帝国
レミアルト王国で色々な出来事を体験していた神達。
隣の帝国でもやはり色々な思いで活動している者が居た・・・。
小説 風の吹くままに
第十四章 帝国
「報告は以上です。」
淡々と部下は上司にそう報告した。その報告を聞き上司は戦慄く。
「何と言う事だ・・・陛下に何と報告すれば良いのだ・・・。」
そう、望まれない報告がやってきたのである。作戦が失敗した事を示す報告が、目的地に送った部隊が丸ごと消息を絶った事を示す報告が、であった。
「其のまま言うのは難しい・・・しかし・・・隠せばそれはそれで私の義務違反と言う事になる・・・それは不味い・・・一体どうすれば・・・。」
上司はそう悩みつつ部屋を右往左往していた。そんな中、けたたましい音と共にドアを開けながら入って来る者が居た。その人物は入りながらこう言う。
「おい!聞いたか?グレイハワードが失踪したらしい。」
それを聞きながら上司である男は答えて言った。
「ああ、今報告を聞いたところだ。陛下にどう報告するか悩んでる最中だよ。」
そう答えて、突然入ってきた男を咎めもせずにそう言った。入ってきた男はそれを聞き答えて言った。
「このままでは、開戦派が台頭し始めるな。折角、諜報と謀略でいい具合に行きそうだったものを・・・何かいい手はないかな・・・。」
「全くだ・・・私も如何に陛下に報告するか、それで悩んでるよ・・・。」
男はそう答えて、二人は意気消沈していた。
サディルウム帝国議会は国民の意見を代表者たちが伝え皇帝に俎上する場所のはずであった。しかし、現実は帝国内での覇権争いの縮図と化しているのであった。今、議会では以前より取り沙汰されていたレミアルト王国に関する問題で紛糾していた。議員の一人が言う。
「謀略において為せば良いと言っていたにも拘らず工作員全員が失踪するような失態。諜報局はどう責任を取られるのですかな?」
「別に諜報局だけの責任と言うわけでもありますまい。我々が相手国に対して認識が甘かったと言うことも事実でしょう。久しく戦争もしていないような国だから大丈夫と甘く見るような。」
「いや、そもそもはさっさと軍事準備をして攻めかからない点が問題なのだと・・・」
「大仰な軍事行動は帝国の疲弊を招きますぞ?あなた方はそんな事もお分かりにならないのですか?」
「いや、この行動は帝国の屋台骨を太くする為の計画であるから・・・」
「そうは言いますが、それだけの費用を工面し兵士を鍛え実際に投入して戦線を維持ししかも占領政策まで行う。そこまでの作戦立案をすでに立てておられるとでも?」
「いや、そう言うことを議論するのではなく、今は現進行の問題が紛糾している事柄に対し・・・」
「そもそもは何故にこう言う討議をしているか、そこからに戻らないといけないのではありませんかな。」
「皆さんは、まずは自分の事ばかり考えなさる。帝国の本当の未来のことを考える方は居られないのか。」
「何を言う、私は真に帝国臣民と思ってだな・・・」
と、まぁ、こんな風に、目も当てられない状況になっているのであった。そんな議会を一人の青年が出て行くところであった。副官としてついて来ている女性が傍により、声を掛ける。
「閣下、もう終わりで宜しいのですか?」
男は呆れながら答えて言う。
「構わん。あのあほ共に付き合っているとこっちがあほになりそうだ。早く帰って部下を見ているほうが余程かいいわ。」
副官は苦笑しつつ言った。
「相変わらずですか、あちらは。皆さん、そこまでして己の権力が大事なのですかね。」
「まあ、失う物だから必死なのさ。そんな物に何の価値があると言うんだ。そんなくだらない物よりも大事な物は一杯あるだろうにな。」
閣下と呼ばれた青年はそう言った。副官は肯定の答えとして軽くお辞儀をする。青年は続けて言った。
「まあいい、ここは帰ってうちの連中を集めて今後を協議しないといけないな。遅かれ早かれこの状況では戦が始まるのは間違いない。」
「とうとう始まりますか。相手がレミアルト王国では大きな戦に為りそうですね。」
副官は気を引き締めるように言った。頷きつつ青年が答える。
「ああ、そうだな。では、中佐以下のうちのメンバー将校クラスを全員召集しろ。時間は、そうだな2000までだ、いいな。」
「は。2000までに集合するように至急連絡致します。」
副官はそう復唱しながらすぐさま指示を伝えるため立ち去っていった。青年は空を見上げて言う。
「空はこんなに綺麗なのにな。我々はいまだに血の罪からは抗えぬか。」
詩的にそう言い青年は苦笑しながらそこを立ち去っていった。
サディルウム帝国。レイグラード大陸において最大の勢力を誇る軍事国家でもある。皇帝を頂点とする帝政を敷いており絶対権力者として皇帝が支配している国家である。一応民意機関としては帝国議会が存在するが機能は形骸化しており権力者達が己の権力を伸ばすために日々奮闘する場所と化していた。一方一般市民は大都市においても多数の税に悩まされ生活の頻度はあまり良いものとは言えず悪事に染まるものも少なくは無かった。農村部では役人が横暴を振るい、街では闇組織が裏で跳梁跋扈していた。もちろん、はたから見た目ではそんなに悪いとは思えないであろう。しかし、定住して住み着けば誰しもが、「悪い」と思う環境であった。
「今日も景気の悪そうな雰囲気だねぇ。」
酒場でマスターをしていた女性はそう言いつつ外を見ていた。朝早くから客となっている男性が答えて言う。
「また議会で都合の悪い報告が出たらしいからな。議会は紛糾するだろうし色々揉めて、しわ寄せは俺たちに来るんだろうさ。」
手にしている飲み物をそう言った後で飲みだした。溜息をしつつマスターが言う。
「志郎はどこに行ったのかねぇ。ああいうのがここに戻ってくれば少しは良くなるんだがねぇ。」
彼女はそう言って外の空を眺めていた。
「ちっ。今日もしけたもんだぜ。」
男はそう言って、現在の状況に不満を述べた。そう、今回の稼ぎが良くなかったのである。彼は盗みを生業としていた。しかし、折角の情報を高く買ったにも拘らず肝心の獲物は大した金にならなかったのであった。
「今回はいけそうだったのになぁ。諦めたあの置物のほうがよかったのかな。」
盗みに入っても全てを盗むことは理論的に不可能である。もちろん大部隊で行けば可能であろうがそんなことをすれば実質的な手取りが減ってしまう。つまり、盗みの稼業にしてもそんなに楽に稼げるわけではないのである。男はそう呟きつつ、次のいい仕事が無いか考えつつ歩いていた。そんな所に一人の女性が近づいてきた。
「景気が悪そうだね、アイランズ。」
女性がそう言うと苦笑しつつ答えて言った。
「ああ・・・今回もあまり儲からなかったさ。お前のほうはどうだい、レミーナ。」
「こっちもだめだねぇ。ちょっと金持ちのところに入ろうとしたんだけどさ、もうちょっとで火傷しそうだったんで逃げ出してきたよ。」
レミーナと言われた女性は答えてそう言った。アイランズと呼ばれた男性は苦笑しつつ言った。
「お前、身体には気をつけろよ。これ以上傷がつくと俺以外貰うところがなくなるぞ。」
そう言われてレミーナは顔を赤くしつつ言った。
「な・・・なに言ってんだい!あたしはまだそんなに売れ残りじゃないよ!それより、戦の噂が出てるらしいね。」
「あ、ああ。上の連中も馬鹿ばかりだからな。もちろん一部はいい奴もいるが一部だけじゃな全体としてはそのうち組織が崩壊するさ。」
アイランズはそう溜息しつつ言った。苦笑しながらレミーナが言う。
「まあ、あんたもそれで軍を辞めたんだしね。」
「昔の話さ。」
そう言って、アイランズは空を眺めていた。
「で。」
男は短くそう言って部下に続きを言うように促した。部下は焦りつつも続けて言った。
「は・・・以上のことから謀略に出した部隊はすべて全滅したと思われます。」
「ふむ。レミアルト王国に潜入させたのは百人以上しかも、レベルはそう低くも無いものばかりを送り込んだはずだ。」
「は。はい、そうです。」
「それが、この短期間に全員消息不明、魔法探査をしても全くの生命探知も出来なくなった、そう言うのだな。」
「はい・・・」
「さて、どうすべきか。諸将に尋ねる。いい提案があれば報告せよ。」
そう、彼は皇帝であった。レミアルト王国に潜入した謀略部隊が全滅した報告を受けていたのである。ある将軍が進み出て言った。
「全員ともなればちょっとした取締りとは思えません。こちらと全面的に構える意思があるとも思われます。こちらとしても然るべき準備をすべきかと思われますが。」
「ふむ。将軍はそう言うが皆の意見はどうかな。」
皇帝がそう述べたので他の一名が進み出て言った。
「一言述べさせて頂きます。ただの戦闘部隊が全滅したのであれば無能とでも謗られますが、潜入部隊はアジトがばれでもしない限りまず全滅の可能性は低く、しかも、例えばれても通常はすぐ逃げ出すので全滅はまずありえません。つまりこれは、余程の取締りが行われたか、私たちの理解を越える何かが働いていると見るほうがよいと思われますが。」
「為るほどな。確かに、貴公の言うことももっともだ。他にもあるかな。」
他の一人が進み出て言った。
「現時点では、情報が不足しております。まずは軍備を整えつつ再度諜報員を派遣し諜報するのが宜しいかと思われますが。」
「ふむ、とりあえずはそうなるか。皆の者、とりあえず現行ではこの意見を持って最善と為す事とする。諸将はそう理解してくれたまえ。」
皇帝はそう結論付けた。会場に居る全員が恭しく敬礼した。
「陛下の言われることはもっともだが、こう言う事態だ、素早く軍事作戦を遂行すべきだと思うのだがな。」
皇帝の前から退出した男の一人がそう言う。それに答えて別の男が言った。
「しかし陛下の言い分ももっともだ、一番の懸案は補給がいまだに悪すぎることだ。レミアルト王国方面は帝国に協力的な都市がないからな。補給路の確定が苦労する。」
「確かにな、其れで何時もお前には苦労を掛ける。」
「分かっていても掛ける癖によく言うよ。」
そう言って、男達二人は笑いながら歩いていった。
レミアルト王国筆頭将軍であるレオンハルトは執務室で仕事に追われていた。
「ここまでになるとはな。これで戦争状態になったら俺は無事に家に帰れる日は来なくなりそうだな。」
苦笑しつつレオンハルトは言った。副官である女性が言う。
「閣下、今からそんな不吉なことは言いなさいますな。エミリア殿が悲しまれます。」
「ああ、すまんすまん、こうも色々物事が進展するとどうしても都合が悪く考えがちになるな。志郎たちが羨ましいよ。」
レオンハルトは遠慮しつつそう答えた。副官が答えて言う。
「志郎殿でしたら今晩閣下のお宅に参られると伺いましたが。」
「あ、ああ。エミリアにあいつの奥さんと会わせる約束でな。昔から志郎が好きだったあいつだから是非あいつの妻が見たいと言い出してな。」
苦笑しつつレオンハルトは言った。副官は微笑みながら言う。
「エミリア様は一途な方ですから・・・それはそうと閣下、新しいご夫人は探されないのですか?」
そう言われてレオンハルトは苦笑する。
「俺はシャリー一筋だよ。他の女に現が抜かせるほど器用じゃないからな。それに、エミリアが納得しない限り俺はそんな女性は選ばないだろう。それよりも、ライザお前のほうが相手を探すほうが先だろう。」
副官は自分が言われたのを聞いて顔を赤らめつつ答えて言った。
「わ、私はそんな・・・閣下のお傍で働けられるだけで満足です。」
そう答えるライザを見てレオンハルトは苦笑した。そして彼は溜まっている仕事をこなし始めた。
「流石はレミアルト国王だな。こう言う事態に対してもしっかり準備をしていたか。」
志郎は感心しつつそう言った。アーレフが答えて言う。
「そうですね、父上は南方が安定化すると帝国は我々のほうに矛先が向くことを予期されていましたから。もちろん、先見の長の言葉もあったでしょうが冷静に分析できる者ならば父上の判断が最良だということは分かるはずです。」
「そうね。当面の問題は其れでいいけれど、いざ開戦となったらどうしましょうかね。」
神がそう言った。志郎が言う。
「俺は参戦したいんだがな。」
苦笑しながら神が言う。
「あなたや惺はそれでもいいけれどあたしはね・・・力をセーブしながら戦うってのもなぁ・・・かといって使いすぎるのも納得は出来ないしなぁ。」
そう言ってるのをみてアーレフと志郎は苦笑した。晶が言う。
「ということは、もう少しすれば戦争が起こるということですか?」
「こちらが起こす気はありませんが、帝国側ではもう準備を始めていると見て間違いないでしょうね。そう言う意味ではほぼ確定事項でしょう。」
アーレフが答えてそう言った。晶が悲しげに言う。
「始まってしまうのですか・・・皇の時でもそうでしたが戦争は辛いです。」
「まあ、巻き込まれるものにとっては辛いな。俺とかは好きで首を突っ込むほうだからいいが、関わりたくない者にしては迷惑極まりないからな。」
志郎がそう言う。苦笑しつつ神が言った。
「もし、どうしてもというのならば、だけど、一瞬で帝国を滅ぼしましょうか?」
衝撃的な発言に晶は慌てた。
「ちょ、ちょっと神さん待ってください。帝国内にも真面目に働いている方も居られます。十把ひとからげにそうやるのはどう考えてもおかしいと私は思います。」
そう言うのを見て神は微笑みつつ言った。
「良く分かってるじゃない。あたしもそう思うから、ちょっと一般兵よりもすごいくらいで動いてるのよ。」
「ちょっとね・・・。」
志郎が突っ込みつつそう言った。神が不満げに言う。
「なによ、志郎文句でもあるの?」
「いろいろと。」
志郎はそう答える。神はショックを受けつつ言う。
「ぐ・・・いいもん、あたしもぐれてやる。」
「ちょっと神さん・・・」
晶は焦りつつ言った。ミル達は苦笑しつつそれを見ていた。惺が言う。
「どちらにしてもアーレフの式が終わってから色々揉めそうだな。」
その意見に全員が頷いた。
帝国首都サディルウムでは大々的に宣伝が為されていた。「北伐」の布告が為されていたのである。今から約一月後、帝国軍の半数を持って大々的に侵略をすると言うものである。その報告は一般市民にまでに広められていた。つまり、諸外国にまで広めるのが目的なのである。
「また戦争かい。」
街中で女性がそう言ってきた。男は答えて言う。
「今度は北伐らしい。肥沃な土地を狙うらしいな。」
「どの道そんなことをしてもうちらの生活が良くなるわけじゃないのにねぇ。」
女性はそう言った。苦笑しつつ男は答えて言う。
「まあ、権力者は余程有能でない限り俺ら一般市民の事なんか考えないさ。」
「このままじゃ、望みは無いのかねぇ。」
女性は嘆きつつ空を見上げていた。
セレナは何時も自分の部屋に来るドレスの仕立て人と話をしていた。
「こんなのはどうかしら?彼女きれいな黒髪だし、似合うと思うわ。」
それに答えて仕立て人が言う。
「確かに良いですわ。更に、こうされたらいかがでしょう。」
そう言って、手元にあったベールを付け足して見せる。それに満足しつつセレナが言った。
「いいわね、これを私のプレゼントドレスにしましょう。至急仕立て上げお願い致しますわ。」
「畏まりました。極力急いで仕上げます。」
仕立て人はそう言って、引き下がった。それと前後してアーレフがやってくる。
「おや、さっきのはドレスの仕立て人ですね。セレナ、また新しいドレスですか?」
アーレフがそう言う。セレナは答えて言った。
「あら、お兄様。私のではありませんわ。先ほど、彼女と話し合って晶さんに差し上げるドレスの相談をしていたのですわ。」
「それは楽しみですね。あ、そうそう、セレナ、済みませんが晶さんと暫く御相手して頂きたいのです。私はちょっと仕事が増えそうなので晶さんとゆっくりする時間が少しなくなってきそうなのですよ。御願い出来ますか?」
アーレフがそう問うとセレナは笑顔で答えて言った。
「分かりましたわ、お兄様。では、私のほうから晶さんのお部屋に参りましょう。」
「有難う。御願いしますよ。」
アーレフは微笑みながらそう言った。セレナが疑問に思いつつ言う。
「そういえば、惺さん達はどうされるのでしょう?」
「ああ、確か・・・惺さんはラミュアさんと一緒に兵士達と修練を続けるそうです。ミルさんはレネアさんと、まあ何時も通りですね。志郎さんは神さんや玲さんと一緒にレオンハルト将軍のところに行かれるようですよ。」
アーレフはそう答えて言った。セレナはそれに答えて言う。
「そうですか、では、晶さんと話が合えば惺さんのところに遊びに行こうかしら。」
「それもいいかもしれないですね。ちょっと気落ちしているので励ましてあげて欲しいのです。」
アーレフは済まなそうにそう言った。セレナは答えて言う。
「分かりましたわ。それでは行って参ります。」
そう言ってセレナは足早に出て行った。アーレフは微笑みつつその姿を見守っていた。
「いらっしゃいませ。御待ちしておりました。志郎様も、ご家族の方もどうぞお入りくださいな。」
エミリアはそう言って一行を迎え入れた。志郎が苦笑しつつ言う。
「おいおい、エミリアがわざわざ迎えに出てくるなんてどうしたんだ?」
エミリアはくすくす笑いながら言った。
「志郎様が奥様を連れて来ると聞きましたからね。是非拝見したいと思いましたのよ。」
「え?あたし?」
神が驚きつつ言う。エミリアが微笑みながら言う。
「はい。素敵な方ですわ。是非こちらにどうぞ。」
そう言って、エミリアは一行を案内していった。応接間に入るとレオンハルトが待っていた。
「よく来たな志郎。神さんや玲さんもようこそ。拙い我が家だが楽しんでいってくれ。」
レオンハルトがそう言う。答えて神が言った。
「有難う。今回はお招き感謝するわ。」
「有難う御座います。私などが来ても宜しかったのでしょうか。」
遠慮しつつ玲がそう言った。エミリアが答えて言う。
「何を言うんですか。あなたのような方が来られて私は嬉しいですわ。是非お友達になってくださいな。」
そう言って、エミリアは玲の手を取った。玲はエミリアに微笑を返しながら答えた。
「有難う御座います。私でよければ是非。」
「あら、子供同士早速意気投合かしらね。」
神がそう言う。志郎も微笑みながら見ていた。
「エミリア、彼女が神さん。志郎殿の奥さんだ。」
レオンハルトはそう言って神を紹介した。
「えっと・・・こちらが玲さんでこちらが神さんですよね・・・?」
エミリアはやや当惑しつつそう言った。志郎はそれを見て苦笑しながら言った。
「二人はよく似てるからな。見間違えそうになっても無理は無い。髪の色が同じなら恐らくすぐは見分けがつかないくらいだろうからな。」
「そう言われれば・・・確かにそっくりですわね。親子以上に似ていらっしゃいますわ。」
エミリアがそう言う。苦笑しつつ神が答えた。
「まあ、親子ではあるけれど普通の親子とは事情が違うからねぇ。」
「えっと、それはどう言う事なのでしょう?」
エミリアは言われた事が理解できずに問いただす様に言った。神が答えて言う。
「あら?志郎、説明しなかったの?」
「あ、いや・・・説明はしたんだが俺の説明では理解してくれるのは難しくてな。まぁ、今回神が来れば一番手っ取り早いかと・・・。」
苦笑しつつ志郎がそう言った。呆れつつ神が言う。
「なによ、それって、あたしに丸投げって事じゃない。」
「あ~、いや、そうとも言うんだが・・・すまん。」
志郎はそう言いつつ謝った。それを見ながらエミリアが言う。
「本当に仲むつまじいのですね。羨ましいですわ。」
「え?そうかな・・・そう見える?」
神がそう問いただす。レオンハルトとエミリアは肯定して頷いた。
「まあ、それは兎も角として。神さん、ご質問があるのですが宜しいでしょうか?」
エミリアが問い尋ねる。神は答えて言った。
「どうぞ、あたしが答えれる事なら何でもいいわよ。」
「それでは、遠慮なく。志郎様に惹かれた初期の理由と御一緒になるきっかけについて伺いたいですわ。」
「え・・・」
唐突な質問に神は言葉に詰まってしまった。戸惑いながらも答えようとする。
「その・・・何と言うか・・・正直に言わなきゃ駄目かしら?」
その質問にエミリアは頷いて答えるように神に勧めた。溜息を一つ吐きながら神が言う。
「あなたも、志郎に気があったのね。そうね、初めは志郎があたしの立場を知ってるにも拘らずあたしに「寝るのか?」と聞いたからよ。」
その答えにエミリアはきょとんとする。
「えっと・・・寝る、ですか?」
「ええ。」
「どうして、寝ることを聞かれたことが興味になるんですか?」
エミリアの質問にレオンハルトが苦笑した。そして言う。
「それはなエミリア。ただ単に寝ると言う意味じゃないんだ。男と女が愛し合うために寝ると言う意味なんだよ。」
それを聞き、エミリアは顔を赤らめつつ言った。
「まぁ!志郎様、神さんにそんな事をお聞きになったんですか?」
苦笑しつつ志郎が答える。
「ああ・・・そういえば言ったなぁ。疑問に思ってつい、な。あのときに神の顔は可愛かったぞ。」
「な・・・この馬鹿!」
神は顔を赤らめつつ志郎に向かって言った。志郎が苦笑しながら言う。
「そうそう、こんな感じの顔になってな。」
「く・・・言ってなさい。知らないんだから!」
神ははぶてつつそう言った。エミリアは感心しながら見ている。そして言った。
「まぁまぁ、お二人とも当てられますわ。為るほど、そう言う事でしたのね。では、神さん。御一緒になるきっかけと為ったのはどういう事だったのでしょうか?」
「そうね。一緒に居てあたしの気持ちを理解しようとしてくれた事と、志郎が言った言葉が最後にはあたしの意思決定になったかな。」
神はそう答えた。志郎が問いながら言う。
「俺の言葉?何を言ったかな。」
「それはね。「なに、こいつを失うことに比べれば、造作も無いことさ。」と言う台詞よ。」
と、神は言った。志郎は思い出しながら言う。
「あ、グラムの前で言ったあの台詞か。」
神は頷いた。そして言う。
「すごく嬉しかったの。あたしを見つめてくれる人が居るってことが。基本的にあたしは、この世界では一人だ、と思っていたから。だから、嬉しかった。そして手放したくなかった。」
顔を赤くしながらしかしとても幸福そうに神は答えていた。それを見ていたエミリアが言う。
「羨ましいですわ。私もそんな出会いや心を通わせる殿方を見つけたいですわ。」
「おいおい、エミリア・・・お前まだ16だと言うのにもうそこまで進んでるのか・・・。」
苦笑しながらレオンハルトが言う。エミリアは憤然としつつ言った。
「まぁ!お父様!私だって素晴らしい殿方と結ばれてお父様や志郎様の様に幸せな家庭を築く楽しみを得たいですわ!志郎様はすでに神さんのものになっておられますし・・・」
「分かった分かった・・・全く言い出すと押さえが利かないのはシャリーと同じだな・・・。」
苦笑しながらレオンハルトが言う。微笑みつつ志郎が言った。
「そういえばよく似てるな。確か、お前が大佐に特進した時だったな。シャリーが、パーティーで・・・」
「ちょ、ちょっと待て志郎!それは・・・。」
レオンハルトは焦りつつそう言いながら志郎を遮った。エミリアが疑問に思いつつ聞く。
「どうなさいました?お父様。」
「あ、いや、その・・・。」
歯切れ悪くレオンハルトが言う。苦笑しながら神が言った。
「まあ、思い出としては美しいけど披露するには恥ずかしいってところよね。」
そう言われて、レオンハルトは素直に頷いた。エミリアは呆れつつ言う。
「もう、お父様ったら。自分はそんな素敵な物語を描いておいてあたしにはまだ早いだなんてずるいですわ。」
「あ、いや、そうは言ってもだな・・・。」
レオンハルトはどう言っていいかわからずしどろもどろに答えて言っていた。神が思いついたように言う。
「そうね、まずはお友達で同じ年くらいの男の子でも作ればいいんじゃないのかしら。エミリア。」
「まあ!名案ですわね。でも、最近出歩いていないもので中々そういう方には出会えてませんのよ。」
納得しつつエミリアは答えつつ疑問も呈してそう言った。神が答えて言う。
「気持ちは分かるけど、焦らないことも大切ね。あたしだってこんなに早く相手が見つかるとは思ってなかった訳だし。」
「そうですわね。今回の事でお父様も少しは真剣に私の事を考えてくださるでしょうし。」
エミリアはそう言いながらレオンハルトのほうに向いて軽くウインクをして見せた。レオンハルトは溜息をしつつ志郎に言う。
「あれだよ。シャリーとそっくりだよな。」
「本当だな。よく似てきたなエミリアは。」
志郎は苦笑しつつ眺めていた。
空はどこでもその姿を地上に映し出していた。
帝国の思惑、神達の様々な思い。
人々や「神」の思惑をよそに物語は進んでいく。
次回「アーレフと晶の結婚式」。
貴方にも良い風が吹きますように。