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アーレフと晶の結婚式

レミアルト王都では盛大にアーレフと晶の結婚式が行われようとしていた。

そこでしの達はどう行動するのか…。

小説 風の吹くままに

第十五章 アーレフと晶の結婚式




その日は何時もと違った街の顔を見せていた。街の人々は表に出て賑やかに騒いでいる。人々の顔には笑顔が溢れ、また幸せそうに見えた。そう、他人の幸せを喜んでいるのである。今日はレミアルト王国第三王子アーレフ殿下とその妻となる日向晶との結婚式が行われるのだ。


「準備はもういいのかしら?」


(しの)がそう言って部屋に来る。アーレフは答えて言った。


「ええ、私は大丈夫です。と言うか…(しの)さん。式はまだまだ先のはずなのにえらくはしゃいでますね。」

「そお?まあ、自分の式じゃないからね。気楽に出来るのがいいわ。」


(しの)はそう答えた。苦笑しながらアーレフが言う。


「まあ、確かにそうかもしれません。自分がいざその立場となると、少なからず緊張しますね。」


そう言ったのを見て(しの)はくすりと笑った。志郎がその場に来て言う。


「お、アーレフはもう着替えたのか、早いな。しかしなんだな、俺はいまいちだが、流石王子というか、様になってるな。」

「志郎さん。これが似合わないと王子に憧れてる女性方に失礼じゃありませんか。」


アーレフが生真面目に答えて言った。苦笑しながら(しの)が言う。


「だそうよ。王族も面倒よねぇ。」

「まあ、私は楽しんでいますけどね。」


アーレフは微笑みながらそう言った。そこにラミュアがやってくる。


「マスターここに居たのか。大神官様が探していたぞ。」

「あ、いっけない。式の段取りの約束忘れてた。志郎、アーレフ、行って来るわ。」


そう言って、(しの)は部屋から飛び出していった。志郎はやれやれといった様子で言った。


「相変わらずだな。今度は何をするつもりなのやら。」

「ラミュアさんの言った通りに為りましたね。」


アーレフはそう言ってラミュアに微笑んだ。ラミュアもそれに答えて頷く。そして言った。


「玲も行ったからマスターのことだ、何かしそうだな。」

「なに?玲まで?(しの)の奴、何を企んでる?」


志郎が苦笑しつつそう言った。アーレフは微笑ましくその状況を見ていた。






晶の部屋では着付けのメイドや従者など人々が走り回っていた。


「これは、式場まで運びなさい。」

「こっちの衣装は式場の着替えの間に。」

「こちらはどうしましょうか?」


とまぁ、こんな感じで右往左往していた。当人の晶はそこに座っている様にと言われて部屋の片隅で静かに待っていた。そんな中セレナがやってくる。


「あら、晶さんごきげんよう。心の準備は大丈夫かしら?」

「あ、セレナ様お早う御座います。はい。準備は整っております。」


晶はそう答えた。セレナは不満げに言う。


「もう!セレナと其のままお呼び下さいな、と申し上げたではないですか。あなたは私の義姉になるのですよ?」

「は、はぁ…そう言われましてもいきなり王族の仲間入りと言う事が自覚できなくて…。」


晶は苦笑しつつそう答えた。セレナは一つ溜息をつきつつ言った。


「御義姉様!しっかり為さって下さいな。兄上を支える身近な存在はすでに義姉様なのですよ。義姉様も兄上の負担には為りたくは無いのでしょう?」


そう言われて、晶ははたと気づきセレナを見上げた後でしっかりと頷いた。それを見たセレナは微笑みながら言う。


「それでこそ義姉様ですわ。仕度はこれから忙しいでしょうから私は他で用をして参りますわね。」


そう言ってセレナは部屋を後にした。晶はそれを見届けた後独り言のようにつぶやいて言った。


「皇から出るときはこんなこと考えてもなかったわ…」


そう言って、今目の前で右往左往している人々を見ながら微笑んだ。






「よし、そこはその位だな。こっちの飾りはもう少し奥側に移動してくれ。」


(しずか)は式場の装飾を見て色々指示を出していた。その装飾を手伝っているのは城内の兵士達である。


(しずか)さん、これはどうしましょうか?」


兵士が装飾品を見せながら聞いてくる。(しずか)はそれを見つつ言った。


「こいつはさっき飾った奴と同じのだな。向こう側だ。あっちの奴と一緒に飾ってくれ。」


そう言って、方向を指差した。兵士は「了解。」と返事をしてすぐに取り掛かる。様子を見ていたレオンハルトが傍で指揮をしている隊長に声を掛けた。


「これはこれは…兵士までが総出なのか。」

「これは将軍閣下。お見苦しいところをお見せします。(しずか)殿の提案で私達も王子を祝福しようとのアイデアに全員が賛同いたしましてこのような事に為りました。」

「なるほど、彼女の提案なら兵士達は賛同するな。それならば問題はない。逆に、彼らにはいい刺激になるだろう。これから大変になるからな。今のうちに明るい雰囲気は残して置きたいものだ。」


レオンハルトはこれから起こる不吉な事を予見する様に言った。隊長はそれを悟って言う。


「やはり、帝国は動きますか。」

「ああ、遅くともこの一月以内だろうと言う考察だ。式の時は皆羽目を外すだろうがそれが終わったら引き締めはしっかりと頼む。」


レオンハルトがそう厳しい口調で言った。隊長は意を決した様に答えて言う。


「は。了解致しました。して、閣下お尋ねしたい儀があるのですが。」

「ん?何だ、言ってみろ。」

「志郎殿一行の件です。彼らはアーレフ殿を祝福される為に留まられていた筈。今後戦争が起きるわけですが彼らはどうされるのでしょうか?我々としては彼らが御一緒して下さると非常に頼もしいのですが。」


隊長はそう質問した。苦笑しつつレオンハルトが答える。


「もう、その質問に俺は何回答えたかな…。志郎達は暫く逗留するそうだ。帝国との一戦が一段落するまではな。それに、(しの)さんが怒ると帝国が滅ぼされかねないからな。」

「は?(しの)殿と言うと志郎殿の奥様の?」


疑問に思いつつ隊長が言う。レオンハルトが答えて言った。


「ああ、まあ戦場で分かるさ。我々が神の加護を受けている事がな。」

「はぁ…。」


隊長は要領を得なかったが志郎達が残存することを聞いて安心していた。






「ミル様~こっちですよ~。」


レネアはそう言いつつミルを案内していた。


「レネアちゃん、どこに行くんですか~?」


ミルはそう言いつつレネアについて行く。二人は城の目立たない一室に入った。


「ここは?」


ミルはレネアに聞くがレネアはそれに答えずごそごそとあたりを探し始めた。


「え~っと、どこにやったかな~?」


ミルは何か分からず様子を見守っている。暫くしてレネアは目的の物を探し当てた様で言った。


「ありました~。これです。」


そう言って、手にしたものをミルに見せる。ミルはそれを見つつ言った。


「えっと、これは何でしょうか~?」

「えへへ、これはですね~。レネアの母上がこの城に来たときに、将来レネアがつけて立派な式に出るようにと残して下さったものなんですよ~。」


レネアは少し自慢げに説明しながらそれを胸につけた。そう、非常に美しいブローチである。レネアが小柄なので非常に大きく見える。


「可愛いですねぇ。でも、どうして、エルフの郷ではなくこの城に?」


ミルが感想を述べつつ、さりげない疑問を言った。レネアは苦笑しつつ言う。


「実はレネアが悪戯をしてここに隠しちゃったんです~。」


苦笑しつつミルが言う。


「だめですねぇ。あ、でも、結果的にはこの式で使えるのだからいいのかな?」

「そう言うことにしましょうよ~。式が終わったらまた楽しみましょ~。」


レネアはそう言った。苦笑しつつミルが言う。


「仕方が無いですねぇ。レネアちゃんはミルが可愛がらないといけないですからねぇ。」


そう言われてレネアは耳を赤くしながらミルの身体に抱きついた。






「なるほど。分かりました、(しの)さんのお好きになさって構いませんよ。」


大神官は頷きつつ答えて言った。(しの)はやや驚いた様子で答えて言う。


「いいの?アーレフの結婚式なのに。」

「構いませんよ。逆にそれによりアーレフも含めて民全体にもあなたのことが理解できるでしょうし、また、今後起きる大事に対してあなたの力が如何に助けになるかみんなが理解できる助けとなるでしょう。」


大神官は微笑みつつそう答えた。(しの)は呆れつつ言った。


「流石ね、あたしの考えすらお見通しだったか。」

「いえいえ、全ては「かの方」のお導きですよ。」


落ち着いた様子で大神官は答えた。(しの)はやれやれという調子で手を広げながら言う。


「なるほどね。それなら仕方が無いわ。ありがたく、式を進行させてもらうわね。」


大神官は微笑みながら頷いた。玲が言う。


「其れで母上。どうされるおつもりですか?」

「ああ、あなたの「声」が要るわね。」


(しの)が答えて言う。玲が問い尋ねつつ言った。


「「声」ですか。」

「ええ、全員に一度に効果があって、且つ、誰もが理解できる「力」の一つだからね。まあ、最終手段としては「あたし」を千人位一度に創る方法もあるけど。」


(しの)がそう言うと晶は苦笑しつつ答えて言った。


「母上…それは効果的でしょうが、戦場ならともかく一般民衆の前でやると無用な混乱になりますよ…。」

「だよねぇ…戦場でやることにしましょう。」

「やるんですか…。」

「最近、鬱憤が溜まってるからね。ここら辺で発散しないと、山一つくらい吹き飛ばさないと気が済まなくなりそうよ。」

「母上…。無茶言わないで下さい。」


玲は顔に手を当てつつ呆れた口調でそう言った。(しの)はペロッと舌を出して苦笑いをしていた。大神官は微笑みを湛えつつその様子を見ていた。






今日は城も大々的に開放され大勢の一般人が閲兵場に集まっていた。いつもなら、少々の部隊がいても広いと思える閲兵場なのだが今日は異様に狭く感じるのであった。


「ここってそんなに狭かったかねぇ?」

「いや、狭いんじゃなくて人が集まりすぎなんだよ。いてっ!足を踏むなって。」


そう、ひしめき合うほどに人々が集まっていた。無理もない、久々の王族の結婚式があると言うのだ。しかも、一般市民までその式が見れるとあれば否応にも人が増えると言うものである。純粋に式が見たい者、煌びやかな王族が見れると楽しんでいる者、何か振舞われるのではと期待する者、様々な者が入り乱れていた。


「こりゃすごいな、見るだけで壮観だ。」


志郎は城から見下ろしつつそう言った。閲兵場から城門まで至る所、人、人、人、であった。見慣れていない者が見たら圧倒されるであろう。


「確かにすごいですねぇ。ところでマスターはどちらに?」


ミルが、レネアと一緒に歩きながら志郎にそう聞いた。志郎が答えて言う。


「ああ、打ち合わせがあるとかで玲と一緒に大神官様の所に行ったよ。」

「そうですか~。ミル達はとりあえず待ってればいいのでしょうか~?」


ミルはそう尋ねる。志郎は思案しつつ答えて言った。


「恐らく(しの)の事だ、何かサプライズをするに違いないさ。まあ、指示がない以上ここで待つとしよう。」


それを聞き、他の者は頷いた。志郎は眼下で行われている式の準備の様子に目を追っていた。


「もうそろそろだな、(しの)の奴何をする気だか…。」


苦笑しつつ、志郎はそう言っていた。






「まもなく式典が始まります。ご来場の皆さんは静粛に。」


各地で立っている警備の兵士が大声でそう言っていた。それを聞き、群衆の声は次第に小さくなっていく。仮にも式典自体は神聖な儀式である。それを各自がわきまえているからこそ出来る事であった。


「もう始まるか、急いで席に行かねば。」


レオンハルトは席に急いでいた。朝、仕度そのものが遅れた訳ではないがついつい、仕事上の指示をあれこれしていたら遅れてしまったのである。


「お父様!早くなさらないと。式はもうすぐですよ。」


エミリアがそう促す。レオンハルトは走りつつ答えて言った。


「分かってる、それよりエミリア、お前こそ気をつけろよ。その格好で走ると危ないんだからな。」


そう言って二人は式場へ足を早めていた。






「さて、そろそろ始めますか。玲、「声」の方はサポート御願いね。」


(しの)は玲にそう言った。玲は答えて言う。


「お任せ下さい、いつでもどうぞ。」


それを聞き、(しの)は笑みを浮かべた。そして彼女は「力」を使い始める。それにより彼女の身体は見る事が出来ないほど輝き始めた。


「母上、今回はえらくやる気ですね。」


その様子を見ながら玲はそう言った。(しの)の身体の輝きは激しさを増し、暫くそれが続いていた。暫く続いた後、その光の塊は幾つにも分かれ始め全部で三十位になった。


『さて、これでよしっと。』


(しの)×三十人以上はそう言った。その状態を見た玲は言う。


「母上…これは、またすごい事を考えましたね…。」

『そお?まぁもっと増やしてもいいけど皆に見せ付けるのならこれくらいでも十分でしょう。』


(しの)×沢山はそう言って微笑んだ。そして、そのうちの一人と玲は式場に向かって歩いていった。残りの(しの)は城の上の方に移動して行った。






式場は整然としていた。中央には国王夫妻が居り、その周囲には王族一族が並ぶ、その近くには各国から来た大使、来賓などが並んでいた。また、国内の優秀な部下達も一部並んでいるのであった。

また、志郎たち一行もいっしょにそこに居た。


「もう始まるわけだが(しの)はどこに行ったんだ?」


志郎が心配しつつ言った。苦笑しながらアーレフが答えて言う。


(しの)さんの事ですから恐らくとんでもない仕方で来るんじゃないですかね。」

「違いない。」


志郎は苦笑しつつそう答えた。そうしているうちに軍隊の雅楽隊が演奏を開始し始めた。まもなく式が開始するのである。


「さて、行きましょう。晶さん。」


アーレフはそう言って晶の手を取った。晶は頷きつつアーレフについて行った。二人は共に白い衣装で着飾っていた。黒髪により衣装は更に映えて見える。


「お二人とも綺麗な黒髪ですから白い衣装で際立ちますねぇ。」


ミルが二人を見ながらそう言った。レネアが言う。


「いいですねぇ。あたしもミル様と式を挙げたいですねぇ。うふふふ。」


そう言われてミルは躊躇しつつ答えて言った。


「え?!レネアちゃんそれはちょっと…(^^ゞ」


そんな二人を志郎は苦笑しつつ見ていた。


『静かに!』


強力な「声」がそこらじゅうに響いた。それを聞いた者達は一斉に静まる。「声」の正体に気づいた志郎が言った。


「玲か。(しの)め、何をする気だ?」


そう言いつつ、志郎は式場を見ていた。






『皆の者。聞くが良い。この度、第三王子であるアーレフ=レミアルトは伴侶を見出し結婚の儀を行うことと為った。お相手は皇から参られた日向晶ひなた あきら。我々は彼らを祝福し、その今後の幸福を願い、それによって我々も幸福を得るものである。我はあかなししの、彼らを祝福すべく「神」の力を見せにそなた達の前に現れるものである。』


そう、「声」が響いた。式場に居る全員に、しかもはっきりと聞こえて五月蝿くない音量で聞こえるのであった。


「何だ、この声は?!」

「あたしにも聞こえたよ。」

「皆に聞こえているのか。」

「おい!上を見ろ!」

「何だ?」


そう言いながら皆は上のほうを眺めた。上には光るものがあった。中央に一つ周囲に幾十もの光るものがあった。その光の中に、人が居るのを認めた人が叫んでいった。


「人だ!さっきの声の人物か?!」


そう、白銀の髪を持ち鮮やかな赤い瞳を持つ美しい女性がそこには浮いていた。しかも、光を纏いながら。


『これより、結婚の儀を始める。皆の者、お黙りなさい。』


そう、「声」で威圧されて、人々は黙り込んでしまった。言いたくても言えなくなってしまったのである。女性は上空に浮いたまま、式の言葉を進めていく。


『さて、新郎アーレフ=レミアルト。御主は生涯新婦日向晶を妻として迎え、愛し尽くす事を誓うか。』


その言葉に、アーレフは進み出てから答えて言う。


「はい。」

『宜しい。相応しい肯定の答えが得られた。ついで、新婦日向晶。御主は生涯アーレフ=レミアルトを夫として付き従い、愛し尽くす事を誓うか。』


その言葉に、晶は進み出て答えた。


「はい。」

『二人の相応しい肯定の答えが得られた。式場にいる者も聞いたであろう。天上に居る神も御照覧あれ。私、あかなししのが「神」として二人に祝福を授ける。例え苦難の道に歩もうとも、数多くの祝福を与えたもう。』


(しの)がそう言うと、天空に眩い光が発生した。あまりの眩しさに人々は目を覆った。その光が収束し大きな塊となりアーレフと晶に入っていった。それを見ていた人々からは感嘆の声が出る。


『二人は祝福を受け入れた。故に、この祝福は確たる物となるであろう。さあ、二人の思いを皆の前に示すが良い。』


そう言われて、二人は向き合い、暫くお互いの顔を見つめた後、熱い接吻を行った。それを見つつ(しの)は言った。


『ここに、神聖な行いの元、一つの夫婦が誕生した。皆も祝福せよ。また、皆も歓べ。神が定めた婚姻の儀にまた一組加わったからだ。』


そう、総括して(しの)は式辞を終えた。(しの)を覆っていた光は終息し(しの)の姿は次第に人々から見えなくなっていった。暫く沈黙があった後、城を震わせるか、というような大歓声が起きた。


「おめでとう御座います!」

「アーレフ王子に祝福あれ!」

「晶姫様に祝福を!」

「レミアルト王国永遠為れ!」

「いや~めでたい。」

「嬉しいねぇ、皆で楽しまないとね。」


式場に居た人々はそれぞれがそれぞれの祝辞を述べていった。アーレフ達は身近に居る人からの祝福に答えていた。そんな賑やかな中で(しの)が姿を現す。玲も一緒に居た。


「さて、こんな感じかしらね。」


悪戯小僧のように微笑みながら(しの)は言った。その(しの)を見つけながら国王が言う。


「おお、こんなところに居られたか。素晴らしい式を感謝するぞ。まさかこの様なものになるとは思いもよらなかった。」


そう言われて(しの)は恐縮しつつ言った。


「そう言われると考えた甲斐があるわね。あたしが与えた「祝福」については後日の楽しみにしてね。」

「分かった。そうするとしよう。」


国王は笑顔でそう答えた。志郎が(しの)に近づいて言う。


「おい、(しの)。あの何十人ものお前もあれもお前の仕業か?」

「ええ。」

「あんなに出して…皆面食らうんじゃないか?」

「それが目的だもの。」


(しの)がけろっと答えてそう言った。志郎が呆れつつ言う。


「相変わらずだな、お前は。まぁ、これから起こり得る事を考えての事なんだろうが。」

「流石はあたしの旦那様♪」


(しの)はそう微笑みながら答えた。苦笑しつつ志郎が言う。


「そう言う言い方は自画自賛だろう…。」


そう言われて(しの)はペロッと舌を出して見せた。挨拶がそれなりに終わったアーレフと晶が(しの)の方にやってきた。


(しの)さん。」

「おめでとう、二人とも。これで晴れて正式に夫婦ね。」

「有難う御座います。」


二人は丁寧にお辞儀をした。晶がその後、(しの)に向かって言う。


「ところで(しの)さん、あの「祝福」はいったい…。」


そう言いかけた所で(しの)は口止めながら言う。


「それは後でのお楽しみよ。そうね、数年後あなた達の子供が出来たときに分かるでしょうね。」


そう言われて、アーレフは気づきながら言った。


「なるほど。(しの)さんらしいお節介ですね。」


(しの)はそう言われて、アーレフにウインクして見せた。つまり、その考えは当たっているわ。という意味である。

式場周辺はお祝い騒ぎで溢れかえっていた。城から配布される酒、食事など様々に振舞われ、来ていた民衆はそれぞれが楽しんでいた。

そんな状況を見ながら(しの)が言った。


「今の内だけだからね、これからが大変だもの今は皆で楽しまなきゃね。」


そう言っていたが、歓びの喧騒の中でその声は他人には届かず喧騒の中に消えていった。






明くる朝。閲兵場は以前の静けさを取り戻していた。夜遅くまで騒いでいた騒ぎも終わり、今は、後片付けに侍従達が忙しく働いていた。


「お早う御座います。」


アーレフはそうやって出会う人々に声を掛けていた。傍らには晶が居る。二人は共に初夜を過ごし清清しい朝を迎えていた。


「今日もいい天気ですね。これからが大変ですが頑張っていきましょう。」


アーレフがそう言った。そう、これから国家を巻き込んだ大事に為るかもしれないのである。晶はその言葉に真剣に頷いた。それを見てアーレフは微笑む。


「これはこっちでいいのか?」


そう言っているのは(しずか)であった。ラミュアと共に侍従たちに混じって後片付けを手伝っているようであった。侍従はあれこれと指示を出しつつ手伝ってくれる彼女達と楽しんでいるようであった。


「お早う。アーレフ。今日もいい天気なようね。昨晩は楽しめたかしら?」


振り向くとそこには(しの)が居た。


「あ、(しの)さんお早う御座います。あ、はい。二人で楽しませてもらいましたよ。」


アーレフは答えてそう言う。つまらなそうに(しの)が言う。


「もう。アーレフはそうやって真面目に答えるから、言い甲斐が無いわねぇ。晶みたいに顔を真っ赤にしてるくらいが可愛いのに。」


そう言われてアーレフは晶を見た。彼女は顔を真っ赤にしつつ俯いていた。苦笑しながらアーレフが言う。


「そうは言いますが(しの)さんだって志郎さんと昨日も、でしょ?」


そう言われて、(しの)は顔を真っ赤にしつつ答えた。


「そ、そんなのは当たり前じゃない!って、なによ、あたしが何でここで赤くならなきゃいけないのよ!」


自分が納得できないのか、不満げに(しの)はそう言うのであった。そんな(しの)を微笑みながらアーレフは見ていた。






「さて、壮大というか。意表を衝かれた結婚式だったわけだが、まあ、めでたいことは良い事だ。が、今はそれだけに浮かれているわけには行かない。諸将も知ってるとは思うが近々帝国が我々に対し牙を剥こうとしている兆候がある。故に我々としてもただ食われてやるわけには行かない。もちろん、負けるつもりは毛頭無いががっぷりと組み合えば被害は相当なものになる。故に、今日は皆に集まってもらい検討することにしたのだ。皆の多大な意見に期待する。」


レオンハルトはそう述べて軍事会議を開始した。そう、対帝国戦に向けての準備である。自分から攻め入るわけではないから多大な手間と費用はかからないとは言え、相手が相手である受ける被害も半端ではない。如何に回避し、如何に相手に打撃を与え、如何に有利に講和、または終戦させるか。それに関して様々な意見が交換されることとなった。


「ふう。お父様は暫く帰れそうに無いですわねぇ。」


エミリアは議会で熱弁をふるう父親を見てそう言っていた。立派な父であり誇るべき軍人、将軍である。しかし、忙しい故に構って貰えない娘としては不満が無い訳ではなかった。


「どうかしましたか?エミリア。」


そう言われてエミリアは振り返る。そこには玲が居た。


「あ…玲さん。いえ、お父様が忙しくて構ってもらえそうにないので少々寂しくて…。」


頷きつつ玲が答える。


「それはお辛いですわね。私もまだ父上にはお会いしていないので今度母上に御願いしないといけませんわね。」

「え?!玲さん、父上は志郎様じゃないんですか?」


驚いてエミリアが言う。苦笑しつつ玲が答えて言う。


「母上の思いつきでね。私は魔族と神との間で生まれた特殊な存在なのです。」


そういわれたが、エミリアにはいまいち理解が出来なかった。無理も無い、普通の娘が子供が出来ると言う事ですら神秘的なのに、魔族と神の子供などと言われて、うんなるほど、等と納得出来る筈が無いからである。微笑みながら玲が言った。


「分かりづらいかもしれませんわね。でも、私の眼を見て下さい。」


そう言われて、エミリアは玲の眼を見た。鮮やかで美しい緑と血の色の瞳。それを見てエミリアはポツリと言った。


「綺麗だわ…。」

「有難う。この眼は私の力を現しているのです。右の緑は「神」の力を左の血の色は「魔族」の力を。そう、私には二つの異なる力が働く特殊な存在なのですよ。」


玲はそう言った。戸惑いつつエミリアが聞く。


「あの…玲さん。そう言う特殊な環境に生まれてお辛くはありませんの?」


それに玲は微笑みつつ答えた。


「環境は問題ないのです。唯一、私が愛されている事それが私が分かりさえすれば他には何も要りません。エミリア、あなたもそうじゃないかしら?」


そう言われて、自分の事をエミリアは考えてみた。父は自分の事を一生懸命考えてくれている。もちろん疎ましく思うこともあるがそれは私を愛しているが故である事も私には分かっている。そのこと自体は嬉しい事なのだ。そう思い起こしながらエミリアは頷きつつ言った。


「そうですわね。私もそう思いますわ。なぜ、今までそう考えなかったのか不思議な位ですわね。」


くすくす笑いながら玲が言う。


「それはね、いつの間にか、自分の事だけを考えるようになったからですよ。」

「あ…。」


エミリアは気づいた。そうだ、私は構って貰えないと文句を言っていた。しかし、父は色々な形で自分に愛を示していたのだ。逆に自分の方がその示した愛を気づかずに居たのではないか。そう気づいて、自分が恥ずかしくなった。


「恥ずかしいですわ。お父様には私を分かって下さらないとかぼやいていたのに結局は自分が一番分かっていなかったのですわね。」


エミリアは素直にそう自答した。玲が微笑みながら言う。


「そう分かったのですから、もう大丈夫。さあ、お父様の邪魔にならない場所に移動してお父様に愛を示しましょう。恐らくお父様もあなたを分かって下さいますわ。」


そう促されエミリアは素直に頷いた。そして二人は別室へと移動していった。






「あ~あ。折角アーレフにニヤニヤ出来るチャンスだと思ったのになぁ。」


(しの)が不満げに言う。志郎は苦笑しながら答えて言った。


「それは無理って相談だろう。(しの)の方が顔に出すぎるから分が悪いってもんだ。」


そう言われて、(しの)は頬を膨らませてはぶてていた。そんな(しの)を見つつ、そして頭を撫でながら志郎は言った。


「まあ、そう言う風に無理にしなくてもいいさ。これからまた大変だしな、レオンハルトの奴今日から会議詰めみたいだしエミリアが不満出さなきゃいいがな。」


そう聞いて(しの)が気づいて答えて言った。


「エミリアの件なら大丈夫よ。玲が話してたみたいだし。」

「ほう。」

「あの子も生まれが特殊だからなんか話になったみたいでね。さっき通りかかったけどなんだか二人で盛り上がっていたわよ。」

「それは良い事だな。あの子も一人っ子でなきゃ楽なんだがまあ、仕方が無い面もあるか。」

「そうね、こればかりはね。むやみに死者を生き返らせるのも問題だしね。」

「いや、それはしないでくれ…。」


苦笑しつつ志郎はそう言った。






アーレフは部屋で神器を取り出してみていた。自分に押し付けられたものだが結果として晶が自分の伴侶と為る事に為ったのである。


「そう考えてみると、これに導かれたと言っても過言ではないですね。」


ふと、そう言っていた。それに答えるかのように後ろから声が聞こえた。


「流石に神官ね。詩人のような台詞だわ。」


吃驚して振り向くと後ろには(しの)が立っていた。アーレフが苦笑しながら言う。


「聞いていたのですか。恥ずかしいですね。」

「あら。それならこっそり来た甲斐があったわね。」


(しの)は、にやりと笑いながらそう言った。ふと気づいてアーレフが言う。


「しかし(しの)さん。先ほど志郎さんと下のほうに降りたばかりだったと思いますが…。」

「ああ、それは簡単よ。まだ式のときに創った三十人分の「あたし」が居る状態だからね。」


と、けろっとして(しの)が答える。呆れつつアーレフが言った。


(しの)さん…もしかして、戦場で更に増やすつもりですか…。」


そう言われて悪戯小僧のように笑いながら(しの)が言った。


「さすがねぇ。そこまで分かるとは。やはり皆には生き残って欲しいからね。レオンハルトには後で言うけれど恐らく戦場で暴れることに為ると思うわ。」

(しの)さんらしいですねぇ。その考えは非常にありがたいです。私から父上にも申し上げておきましょう。」


アーレフは微笑みながらそう言った。(しの)が答えて言う。


「それは助かるわね。そうそう、神器はどうするのかしら?」

「これですか?」


アーレフが手にしている神器を(しの)に見せながら言った。(しの)は頷きながら言う。


「ええ。そろそろあたしに預けておく?まあ、基本的に王族の状態だから安全といえば安全だけれど。必要ならあなた専用の使い魔でも創るわよ。」


そう言われて、苦笑しながらアーレフが答えて言った。


(しの)さん…相変わらずですねぇ。お気持ちは嬉しいですがお断りしておきましょう。あれだけ「祝福」まで頂いたのにこれ以上貰うと他の方から羨ましがられますよ。」

「アーレフらしい答えね。やはりお節介だったわね。いいわ、そうしましょう。」


(しの)は諦めるようにそう言った。アーレフはそんな(しの)を微笑みながら見ていた。






風はどこからともなく流れていた。

無事に結婚式を終え幸せの内に終えたしの達。

しかし、其れは次に来る大きな嵐をも現していたのかも知れない。

次回「嵐の前の静けさ」。

貴方にも良い風が吹きますように。

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