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玲(あきら)

レミアルト王都でしの達は何を見る事になるのか・・・。

小説 風の吹くままに

第十三章 (あきら)



レミアルト王都の街の朝は早くから賑やかである。人口数十万は行こうかと言う大陸有数の巨大都市である。早朝と言うより夜のうちからいろいろな人たちが働いている。夜警、早朝の仕事のための準備に奔走する人々、夜勤で遅くまで勤めた人など様々な人々が昼間の喧騒とは違う意味で縦横に働いていた。魔法の明かりが灯り、王都は夜も暗くはなかった。しかし、やはり夜は闇の側が優勢になる世界である。往々にして悪事を働く連中も堂々と跋扈ばっこするものである。そこにもそういう連中が居た。


「で、どうだった?」


男が言う。どうやらこの組織では頭目らしい男だった。部下らしい男が答えて言う。


「は、警備が厳重で今のところ中々入る隙がございません。出入りする人間のチェックも厳しく、幾人か足がつかないように試しましたが全て失敗しました。」

「ふむ・・・やはり、からめ手で行くしかないのかな。確か、アーレフ王子に一緒についてきた旅人が居たと言う報告だったな。」


男は報告から新しい情報を元に新しい作戦を考えるべく手下から情報を聞き出そうとしてそう言った。手下は答えて言う。


「は。数人が城に入った模様です。城内に居る情報用の草の情報ですと四十台の男、二十台から十台の女性が多数、後エルフが一名居ましたがどうやら彷徨う森のレネア姫のようです。」

「あいつか、あいつは好かん。あの性癖には辟易する。まあいい、顔は分かっているのか?」


男はそう尋ねた。手下は答えて言う。


「は、全てではありませんが数人は判明しており、魔術用紙による写真があります。」

「よし、それを元に、街に出てきたそれらの人物の確保を狙うとしよう。次の作戦はそれからだ。本国にはその点を連絡しろ。」


男はそう指示を飛ばした。手下は返事をして立ち去る。男は苦笑しつつ言った。


「流石はレミアルト王都というところか。こんなところでも邪魔をするな。ランカスター。」


そう言って、男は闇の中に溶け込んでいった。






「いい天気ね。」


(しの)が背伸びをしながら言う。玲が答えて言う。


「そうですね、母上。で、どうされますか?」

「そうねぇ、玲。あなたならどうしてみるかしら?」


(しの)が逆にそう聞いた。玲は暫く考えた後でこう言った。


「闇の波動を利用してそれが多く作用してる場所に移動してみようかと思います。やはり、そういう考え方をする人はその方面の力を利用しようと考えると思いますので。」

「いい答えだわ。実はね、そういう利用方法があるからあなたを創ったのよ。もちろんそれだけじゃないけどね。」


(しの)はそう言った。玲はふと考えながら言う。


「なんだか、適当な言い方ですね、母上。」

「え?いや、そんなことはないわよ、うん。」


(しの)は焦りながらそう言った。玲は疑問の眼差しで(しの)を見る。(しの)は苦笑しつつ言った。


「玲、そんな目で見ないでよ・・・いや、創るときはそりゃ、深くは考えなかったけど・・・出来上がったらいろんな活用方法が見つかったのは事実だから、ね?」

「まあ、そういうことにしておきます。志郎様が聞かれたら嘆かれますよ?」


玲は苦笑しながら言った。(しの)は言う。


「う・・・それは止めて・・・。」


(しの)はばつの悪い顔をしながら街に繰り出し始めた。玲がその後ろを行く。


「朝から賑やかですね。」


玲がそう言う。(しの)も頷きながら答えた。


「流石王都よね。しかもきちんと区画整理されてるから治安がすごくいいわ。この調子なら玲の探索も楽じゃないかな?」

「はい。かなり限定できると思います。」


玲はそう答えた。(しの)は微笑みながら言う。


「じゃあ、順番に怪しい場所を調べていきましょうか。」

「はい。」


玲はそう答えて、「力」で調べた怪しい場所を調べて回ることにした。






志郎は迎えの馬車に乗りレオンハルトの屋敷に来ていた。彼の屋敷はそれなりに大きく彼の努力が良く分かるものだった。


「あいつも頑張ってるな。俺は根無し草だったが、あいつは家を守るために頑張っていたからな。」


志郎はつい、そうぼやきながら言っていた。応接室に居ると女性が入ってきた。そして言う。


「本当に志郎様ですわね。お久しぶりですわ。」


そう言って挨拶をする。志郎はふと考えてようやく気づく。


「エミリア。エミリアか。これは驚いた。たった二年程度なのに美しい女性になったな。」


志郎はそう言う。エミリアと呼ばれた女性はそのまま志郎に抱きついた。そして言う。


「昨晩父上から聞きましたわ。何でも、私ではなく、別の女性の方と結婚されたとか。」


そう言われて志郎は焦りつつ答えて言った。


「あ・・・いや、それはだな・・・その・・・なんと説明したらよいか・・・。」


志郎がしどろもどろになっていると、奥から笑い声が聞こえた。そして声の主が入ってくる。


「やはり、そういう展開になるか。日頃から志郎にエミリアはゾッコンだったからな。志郎、覚悟しろよ。こいつは中々許してはくれないぞ。」


志郎は苦笑しつつ言う。


「おのれ、レオンハルト。こうなると踏んで仕掛けておいたな。」

「もちろん。長年の悪友が来るんだ。もてなしはしないとな。」


レオンハルトは悪戯小僧のように言う。志郎も笑っていた。


「さて、それも含めてお前達に説明しないとな。エミリアも聞いてくれ。」


そう言って志郎は話し始めた。






「我々とですか?」


隊長はそう質問していた。質問されていたのは(しずか)である。(しずか)は頷きつつ答えて言った。


「ああ、昨日のようなことはせず、皆に合わせて修練をしたいと思っている。そういうやり方だと俺達の為にならないと思われるかもしれないが、実は俺なりに考えがあって申し出ていることなのでよければ是非御願いしたい。」

「私も、是非見て居りたいと思いますわ。どうでしょう?」


セレナがそう言い添える。隊長は少々悩み、兵士達はあれこれ言い出した。


「昨日のはすごかったからな、確かに、我々としては嬉しいが・・・」

「我々でいいのだろうか?アーレフ王子の来賓なのに。」

「出来るならば、ご教授あやかりたいが・・・」


隊長が結論を出して言う。


「私達としても、あの素晴らしい数々の技を見せられたものとしてはご一緒したいと思います。たっての願いですし、またセレナ様や私の部下達も希望しています。私からも是非御願いします。」


それを聞き、(しずか)は喜びつつ隊長の手を握りながら言った。


「ありがとう、俺頑張るよ。」


それを見ながら、皆が喜び、喚声を上げた。






「レネアちゃんどこに行くんですか~?」


ミルはレネアを追いかけながらそう言っていた。レネアは、城内を目的地に向けて歩いていく。


「ミル様~こっちですよ~。」


そう言って、ミルを案内していた。二人は、やや見通しが悪いが静かで気持ちのいいテラスの前に来ていた。


「ここは~?」


ミルが尋ねる。レネアが説明して言う。


「ここはですね~。王族の方や来賓の方が休憩を楽しまれる場所だったんですよ~。」

「だった?」


ミルが疑問に思いながら聞いた。レネアが答えて言う。


「城を改装しているときに、ここは形状は残されたんですが使われなくなったんです~。ですから今は、城内にいる子供の遊び場として、そして~、あたし達のような者のために、あるんですよ~!」


そう言いながらレネアはミルに飛びついた。ミルは勢いで倒れこむ。


「ちょ、ちょっとレネアちゃん、まさか・・・ここでやる気じゃないでしょうねぇ。」


ミルは焦りつつそう言った。レネアはけろっとして答える。


「当然ですよ~。ミル様~。覚悟してくださいね~。」

「あ、やだ・・・恥ずかしいったら~。レネアちゃん、止めて~。あ・・・。」


ミルはそう、途中まで訴えたが、結局は情事にハマっていくようであった。






「ここは違うようですね。」


玲はそう言う。(しの)も頷きつつ言った。


「そうね、恐らく魔道の研究か、何かだわね。」


二人はそう言って怪しげな場所をいろいろと捜し歩いていた。玲の力で「闇」の力を探り当てればより範囲が短縮できると踏んだからである。そう、アーレフたちを狙う一連の一味を。


「次はどこかしらね。」


(しの)が尋ねる。玲が「力」を使いながら答えて言う。


「こちらみたいです。母上。」


そう言って玲は歩き始めた。(しの)もついて行く。しかし、それに追従する影が居た。






「ほう。例の一行の女性が二人、街に居ると?」


男はそう言った。部下が答えて言う。


「はい。周囲を探していた「影」の一人がそう、報告をして参りました。入手した写真の中の一名と同一でした。もう一名はその写真の女性に瓜二つでしたので縁者と思われます。」

「なるほどな。よし、動けるものを集めろ。最低でも二十名以上だ。その二人を確実に確保するぞ。」


男はそう命令する。手下は肯定の返事をして指示をすべく素早く立ち去っていった。






「ほう・・・お前は嘘をつく男ではないが・・・いきなりそういう話はにわかには信じられないな。」


レオンハルトはそう言った。苦笑しつつ志郎が言う。


「無理もないさ。かく言う俺だって、(しの)から説明を受けたときは理解できなかったからな。まあ、俺も馬鹿だったって事さ。お前のように。」

「なに?俺はお前ほどじゃないぞ?」


レオンハルトは、意見に対抗しつつそう言った。苦笑して志郎が言う。


「よく言うよ、シャリーと一緒になるときに、お前何と言ってたか忘れた訳ではあるまいな。」

「いや・・・あれはだな・・・。」


レオンハルトはそう言って戸惑う。エミリアは疑問に思い父に問い尋ねる。


「お父様?お母様となんと言われたのです?エミリアも興味がありますわ。」

「う・・・いや・・・くそ、志郎め。さりげなくエミリアを使って俺に矛先を変えやがったか。」


レオンハルトが苦々しく言った。呆れつつ志郎が言う。


「そうは言うが、事実は隠せんぞ?まあ、俺の事情も説明はするが、理解できるかは別問題だがな。おれ自身ですら始めは戸惑ったくらいだし。」

「まあ、いい。エミリア、説明するからそこにお座り。」


レオンハルトはそう言って、エミリアを促し、話を始めた。






(しずか)はラミュアと一緒に兵士達と修練をしていた。二人はそれぞれ複数の兵士についてもらい見事なまでの武技を披露する。見学している兵士達からは感嘆の声が出ていた。


「素晴らしい、流石は志郎殿の娘さんだ。」

「こちらのお嬢さんも素晴らしい。動きに無駄がない上に可憐だ。」

「勉強になるな。なるほど、あの時はこうが効率的か。」


そんな感じでいろいろ言われていた。セレナも感嘆しながら言う。


「あたしもこんな風にやりたいですわねぇ。でも父上が許しては下さらないでしょうね。」


そう言っているのを聞いて隊長が苦笑した。


「それだけは控えてください、姫様。流石にそれは、私たちとしても見逃しかねますので。」

「そうですわね。今は(しずか)さん達のを見ることで我慢いたしますわ。」


セレナはそう言って(しずか)たちの様子をじっくりと見ていた。






「は・・・レネア・・・もう・・・」


そう言ってレネアはミルの身体に埋もれる様に倒れこんだ。ミルが苦笑しつつ言う。


「相変わらずですねぇ。でも、レネアちゃん可愛いですよ~。」


ミルはそう言ってレネアを眺めていた。二人は静かにそこで過ごしていた。






「だんだん五月蝿いのが増えてきたわね。」


(しの)がそう言う。玲が頷きつつ答えて言った。


「母上。どうしましょう?目標を特定の場所に集めますか?」

「そうねぇ。玲、あなたはどうしたいと思っている?」


(しの)が逆に玲に聞いた。玲はしばらく考えてから答えて言う。


「そうですね、雑魚が一杯来るでしょうからまずはそれの大半を始末して、その後敵の策略にかかった振りをして、本元に近い人物が出たところでそれを確保しつつ掃除をする。と言うのは如何でしょうか?」


(しの)は頷きつつ答えた。


「上出来ね。いい方法だと思うわ。後はあたし達が如何に役者が出来るか、よね。」

「はい。頑張ります。」


玲は力強くそう言った。二人はそうしてから、やや狭い路地に入り行き止まりになる方向へ進んでいった。二人は行き止まりとなる広い場所に来ると、(しの)がやれやれと言った様子で言った。


「あら、玲、ここは行き止まりじゃない。迷ったのかしら?」

「そうかもしれないです。申し訳ありません、母上。」


玲がそう答える。そんな時、後ろからばらばらといかにも怪しげな集団が現れた。


「何者ですか?あなた達は。」


(しの)がそう言う。集団の一人が言う。


「我々が何者かはどうでもいいことだ。お前達二人は私たちと一緒に来てもらおう。もしご一緒できぬと言うならば強制的に来て頂く。」


そう言って、じわじわと詰め寄ってくる。玲が前に出て言う。


「無作法にそんなことを言っても聞き従えません。お帰りなさい。」






しかし集団はそんなことは無視して二人に襲い掛かった。それで、事は済むはずだった。そう、女性二人を捕まえる任務である。多少暴れたとしても、それは造作もないはずであった。が、襲いかかった瞬間、仲間が次々と倒れていく。


「な、どうした?なぜ倒れる。」


驚いた一人が仲間に向かってそう言う。ふと、見ると黒い髪の女性のほうの目が光っていた。片目が血の色に輝いていたのだ。


「な・・・なんだ、お前は!」


男はそう言っていた。すでに、恐怖に包まれ足がすくんでいる。思うように動けない。女性が言った。


「愚かな・・・我等の力も理解できずに襲うか。さすれば、相応しい滅びをくれてやろう。」


そう、女性が言うと「闇」が現れた。そう、そう呼ぶしかないもの、「闇」だ。光を通さない「もの」が現れたのだ。闇と呼ぶしかない。それは、倒れていた仲間を次々と飲み込んでいく。飲み込まれた仲間は男の前から「消えて」いった。


「あ・・・あ・・・あ・・・。」


恐怖の大きさのあまりに男はすでに言葉すらまともに発せられなくなっていた。もう一人の女性が言う。


「こうもうまく行くとはね。上出来よ玲。そいつは「闇」に溶かさずに置いておきなさい。あたしが調べるわ。」

「分かりました、母上。」


女性はそう答えた。そしてもう一人に女性が男に触る。そうして、女性は男を「調べ」始めた。






「まあ・・・。」


エミリアはウットリしつつレオンハルトの話を聞いていた。そして答えて言う。


「素敵ですわ、お父様。お母様とのそんな過去が。また一つ、エミリアの自慢話が増えましたわ。」

「あ、いや、できればこの話はここだけにしてくれないか。シャリーもあまり口外するのを嫌がっていたんだ。」


苦笑しつつレオンハルトが言う。理解できずにエミリアが言った。


「どうしてですの?お父様。素敵な話じゃ御座いませんか。私もそんな愛を培いたいですわ。志郎様はもう相手がいらっしゃいますし。どこかにいい殿方は居ませんかしら?」


苦笑しつつ志郎が言う。


「その辺にしておいてくれ、エミリア。レオンハルトも大事な思い出なんでな。できる限り大事な二人の思い出にしたいんだよ。俺が言い出さなければ良かったな。済まないがこれ以上は父上を虐めるのは止めてやってくれ。」


仕方が無い、といった表情でエミリアは答えて言った。


「そうですか。お母様に怒られてもエミリアが困りますから、このあたりで私は失礼しますわ。志郎様、今度奥様をお連れくださいね。」


そう言いつつ、エミリアは部屋を後にした。苦笑しながら志郎が言う。


「本当にシャリーに似てきたなエミリアは。」

「ああ・・・。」

「もう何年になるかな。」

「八年だ。」

「そんなになるのか・・・。」


そう、レオンハルトの妻シャリーはすでにこの世のものではなかった。病で他界していたのである。レオンハルトは苦笑しつつ言葉を続けた。


「まあ、あいつには感謝している。エミリアも出来たし何より俺にかけがいのない思い出をくれた。これだけは何にも変えられない。」

「そうだな。俺も今、それを実感しているよ。」


志郎はそう答えた。レオンハルトは顔をのぞかせつつ言う。


「それだよ、志郎。お前ほどの男が、というか、武道馬鹿だったお前がそこまで惚れ込むってのはどんな人か是非見てみたいぞ。」

「まあ、そのうち嫌でも見れるが・・・言っておくが常識は通用しないからな。」


志郎が苦笑しつつ言った。興味深げにレオンハルトが答えて言う。


「それはそうだろう。何せ、あの志郎が惚れる相手だからな。」

「おいおい・・・えらい言われようだな。俺ってそんなに無骨に見えたのかな。」


志郎が苦笑しつつ言う。レオンハルトが確信に満ちて言った。


「何だ、自覚がないのか?まぁ、そこに惚れる女も居るから人生分からないんだがな。」

「言ってろ・・・。冗談抜きで、吃驚しても知らないからな、俺は。」


志郎はそう答えて言った。そして二人で笑っていた。






「こういうのも楽しいな。」


(しずか)はそう言った。ラミュアも答えて言う。


「新しい発見がある。」


そう言われて、(しずか)も賛同しながら頷いた。二人は修練を続けていた。兵士達は交代で彼女達の相手をしているのだが、一人、また一人と体力がつきへばっていく。すでにあたりにはくたくたになった兵士が沢山居た。感心しつつセレナが見ながら言う。


「お二人ともすごいですわね。まだまだ元気ですわ。」


隊長も感心して言った。


「すごいとは聞き及んでいたが、ここまでとは・・・。兵士達の刺激にはいいが、今後はきちんと計画しないと兵士達が耐えれなくなりそうだな。」


そう言って、隊長はメモを取り出してあれこれと書き込んでいた。






「あ・・・またレネア寝ちゃいましたね・・・。」


レネアは、赤面しつつミルにそう言った。ミルはやさしく言う。


「まだ休んでてくださいね~。うんと休んでからまた楽しみましょう~。」


そう言われて、レネアは頭を撫でられた。ミルに顔を埋めながら「はい。」とだけ答えた。彼女の耳が真っ赤になっているのにミルは気づいた。そして微笑む。そよ風がそこを吹いていた。






「よし、調べ終わったわ、玲、こいつも処分していいわよ。」


(しの)が男から情報を調べ上げてから、無情にもそう言う。男はすでに常軌を逸しておりすでに言動はおかしくなっていた。玲はそう言われて答えて言う。


「分かりました。」


玲はそう言うと「闇」を使い、男を「消した」。


「さて、本拠地に行きますか。いい男が居るといいけどね。」


(しの)はそう言った。玲は不思議に思い言う。


「なぜ、いい男が居るほうがいいのですか?」

「悪い男よりはいいでしょ?」


(しの)があっけらかんと答えて言う。苦笑しつつ玲は(しの)について行った。






男は連絡が途切れたことを不審に思っていた。たかが女二人の確保に何か不手際でも?そう考えたが、思い当たる節がなかった。無理もない、相手が普通の女性でないとは気付き様がないからである。


「まだ連絡はないのか?」


男はそう言う。傍に居る部下は返事をして言った。


「は。いまだに何も。手配致しましょうか?」

「いや、もう暫く待とう。それでも来ないなら何かあったのかもしれないな。ここは引き払うとしよう、不要な長居は無用だ。」


男はそう答えて言った。そう、無駄に長居をしてはロクな事にはならないからだ。そう言っていたとき、外で喧騒が聞こえた。


「何事か?すぐに調べよ。」


傍に居た側近が言う。男は思い出したように言った。


「もしかしたら手遅れかもしれないな。」

「は?」

「いや、なんでもない。仔細の報告はまだか?」


喧騒がまだ聞こえる。様子を見に行った男もまだ戻ってこない。男は決断した。


「逃げるぞ。恐らくかなり状況はまずい。」

「分かりました。こちらへ。」


部下はそう言って、脱出経路へ男を案内した。






「まあ、うじゃうじゃと居るわね。玲、遠慮なく「消して」あげなさい。」


(しの)は残酷にそう言う。玲は答えて言った。


「言われなくても、もうやっていますわ。母上。」


そう、襲い掛かる男達を「闇」に包んで「消して」いる。その様子を見ていた男の一人が逃げ出していた。(しの)は目ざとくその男を追う。その時、(しの)は空間波動の兆候に気づいた。つまり敵は空間跳躍で逃げようとしているのである。にやりと笑いつつ(しの)が言う。


「そんなことはさせないわ。」


そう言って(しの)は「力」を使い始めた。






部下が魔道具を操作している。しかし、うまく行かないのか手間取っているようだ。


「どうした?故障か?」


側近が言う。部下が答えて言った。


「機械自体はおかしくありません。しかし、周囲の空間に対し制御できない何らかの「力」がかかっているらしく空間跳躍の術が使用できません。」

「何だと?ここは城でもないのに、術式結界でもあるというのか?」


部下の言葉に側近が声を荒げられて言う。部下は答えて言った。


「それが・・・我々の理解できない「力」なのです。術式結界であれば仕掛けられたのが我々でも分かります。解除は難しいのですが。しかしこれは我々では理解すら出来ません。」

「何だと・・・いったい何が・・・。」


側近がそう言っていると、後ろから声が聞こえてきた。


「教えてあげましょうか?」


女の声である。一同はそちらに振り向く。女性が二人其処には立っていた。


「ほう、これはかなりの美女だな。しかし、女性が二人こんなところまで簡単には入れないはずだが?」


男がそう言う。女性は答えて言う。


「あら?簡単だったわよ。もっと、警備とか厳しくすべきね。」


皮肉っぽくそう言う。男は皮肉を解せず答えて言った。


「全くだな、今度という時があればそうするとしよう。」

「あら、懸命な発言ね。多分今度は無いわ。」

「ほう・・・」


女性の発言に興味深そうに男は答えた。女性は続けて言う。


「玲、この男以外は「始末」しなさい。この男はあたしが捕らえるわ。」

「了解しました。母上。」


相手の女性が答えて言う。部下達は身構えた。男も構えを取る。しかし、その女性が一声を発した。


ひざまづくがいい』


その声を聞いた途端、男達は次々と腰を落とし始めた。そして力なく跪き始める。首領と思しき男はその光景を見て驚愕した。


「凄まじい、声で人を従えるか。」


そして女性は「闇」を作り始め次々と男達を「消して」いった。首領と思わしき男の前にもう一人の女性がやってくる。首領はすでに逃げることも敵わなくなっていた。


「あら、それなりにいい男ね。あなたは、王城まで行って貰うわ。拒否権は皆無よ。」


そう言って女性は首領と思わしき男に触れた。すると男は事切れたように倒れた。


「さて、ミルが居ると楽だったけどあたしが運ぶしかないわね。」


女性はそう言いつつ、軽々と男を抱えあげて去っていった。残りには何も無くただ風が吹いていた。






(しの)は容疑者としての男を抱えて城の門まで来ていた。係で対応していた兵士が右往左往している。


「で、入っていいのかしら?あたしは男を抱えたままなんだけど?」


(しの)がそう言う。兵士は戸惑いつつ言った。


「申し訳ありません。確認中ですので暫くお待ちください。私はその、一兵卒なものであなたのような方を存じ上げておらず・・・」


そう言う姿を見て苦笑しながら玲が言った。


「母上。あまり、兵士の皆さんを困惑させるのは控えたら如何ですか。昨日の今日ですし、資格のある方はともかく、一兵士では私たちを知らないのは無理もないかと。」

「そうね、まあ、心配しないでお仕事に戻っていなさいな。あたしは疲れないから。」


(しの)はそう兵士に言った。兵士の方は恐縮そうに(しの)に敬礼しながら仕事に戻っていった。


「出るときは楽だけど、入るのが面倒なことを忘れていたわね。今はそう言う状態だってのに。あたしも詰めが甘いわね。」


苦笑しつつ(しの)がそう言った。






レオンハルトの元に急報がもたらされた。兵士が急いで報告する。


「おくつろぎの所、失礼致します。先ほど城門より急報があり、街中で王族を狙った一味の首領を捕らえたとわざわざその男を提出された方が城門に来られまして、対応に苦慮しています。将軍の判断を仰ぎたくここに来た次第です。」


驚きつつレオンハルトが言う。


「何だと。すぐ城に向かう。志郎、話はまたにしよう。急用が出来た。」


志郎は話の内容から特定しつつ言う。


「君、その男を届けたというのは女性かな?」

「は。報告ではそう聞いております。それが何か?」


兵士はそう返事をした。志郎が苦笑しつつ言う。


(しの)か。玲と一緒に行ったな。」

「なに?お前の奥さんが?ということはさっきの話は・・・。」


レオンハルトが仕度をしながら驚いて言う。志郎が苦笑しながら言った。


「だから言っただろう。あいつは、そう言う奴だと。人の理解で図っちゃ駄目なんだよ。」

「分かった、とりあえずは城門に向かう。志郎も来てくれ。」

「了解した。」


二人はそう言い、城へ向かった。






(しの)は城門のところで長らく待たされていた。仕事上仕方がないとはいえ、その立場にいる者としてはやはり面白くは無い状況である。つい、こう言い出した。


「折角の大手柄なのに、この扱いは酷いよねぇ。」


苦笑しつつ、玲が言う。


「母上・・・ある意味私たちのほうがお節介を焼いている訳ですから・・・。」

「わ、分かってるわよ。でも、愚痴りたくなるのよ。それが間違いとは分かっていてもね。」


(しの)はややはぶてながらそう言った。そんな時、一台の馬車が城門のところに到着した。男が二人降りてくる。そして降りてきた男が一人、(しの)に向かって言った。


「やはり(しの)か。玲も一緒だな。」


そう、志郎であった。(しの)が驚きつつ言う。


「志郎?どうしてここに?」


それに答えて、もう一人の男性が言った。


「そなたが志郎の奥様か。私はレオンハルト。国王の恩寵により将軍の地位を与えられている。志郎の友人でもあるのだ。今日は一緒に談笑をしていてな、そなたがわざわざ国王一家の凶事を未然に防いだ報を聞いて急いで来た次第なのだ。」


それを聞き、(しの)は多少驚きながらも答えて言った。


「それはそれは、わざわざご親切に、丁寧な挨拶を有難う御座います。しかし、あたしに対してはそのような丁寧な話し方の必要はありませんよ。あたしもしないと思いますので。志郎と同じように話してくださいな。」


苦笑しつつレオンハルトが志郎に言った。


「本当に、お前の言ったとおりだったな、志郎。人の理解では図れない方のようだ。」


それを聞き志郎は苦笑した。(しの)が言う。


「で、この男はどうしましょうかね?」


答えてレオンハルトが言った。


「そうだな、まずは尋問するべく所定の部署に運ぶとしよう。志郎、(しの)さん、そしてお嬢さん、玲さんだったかな。一緒に来てくれ。」


そう言われて、三人は頷きレオンハルトについて行った。






四人はある部屋に入った。そこは監査部が所属する部屋で監査部とは、城内の治安や情報管理、また諜報など正義の味方的なことから公には出来ない「闇」に属することまで「陰」で働く非常に重要な部門の一つである。その部屋で、四人は男を椅子に縛り上げ、意識を戻させた。


「お、気づいたようだな。」


男を見て志郎がそう言った。気づいた男は周囲を見回す。そしてその後呟くように言った。


「そうか。私は捕まったのか。」

「そうだ。ここは城の中にある監査部の尋問室だ。魔法等の特殊な連絡手段はほぼ出来ないと思ってもらおう。」


レオンハルトがそう言う。男は何かを試したようで、暫くしてから答えて言った。


「そのようだな。私の連絡手段は使えなかった。」

「では、まずお前の名前から聞こうか。」


レオンハルトがそう言うと男は答えて言った。


「グレイハワード。」


男が答えたのを見てレオンハルトはやや驚いた様子で言った。


「ほう、自分から名乗るとは珍しいな。普通、こういう場所では言わない輩が多いのだが。」

「別に言ったところで問題はないからな。それに、あまりに不利になる情報は元々私は言える様には出来ていない。」


男はそう落ち着いた調子で答えて言った。それを聞き、レオンハルトはやや顔をしかめながら部屋の外に出て行く、そして他の三人を呼んだ。三人が外に出るとレオンハルトは部屋を閉じてから言った。


「どうやらかなりの大物のようだ。しかも、自白できないようにあらかじめ呪詛が仕掛けてあるようだな。」

「下手に喋ろうとすると死んでしまうような奴か。」


志郎が気づいてそう言う。レオンハルトは頷いた。そして続けて言う。


「さて、どうするかな。こと、魔道が絡むと俺のような無骨なものは不利になるな。魔術部に頼むか・・・。」


レオンハルトがそう悩んでいると(しの)がこう言った。


「あたしが直接探りましょうか?」


そう言われて、レオンハルトは驚きつつ答えて言った。


「直接?!(しの)さん、そんな事が出来るんですか?」

「ええ、造作も無いわよ。対象を眠らせて、且つ、呪詛を阻害しておけばあいつも死ぬことは無いでしょうしね。情報は仕入れれるんじゃなかしら。ただ、無作為に探るから少し時間はかかるわよ。出来るだけ情報は多いほうがいいでしょうしね。」


(しの)はそう答えて言った。同意しつつ志郎が言う。


「そうだな、その方が手っ取り早い上に確実だろうな。今回はアーレフ達国王一家にも絡む大事件だし下手に他の部署にまで伝えて、事を大きくしすぎると後々面倒だろう。事態が大きくなる前にこっちで潰せるならその方がいいんじゃないかな?」


レオンハルトはしばらく考えてから答えて言った。


「確かに。その方がうまく行きそうだな。しかし、そうすると(しの)さんや、志郎、お前達に多大な負担がかかるが、いいのか?」

「問題ないわよ。というか、あたし達のほうが好きで首を突っ込んだ案件だしね。じゃあ、やりましょうか。」


(しの)が答えてそう言った。玲が言う。


「すでにあの男は寝かせました。」

「あら、手際がいいわね、玲。」


(しの)は微笑みながらそう答えた。四人は頷いて、部屋に戻った。中では男が静かに寝息を立てていた。


「よし、では呪詛を解除しつつ探ってきますかね。」


(しの)はそう言いつつ男触れる。それを見て玲が言った。


「母上、私も手伝います。」


それを聞き、(しの)は喜びながら答えて言った。


「あら、嬉しいわね。じゃあ、志郎、少し時間がかかるけど行って来るわ。二人はお茶でもしながら待ってて。」


そう言いながら(しの)は男の記憶を探るべく旅立った。もちろん、見た目にはただ(しの)も寝たようにしか見えないのだが。そんな二人を見つつ、志郎は苦笑しながら言った。


「相変わらずだな。自分から首を突っ込みたがる。」

「なるほどな、志郎が惚れるのも分かる気がするぞ。」


レオンハルトが感心しながら言う。そう言われて志郎は焦りつつ答えて言った。


「な・・・何をいきなり。俺はその・・・別に(しの)のことはだな・・・特定の何かがあるからとかじゃなくて、なんと言うか・・・。」

「おいおい、何を焦ってるんだよ。別に、疑う訳でもないんだからそんなに焦らなくてもいいだろう。まぁ、お前が惚れ込んでるのは良く分かるがな。」


レオンハルトがからかいつつ言う。志郎は、やや語調を強めて答えて言った。


「レオンハルト!お前って奴は・・・。相変わらずだな。まあ、そう言うところが好きなわけだが。」

「ふっ・・・何を言い出すかと思えば。俺だってそうさ。」


そうお互いに言って、二人は笑い出した。






日は傾き街には夕闇が迫っていた。町の人々は帰路を急ぎ始める者、逆にこれから出かけようとする者、様々な状況の人たちがそれぞれの思いを元に動いていた。志郎とレオンハルトは城から見えるその眺めを見つつ(しの)達の帰りを待っていた。


「結構かかるな。」


志郎が何気なくそう言う。苦笑しつつレオンハルトが言う。


「やはり心配か?」

「いや、あいつに心配なんぞ要らないのは分かってるんだが自分が足手まといなのが少々歯がゆくてな。まあ、力不足だから仕方が無いわけだが・・・」


そう答える志郎を見ながらレオンハルトは言った。


「そう言う話を聞いていると、ますます(しの)さんの人物像が分からなくなるな。」

「まあ、そうだろう。いきなり「神」と言われて受け入れれる程、信心深い人間は宗教家くらいのものだろう。」


苦笑しつつ志郎は答えた。続けて言う。


「そもそも俺だって初めに(しの)と出会った時はそんな感じだったさ。いや、ある意味敵対関係だったし「恐怖」してたな、あの時は。得体の知れない計り知れない「力」を前にすれば、しかもそれが理解できれば誰もがあんな感情は持つとは思うが。」


そう言って志郎は苦笑した。レオンハルトが感心しながら言う。


「そうか、お前もいろいろあったんだな。それに、そうやってすでに語れるって事はそれだけ関係が変わったって事だしな。」

「ああ、本当に変わったよ。初めは興味本位だったんだ。(しの)が不思議でならなかった。あれだけの「力」を持つのに自分の為には殆ど使わない。そんなあいつを見て俺は次第に・・・」


志郎が自問気味にそう言っていた。レオンハルトが割り込むように言う。


「惚れたか。」

「ああ。」


志郎は短く肯定を述べた。顔には笑みが出ていた。レオンハルトは満足そうに言う。


「それは何よりだ。お前が女性に惚れる自体がある意味すごいことだからな。お前と来たら、女人には夜の情事以外は関心が無いって感じだったしなぁ・・・」

「おいおい・・・もう、昔の話だ。今は(しの)だけだぞ、俺は。今は、娘も出来てしまったし、なんて言うのかな。まあ、一般の家庭のように一家を支えるなんて大した事は出来ないが俺なりに父親として、夫として出来れば幸せ、とでも言う感じかな。」


志郎は今の状況を考えつつそう言った。レオンハルトが答えて言う。


「そうか・・・よかったな。お前も家庭の幸せを掴めたか。」

「ああ。」


志郎は満足そうに答えた。暫く静かに時が過ぎて行ったが(しの)と玲が起き上がってきた。記憶を探り戻ってきたのである。しかし、表情はやや重い。志郎は少し不安になりつつも(しの)に言った。


「お帰り。どうだったかな。」


(しの)はそれに答えて言った。


「ただいま。とりあえず情報は仕入れてきたわ。しかし、この男、反吐が出るほど嫌な奴ね。玲、ただ消すだけじゃ生温いわ。うんと苦しめながら「消し」なさい。」

「分かりました、母上。」


玲はそう答えて、男に「闇」を掛け始めた。レオンハルトは驚きつつ言う。


「で、どう言う事なのか教えてくれるかな。」

「ああ、ごめんなさいね。出来るだけ順を追って言うわ。」


(しの)が答えて言う。そして(しの)は説明を始めていった。






帝国は国家決定として他国、特に非友好的な近隣国家に対して侵略行為を策定していた。それに伴い、諜報局は外部部隊として近隣国家謀略部を作成。そこを基にして戦略を進めるべく、各国に対して数々の謀略をしていくこととなったのである。レミアルト王国に対しては直接的な侵略を始める前にすべき事が幾つか存在していた。一つは国王一家の存在。レミアルト王国は長年の歴史からも分かるとおり神々の祝福を得ているとされる面が多く実際数々の神器も存在していると言われていた。そう、言うなれば国家の存在を神により保証されている訳である。もちろんその保障は無償ではない。きちんと果たすべき義務が存在していた。故に、帝国はその義務を逸脱させるべく妨害工作をしてきたのである。そうやって、神器を破壊または強奪が出来ればレミアルト王国の軍事的奪取は確実と思われていた。それ故に、国王一家に対する謀略、暗殺が狙われていたのである。グレイハワードと言うこの人物はレミアルト王国の謀略を担当していた帝国軍少佐であった。彼は優れた謀略性能を買われて今回の作戦に抜擢されたのである。現に、城下にはほぼ無傷で忍び込み数々の謀略を巡らせていた訳であった。しかし、城は厳重であった為、思案している時に(しの)達がやってきて今回の事態となった訳であった。






「なるほどな・・・帝国の息がそこまで来ていたか。しかし、(しの)さん。こいつ・・・と言うかすでにもう形が無くなり掛けているが、これはいったいあなたに何を見せたんだ?」


レオンハルトは納得しつつも(しの)に疑問を呈してそう言った。(しの)は苦笑しつつ言う。


「こいつの異常な性癖よ。女性や子供を傷つけながら喜ぶという異常なね。軍でも余程変態扱いされてたでしょうね。常軌を逸してると思うわ。」

「なるほどな、単なる性倒錯でもある意味嫌悪すべきだが、そこまで来ると人として疑いたくなるな。」


志郎がそう言った。皆も頷く。レオンハルトが言う。


「しかし、当面の危険はこれで去ったわけだ。それに関しては感謝する。問題は今後だな。」

「ええ。恐らく帝国は、部隊が全滅したことを近日中に知るでしょう。定時連絡するものが居ないからね。恐らくアーレフの結婚式の時に何らかのリアクションがあると思うわ。大々的な行動はその後でしょうね。」


(しの)が状況を分析しつつそう言う。志郎が同意しつつ言った。


「恐らくそうだな。そして、向こうからこの王都が近い以上何らかの軍事行動の準備を素早く始めるだろう。レオンハルト、早いうちに国王に上申したほうが良さそうだな。」

「ああ、報告書を作り上げて早めに報告しておこう。お前達はどうする?」


レオンハルトは答えてそう言いながら志郎たちに意見を求めた。苦笑しながら志郎が言う。


「お前・・・こんな状況になって俺たちがそのままどこかに行くとでも思うのか?」

「いや、全く思わん。」


レオンハルトははっきりと答えてそう言った。そのレオンハルトを捕まえて志郎が言う。


「ったく、分かってて言いやがるな、こいつは。まあ、だからこそでもあるが。俺たちは、帝国の脅威が去るまでは多分居座ることに為りそうだよ。まあ、(しの)が「切れたら」分からないが。」

「ちょ、ちょっと、何でそこにあたしが出てくるのよ!」


話題に出されて、(しの)があわてて抗議をする。志郎が苦笑しつつ言った。


「だって、(しの)。この状況だとどこかに鬱憤晴らしそうじゃないか。」

「う・・・いや、それはその・・・。」


言い当てられて、(しの)は言葉に詰まってしまう。微笑みながら志郎が言った。


「まあ、俺で付き合えるところは付き合うさ。心配するな、お前一人じゃないんだから。」

「わ、分かってるわよ・・・馬鹿・・・。」


(しの)は顔を真っ赤にしつつそう答えた。その様子を見てレオンハルトが言う。


「本当にいい、似合いの夫婦だな。今度是非うちに来てエミリアにも(しの)さんを紹介したい所だな。」

「ああ・・・そういえば、彼女にそう言われていたな。(しの)、レオンハルトの娘に今度会いに行こう。」


志郎は(しの)にそう言った。(しの)は肯定の返事をする。志郎はそんな(しの)を優しく抱いた。






「母上。」


玲は(しの)を呼びそう言った。(しの)は答えて言う。


「どうしたの、玲。」

「私達は暫くここに滞在することになるのですか?」


玲は(しの)にそう聞いた。(しの)は答えて言う。


「そうね、アーレフ達が比較的平穏を得るまでかな。でも、どうしたの?そんなことを聞くなんて。」

「あ、いえ。私はまだ生まれたばかりですし母上に教わったとはいえまだ知識も不足しています。外で色々得たいものがありましたのでその機会が得られれば良いと思いました。」


玲はそう、自分の思いを吐露して言った。納得しつつ(しの)が言う。


「確かにそうね。滞在中にそう言う関連のものを参照できるかアーレフか国王に相談してみましょう。」

「有難う御座います、母上。」


玲がそう答えるのを見て(しの)は喜びつつ言った。


「あなたも旺盛に学ぶといいわ。(しずか)もラミュアも今は元気に学んでるし、まあ、ミルはあの状態だけどレネアちゃんもいい子だからそのうち動くでしょうしね。」

「はい。」


玲はそう答えて(しの)に寄り添った。(しの)は微笑みつつ玲の肩を抱く。志郎はそんな二人を微笑ましく見ていた。






外では夜の帳が下りようとしていた。風が吹いている。

様々な出来事に遭遇するしの達一行。もう間も無くアーレフと晶の結婚式が始まろうとしていた、しかし、帝国では別の動きもあったのである。

次回「帝国」。

貴方に良い風が吹きますように。

(注意。次は人物紹介です。)

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