それぞれの想い、それぞれの企み
帝国との会戦に備え準備を進める神達、
また逆に侵略の意志を示す帝国、
それぞれの思惑を秘めながら物事は進んでいく。
為り行く結果は如何なるものに為るのか…。
小説 風の吹くままに
第十七章 それぞれの想い、それぞれの企み
玲は困っていた。自分の力を少し示しただけでこうも人に影響があるとは思いもしなかったからだ。そう、今彼女の傍らにはエミリアが畏まっている。しかも、今までのお嬢様ドレスの格好ではなく、城内で忙しく働いている使用人達と同じ様なメイドのような格好で。
「あの…玲御姉様?」
エミリアがそう言う。玲が苦笑しつつ思いに耽っているので戸惑いつつ、恐る恐る声を掛けていた。そう言われて玲はハッとなりエミリアの方を向きながら答える。
「ああ、何時までも呆けていては行けませんわね。文献を読む作業を進めましょう。エミリア、またお茶を持って来て下さるかしら?」
玲はそう、優しくエミリアに言った。そう言われてエミリアは嬉々としながら答えて言った。
「あ、はい!畏まりました!エミリア、玲御姉様の為に美味しいお茶を淹れて参りますわ。」
そう言ってエミリアはステップを踏むかの様に喜びながらお茶を淹れる為に別室へと向かって行った。彼女が出て行った後。アインが玲に近づいて言った。
「マスター。宜しいのですか?此の侭だとずっとエミリア様はマスターに付いて行くと思われますが。」
そう言われて玲は苦笑しつつ答えて言った。
「そうね…でも、彼女の気持ちも分かるから無下には出来ないのですよ。私も母上が素晴らしく離れそうに為れないのと同じでエミリアも私を見て「力」に感動したのでしょうしね。レオンハルトが良いと言う訳ですから私は此の侭行こうかと思っています。」
それを聞きアインは答えて言った。
「マスターがそう仰られるなら私共が意見を言う立場では御座いません。差し出がましい事失礼致しました。」
そう言いつつ、恭しく礼をする。玲は苦笑しつつ答えた。
「いえ、いいのよアイン。貴方にもこれから苦労を掛けると思うわ。ま、大変だけれど楽しい日々がね。」
そう言って玲は微笑んだ。アインは更に恭しく玲に礼をするのだった。
レミアルト王国国軍の軍略会議では皆が驚いて今日来ている来賓を見ていた。そう、神が其の中に居るのである。レオンハルトが言い始める。
「さて、式場に参列した者なら知ってる者も居るとは思うが、彼女が志郎の妻でもあり、先の式場で「神」として宣誓された杜神殿だ。」
そう言ってレオンハルトは神を紹介した。神は促されて挨拶をする。
「宜しく。今回あたしは帝国軍との戦いに介入する事にしたの。そこでその事を皆さんにも熟知してもらいたくてレオンハルトに頼んでここに居る訳よ。これから暫く付き合ってくださいな。」
神はそう挨拶していた。普通の人の様に話している神を見て素直に納得する者、懐疑的に見る者、色々居た。苦笑しながらレオンハルトが言う。
「先日のあれを見たと言うのにお前達の間ではまだまだ、事実に対する認識が薄いようだな。まあ、この俺も中々受け入れるのは大変だったが。神殿、済まないが外に待たせている「あなた」も中に入れて話を進めようじゃないか。」
そう言われて神は部屋の外に居る「自分」を呼び寄せた。その後、会議場から大きなどよめきが起きたのは言うまでもない。
セレナは窓の下で修練を兵士達に続けている惺を見ていた。そしてたまに、気づいたかの様に溜息を吐く。ここ数日、これを繰り返している毎日だった。それを見つつ、メイド長の一人が苦笑しながら言う。
「セレナ様。なんだか恋する乙女ですわね。」
そう言われて、セレナは、顔を真っ赤にしつつメイド長のほうを向いた。そして言う。
「わ、私は…其の…別に、惺様のことは何も…。」
それを聞いてメイド長はくすくすと笑いながら答えて言った。
「あらあら。私は別にお相手が惺様とは言っておりませんですよ。そうですか、惺様に。あの御方は凛々しいですからね兵士達にも人気ですし。」
顔を真っ赤にしつつ、セレナが答えて言う。
「え、ええ。大人気ですわ。見かけは少女の様ですが示される行動、思い、何気ない気遣いが素敵ですわ。本当に素敵で…。」
そう言いつつ、セレナはまた窓の下に見える惺に目を落とす。それを見ながらメイド長は微笑みながらその場を去っていった。そんな時、ふと惺がこちらを見た。そしてセレナに微笑んでくる。セレナは吃驚して窓から飛び退いてカーテンの影に隠れてしまった。
「惺様が、私に…。」
セレナはそう言って真っ赤だった顔を更に真っ赤にしつつ蹲っていた。
何時もの様に兵士達と修練をしていた惺はたまたま見えたセレナに微笑んでいた所だった。しかし、彼女は奥に下がってしまった。不思議に思いつつ惺が言う。
「最近、セレナの様子がおかしいのだが何故だろうか?」
そう質問されて、隊長が苦笑しながら答えた。
「惺様、まだお分かりになりませんか?」
隊長の言う意味が分からず静かが尋ねる。
「何をだ?俺にはお前の言うことがよく分からないのだが。俺は何を分からねば為らぬのだろうか。」
苦笑しつつ隊長が答えて言った。
「セレナ様は惺様に恋をしていらっしゃるのですよ。もしかしたら其の先まで考えておられるかも知れませんけれどもね。」
惺はその意味が暫く分からずにキョトンとしていた。暫く経ってから思い出したように言い始める。
「何?!セレナが俺に?でも何故俺なんだ?城の中ではいい男が沢山居るだろうに。」
苦笑しながら隊長は其の意見に答えて言う。
「残念ですが、この城内では志郎殿やレオンハルト閣下以外でセレナ様の目に叶う御仁はほぼ居ないと思いますよ。其の、姫の期待する方はそう言う方ですので。しかも、志郎様にはお相手がすでに居られますし、レオンハルト閣下はシェリー様を亡くして以来妻を迎える気は無いと公言していらっしゃいますからね。」
そう言われて、惺は暫く悩んでいた。そして答える様に言う。
「そうなのか。俺はどうすればいいのだろうな。」
それに答えて隊長が言った。
「惺様がしたい様にされるのが一番ですよ。セレナ様の期待に答えるのも良し。逆に、答えなくても問題は無いでしょう。」
「何?そう言うものなのか?期待には答えるべきと思っていたのだが。」
疑問に思いつつ惺はそう答えた。苦笑しながら隊長が言う。
「まあ、全てそう出来ればいいのですが実際は何もかも手に入れる事は叶いません。ですから、より大事、または失いたくないものを自分で選んで決める必要があると思います。あ、こんな事は私共が言うべき事でもありませんでしたね。差し出がましい事失礼致しました。」
そう言いながら隊長は惺に恭しく一礼した。惺は答えて言う。
「いや、俺にとっては有り難い助言だ。皆から聞くことは非常に有益で為になる。そうか、今度セレナと話をしてみよう。」
惺はそう結論付けた。隊長は其の様子を微笑ましく見ていた。
「何?玲にエミリアが、惺にはセレナが、付いて行きそうだと言うのか?」
志郎は驚きつつ神にそう言った。神は苦笑しながら答えた。
「ええ、どうもそんな様子。エミリアはもう数日間玲にべったりよ。しかも、自分のドレスを捨ててメイド服を着てね。セレナの方は惺を見ながら溜息ばかりの毎日らしいわ。辺りでメイドたちの噂になってるわよ。」
そう言われて、志郎は苦笑した。そして言う。
「考えてみれば二人とも、強い者に興味津々だからな…。玲のあの驚異的な力を見ればエミリアの態度は理解できるし、惺は生真面目にやるからセレナみたいな武術好きには惚れてしまうのだろうな。」
そう結論付けた。神も納得しつつ言う。
「恐らくそんな所でしょうね。まあ、問題はこれからよ。ここの問題が片が付いたら、彼女達付いて行きそうだわ。あたしが心配なのは其処くらいかしらね。」
そう言われて志郎はハッとさせられた。ミルに付いて来るレネアもそうだが、実質人員増加に為りそうだった。苦笑しつつ志郎が言う。
「やれやれ、アーレフ達が離れて少しは静かに為ると思いきや、逆に賑やかに為るのかな。」
「恐らくね、まあ、帝国にはラミュアを置いていくからそんなに人数は増えないでしょうけれど。」
神が意味深なことを言う。志郎が疑問に思い尋ねて言った。
「其れはどう言う事だ?」
「えっとね…。」
そう言って神は予てよりの「計画」を語り始めた。
軍略会議場では些か賑やかに為っていた。無理も無い、来賓として現れた二十人もの神を見たからである。
「これはどういう事だ…。」
「なるほど、式場で見た姿はこう言う事だったのか。」
「流石に「神」であるだけあられる。素晴らしい。」
理解出来ない者。理解出来る者。更に、其の素晴らしさに感動出来る者。反応は様々だった。そんな様子を見ながらレオンハルトが言い始める。
「さて、驚いてる最中だが神さんの提案を入れて我が軍は方針を大きく転換する。勿論軍としてはあくまで専守防衛で攻める事はしない。しかし、神さんが帝国に攻める事になるのでそれに関し、若干修正を加えながら国家としてサポート出来る様に軍は展開する事に為る。先ずはこの事を諸将は理解してもらう。」
「閣下、神さんが攻める、と言うのはどう言う事でしょうか?非凡な身としては直ぐに理解しかねるので御教授して頂きたいのですが?」
一将校が理解しづらい内容だ、と言うことを訴えた。レオンハルトは頷きつつ答える。
「理解しづらいのは無理も無い。俺もこの話を聞いた時は暫く理解できなかった。先ずは神さんの話を聞いてもらおう。神さん、御願いします。」
そう言ってレオンハルトは神に話す様に促す。神はそう促されて話し始めた。
「では、話すわね。まず、基本方針としてあたしは「帝国」を完全に手中に収め「帝国」を解体する事を計画しているわ。」
そう言われて、会議場は騒然とした。レオンハルトが一同を静める。静まった後で神はどう行うかについて話し始めた。
帝国では着々とレミアルト王国侵攻作戦の準備が行われている筈であった。が、事態はそう上手くは行かない。様々な理由はあるが、最大の問題は帝国内の人心の腐敗であろう。権力者は己の権力に執着し、市井の市民は自分達の生活が改善しない故に権威に対して不遜に為る。そう言う悪循環が出来上がっていたのである。勿論帝国内でも良識的な者や献身的な者も居た、しかし、全体として既に帝国は自浄作用以上に国内の腐敗が蔓延っていたのであった。
「全く話にならんな!」
そう文句を言いつつ帝国議会から退席をする青年の姿があった。苦笑しながら女性副官が近づいて言う。
「議会は相変わらずですか、グラハム閣下。この様子では侵攻計画が出来ても実行時に更に問題が起き結果的に責任問題に直結しますね。」
鋭く、今後に起き得る点を考え、意見を述べる。舌打ちをしながらグラハムと言われた青年が答えて言った。
「ラーナ、俺のことはセイルと呼べと言っただろう!何度も言わせるな。しかし、此の侭ではお前の言う様に折角育て上げた部下を死地に向かわせる様なものだな。また、皆で話し合わないといけないかな。」
セイルに注意をされラーナは多少怯んだものの悩む上官を見てすかさず述べて言った。
「其の件に関しては既に主要メンバーを何時もの場所に集めてあります。後はセイル様が来られれば何時でも出来ます。」
そう言われて、セイルはラーナを見つつ笑いながら言った。
「ふっ、相変わらず見事な手腕だ。分かった、早速行こう。この様子では我等も安心して寝ている状況ではないからな。いい解決方法を探らねば。」
そう言ってセイルは、目的地へと向かって行った。ラーナは付かず離れず付いていく。
「やれやれ、揃いも揃って我が帝国内の者共は無能の巣窟と化しているのかな?どう思うかね、ランカスター殿。」
玉座に座る男はそう言って近くに居る男に尋ねた。ランカスターと呼ばれた男は暫く黙っていたが考えを纏めたのか口を開きこう言った。
「全てが無能と言うわけでは御座いませんが、其の無能者が有能な者の足を引っ張り、結果として帝国を揺るがしているのは事実で御座いますな。」
そう言われて、玉座に座っている男は笑い出した。暫く笑った後に言う。
「やはり、お前を傍に置いて正解だな。今までの奴等は太鼓持ちに過ぎぬ。玉座の傍に居るべきなのは、都合の良い脚本家ではなく毒舌な批評家であるべきなのだ。」
そう言った後で、侍従を呼ぶべく手元にあったベルを鳴らした。それにより、素早く待機していた侍従が出てくる。それを見て男は言った。
「グラフェルト将軍を呼べ。立場上あいつが最高位だ、最高責任者としての責務を果たさせてやろう。」
そう言われて、侍従は短く「はっ。」と返事を言ってから素早く下がって指示を果たしに向かった。それを見届けた後、男はこう言い出した。
「さて、この数百年、帝国内でも禁忌とされていた事をやろうとするのだ。栄光に繋がるか、それとも、私を含めて帝国の滅亡に繋がるか。楽しみだな。」
帝国の存亡ですら、この男にとっては既に、意味が無い物の様であった。そう言って男は、また、なにやら考えに耽るのであった。そう、彼こそがサディルウム帝国第四十四代皇帝ヴェルザイライド十四世であった。傍に居たランカスターという男は、そんな彼を見て少し哀しい目をしていた。
「相変わらずだな、お前は…」
志郎は、神から「計画」を聞かされて呆れつつも、楽しそうに聞いていた。
「あら、反対はしないのね。」
神がそう言う。苦笑しつつ志郎が言った。
「反対したら、お前やめるのか?」
そう言われて神は見事に首を振った。苦笑して志郎が言う。
「だよなぁ…。もう既に俺も諦め気味さ。まあ、本当に大事な事とか、俺達をもろに巻き込む事は必ず相談に来るから気にはしてないんだけどな。」
そう言われて神はやや顔を赤らめつつ言う。
「ちょ…ちょっと何よその言い方は…あたしは、そんなに良い人じゃないですからね!」
既に「人」では無い筈なのだが、焦ってその辺の間違いに気づかない辺りが可愛いな。志郎はそう思った。
「しかし、内部からも同調者を探すか。アイデアとしては良いな。シェレーヌなら任せれるしな。帝国内では結構不満もあるらしいから後はやり方次第ってところか。ところで、ラミュアを置いていくと言ってたが、統治組織の一部に組み込むと言うことなのか?」
志郎は疑問点を神に聞いた。神が答えて言う。
「組み込むと言うより、側近に置いておこうと思ってね。帝国支配用の、ああ、解体するから帝国じゃなくなるけど、新国家用の新しい存在を創るからね。其の補佐的役割に置くのよ。そうすればディルサイヴを連れて来て一緒に生活も出来るでしょうしね。」
ディルサイヴと言われて志郎は納得した。そして言う。
「なるほどな、彼は旅が出来るほどの身体ではないから、新国家で安定した環境下にラミュアを置くと言う理由でこっちに呼び寄せて一緒にさせる腹か。」
「そう言うこと。彼の寿命も延ばしたとはいえ長くは無いからね、ラミュアが慕った彼だもの出来るだけ一緒に置いてあげたいのよ。それに…」
「ん?」
「其の方が彼にもいいでしょうからね。研究が進むという理由で。ラミュアとまでは行かなくても彼なら素晴らしい研究結果が将来出来そうな気がするわ。」
神はそう、起こるかも知れない未来に期待を寄せながら言った。志郎は苦笑しつつ言う。
「相変わらず、お前は優しいな。」
そう言われて、神は顔を真っ赤にしつつ言う。
「馬鹿…。」
二人は何時もの様に互いを暖め合っていた。そう、身体も、心も。
「為るほど…。」
軍の作戦会議場では神の説明が続けられていた。予め神の数人が調べておいた合戦予想地を示しながら神は軍としてはどう防衛しながら神がどう攻めるかについて話していたのである。其の論理的な話の展開に聴衆はみな聞き入っていた。
「と、言うわけよ。以上が今回のあたしの侵攻計画「帝国解体作戦」よ。まあ、最終的にはあたしが創った存在を国王とする神権国家を樹立させる目的だけどね。」
締めくくりに、神の壮大な目的が発表され会場は騒然としていた。レオンハルトは苦笑しながら言う。
「神さん…そこまでは先日、俺に言わなかったじゃないですか…。」
神はペロッと舌を出しながら答えて言った。
「ええ。言えば、国王に俎上するとか貴方なら言いそうだからね。まあ、例え国王に言っても通る議題ではあるけれど。時間がかかって面倒になるから先にここで発表したのよ。」
そう言われて、レオンハルトは笑いながら答えて言った。
「流石だな、俺は無骨者ゆえ真面目に考えすぎるが、確かにその方が、時間的にも無駄が無い。分かった、会議の結果として神さんの意見である事を踏まえながら国王に申し上げよう。」
「御願いするわ。レオンハルト。」
神はそう言った。会議は円満に終了し、各将校は内容を良くかみ締めながら退出していった。
セイルは何時も仲間が居る建物へと入っていった。そこはこじんまりした場所で傍目には普通の酒場である。入り口には貸切と看板が下がっていた。セイルとラーナは其処に入る。中には十数人の男女が居た。
「閣下、先にやってますよ~。」
「お、ラーナ嬢もやっと来たか。」
「セイル様、早くこっちに~。」
どうやら既に、出来上がっている者も居るようだった。苦笑しつつセイルは席に着いた。そして言う。
「楽しんでいる所を悪いが状況はかなり芳しくない。此の侭では、我々は前線で無闇に翻弄され、せっかく育て上げた部下達を死地に送らせかねない。其処でだ。お前たちの意見を聞きたい。意見がある者は進んで述べてくれ。」
そう言われて一人が手を上げた。それを見てセイルが言う。
「ジェネット、言ってみろ。」
「はい。最近不穏分子、要するに現政府に反抗する者達ですが其の者達の中へどうも工作員らしい者が紛れ込んでいるようでかなりの意思操作が見えます。で、個人的にコンタクトを図ってみた所、レミアルト王国からの工作である事が分かりました。ただ、その内容的には帝国は崩壊するかもしれませんが我々としては有益そうなのでこの場で言おうと思い上層部には報告せずにおきました。」
ジェネットと言われた男はそう述べた。彼は諜報関係のエキスパートで其の情報はかなり頼りに為る。故に信用に足るとも言える。其の彼が、有益とも言える情報を入手したと言うのだ。セイルも興味を持った。
「面白そうだな、ここには我々しか居ない、話してくれ。」
セイルがそう言ったのでジェネットは内容を事細かに話し始めた。
「あの…玲御姉様。」
おずおずとエミリアが言う。玲は其の姿を可愛らしいと思った。そして答えて言う。
「何かしらエミリア。私に何か用でも?」
そう言われて、エミリアは言葉を言うことが出来ずに俯いてしまう。くすりと、笑って玲が更にこう言った。
「やれやれ、私が言わないと言えないようでは貴女の其の大好きな僕の地位も取り上げないといけないかしらね。」
そう言われて、エミリアはハッと為り急いで答えてこう言った。
「い、いえ、それは困ります!私は玲御姉様のお傍に居たいのです!何時でも…其の…何時もお傍に居たいのです…ですから…。」
其処まで言ってエミリアは言葉少なく止まってしまった。ふう、と息を吐きながら玲が立ち上がり言った。
「はっきり言わないなんて、僕として失格ですわね。追い出して差し上げても宜しくてよ?」
そうきつく咎められエミリアは今にも泣きそうな状況になった。そして、懇願するように言う。
「す、すみません。玲御姉様、エミリアはその、玲御姉様とずっと一緒に居たいのです。朝から夜まで、ずっと一緒に…ですので、一緒に置かせて頂けませんでしょうか!」
精一杯とも言える、叫びとも言える、自分の思いをようやっと言い出したかのようにエミリアはそう言った。其の後エミリアは呼吸が苦しくなったのか、ぜいぜいと息をしている。余程思い詰めて言ったのであろう。苦笑しながら、玲は答えた。
「まあまあ、そんな事を悩んでいらしたのね。御出でなさいな。私がずっと可愛がってあげるわ。」
そう言ってエミリアに手を差し伸べる、其の目は特に左目は美しく血の色に輝いていた。其の目に引き込まれるようにエミリアは手を差し出しながら言った。
「は…い。玲御姉様。私をお好きになさってくださいませ。」
「可愛いわ。あなたは永遠に私のものよエミリア。」
妖しく玲はそう言った。其の玲の顔を見ながらウットリしつつエミリアは答えて言った。
「はい…。エミリアはずっと玲御姉様のものです…。」
「いい子ね。じゃあ、暫くお待ちなさい。文献をもう少し読んだら、貴女を可愛がってあげるわね。」
玲が微笑みながらそう言った。エミリアは答えて言った。
「はい…。御待ち致しますわ…。」
「セレナ、居るのだろうか?」
惺はセレナの部屋の前でそう言っていた。暫く待つと小さな声で「はい。」という声が聞こえてきた。おかしい。セレナはそんなに元気無く返事を言う子では無かった筈だが…。心配になり惺は、
「セレナ、心配だから済まないが入らせて貰う。」
そう言って部屋に入った。入って直ぐに周囲を見直す。何時も居る机の周りには姿が見えない。惺はセレナの姿を探した。
「セレナ、何処に居るんだ?」
そう言いつつ、惺はセレナを探した。書斎や普段部屋には居ない、惺は寝室に入った。セレナだ。彼女はベットに倒れこんでいた。惺は急いで駆け込む。
「セレナ!調子でも悪いのか?」
惺はそう言う。しかし、セレナはうつ伏せにベットに横に為ったままだった。心配に為り惺はベットに座りセレナに手を掛けた。震えている。
「どうしたんだ?セレナ。俺で良ければ言ってくれないか?」
惺はそう言った。セレナはベットに顔を向けたまま、もごもごと何かを言っていた。しかし、上手く聞き取れない。
「どうしたんだ、セレナ。聞こえないぞ。教えてくれ、何があった?」
「あな…す…なの。」
「え?」
よく聞こえないので惺は聴き直してしまう。セレナはいきなり起き上がり惺を捕まえて言った。
「私、貴女が好きなの。放したくない程に。」
惺はいきなりそう言われて面食らってしまった。暫く間があった後、セレナが言う。
「貴女の答えが聞きたいわ。」
更に暫くの間が空く。惺はその後答えて言った。
「ああ、済まない。其の俺もセレナは大事だが、放したくないとはどう言う意味なのだろうか?」
そう言われてセレナはくすりと笑って答えた。
「そうですわね、例えるなら、志郎様と神さんのような関係に惺様と私も為りたいと言う事ですわ。」
しばらく考えた後で惺が答えて言った。
「つまり、永遠に一緒に居る関係と言う事でいいのか?」
そう言われてセレナは頷いた。惺が答えて言う。
「それならば問題は無い。俺もセレナと一緒に居たい。セレナがそう思うのであれば是非一緒に行こう。」
そう言って、惺は手を差し伸べた。セレナは泣き出しながら言う。
「本当に、本当に、いいのですね?私でも。」
「ああ、是非一緒に行こう。」
惺はそう答えてセレナの手を握った。セレナはぎゅっと其の手を握り返し、そのまま泣き崩れてしまっていた。其の姿を見ながら惺は言った。
「これでセレナの気持ちに答えた事に為るのだろうか…?」
自分でいまいち納得できないと言った様子で惺はセレナを見ていた。
窓の外では静かに風が流れていた。
想いを確かめ合う者達、企みをする者達、
それぞれの思惑を余所に状況は展開する。
次回「Beziehung「関係」」。
貴方にも良い風が吹きますように。
(注意!次回は話の展開上やや強いH描写が入ります。苦手な方は御注意下さい。)