらしい。」
ディルサイヴと聞いてラミュアは驚きながら言った。
「彼が、ディルサイヴが来るのか?!」
「ああ、神は其のつもりらしい、どうせ神の事だ、彼の意思は無視して無理やり連れて来るだろうけどな。」
苦笑しながら志郎はそう答えた。ラミュアは微笑を湛えながら言う。
「そうか…彼が来るのか…。」
其の様子を見ながらレオンハルトが言った。
「まるで、父親を待つ娘のようだな。ラミュアを見ているとエミリアの昔の様子を思い出したよ。」
そう言うのを聞いて志郎が苦笑しながら言う。
「いい表現だレオンハルト。ラミュアにとって彼はそんな人なのさ。」
「なるほどな、やはり神さんは優しすぎるんだな。」
レオンハルトがそう言う、二人は頷いていた。
玲は部屋で準備をしていた。エミリアが傍でせっせと歩き回っている。ガイストたちも無言で仕事をこなしていた。
「さて、仕度はこの辺りで良いかしらね。エミリア、あなたは城でお待ちに為るのかしら?」
玲がやや嫌味っぽく言う。エミリアはキッと玲の方に向かい、玲を見つつハッキリと答えて言った。
「いいえ!私は玲御姉様と何時も一緒に居ますわ!」
「それは宜しいけれど、私は必ずあなたを守れるとは保障出来ませんわよ?」
玲はやや突き放すようにエミリアにそう言った。エミリアは毅然と答えて言う。
「分かっておりますわ。玲様に付いて行く以上、危険は自分でも出来る限り回避出来る様に致しますわ。私も些か魔術を嗜んでいる身。少しは自分の事が守れますわ。」
其のエミリアの様子を見ながら玲は微笑みつつ答えた。
「可愛いわ、エミリア。そんな可愛いエミリアにあなたを守る騎士を創って差し上げましょう。」
そう言うと、玲の周りが急に明るく輝きだした。エミリアは何が起きているのか分からず「きゃあ!」と叫んでしまう。暫くして其の眩しい光は収まった。エミリアが玲の方に目を向けると輝く翼を持つ三人の男性が浮いているのが見えた。
「此れは一体…。」
エミリアが呆然としつつ言う。苦笑しながら玲が答えて言った。
「此れは貴女を守るリッター達よ。シェルエル、ライエル、ウィサウレルと言うの。覚えてあげてね。」
玲がそう言うとリッター達は地面に降りて翼をしまい込んだ。すると其の見た目は執事の様であった。恭しくエミリアに三人がお辞儀をする、そして代表としてシェルエルが話し始めた。
「お初にお目に掛かります、エミリア様。玲様の命によりあなた様を守護する事に為りました。シェルエル、ライエル、ウィサウレルの三名で御座います。今後は我々に何事でも御命じ下さいませ。」
畏まってそう言われて、エミリアは「は、はぁ…。」と呆けたように答えていた。其の様子を見ながら玲がくすくすと笑いながら言う。
「あらあら。突然の事だから、吃驚したかしら?これで貴女も私と一緒に行けますわね。」
そう言われて、エミリアは嬉々としながら玲に抱きつきこう言った。
「有難う御座います!玲御姉様。私の為に、私を守る為にわざわざこんな事まで…エミリア、どこまでも玲御姉様に付いて参りますわ!」
そんなエミリアを見ながら玲は微笑んでいた、ガイストやリッター達も彼女を見て微笑んでいた。
グラフェルト将軍は帝国国軍最高位である帝国大将軍の地位に居た。が、彼は政治色の強い男で実戦経験は殆ど皆無と言って良かった。若い頃には何度も戦ってはいたのだが、政治に深く係わり出してからは前線に出る事はまるっきり皆無でありほぼ部下に丸投げの状態であった。ところが今度は皇帝陛下の勅命で帝国軍の半数も動員する戦いの総大将として行って来いと言われたのである。無駄に出た腹がぶるぶると震えながらグラフェルトはブツブツと文句を言っていた。
「何故、私がこんな事をしなければ為らないのか…。私は、後方でのうのうと過ごしておきたいものを…。」
傍に居た側近は何も言わずに立っていたが恐らく彼に思う所があったであろう。そんな中、一人の部下が彼の部屋に入ってきた。
「閣下、レミアルト王国への侵攻の件、陛下の勅命が下ったの事、私も伺ったのですが真ですか?」
其の男を見てグラフェルトは喜びつつ彼を迎えながら答えて言った。
「おお!よく来たな。グラハム殿、其の通りだ。陛下は私に総指揮をしろと言われたのだ。さすがに陛下の勅命だけあって、無下には断れぬ。其処でだ、そなたの第三遊撃部隊を我が本陣の近衛クラスとして置いて欲しいのだが、どうかな。」
彼は有能なグラハムを引き留めて置きたくてそう言っていた。しかし、それが実に無能な決断であるかは彼は気づいていなかった。そう、遊撃部隊しかも最も有能な者を本陣の守りになど最も愚かしい事だからだ。しかし、セイルはグラフェルトに笑顔で返しながら答えて言った。
「分かりました閣下。このセイル=グラハム、閣下の守護としてお傍に居りましょう。そう言うことでしたら、部隊の指示もありますので私は此れにて失礼させて頂きます。」
そう言って、一礼をしてからセイルは下がって行った。其の姿を見てグラフェルトは言う。
「よしよし、あの小僧を手元に置いておけば当座の危険は回避できよう。問題はこの会戦がうまく行かなかった時だな。責任問題になれば私に白羽の矢が立つ。どうすべきかな…。」
政治色に染まりあげたグラフェルトはそう言って、自分の頭を既に政治謀略の方に頭を回しているのだった。傍に居た側近は思う所は色々あるであろうが無言で静かに立っていた。
廊下を歩きつつ、セイルは不躾に言っていた。勿論聞く相手は何時も通りラーナである。
「あの豚め!さっさと肉屋の元に行けば良いものを。今度はこの俺を豚小屋の番をしろと言い出したわ!」
苦笑しつつラーナが答えて言う。
「セイル様、お気持ちは分かりますが折角の好機です。この機会は是非使うべきかと。我が部隊も被害がほぼ無くなるでしょうから神殿でしたっけ彼女の提案がうまく行くと思われますが。」
それに答えてセイルが言う。
「そんなことは分かっているさ。俺だってこの決断をした時から皆を出来るだけ死地に送らせないアイデアを練っていたもんさ。だがな、ラーナ。豚小屋の番だぞ?!あのグラフェルトの。政治色に溺れた大将軍様のだ。あんな馬鹿のお守りをするなど、俺の堪忍袋が持てるのやら…。」
これから起こる大事に憂うセイルを見ながらラーナは微笑みながら答えて言った。
「セイル様、確かに豚のお守りは大変ですわ。しかし、我々の計画がうまく行けば恐らくセイル様は軍内部で重職が間違いなく任命されるでしょう。そうなれば、肩に掛かる重責は今の比ではなくなると思われますが。」
そう言われてセイルは感情を露にしていた態度を止めラーナに向き直り答えて言った。
「ま、確かにそうだな。神殿は結果として俺に何をくれるとは言っていないがこれ程の壮大な計画だ。向こうもそれなりのポストを準備してくるだろう。確かにお前の言う通り其れに応えれねば為らないだろうな。仕方が無い、今回は豚のお守りでも我慢するか。よし、ラーナ。至急、シェレーヌに連絡をつけろ。我々の着任位置を報告し神殿の活動に有利にする為の手助けをせねばな。延いては其れが我々の益に為るのだから。」
セイルにそう言われてラーナは軍形式の礼を取りつつ答えて言った。
「はっ。それでは早速その旨を知らせて参ります。」
そう言ってラーナは駆け出して行った。其の様子を見ながらセイルは言った。
「結果として、良い方に転がってるとも言えるがさて、我々に加担する女神はどう言う答えを与えてくれるのかな。」
其の答えに、今は何も答えてはくれなかった。
「いよいよですか。私達も忙しくなりますね。」
隊長が国王からの報告を部下に伝えた所であった。ここはレミアルト王国の王都の城にある兵士達の待合室であった。兵士達が意気揚々として答える。
「大丈夫ですよ隊長。我々も伊達に惺さんと特訓した訳ではありませんから。」
「そうです、以前よりは活躍出来る自信があります。」
「専守どころか攻める事だって。」
気の逸る兵士達も居たので隊長は苦笑しながら彼らを制しつつ言った。
「お前達の気持ちは分かるが基本的に我々は専守防衛だ。志郎殿達も我々に加わって下さるしな。其れに…」
そう言いかけて隊長はやや口ごもった。其処へ惺が入ってくる。
「お、皆ここに居たか。今度は実戦に為るぞ。皆、頑張ろう!」
惺がそう言ったので兵士たちは喚声を上げた。其の中で隊長がひっそりと言った。
「攻めるのは全て神殿がやられるからな。わざわざ自らそんな事をしなくても宜しいでしょうに…。」
隊長はそう言いつつ苦笑していた。兵士達の喚声はまだ続いており、其処にセレナも入って来ている所だった。
レオンハルトの所にミルや玲たちも集まって来ていた。
「おお、ミル殿達も来たか、エミリアも来たな…って、おい、エミリア其の男達は何だ?」
レオンハルトはエミリアが連れている三名の男を指差してそう言っていた。エミリアが自慢げに答えて言う。
「あら、お父様。ご機嫌麗しゅう。この者達ですか。玲様が私の為にとわざわざ御創りに為って下さったリッター達ですのよ。お前達、お父様に自己紹介を為さいな。」
エミリアにそう言われてリッター達はレオンハルトに恭しく挨拶をし始めた。其の姿を見つつ志郎が苦笑しながら言う。
「いやはや、惺は惺である意味驚かされるが玲も玲で驚かされるな。」
それを聞き、玲は微笑みながら答えて言った。
「あら、志郎様。私はまだ、「魔族」と「神」の力のそれぞれしか使っていませんのよ。」
つまり其れは玲としての力、すなわち「融合した力」はまだ使った事が無い。と言っているのであった。それに対し志郎は両手を広げつつ答えた。
「やれやれ、神もそうだが玲も度肝を抜かれると言う奴だな。まあ、相手がグラニデウスだから致し方が無いか。俺では話にならん。」
志郎がグラニデウスと言っていたのを玲は聞き取り、玲は志郎に向かって言った。
「志郎様、志郎様は父上をご存知なのですか?」
「あ、ああ、だが、あまり詳しく知っている訳ではないぞ?」
突然質問されて志郎は戸惑いつつもそう答えた。玲は溜息を出しつつ答えて言う。
「私、まだ父上にお会いしておりませんから惺姉様が少し羨ましいですわ。」
そう言う玲の姿を見て志郎は玲の肩を抱きつつ言った。
「心配するな。このドタバタが済んだら神が奴に会いに行くさ、きっとな。」
玲はそう言われて、安心しつつ答えて言った。
「そうですわね。母上は、優しい方ですものね。」
「ああ、そうさ。」
二人の傍ではエミリアがレオンハルトにリッター達を紹介しながら色々と楽しんでいる所だった。志郎と玲は微笑ましく其の様子を眺めていた。
「へっくし!」
神はくしゃみをしていた。自分が風邪を引くような身体では無い筈だが…。そう思っていたが、ふと思い当たる節を思い出した。
「また、志郎辺りが噂してたわね…」
当たりであった。(笑)まあ、其れは兎も角として神は神ズを集め始め合戦場と為るレウネキアス丘陵に向かっている所だった。しかも、歩いてでは無く空を飛んで。空間跳躍で行く方法もあるが周りが見たいが故に神はそうやって移動していた。しかも其の移動方法ならば「全体」は良く分かるからだ。そうやって全体を見ながら神は言った。
「そうね、一名程こうやって上空で監視させましょうかね。そうすれば戦局も理解しやすいわ。」
其の意見に神ズも頷いていた。神達(?)はそうやって目的地に向かっているのであった。
「ほう、グラフェルトの豚がそんな事をねぇ。分かったよ、あたしがしっかりと伝えておくさ。セイルの旦那には了解したと伝えておいてくれ。」
シェレーヌはラーナからの報告を聞きそう答えていた。ラーナは報告が済むとすぐ其処を立ち去っていた。無駄に長居はしない。軍での諜報の定石を踏まえたしっかりした行動だった。其の姿を見つつシェレーヌは言った。
「ふうん。あのお姉さんも、上官狙いか。何処も彼処も競争率が激しいやねぇ。あたしにもいい男はいないかねぇ。」
そうぼやきつつ、シェレーヌは手元にあったアイテムを使い始めた。其れこそが神とコンタクトを取るものであった。其れで彼女は神に伝えた後、其処から離れて再び「仕事」に戻っていった。
「さて、神が戻ったらアーレフが呼んでるからまた夕食会かな。今回はレオンハルトたちも同席だそうだ。」
志郎がそう言う。セレナが其れに答えて言った。
「まあまあ、其れは楽しくなりそうですわね。もう少しすれば惺も来ますからお伝えしますわ。」
そう言ってセレナは少し離れた所に行った。志郎は苦笑しつつ言う。
「惺、か。なんだかな…。神を呼び捨てにした時はそう思わなかったんだが、自分の娘をそう呼ばれるとなんだか取られたような気になるのはどうしてかな。」
軽く笑いながらレオンハルトが答えて言った。
「そりゃあ簡単だよ。志郎、神さんの時はお前が取る側だったが、今度は取られる側だからさ。」
「なるほどな…取られる…か。レオンハルト、お前もそうか?」
志郎が苦笑しながらレオンハルトに聞く。レオンハルトはやれやれと手を広げながら答えて言った。
「言うな。エミリアが言うには寂しくなるだろうから今度はライザでも引き込め、だとさ。」
そう言って二人は苦笑しつつ、娘達を見ていた。彼女たちは談笑が進んでいた。其処に、更に惺がやってくる、セレナが抱きつき談笑は更に賑やかに為って行くのであった。
城では豪勢に夕食会が催されようとしていた。主催は国王。そして主賓は神であり、また其の一行であった。人数は少ないながら盛大なパーティーとなっていた。其れは即ち彼女達がここを後にする事を意味しているのである。国王が司会として立ち上がりこう言った。
「今晩はよく皆集まってくれた。特に、ライル、シメオン、お前達二人は多忙な折良く駆けつけてくれた、感謝するぞ。」
国王はそう言って、皆をまた、久々に集まった二人の王子を労いを持って迎えるのであった。其れに答えてライルが言う。
「いえ、アーレフの式にも間に合わず、長子として、このライル不徳が増すばかりですよ、父上。」
「いや、兄さんなんか良い方だよ。俺なんて、この城に帰るのは半年振りだもんな。セレナに無視されて焦ったよ俺は。」
シメオンが苦笑混じりにそう言う。セレナは自分が話題に出されたことで赤面しつつ答えて言った。
「まぁ!シメオンお兄様。無視等していませんわ。只私は惺ばかり見ていたものですからお兄様に気が付かなかっただけですわ。」
まあ、何と言うか、言い訳にも為らない言い訳を言うセレナであった。苦笑しつつ国王が言う。
「まあ、其の辺りはその辺で止めておけ。まずは夕食会を始めることにしよう。其の間でお前達を紹介し合いたいと思う。」
そう言って国王が仕切ることにより夕食会は始まった。集まる人数として国王一族が七名、フェイグラシェイム家(レオンハルトの一家)が二名、神達一行が七名。総勢十六名である。こじんまりとはしていてもやはり豪勢な夕食会となってしまった。
「しかし、この忙しい中、良く王都に戻ってこれましたね、ライル兄さん、シメオン兄さん。」
アーレフがそう言う。苦笑しながらライルが答えて言った。
「そうは言うがなアーレフ。私としては、私より早く妻を迎えたお前の姿と其の妻を早く見たかったのさ。」
シメオンも同調しながら言った。
「全くだよ、何時も修行や何やで走り回ってたお前が一番先に妻を得たと聞いたんだ。本来なら仕事を放り出してでも行きたかったんだからな。」
苦笑しながらアーレフが答える。
「其れは申し訳ないです、兄上達。ですが、兄上達も此れからではありませんか。」
「さて、どうかな…。先例が出来ると中々な…。」
「全くだね。晶さんも非常に素敵だし、こうなると求婚しても遠慮する女性が増えそうだ。」
二人の兄はそうやって弟を褒めつつ、さりげなくけん制して見せるのであった。苦笑しながらアーレフが答える。
「兄上…相変わらずですねぇ。其れは兎も角として一旦戻ることが出来たと言う事は、東西各砦の懸案はとりあえず収まったのですか?」
其れに答えてシメオンが言った。
「ああ、其の件に関しては問題ない。ライル兄上も私も何とか済ませて来る事が出来たよ。」
「そうですか、其れは良かった。」
アーレフは安堵しつつそう言った。国王が其れに加えて言う。
「まあ、そう言う訳だからな久々に一家揃うと言うわけだ。」
「イイコトじゃない。」
神が其の話に加わってきた。苦笑しつつ、国王が言う。
「しかし、神殿、そうなって嬉しい場面でセレナが出て行くのだ。私としても辛いがな。」
「あ~…其れはねぇ…本人の決定だし、あたしではどうにも為らないわ。」
両手を広げつつ神は苦笑した。セレナが話題に出てきたのでライルたちが疑問に思いながら聞いてきた。
「セレナが出て行く?父上、私たちは帰ったばかりでそんな話は聞いておりませんが?」
其れにセレナが答えて言った。
「其れはですね、お兄様方。私、惺と一緒に生きる事に致しましたの。ですから、惺と一緒に行きますのよ。」
そう言ってセレナは惺に接吻をする。突然の事に惺は驚いた。そして接吻の後に言う。
「ちょっと、セレナ。いきなりだと吃驚するじゃないか。俺にも分かるようにやってくれ。」
「まあ、済みませんわ。お兄様方に分かりやすいと思ってやりましたの。」
そう言ってセレナは微笑む。其の事態を見て兄二人は上手く理解が出来ずキョトンとしていた。
「まあ、そう言う風に為るよなぁ…普通は…。」
志郎は苦笑しつつそう言った。暫くして、シメオンが言う。
「えっと…つまり、セレナは、このお嬢さん、惺さんだったっけ。この人と一緒に為ると?」
「どうもそうらしい…私には理解できない、状況だな。でも、セレナの意思だから尊重はするよ。」
ライルがそう言った。セレナが感謝しながら答える。
「感謝いたしますわライルお兄様。シメオンお兄様、理解は難しいかもしれませんが此れがセレナが決めた歩む道です。宜しくお願い致しますわ。」
「あ、ああ、理解するよう努力するさ…。」
シメオンは呆気に取られつつもそう答えていた。苦笑しながらアーレフが言う。
「お兄様方、セレナが我が兄弟の中で、と言うかこの城の中でレオンハルトの次に剣の才能があった事はご存知ですよね。」
「ああ、其れは知っている。俺も何度も負かされたしな。」
シメオンがそう答えて言う。アーレフが続けて言った。
「其処です。惺さんはセレナよりも強いのですよ。しかも、素敵な方なのです。セレナが惚れこむほどにね。セレナが付いて行くのはそう言う方なのですよ。」
「なるほど、そう言う言い方をされれば我々でも良く分かるな。アーレフ分かりやすい説明を感謝するぞ。」
ライルが感謝しつつそう答えた。アーレフはそれを見ながら微笑んでいた。神が話し始めて言う。
「しかし、まあ、皆仲の良い兄弟ね。微笑ましくて良いわ。」
そう言われて、ライル達は喜びつつ答えて言った。
「有り難いお言葉ですね。最近は仕事が忙しくて皆がこうやって集まる機会が中々ありませんでしたから、家族でこう集まり合える事が嬉しいのですよ。」
「そうですね。公務が忙しくなり、ライルやシメオンが成人した頃から中々集まれなくなりましたものね。」
王妃がそう言った。其の肩を優しく抱きながら国王が言う。
「だからこそ、神殿が行かれる最後の今日、家族全員で集まり合うことが出来た事は非常に喜ばしいのだ。さあ、みな楽しもうではないか!」
そう言われて、其処には更に談笑の輪が広がり、楽しい夕食のひと時と為った。明日から来る、暫くの間の嵐を忘れるかの様に。
窓の外では風が柔らかく、次の便りを運んでいた。
着々と会戦への準備が進む神達。
力と力がぶつかり合う其の戦いは如何様に為るのか…。
次回「Krieg「戦争」第二部」
貴方にも良い風が吹きますように。
(次回、登場人物が増えた為、第二回登場人物紹介と数々の魔法が作中に出る為、魔法や術式に関する設定を公開する予定です。(別話形式で)宜しく御願い致します。)