嵐の前の静けさ
間も無く行われようとしている対帝国との会戦。
しかし、其れ迄には少しの幕間があった。
其処では何が行われるのか…。
(若干H描写が入ります。苦手な方はご注意ください。)
小説 風の吹くままに
第十六章 嵐の前の静けさ
嵐は来る前は何故か異様に静かに為るものである。いや、静かに感じるものである、の方が正しいのかもしれない。
自分の部屋からアーレフは眺めつつそう思った。ドアを開けて晶が入ってくる。
「あら?ぼうっと眺めて。どうかされましたか?」
アーレフに向かって晶はそう言った。アーレフは振り返り晶に向かって微笑みながら答えて言った。
「ああ、晶。嵐の前の静けさだなと思っているんですよ。これから大きな嵐が来ますからね。」
そう言われて、晶は俯きながら言った。
「あの…戦を回避する方法は無いのでしょうか?」
その質問にアーレフはにっこりと微笑みながら答えた。
「そうですね、やり方は沢山ありますよ。」
「なら!その幾らもある方法を使うことは…。」
晶がそう言おうとしていた所をアーレフは遮りながら言った。
「確かに方法はあります。しかし、それは大抵大半の人々が納得できない方法であったり、方法はありますが私たちでは実行できないものばかりなのですよ。」
「それはどういう事なのでしょうか…。私は、なんだか混乱してしまって…。」
「無理も無いですね、そうですね。先日神さんが言われたことが一例ですね。晶はあの方法は選択しなかったでしょう?」
「え…?」
そう言われて、晶は一生懸命に以前神に言われた事を考えていた。
何を言われたのだろうか…。しばらく考えて、晶は思い出した。
「もし、どうしてもというのならば、だけど、一瞬で帝国を滅ぼしましょうか?」
そう、以前神はそう言っていた。自分はそれを否定したはずだ。帝国にも良い人は居るから、と言う理由で。
「そうですね、私は神さんの提案を拒否していましたね。確かに、神さんが言われる方法であるなら「帝国」は滅ぼせます。しかし、それだとなんだか根本的な解決にはならないような…。」
晶はそう言った。微笑みながらアーレフが言う。
「いい点に気づきましたね。まあ、人が人の根本的な問題を解決できる程、立派な存在であれば、今頃、当に「神々」の仲間入りでもしてるでしょうけどね。まあ、其れは兎も角として、晶が述べている部分も真実の一面なのです。ですからあえて神さんは一旦会戦を起こさせてから我々が勝利をすると言う形を作りその上で我々に有利で且つ、帝国の一般の人々が今までよりは苦しまなくていい結果が得られる選択肢を選ぼうとされてるのだと思いますよ。もちろん、彼女自身がやってみたい事も含んではいますけどね。」
そう言いながらアーレフは苦笑いをしていた。晶はそれを聞き、何故か泣いていた。その涙を静かに拭いながらアーレフが言う。
「自分がやりたいと言うものもあるんでしょうが神さんは優しすぎますね。心配なのは唯一其処だけです。少なからず、心は私たちとほぼ同一ですからその優しさが仇に為らなければ良いのですけどね。」
そう言われて、晶は頷きつつアーレフに寄り添っていた。城下では人々が自分の仕事のために縦横に歩いていた。
神は一人、いや数人か、レミアルト王都から少し離れた荒涼とした丘の上に来ていた。遮る物が殆ど無くしかも、周囲が開発されていないここは格好の会戦地と思われた。
「いい場所だわ。恐らくここが会戦の一つになりそうね。」
そう言い、神ズ (笑)は更に行動を広げながら戦場所の確認をしていた。
レオンハルトは今日も長々と続く会議を終えやっと食事にありついた所だった。みな有能な将校達が考える作戦だ、そう言う意味では非常に心強い。しかし、相手は戦を重ねてきた帝国軍である。近年会戦らしい会戦をせず模擬戦闘に明け暮れていた我々とでは経験の上でどうしても差が出てしまう。それが、軍として致命的に為らないか、レオンハルトはそこを非常に心配していた。
「やはり、実戦経験が無いのが不安かしら?流石の色男も悩みだすと顔が歪んでるわよ。」
そう言われて、レオンハルトははっとなり声の方向に顔を向けた。
「神殿か…急に、驚かせないでくれ。まさに、貴女の言う通りだな。我が軍は近年大規模な合戦はした事が無い、勿論模擬訓練は年に数回とやってはいるがね。だが、実際に衝突するとなれば予想外のことが起きるものだ。いや、起きるほうが戦場では普通なのだ、それが私には恐ろしくてな。」
自嘲気味にレオンハルトはそう言った。そう、個人技的には絶対の自信が持てるレオンハルトだが軍隊でと為ると厄介なものを操作しなくては為らないからだ。そう、人の士気である。これを操作するのは並大抵ではない。まだ一人で戦うほうが楽である。例え最前線でも。それほど、軍で士気を預かるのは重圧なのだ。維持できなければ負けに直接繋がるから。神はそう悩んでるレオンハルトを見ながらやれやれと手を広げつつ言った。
「もう!何の為にあたしがアーレフの式場で「神」を喧伝したと思っているのよ。やっぱりここに来て正解だったわ。」
「其れはどういうことだ?」
神の意図が分からずレオンハルトはそう言ってしまう。神は呆れつつ答えて言った。
「今回の会戦、あたしが直接的に介入するわ。一発で滅ぼす方法もあるけど、提案したら晶姫に拒否されたからね。あたしを幾つも創って個々に撃退するわ。」
そう言われてレオンハルトは唖然とした。言われた内容が、人の理解を超えていたからである。
「あ、いや…その申し出は有り難いのだが…神殿が幾つもと言うのが…。」
レオンハルトは戸惑いつつそう言っていた。神は悪戯小僧のように笑いながら言う。
「こう言うことよ。」
そう言って、ドアを開ける。其処から神が何人も入ってきた。それを見てレオンハルトは吃驚して椅子から立ち上がる。
『こうやって奴らと対峙しようって訳。いいかしら?』
神ズがそう言った。顔に手を当てつつレオンハルトが言う。
「は、ははは。志郎…。本当にお前の奥さんは素晴らしすぎる…。神殿、貴女の好意有り難く受けさせてもらおう。明日、一人会議に参加して欲しいが宜しいかな?」
『ええ、いいわよ。』
神ズがそう答えるとレオンハルトは笑みを湛えながら言った。
「これで対帝国戦の対策は出来た様なものだな。」
『そうね、期待してていいわ。』
そう言って、其処では笑いが起こっていた。
「ちょ、ちょっと待ってください~。」
ある部屋からそう言う声が聞こえていた。傍を通る使用人達は聞こえはするが何時もの事の様に其処を通り過ぎていく。
其処ではミルとレネアが何時もの様に楽しんでいたのだった。
「またまたぁ、ミル様も好き者の癖にぃ。」
レネアはそう言いつつ、ミルが感じる部分を攻める。
「ああ!やだ、レネアちゃん、首筋は駄目~!」
「うふふ、可愛いですわ。ミル様、気持ち良くなって下さいね~。」
そう言いつつ、胸から次第に手を下に持っていく。始めは些か抵抗していたミルも気持ちよいせいか次第に快感に身を委ねる様になって行く。
「あ…は…ミルばかりじゃ…駄目です~。」
そう言ってミルもレネアを弄り始めた。
「ひゃん!ミル様が、あたしに~。」
レネアはそう言ってミルに更にくっついた。お互いがより感じ合う様に為ろうとして。二人は相手を気持ち良くさせようと思い付く方法で弄っていた。
部屋からは甘い声が聞こえていた。しかし、それを聞いても使用人達は、何時もの事の様に其処を通り過ぎているのだった。
「そうだ、段々良い感じに為って来たな。」
惺は兵士達と一緒に修練をしながらそう言っていた。傍ではラミュアも別の兵士達と修練をしていた。その様子を見つつセレナが隊長に言う。
「皆さん素晴らしいですわね。最初の頃と比べて、素晴らしい進歩振りですわ。」
そう言われて、隊長も満足そうに答えて言った。
「ええ、これも惺さん達のお陰です。我々は殆ど実戦経験が無い者ばかりですからこの様に修練で鍛える以外殆ど無い訳ですが、中々、理想的な方法は見つからないもので。」
「帝国が来るとしても彼女達が居れば安心ですね。」
セレナがそう言うと隊長は得心しつつ頷いた。そんな中、惺がこちらにやってくる。
「セレナ、君も楽しまないか?」
惺はそう言いつつ手を差し伸ばしてきた。セレナは躊躇しつつ言う。
「え?!私ですか?申し出は有り難いのですが、その…。」
顔をやや赤らめつつセレナは言葉に詰まってしまった。惺が優しく言う。
「別に、俺達の様にやろうと言ってる訳ではない。セレナもこの皆の中に入って楽しめればもっと楽しめれる、そう思っただけだ。」
ぶっきら棒だが、心から自分を思ってくれている事が分かる言葉で言ってくれてる事にセレナは感動していた。暫く其のままで立ち止まっていたが突然城の方に走り出しながらこう言った。
「分かりましたわ。私も用意して参ります。」
そう言って城の方へ走って行った。苦笑しながら惺と隊長はセレナの後姿を見ていた。
「もうレオンハルトには言ったのか?」
志郎は寄り添う神にそう言っていた。神はくすりと笑いながら答えて言う。
「ええ、別の「あたし」がすでに彼と交渉しているわ。」
「別の??どう言う事だ。」
理解できずに志郎が問い尋ねる。苦笑しながら神が言った。
「結婚式の時に何人もあたしが居たでしょ。あの時の数人が彼の所に行ったのよ。」
「な…。お前…まさか、あれは本気だったのか…。」
「何よ、冗談とでも思っていたの?一撃で滅ぼす方が楽だったのに晶に却下されたしね。まあ、彼女の気持ちも分からない訳じゃないから、今回はこの方法でやってみようと思ったのよ。」
そう言われて、志郎は苦笑しつつ答えて言った。
「相変わらずだな、お前は。レオンハルトが苦笑してるのが想像つくぞ。」
「あら。流石ね、良く分かってるじゃない。」
「そりゃあ。奴とは20年以上の付き合いだからな。」
感慨深く志郎はそう言った。そんな志郎を見て神はより彼に寄り添うのだった。志郎はそれに気づいて神を優しく抱くのであった。
「玲様、書物はこの様な物で構いませんの?」
エミリアは玲と共に王城にある書庫に居た。そこに沢山埋蔵されている文献を玲が見たいと言って来たので案内をしていた所だった。案内された文献を眺めつつ玲が答えて言った。
「ええ。素晴らしいですわ。これから暫くの間、いろんな書物を読みたいのですが宜しいかしら?」
そう言われてエミリアは頷きつつ答えた。
「ええ、構いませんわ。ごゆっくりし易い様にお茶でも用意致しましょう。」
そう言って、其処を離れていった。玲はエミリアが見えなくなってから「力」を使い始め「闇」の姿で成る自分の影を幾人も作り出した。
「さて、これでいいですわね。さあ、今の内に沢山読みましょう。」
玲がそう言うと影達は頷き沢山の蔵書を読み始めるのであった。尚、暫くして書庫で叫び声が上がったのは言うまでもない。(笑)
神ズの三人が街中を歩いていた。はたから見ると三つ子とでも見えるのだろう周囲から興味本位の目で見られていた。
『まぁ、仕方が無いわね。こんな姿じゃ。目立つのは。』
そう言いつつ神は歩いていた。そしてある建物の所で立ち止まった。暫く立ち止まった後、其処に入って行った。
「おや、誰だい?」
中のカウンターの向こうから年配の女性の声が聞こえてきた。神が其れに答えて言う。
「お邪魔するわ。私達の名前は杜神よ。」
そう聞いて年配の女性は目を細めながら答えて言った。
「ほう…お前さんがあの神さんか。噂は色々聞いているよ。ここらで活躍しているらしいじゃないか。」
そう言いつつ神に椅子に座るように促した。神は其れに答えて座る。勿論三人全員が。
「しかし、お前さん三つ子だったのかい?」
老女は不思議そうにそう聞いた。苦笑しながら神が答える。
「そうじゃないわ。三人ともあたしよ。ちょっと事情があってね。今は三十人位になっている所なの。」
そう言われて老女は唖然とした。暫く呆けていたが気を持ち直して言い始める。
「噂ではすごいと聞いていたがここまでとはね。で、このシェレーヌに何の用だい?」
「貴女が腕利きの情報屋でしかも情報操作にも優れている工作員でもあると聞いてね。」
「ほう、誰から聞いたのかな?」
「剣志郎といえば分かるかしら。今は、あたしの旦那になって杜って苗字だけどね。」
「何と…志郎の…お前さんが奴を捕まえたのかい。」
シェレーヌは驚きつつそう言った。苦笑しながら神が答える。
「捕まえたって言うか…どう言えばいいのかしらねぇ…。」
そう言って神はシェレーヌに経緯を話し始めていった。
セレナは意気揚々と惺たちの居る広場へと走っていた。久々に好きに動くことが出来るのだ。この最近大好きだった武術も馬術も戦術も様々な好きな学問がことごとく出来なくてストレスが溜まっていたからである。
「お、姫様だ。あのお姿は久しぶりだな。」
兵士達からそう言う声が漏れる。惺は不思議に思って隊長に聞いた。
「セレナは普段ああいう格好でやっているのか?」
そう聞かれて隊長は苦笑しつつ答える。
「実は、王族の中でセレナ姫が一番武術では御強いのです。意外と思われるでしょうがレオンハルト将軍もお認めになるほどの腕前ですよ。」
「ほう。其れは楽しみだな。」
隊長の言葉を聞いて惺は嬉しくなっていた。セレナは走り着くと、軍方式で敬礼しながら言った。
「セレナ=レミアルト、これより修練を開始します。杜惺殿、ご指導御願い致します。」
「あ、ああ、宜しく頼む。」
きちんとした挨拶に呆気に取られつつ惺はそう答えていた。セレナはくすっと笑いながら修練用の武器を構えていた。
「では、行くぞ。」
「はい!」
そう言って二人は修練を始めたのであった。そんな様子を気づいた周囲の兵士達は自分の修練の手を止めて其方を見る方に気が移っていくのであった。
エミリアはようやく目を覚ました。そう、彼女は書庫に居た沢山の影を見て叫び声をあげて倒れてしまったのである。目を覚ますと自分は寝ていることが分かった。しかも頭が非常に柔らかいところに横たわっている。膝枕だ。恐る恐る上に目を上げると玲が見えた。
「玲さん…私…書庫に一杯影を見て怖くなって気を失っていましたわ。あれは幽霊か何かだったのでしょうか…。」
エミリアは玲にそう言った。玲は苦笑しながら言う。
「エミリア、申し訳ないですわ。予め伝えておけば良かったですわね。彼らは私の影「ガイスト」と呼んでいます。一人お呼びしますわ。」
そう言って玲は一人近くにいるガイストを呼んだ。彼は傍に来て玲に挨拶をする。
「お呼びですか?マスター。」
「御免なさいね、アイン。あなた達を見てこのエミリアが驚いてしまったから自己紹介をしてもらいたいの。」
「畏まりました。」
アインと呼ばれたガイストはそう言って恭しく礼をした後でエミリアに向かって挨拶をしつつこう言った。
「申し遅れました。私、玲様の影として仕えさせて頂いております。ガイストのアインと申します。皆様とは違った身体を持ちます為、驚かれる方が多いかと存じます。今後はどうかお見知りおきを。」
影である事を除けば至極礼儀正しい執事のようであった。エミリアは状況をようやく理解して玲の膝枕から起き上がった。
「アイン有難う。本を読む作業に戻って頂戴。」
「了解致しました玲様。」
玲がそう言うとアインは礼儀よく返事をして指示された作業に戻っていった。一つ溜息をしつつエミリアが言う。
「神さんもそうでしたけど玲さんもすごい方なのですね。」
そう言われて玲は苦笑しつつ言った。
「母上程の事は出来ませんよ。彼らは私を手伝ってくれる影です。今は、私の為に本を読んでくれています。一人でここの蔵書を読み漁るのは大変ですから彼らは其れを手伝ってくれているだけですよ。」
エミリアは感動しつつ言った。
「いえ!素晴らしいですわ。ご自分の力で忠実な僕を創り出される程の力だなんて。私、あなたの事が大好きになりました。」
「え?!」
玲はそう言われて吃驚する。エミリアは興奮しながら続けてこう言った。
「これからは玲御姉様と呼ばせてくださいませ。私、エミリアは忠実な妹として御姉様を御手伝い致しますわ。」
「あ、いやちょっと…。」
突然の宣告に玲は躊躇してしまう。まさか自分の創った影を見てこんな反応が来るとは…。想像してない事だったのだ。焦りつつ玲が言う。
「待ってくださいなエミリア。どう勘違いしたのか分かりませんがこのガイスト達は私が創り出した存在です。ですから私に忠実なのです。貴女が私にその様にする事は無いのですよ?」
そう言われたが、エミリアは首を振りながら答えて言う。
「いいえ!是非ともエミリアを玲御姉様の僕の一人にして頂きたいですわ!」
「ちょっと…どうしてそう言う結論に為るの…」
玲は興奮して近寄るエミリアに躊躇しながらそう答えていた。そして、影の一人にある事を命じた。影は頷いてそこを立ち去っていった。
「ちょっとお待ちになって、エミリア、まずは落ち着きましょう。」
玲はそう言ってなだめようとする。しかし、エミリアは興奮しつつ玲に迫るのであった。そんな感じで書庫は静かな筈の場所が賑やかな場所と化していた。
「へえ、流石は「神」と言う所だねぇ。」
シェレーヌは神の話を聞きながらそう答えた。神は苦笑しながら言う。
「そうは言うけれど、貴女もすごいじゃないシェレーヌ。」
「そうかい?」
シェレーヌは惚けた様に言った。神は多少語調を強めながら言う。
「まさか、あたしからばれないとでも思ってる訳じゃないわよね?」
シェレーヌはやれやれと手を広げながら答えて言った。
「やはり「神」相手には流石にこのシェレーヌ様も誤魔化せない様だねぇ。分かったよ。」
そう言って、彼女の周りが突然光り輝く。その光が収まるとさっきとは違い非常にスタイルがよく長い淡いピンクの髪を持つ美しい美女が現れた。
「なるほど、其れが貴女の本当の姿ね。いい女じゃない。」
神は彼女の姿を見つつそう言った。しかしシェレーヌは苦笑しながら言う。
「自分でも自慢だったんだけどね。其れでも志郎は口説き落とせ無かったよ。」
「あなたも狙ってたのね。こりゃ、あたしは何人の女に恨まれるのかしら…」
「そうね、軽く両手じゃ追いつかない位だろうね。」
そう言われて、神は肩をすくんで見せた。軽く笑いながらシェレーヌが言う。
「さて、本題に入ろうか。その「神」様があたしなんかに何の用だい?」
「簡単よ。これから帝国を翻弄するのに一役買ってもらうわ。」
神にそう言われてシェレーヌはにやりと笑いながら答えて言った。
「楽しそうだねぇ。あんたがただ帝国を叩くのではなく私等にも活躍の場があるんだね。」
「まあ、あたしだけで事を果たすほうが楽ではあるけれど、其れをしたら多分、その後200年以上ここは問題だらけになるでしょうからね。あたしはそんな事にはしたくは無いわ。」
「流石だね。ここの王様もそうだが、こう言う人、ってあんたは人じゃないけど、そう言う実際的な存在が治めてくれれば皆が安心できるんだけどねぇ。」
「それよ。帝国内の有力人物のピックアップをあなたにお願いしたいのよ。あたしが直接調べる方法もあるけれど、あなたのような人物が其れをやって、その資産を生かす様出来れば貴女も得でしょ?」
神にそう言われてシェレーヌは笑いながら答えて言った。
「流石だね、いや、流石すぎる。あたしに損得まで言いながら交渉するとは。あたしもあんたが好きになったよ。その話乗った。今後はあたしに任しといてくれ。」
シェレーヌがそう言って引き受けたのを見て、神は微笑みながら答えて言った。
「其れは良かったわ。今度志郎と一緒に来るわね。」
そう言って、神は其処を後にした。神が出て行った後でシェレーヌが言う。
「志郎が惚れるわけだ、「神」でありながら人を考える存在か。これはまた面白くなりそうだねぇ。」
そしてシェレーヌは暫く笑い続けた。
「すごいなセレナ、君がそんなに凄いとは俺は知らなかったぞ。」
惺はセレナの技を受けつつそう言っていた。そう、彼女は兵士達よりはるかに上手く惺は手を余り抜かなくても対峙出来る程だったのだ。セレナは答えて言う。
「わ、私は本気でやってますのに、軽々とかわされてるんですから、凄くはありませんわ!」
自分が本気で掛かってるのに軽々かわされる現状を知ってセレナはやや興奮気味だった。自分でもレオンハルトに認められる程の技術は持っている自慢があった。しかし、惺の前ではその技術ですら子供同然にあしらわれているのだ。気分がいいはずは無い。
「セレナ、少し無理をしているな。」
ラミュアはセレナの様子を見ながらそう言った。隊長も心配して言う。
「姫様は素晴らしく強い方なのですが、惺さんやラミュアさんとの差があり過ぎるのが気に入らないご様子ですね。」
突然、惺が攻撃をやめた。セレナは其れに合わせるのに遅れて惺に武器を当ててしまい惺は吹き飛ばされてしまう。
「な!!」
驚いて声を上げるのはセレナの方だった。吹き飛ばされた惺は途中で体勢を立て直し地面に叩きつけられる事は無かった。驚きと、自分が武器で殴ってしまった恐怖で震えながらセレナが言う。
「な、何故、攻撃を止めてしまいますの?私、気づけずに惺様を叩いてしまいましたわ!私、私…。」
そんなセレナに近づき惺は優しく言う。
「済まないセレナ。俺が君を傷つけていたようだ。君の自尊心を傷付けていたのであれば謝る。許してくれ。」
そう言われるがセレナはそんな問題より自分が惺を傷つけた事に酷く打ちのめされていた。
「私が惺様を…私が…。」
俯きつつ、自分の手を眺めてセレナはそう繰り返していた。惺は溜息をひとつ吐いてからセレナの手を取りそして、彼女の目の前に顔を持ってきた。そして言う。
「セレナ。しっかりするんだ。何時もの君は何処に行った。こんな事で毎回自分を見失っては将来自分が直面する事柄に対処できずに自分だけでなく周りの人間も苦しめる事になるぞ。」
そう言って惺はセレナを見つめ続けた。暫くその状態が続く。暫くした後ようやくセレナは我に返った。
「あ、惺様…済みません。私取り乱してしまいましたわ。そうですね、貴女の言われる通りです。これからは気をつけますわ。」
セレナはそう言った。惺は穏やかな顔で微笑みながらセレナを見つめつつこう言った。
「良かった。今日はこれで修練は終わろう。君がこれ以上傷つかないほうが良い。」
そう言われて、セレナは顔を赤くしてしまった。自分でも分からないほどに。そして其れに気づいて、
「失礼致しますわ。」
そう言って急いで城の中に走り去っていった。其れを見ながらラミュアが言う。
「まるで、惺に恋をしている様だな。」
兵士達の間では動揺が起こっていた。惺は良く分からずきょとんとしていた。
レオンハルトは突然現れた使者に驚いていた。彼は人では無かったからだ。そう彼は「影」だった。
「突然の訪問、不躾に失礼致します。私、玲様の影ガイストのフィーアと申します。」
フィーアはそう丁寧に礼をしながら述べた。その様子と玲の、と言う台詞からレオンハルトは落ち着きつつ答えて言った。
「なるほど、玲さんのか。で、何用かな。」
「はい。実はエミリア様のことで少々。」
「む、エミリアがどうかしたのか?」
フィーアの台詞にレオンハルトはやや緊張した。フィーアは其れに答えて言う。
「実はエミリア様が私共を見た後で驚いて気を失われたのですが、気がつかれた後で玲様の説明を聞いた後、玲様の妹になる、僕にしてくれとお騒ぎになられまして玲様も対応を苦慮なさって居られます。ここは、父上にも御知らせせねばと玲様が私を御遣わしに為ったので御座います。」
そう言って丁寧にお辞儀をした。レオンハルトはやや苦笑しつつ答えて言った。
「エミリアが…。あいつめ、志郎の次は神さんの娘に惚れ込んだか。相変わらず、あれの好みは理解しかねるな。フィーアと言ったな、玲殿に伝えてくれ。玲殿さえ良ければエミリアを好きに扱ってくれと。」
そう言われて、少々フィーアは焦りつつ答えた。
「其れで宜しいのでしょうか。」
苦笑しながらレオンハルトが答える。
「志郎に惚れ込んだ時にもあいつは言うことを聞かなかった。恐らく俺では今回も無理だろう。残念だがな。シェリーが生きていればとこう言うときは思うよ。まあ、玲殿は神殿の娘で問題がある人物ではないし、彼女さえ良ければエミリアをお願いしたいと伝えてくれ。」
そう言われて、フィーアは恭しくお辞儀をしながら答えた。
「畏まりました。玲様にはその様に御伝えして参ります。」
そう言って、フィーアは部屋の影に溶け込むように消えていった。フィーアが去った後でレオンハルトが自嘲気味に言う。
「やれやれ、俺も驚異的な存在に惚れ込んでエミリアにあれこれ小さい頃から教え込んでたからな。まさかこんな風に開花するとはな…シャリーに怒られそうだ。」
そう言って肩をすくんで見せた。
外では、嵐の静けさとも言うべき様に静かに空気を湛えていた。
会戦までの幕間に人々のいろいろな思惑が交錯する。
愛に、欲望に、希望に、色々なものに。
次回「それぞれの想い、それぞれの企み」
貴方にも良い風が吹きますように。