惺(しずか)
アーキレストの街を旅立つ神達。彼らは何処に向かおうとするのか。そして行く先で何があるのか・・・。
小説 風の吹くままに
第十二章 惺
「ん~、昨日の雨が嘘のような天気ですね。」
アーレフは、清清しく晴れた空を見ながらそう言った。雲少なく晴れており傍目にも気持ちのいい朝であった。そして階下ではいつもの取り組みが行われようとしていた。ただ、以前とは少し違う形で。
「これでよし。二人とも結界の範囲を忘れないようにね。」
神がそう言う。志郎と惺はお互い頷いた。二人を睨み、神が言う。
「さあ!かかってきなさい!」
その号令で二人は神に襲い掛かった。「気」を練り上げ「力」を放ち神に攻撃を加えていく傍目には神をぼこぼこにするように見えるかもしれなかった。しかし、攻撃が終わるとそこには無傷の神の姿があった。そして神が動く!その速さに常人の目は追いつかず志郎と惺は吹き飛ばされる。しかし二人はすばやく立て直し二手に分かれた。二人は息を合わせて神に向かって「力」を叩き込む。しかし神はその「力」を弾き返した。間髪いれずに二人は神に近づく、そしてすばやい打撃を「気」を載せながら叩き込んだ。が、すぐさまそこで爆発が起こり二人は吹き飛ばされてしまった。そこで「結界」が開放された。
「ふう、流石に二人相手はしんどいわね。」
神がそう言いながら出てくる。吹き飛ばされたが、そこから起き上がりつつ志郎が言う、
「やれやれ、二人がかりでも話にならんな。」
そう言われ、苦笑しつつ神が答えて言う。
「簡単に負けたら「神」としての威厳が無くなるわよ。」
「まぁ、それはそうだろうが・・・人間の理解でしかまだ戦えないからな、俺は。」
志郎はそう苦言を呈した。神が苦笑しつつ言う。
「これからじゃない。今度からは惺もいるしね。って、惺は?」
二人は惺が飛ばされた方向を見た。惺はまだ横になっていた。別にダメージで起き上がれないわけではない。単に考え事をしていただけだった。
「惺?どうしたの?」
神が尋ねる。惺はそれを聞き起き上がった。そして神のほうに向かいながら言う。
「すまない、母上。少し考え事をしていた。」
苦笑しながら神が言う。
「どうしたの?」
「いや、俺もまだ「力」の使い方が良く分からないからどうすればよいのか悩んでいたのだ。」
惺はそう言った。言い換えるなら、うまく「力」を使いこなしたい。と言ってる訳である。苦笑しつつ神が言った。
「志郎、油断すると惺にすくわれそうね。」
「ああ、これは気をつけないとな。」
志郎も苦笑しつつ言った。惺は何のことか分からずにきょとんとしていた。ラミュアが宿から出て来て言った。
「修練は終わったのか?そろそろ朝食らしい。」
「分かった。すぐ行くぞ。」
惺はそう答えて宿のほうに向かって行った。その様子を二人は微笑ましく見ていた。
「では、今日出発でいいのね?」
神は皆に聞いていた。皆は頷く。神は全員を確認した後でアーレフに向いて言う。
「アーレフ、次に留まるのは彷徨う森のエルフの郷になりそうだけどそれでもいいのかな?」
アーレフは答えて言った。
「それは楽しみですね。エルフの文献や伝承も知りたかったんです。」
神は苦笑しつつ言った。
「いや、あなたの楽しみも大事だけど、晶との式の話よ。街中でする手もあったんだけど、ここではすでにあたしがしちゃったし、エルフの郷でもいいかって聞いたのよ。」
「ああ、なるほど。私は構いませんが。王都に戻ってからでも良いですし。」
アーレフがそう答えたのを聞いて、ふと、神が思いついたように言う。
「ああ、なるほど。では一旦戻りますか。」
「ええ?!」
神がそう言ったのを聞いて全員がそう言った。
「おい、神本気で言ってるのか?」
志郎が心配しながら言う。神はけろっとしつつ言った。
「ええ。彼は殿下だし壮大な式が見られるわよ。」
「いや、そう言う問題じゃなくてだな・・・。」
「なに?」
「レミアルト王都に帰るまで二ヶ月程度はかかるだろう?」
「いいえ、一瞬で済むわよ。何のために空間跳躍の力があると思うの。」
「あ・・・。」
「全く、あたしを誰だと思ってるのよ。」
神は志郎が理解できていないことに腹を立てつつそう言った。苦笑しつつ志郎が言う。
「いや、旅をするのが当たり前になってたよ。お前が力をセーブしてることを念頭に入れていなかった、すまん。」
「全く・・・あたしに追いつくんでしょ?これから大変なんだから頑張りなさいよ?」
神はそう志郎に言った。志郎は答えて言う。
「ああ、油断すると惺にも負けるからな、頑張るさ。」
「では、仕度が終わったら宿の裏手に集合しましょう。表通りだと無関係な人間も多数巻き込むからね。」
神はそう言って指示を出した。全員が了解して仕度に取り掛かっていった。
「さて、っと。皆準備は良いわね?」
神がそう言うと全員は肯定の返事をした。
「じゃあ、はじめるわ。」
神がそう言うと、彼女の身体は輝き始めた。「力」が集まり始め彼女の目の前の空間が歪み始めるそして大きな門の大きさになった。光り輝くそれを見ながら神が言った。
「うん、上出来ね。さあ、行きましょう。」
そう言って神からそこに入っていった。他の面々も続いていく。全員がそこに入るとその大きな門は淡く見えなくなっていき最後には消え去ってしまった。
光の洞窟を皆は歩いていた。
「なんか不思議な感覚だな。」
志郎がそう言う。神が微笑みながら言う。
「まあ、空間を直接つなぐといろいろ不都合があるからこういう中間点があると何かと便利なのよ。そのための場所だから、ここは。」
「なるほど、俺も覚えておかねば。」
惺がそう言う。苦笑しつつ神はそれを見ていた。そろそろ出口である。
「見えてきましたよ~。」
ミルが言う。レネアがミルを引っ張りながら言う。
「あたし達で一番乗りしましょ~。」
そう言って二人で駆け出していった。それを見てラミュアが言う。
「惺私たちも行こう。」
「よし、行くか。」
惺はそう答えて二人で走り出した。その様子を見つつアーレフが言う。
「本当に微笑ましいですね。これも最後になるかと思うと感慨深いです。」
「やはり、王都で最後にする予定だったのね。」
神はそう言った。アーレフは溜息をしつつ答えて言った。
「やはりお分かりでしたか。第三王子とはいえ長期の王都不在はまずいですからね。そろそろか、とは思ってはいたのですが、神さんの勧めがなければまだずるずるとやっていたかもしれません。ですから、今回はいろいろ学ばせていただきましたよ。」
「そう、でも、あたしはお節介だからね。また呼び出すかもよ?」
神は悪戯小僧のようにそう言った。アーレフが笑いながら言う。
「その時は是非御願いしますよ。もし私がいけなくてもその子孫がいけるでしょう。」
「そうね。是非そうしたいわ。」
神が感慨深くそう言った。そうして一行はレミアルト王都の近くに出た。
王都の入り口は相変わらず大勢の人々で賑わっていた。
「相変わらずですねぇ、ここは。」
ミルがそう言う。レネアは興味深そうに聞く。
「ミル様~。ここに来たことがあるんですか~?」
「ああ、レネアちゃん。まだマスターと二人で旅をしてたときにね~。」
ミルがそう答えた。ラミュアも感慨深そうに城門を見る。そして言った。
「大きいな。」
「確かに。俺もこれを一撃で壊せるほどの力が欲しいところだ。」
惺がそんなことを言う。苦笑しつつ志郎が言った。
「いきなりこの大きさか。スケールが大きいというかなんと言うか・・・。」
そして、一行は城門の衛兵のところまで来た。
「通行証を持っていれば提示されたい。身分等明かせるものがあれば宣誓でもいいのでお願いする。」
衛兵はそう言ってきた。それを聞いてレネアが進み出ていく。
「レネアちゃん?」
ミルが不思議がって言う。レネアは衛兵の前に進み出て言った。
「あたしはレネア。彷徨う森のエルフの郷の長ランヴェルサイラーヴの末娘。これでは宣誓にならないかしら?」
それを聞いて隊長らしき男が答えて言った。
「こ、これは、わざわざエルフの郷からお出ましありがとうございます。今回の趣は如何様にて?」
それに答えてレネアが言う。
「こちらに居られるあなたの国の王子アーレフ殿のご結婚の儀よ。」
そう言われて、隊長はアーレフの存在に気づく。
「アーレフ様?!これは居られると存ぜず、申し訳ございません。すぐ国王にご連絡いたします。どうか一行の方はこちらにおいでください。」
そう言って、一行を城門の中にある大きな休憩室のような場所に案内した。
「ほえ~。レネアちゃんっていいとこのお嬢様だったんですねぇ。」
ミルが感心しつつ言う。レネアはけろっとして言う。
「そんなことはどうでもいいんですよ~。ミル様~。今夜はイイコトしましょうね~。」
「え~。昨日もしたじゃないですか~。」
ミルはレネアとそんなふうに問答を続けていた。神が苦笑しつつ言う。
「結果的にだけどレネアのおかげですんなりは入れてしかもアーレフが直接言わずに王族とコンタクトが取れそうな不思議な状況になったわね。」
アーレフが答えて言う。
「そうですね。レネアさんがエルフのお偉いさんの娘だったとは・・・見かけに騙されてはいけないですね。」
「まぁあたしもその一人よね。」
神がそう言って志郎は苦笑した。
暫く一行が談笑してると城からの従者が来た。
「アーレフ様。国王様がぜひともお会いしたいとの事。ご一行様ともどもお城まで来ていただきたいのですが。」
従者はそう言う。アーレフは答えて言った。
「分かりました。行きましょう。」
そう言って一行は用意された馬車に分乗した。城は王都の中心部にあり大きな堀と巨大な城門また堅固な城壁によって守られていた。それらを見ながら惺は言った。
「大きいな。こういうものを作れるように俺はなれるだろうか。」
「頑張ればできる。」
ラミュアがそう答えて言う。そんな様子を見て、神と志郎は微笑ましく思った。城の近くで一行は馬車から降りた。ここからは徒歩で行くことになる。今まで馬車から見た城が更に大きく見える。神が城を見つつ言った。
「これだけのものを良く造り上げたわね。」
「確かにな。何年かかったかは知らないが人が造り上げた中では最近のものでは最大の一つかもしれないな。」
志郎が感慨深くそう言った。そうして一行は城に入っていく。城内は広く、無駄がない機能的な造りをしていた。戦闘用の城ではないので内政重視の機能性が考えられた城になっていた。アーレフたち一行は正門から入りそのままメインゲートを通り閲兵広場を抜けて王の間に入った。王の間では王と王妃が席に座り王子を待っていた。アーレフは王の前で屈み王家のしきたりに沿った儀礼で挨拶をした。
「父上、母上もお変わりなく。第三王子アーレフ=レミアルト、不肖の長旅からゆえあって舞い戻って参りました。」
それを聞き、王が答えて言う。
「良くぞ帰ってきた息子よ。伝え聞く話によるとどうやら、嫁を見つけて式を挙げる意向と聞いたが真か?」
「はい。素晴らしい伴侶を見出し了承を頂きました。出身は皇の国、巫女をされている方で、日向晶と言われます。また、祝福していただくため一緒に旅をしていた方達にも同行を願いました。また、この方達のおかげで王都まで急遽戻ってこれもしました。」
アーレフはそう報告する。同時に晶が進み出て王の前で礼を示した。
「なるほど、素晴らしい女性のようだ。それにお前が選ぶことには今まで間違いなどなかった。安心して任す事が出来よう。よろしい、数日後正式な発表を王都に発する。式はその後になるがよいな?」
王はそう宣言した。アーレフは一礼を持って返事をする。
「王子の了承は得た。二人の部屋は特別に用意する上、下がって待っているがよい。さて、後ろの一行と話がしたい。前に出てこられるがよい。」
王がそう言ったので全員は前に出てきた。
「これはレネア殿。私がまだ幼い時以来かな。」
王がレネアにそう言った。レネアが答えて言う。
「そうね、もう五十年位前かしら?」
「それくらいになるかな。わざわざ御主まで来てくれるとは感謝する。」
王はそう言った。レネアは答えて言う。
「あたしは、アーレフの式を見に来たというよりはこの一行に同行してきたと言うほうが正解だけどね。今のあたしのいい人はこの方だから。」
そう言ってレネアはミルに寄り添った。苦笑しつつ王は言った。
「相変わらずだな、レネア殿は。ところで、そなたは普通の人とは見えないがお名前を伺っても宜しいかな?」
そう言って国王は神に向かって言った。神は答えて言う。
「杜神よ。」
「ほう・・・そなたが。遠見の長が言っていた、新たに舞い降りた「神」とはそなたのことだったか。そうか、アーレフはそなた達に守られていたのだな。ふがいない父に代わり心から感謝する。」
そう言って国王は頭を下げた。神は答えて言う。
「あなたはあなたの責任を負っているわ。あたしにはあたしの責任がある。だから、あたしはその中で彼を手伝っていただけ、気にすることじゃないわ。逆に彼が大きな責任を果たしてることに感心した位よ。」
「そう言ってくれると助かる。私はこういう身分のためあまり私事に時間を割けぬが出来るなら御主と話し合いたいものだ。」
王はそう言った。神は答えて言う。
「そうね。話せるときに話し合いましょう。」
そうして一行は王の前から下がり指定された部屋に入った。
「さて。式まで日取りがあるから暫く自由行動ってところかしら?」
神が皆にそう言う。それに答えてレネアが言った。
「なら、あたしはミル様とあま~いひと時を過ごさせてもらいます~。ミル様~部屋に参りましょう~。」
そう言ってミルを引っ張りながら部屋を出て行く。ミルは抗議しつつも、それほど嫌がる素振りをせずに一緒に出て行った。苦笑しつつ神が言う。
「なんだかんだ言いつつミルも楽しんでるわねぇ。」
「そのようだな。まぁ、本人が拒否できるのにしてない以上、俺たちがどうこう言う問題でもないが。」
志郎も苦笑しつつそう言った。惺が言う。
「母上、城を歩いてもよいのだろうか?」
「城内を?国王は自由にしろとわざわざ言ってくださったから問題はないと思うわよ。但し、私たちを知らない人たちも沢山いるから何者か尋ねられたらアーレフの来賓である事を必ず言うこと。分かったわね。」
神は説明しつつそう言った。頷きつつ惺が言う。
「了解した。ラミュアと一緒に行ってもよいだろうか?」
「ラミュアがいいと言えばいいわよ。」
神がそう答え、ラミュアは肯定の表情をした。それを見て惺が言う。
「なら、行こう。」
そう言って惺は手を伸ばしラミュアの手を掴み、一緒に部屋の外に出て行った。
「いきなり静かになったわねぇ。」
神がそう言う。苦笑しながら志郎が答えた。
「そうだな。俺たちはどうするかな。」
「そうね、あたしは少しやりたいことがあるから志郎もそこらをぶらついててもらえる?」
神が志郎にそう言った。志郎はやや不思議に思いつつも答えて言う。。
「ふむ。何か企んでるようだが、まぁ、心配するようなことはないだろうし、お言葉に甘えて俺も少しぶらつくかな。人間時代の知り合いも多少は居るから旧交でも暖めてくるさ。」
「ごめんなさいね。志郎にもつきあわせたいけどちょっとあたしがこだわりたい所があるの。」
神がそう、謝りつつ言った。志郎が神の頭を撫でながら言う。
「心配するなって。どうせ後で俺たちを吃驚させようって腹だろう。」
神はそう言われてギクッとしながら答えて言った。
「う・・・いや、その・・・まぁ、お楽しみって事で。」
そう言いつつ、神は部屋を後にした。志郎は苦笑しつつ言う。
「全く何かまた考えてるな。まぁ、飽きないから良いけどな。」
そう言いつつ、志郎も友人がいると思われる場所へ移動を開始した。
「レネアちゃん~。まだ日が高いですよ~?」
ミルがそう言う。しかしレネアはベットにミルを連れ込みながら言う。
「ミル様~。愛し合うのに時間は関係ないですよ~。あま~いひと時を過ごしましょ~。」
「いや、そうじゃなくて~。ちょ、ちょっと、そこはだめだって~。」
ミルが抵抗しつつ言う。レネアがネチネチとミルを弄り回しながら言った。
「またまたぁ、これだけ感じておいて駄目なんてないでしょ~。今日もゆっくり楽しみましょうねぇ。うふふふ。」
そう言いながら、レネアとミルはベットの中で楽しんでいた。
惺はラミュアの手を掴み一緒に場内を歩いていた。時折すれ違う兵士や使用人たちが二人を見ながらすれ違っていく。二人はそうやって歩きながら兵士が訓練する訓練場の前まで来た。そこでは交代で兵士が修練を積んでいた。激しく行う者、緩急を入れて研究熱心に行う者、他人を見ながら研究を行う者、と様々であった。
「何か楽しそうだな。」
様子を見ながら惺がそう言った。ラミュアも頷く。二人を見つけた兵士が声を掛ける。
「おや、お嬢さんたちこんな場所で見学かな?」
惺が答えて言う。
「俺たちも参加してよいのだろうか?」
その質問を聞いて兵士は苦笑しつつ言った。
「ここは兵士が自らを鍛えるために修練してる場所だよ。刃がないとはいえ武器がもろに当たれば怪我をするし、受け手が下手をすれば死亡する恐れもある。まぁ、緊急時のためにここでは司祭様が待機してるけどもね。そう言う訳だからお嬢さんたちにさせるわけにはいかないなぁ。」
「ふむ、しかし、毎朝、俺は母上や父上と修練しているのだが、ここの修練よりはきついと思うのだが。それでも駄目なのだろうか?」
惺がそう、正直に答えて言う。それを聞き兵士は驚きつつ言った。
「ここよりもきついだって・・・。王城の修練はそんなに楽なほうじゃないのにここよりもきつい修練を君はしてきたというのかい?」
「ああ、毎朝してきた。この、ラミュアがいつも見ているから証言もしてくれる。」
惺はそう言った。ラミュアは頷きつつ惺の意見を肯定する。兵士は驚きつつ考えた。そして暫くしてから答えて言う。
「いいたい事はわかった。隊長に相談するから少し待っててくれ、今隊長が近くに居ないのでな。少し時間がかかるからここで見ててくれるかな?」
惺は頷きつつ答えた。
「分かった。ご親切感謝する。」
そう惺が答えたのを見て、兵士は苦笑しつつ隊長を探しに出て行った。
志郎は城内を歩いていた。以前と景色は変わらないな。そう思いつつ知った道を歩いていた。旧友はあそこだ。そう思い、友人がいるであろう場所へ足を進めていた。ドアを叩く。
「どうぞ。」
中から返事が聞こえた。志郎はドアを開けて中に入る。中の人物は志郎を見てしばらく考えたが思い出したように言った。
「剣志郎か?」
志郎が答えて言う。
「以前はな。今は苗字が変わって、杜志郎、と言わせてもらってる。」
志郎がそう答えると、男は笑顔で喜びつつ、席を立ち上がり歓迎の意を示した。
「良く来たな、二年ぶりというところかな。」
「ああ、もうそんなになるのか。久しぶりだな、レオンハルト。」
「それはそうと、今日はどうやってここに?また冒険者の依頼としてか?」
「いや、アーレフ王子の結婚式に出席するためだ。」
「何?王子が結婚されるのか?初耳だぞ?」
「ああ、今日国王に報告したからもうすぐ発表がされると思うぞ。」
「そうか。まあ、どちらにしてもお前と出会えたのは嬉しいぞ。また、一緒にやれるのかな。」
「まぁ、修練くらいはな。今は妻子持ちなんでな。以前ほどかまえるかは、断言できん。」
志郎がそう言うと、レオンハルトはきょとんと志郎を見た。そして暫くしてから笑い始める。
「お前が?これは驚いた。お前が妻子持ちになったとはな。その辺も聞かせてもらうかな。」
「あ、ああ・・・少し恥ずかしいがお前なら安心して言えるからな。」
「ほう。まぁ、今は仕事中なのでな。そうだな。明日お前のところに迎えを出そう、そこで話を聞こう。」
「わかった。では、俺はそこらをふらついてくる。またな、レオンハルト。」
志郎はそう答えて、そこを後にした。レオンハルトは志郎を送り出した後、席に座りながら言った。
「あの志郎がな・・・。一番結婚には縁がなさそうだったのにどういう風の吹き回しやら、まぁ楽しめそうだ。」
そう言って、手にした書類を再び見始め、仕事に戻った。
神は人目のつかない寂れた部屋の中に居た。侍従からあえてそう言う部屋を教えてもらったのである。そこで神は「力」を使い始めた。空間を曲げて「目的地」へ繋ぐ。繋がった目的地へ向かう。そこには魔族が居た。
「ほう、急な来訪だな。今日は何用かな?」
魔族はそう答えて言う。神は笑顔で答えて言った。
「急にごめんなさいね。今日はあなたの力を少し貸してもらいたくてね。お願いしてもいいかしら?グラニデウス。」
魔族グラニデウスは答えて言った。
「お前の希望とあれば私としては拒む理由はないぞ。しかし、私の力を使って何をする気かな?」
神は悪戯小僧のように笑いながら言った。
「何、大した事じゃないわよ。あなたの力とあたしの力で一人、私の子供を創ってみたくなっただけよ。」
そう言われて、グラニデウスは興味深そうに言った。
「ほう、それは実に興味深いな。そう言う事例は私は聞いたことがない。恐らく初めての考えかもしれないな。しかし、お前はそれでよいのか?」
「ん?どういうことかしら?」
「志郎と言う伴侶が居るのだろう?私との間で子供を創ることはいささかまずいのではないのかな?」
グラニデウスはそう忠告する。神は慌てつつ言った。
「な・・・なんであなたまでそんなことを知ってるのよ。まぁ・・・言われることはもっともだけど、どちらにしてもあたしの子供には間違いないからね。問題がないわけじゃないけれど、些細なことよ。あなたが気にするほどのことじゃないわ。」
「そうか、ああ、私たちも他の世界に関しては関心があってな。特にお前のような特異な者には様々のものの目が向かっているものだよ。」
微笑みつつグラニデウスは答えて言った。そして続けて言う。
「さて、私の力を渡せばいいのだったな。」
そう言いつつ、グラニデウスは「力」を使い始め神に渡す準備を始めた。それを見て神は笑みを浮かべて答えた。
「助かるわグラニデウス。これであたしの新たな「娘」が出来るわね。」
「ほう。それは楽しみだ。また、私たちの楽しみが増えるということだな。」
グラニデウスはそう言う。神は苦笑した。
「レネア、もう駄目かも~、いっちゃう~~~。」
そう言ってレネアはベットの中に埋まった。ミルは、疲れつつレネアを見つめて言う。
「レネアちゃん。可愛いし、大事ですけど~。これだけはまだついていけないですねぇ・・・」
そう言って、ミルはレネアの頭を撫でていた。
「ほう・・・修練をな。」
隊長は兵士から報告を受けてそう言っていた。
「は。城内に居られる方ですから、恐らく普通の方とは思えませんし、不遜に扱うのも大変かと思いましたので隊長まで意見具申に参りました。」
兵士はそう報告する。隊長は答えて言った。
「よく言ってくれた。お前の判断は正しい。先ほど、国王から通達が来てな彼らはアーレフ王子のご友人らしいのだ。粗相が無くて良かったな。」
そう言われて、兵士はより緊張した。王子の友人ともなればかなりの来賓である。無礼な扱いが報告されようものなら厳罰ものだからだ。隊長が苦笑しながら言う。
「まぁ、そんなに緊張するな。一緒に旅をされていた方らしくかなり腕も立つらしい、子供のように見えても甘く見るな、という通達までついている。だから俺たちのほうがある意味覚悟がいるぞ。覚えて置け。」
「は。」
兵士はそう言われて短く返事をした。隊長は続けて言う。
「ま、修練自体は許可しよう。ただ、お前達が相手をするかどうかは、確か二人来ていたんだったな。その二人にまずはしてもらってから決めたほうがいいな。もし、我等の方が勝ってるなら問題はないが問題は彼らが優れている場合だ。その時は我等では足手まといにしかならんからな。」
「了解しました。お二人に伝えてまいります。それでは失礼します。」
兵士はそう答えて去っていった。隊長が言う。
「この報告書通りなら、我々では話にならんからな。」
志郎は城内を散策していた。幾人かの旧友とも話が出来た。しかし、特定の目的地があるわけでもなのであちこちをふらついているのであった。
「さて、当てがあるわけじゃないし、レオンハルトは明日まで忙しそうだしな。どうするか・・・。」
志郎はそう言いながら城内を歩いていた。
「ありがとうグラニデウス。突然だったのに助かったわ。」
神はそう言った。グラニデウスは答えて言う。
「造作もないことだ。今度、その娘を私にも見せてくれ。」
そう言われて神が笑顔で答えて言う。
「ええ。楽しみにしておいて。」
そう言って神はゲートからもとの場所へと戻っていった。それを見つつグラニデウスが言う。
「やはり、実に興味深いな、「天」の奴らとは違い、公平に物が見れている。偶然の出会いとはいえこの関係は大事にしたいものだ。」
笑みを湛えつつ彼は外を見ていた。
「よし、彼からもらえたから後は造り上げるだけね。」
神は帰り様にそう言い、部屋の中で「力」を使い始めた。彼の「力」を包みあげた後に形を整えていく。それは次第に女性の姿に神に似た姿になっていった。
「ふう。もう少しね。頑張らないと。」
神はそう言いつつ、最後の仕上げに入った。長い髪が見え始め、美しい顔立ちが明らかになった、背格好は神に似ているため小さいがスタイルは非常に良く神と大差がない。笑みを浮かべつつ神が言った。
「これでいいわね。さあ、玲目覚めなさい。」
神に言われて、玲は目を覚ました。彼女の両目は色違いで右目が輝く緑色、左目が輝く血の色だった。鮮やかな漆黒というか闇というかそう言う形容が出来る長い髪、色白の肌、そう言う姿をしていた。
「おはようございます、母上。」
玲はそう答えて言った。神が言う。
「おはよう。気分はどうかしら?」
「問題ないと思います。良くも悪くもないですね。」
玲はそう答えた。神がそれに満足しつつ更に言う。
「そう、では玲、左目を瞑りなさい。」
「はい、分かりました。」
玲はそう答えて、左目を瞑る。神はそれを見て言った。
「今度はどうかしら?」
「・・・そうですね~。特には~。変わりがないかと~。」
玲はそう答えていた。明らかに口調が変わっている。神は満足しつつ言った。
「では次は左目は開けて右目を閉じなさい。」
「わかりました~。」
玲はそう言って言われたとおりにする。神は確認してから言った。
「さあ、今度はどうかしら?」
「別に、変わりはないわ。」
玲はそう答えた。神は満足そうに言う。
「よし、それなら良いわね。夜にでも皆と合流できたらあなたを紹介しましょう。それまではあたしと一緒に何かしましょうか。」
「分かりました、母上。」
玲はそう答えた。神は玲の肩を抱き自分の与えられている部屋へ戻っていった。
「レネア、寝てたんですね。」
レネアは起き上がって言った。ミルが答えて言う。
「まだ寝てても良いですよ~。」
「いいえ~、レネアだけ満足しては失礼です!ミル様にも是非気持ちよくなってもらいますよ~。うふふふ~。」
レネアはそう言いつつ、ミルをあちこちいじり始めた。
「まって、レネアちゃん、あ、駄目だって・・・あ、やだぁ・・・あ・・・」
二人はまたベットで楽しんでいた。
惺は兵士達の修練を見ていた。そこへ先ほど隊長に報告していった兵士が戻ってきた。
「許可が下りたよ。ただ、初めは君達二人で修練してもらって、もし我々が参加出来そうなら一緒にやってもいいと言う事だったよ。」
兵士は惺にそう報告した。惺はお辞儀をしつつ言う。
「これは、大変感謝する。言われることは理解できたので、まずはラミュアとやらせてもらおう。ラミュア、いいか?」
惺に言われてラミュアが答える。
「私はいつでも出来る。」
それを聞いて惺が言った。
「分かった、行くぞ。」
そうやって、惺は構えた。ラミュアも構える。惺と話していた兵士はそれを見ていた。暫くの間二人は対峙しながら間合いを取っていたが何が引き金になったのか二人してお互いに前進し始めて相打ち状態になった。拳と拳、足と足が、目を追うのが間に合わないほどに叩き込まれる。兵士は絶句しつつ言った。
「これは・・・。隊長が言われたとおりだな、見た目に騙されてはいけない。」
そう言って、感心しつつ様子を見ていた。また、他で修練していた兵士達も二人の修練に気づいて見学するものが出てきた。二人の修練は更に続いていた。拳同士の打ち合いから一旦離れてお互いに「気」の練り合いとなった。そして、それなりに溜まった所でそれを使うべく間合いの調整に入る。隙をつくようにしてラミュアが惺に向けて放った。惺はそれを見てすばやくかわす。「力」は惺をかすめて地面に激突しあたりに土煙が舞った。視界が遮られている中で惺はラミュアを「見つけ」ラミュアに向けて「力」を放つ。しかしラミュアはそれを「見て」手から出した「光剣」で切り裂いた。
「くっ。ラミュアにはそれがあったな。俺のほうが少し不利か。」
惺はそう言った。ラミュアは無言のまま惺に向かって「光剣」は使わずに近づいて拳を放った。惺は「光剣」を考えていたので不意を衝かれて吹き飛ばされる。
「そこまでにしとけ、あまりやりすぎるな。」
横で声が聞こえる。二人は手を収めた。あたりの兵士からは喚起の声が出た。あまりに素晴らしい戦闘だったからである。
「今のは素晴らしい。」
「いったいあれはどうやったんだ?」
「魔道の一種なのだろうか?」
「しかもあんなに可愛い女の子が・・・」
と、様々に言われている。志郎が苦笑しつつ言った。
「お前達、いきなり全開でやるな。他の人たちに迷惑が行くかも知れないだろう?」
そう言われて惺が済まなそうに答える。
「申し訳ない、父上。ラミュアが相手だったのでつい本気でやってしまった。しかも俺は負けそうだったし・・・」
悔しそうに言う惺を見てラミュアが言う。
「惺も頑張っていた。結果はまだ分からない。」
「そうかな・・・?」
惺は疑問に思いつつ聞く。ラミュアが答えて言う。
「また今度、やろう。今は止めておこう。」
「ああ、またしよう。」
笑顔で惺は答えた。志郎が苦笑しつつ言う。
「二人で楽しむのは良いが、俺たちは力をセーブするか神やミルのように結界でも張らないと他所に迷惑を掛けるからな。今度からは気をつけてやれよ。」
そう言われて二人は肯定の返事をした。兵士達の間には志郎を見知っている者もいて今度は志郎の会話にもなっていた。
「あれは剣志郎殿では?」
「間違いない、今城に居られるのか。是非ご教授いただきたいものだ。」
「彼の体術は素晴らしいと聞く、もしかして彼女達は彼と関係があるのだろうか。」
そう兵士らは会話をしていた。志郎が苦笑しつつ言う。
「さて、今度は俺が巻き込まれたな。惺、ラミュア暫く俺と一緒に付き合ってもらうぞ。」
そう言われて二人は「はい。」と元気良く返事をした。
神は玲にいろいろと「教育」をしていた。惺とは違い神は玲に別の方法を試していたのである。
「まあ、こんな感じね。」
神がそう言う。玲が答えて言った。
「なるほど、母上のこれまでの経緯が良く分かりました。私の誕生の経緯も。」
「そう、やはりあなたを創って正解だったわね。」
神はそう答えて言う。そして神は玲をまじまじと見つめた。玲はその様子に戸惑いつつ言う。
「母上。私に何か?」
見つめながら神が答えて言う。
「玲・・・あたしにそっくりだから食べちゃいたいわねぇ・・・」
「は?食べる、ですか?」
神の言うことが理解できなくて玲は言う。神は苦笑した。
「ああ、別に本当の意味で「食べる」訳じゃないけどね。丁度今、レネアとミルがやってるようなものね。」
「は、はぁ・・・」
玲は理解が出来ずにそう答えた。苦笑しつつ神が言う。
「まぁ、いきなりそこまでいったら志郎がやきもち焼きそうだわ。今回はやめておきましょう。しかし・・・ミル達良く体力が持つわよねぇ・・・」
感心しつつ神が言った。玲は何のことか理解できずにきょとんとしていた。
「ミ、ミルさまぁ・・・レネアはもう・・・。」
そう言いつつレネアはベットに倒れこんだ。ミルもくたくたな様子で座り込んでいる。相当「やった」ようであった。苦笑しつつミルが言う。
「なんだかんだ言いつつ、あたしもやってますねぇ・・・いいようにレネアちゃんに染まってるんでしょうかねぇ。」
しかしミルはそれでも良いかな、と思っていた。
「そうだな、この場合は・・・」
志郎はそう言いながら戦闘に対する解説をしていた。惺とラミュアは学びつつ志郎の模擬の模範として演武を披露していた。そのたびに兵士から拍手が起こる。それを感じながら二人は喜んでいた。
「楽しそうですわね。」
後方から声が聞こえた。兵士の一人が言う。
「こ、これは姫様。」
「姫様?」
惺が言う。姫様といわれた人物が志郎のほうにやって来て言った。
「ええ、私はレミアルト王国息女セレナと申します。あなた方のことはお父様からお聞きしましたわ。兄上のご友人でいらっしゃるとか、よろしくお願いいたしますわね。」
王女らしい挨拶をした。それを見て惺が答えて言う。
「俺は杜惺。よろしく頼む。」
「私はラミュアという。よろしく。」
ラミュアも合わせる様に言う。それを見てセレナは不思議そうに見ながら答えて言った。
「お二人とも可愛らしいお嬢さんなのに話し言葉が異なりますのね。」
苦笑しつつ志郎が言った。
「すまないな、親の教育が悪くてね。ラミュアの場合は育ちの関係で言葉が苦手だったのでね。」
それを聞いてセレナは手を当てつつ答えて言った。
「まぁ、志郎様のお子様なのですか?それにしては大きな方ですが。志郎様かなり以前からお子様を作られていたんですの?」
ストレートともいえる質問に志郎は顔を真っ赤にしつつ答えた。
「あ、いや・・・ちょっと説明しづらいのだが・・・まぁ、惺は俺の子には間違いはない。ただ、ちょっと経緯が特殊でな。そうだな、アーレフ殿と同席しているときにでもお答えしよう。」
そう言ってはぐらかした。セレナはやや不審には思ったがそれ以上は言及せずに言った。
「まぁ、後からお話いただきましょう。それよりも、先ほどのお二人の演武が見事でしたわ。今度私にも見せて頂けますかしら?」
「ああいうもので良いのなら何時でもやってやるぞ?」
惺がそう言う。ラミュアも頷いた。それを見てセレナが満足そうに言う。
「それはありがたいですわ。最近、城の外にもなかなか出れなくて刺激が少なかったところですのよ。」
苦笑しつつ志郎が言う。
「立場上仕方ありませんよ、セレナ姫、あなたは王唯一の娘ですし・・・」
そう言いかけて、セレナは遮って言った。
「あなたはそれで良いですわね。娘と一緒に談義できますし、私など、部下以外で対応してくれる者など、ほとんどいませんわ・・・。」
悲しげに言うその姿を見て惺が言った。
「ならば、俺がその一人になってやろう。」
「私もよければ参加する。」
ラミュアがそう言って加わった。セレナが驚きつつ言う。
「あなた達・・・私と一緒にお話とかしてくださるかしら?」
「俺でよければ。」
惺がそう言う。ラミュアも頷く。志郎が苦笑しつつ言った。
「セレナ姫、そう言うことですから滞在中は二人とご一緒していてください。そうすればご不満も少しは晴れるでしょう。」
それを聞いてセレナは喜びつつ言った。
「では、こっちにいらして、一緒にお菓子でも食べながらお話をしましょう。」
そう言いつつ、二人を自分の部屋へと案内していった。微笑ましく兵士らも見ていたがそのうちの一人が言う。
「最近、いささか物騒になりましてね、姫様は外に出されたことがなかったのです。ですから、相当ストレスが溜まっていたんでしょうね。」
それを聞き志郎が答えた。
「なかなか興味深い情報だな。アーレフ殿が襲われた一件とも関わりそうだな。」
「もしかすると、関係があるかも知れません。最近国王一家を狙う一味がいるらしく、我々も注視はしているのですが敵はなかなか姿を見せないもので・・・。」
兵士はそう答える。志郎は得心しつつ言った。
「余程だな。そう言う意味では我々がここに来たのは運が良かったということか。」
その志郎の言い方に頷きつつ兵士は言った。
「全くです。アーレフ殿下にも信任がある志郎殿達がご一緒なら我々としても心強い限りです。」
そう言われたが、志郎は苦笑しつつ言う。
「ありがたい言葉だが、俺は、一行の中では弱いほうでね。惺に抜かれないかどぎまぎしてるくらいさ。」
志郎はそう言うのだが、兵士はその意味が理解できずに戸惑っていた。志郎は苦笑しながら城内に入っていく惺たちを見ていた。
「アーレフがあたし達と一緒に夕食を?」
神は従者がそう言っていたのでそれを復唱するように言っていた。
「はい。セレナ姫も含め晶様、そして皆様とご夕食をしたいとの仰せです。」
従者がそう淡々と報告する。神は答えて言った。
「分かったわ。ではアーレフに一人分人数は増やしておいてと伝えてくださいな。」
「畏まりました。」
従者は恭しくお辞儀をして下がっていった。神が言う。
「夕食の場であなたをお披露目になりそうね。」
「分かりました。恥ずかしくないように振舞います。」
玲がそう答える。苦笑しつつ神が言った。
「普通で良いわよ。あなたは生まれが特殊だからね。」
「はい。」
玲は素直にそう答えた。それを見て神は微笑んでいた。
夕食会は身内とはいえ盛大に行われていた。大きなテーブルに食事が様々に並んでいる。従者達が次々に食器、食事、飲み物を運んでくる。一行は席についていたがあまりに豪勢なので絶句していた。
「あの・・・アーレフさん。すごい豪華すぎる夕食なんですけど・・・」
晶が遠慮そうに言う。アーレフが苦笑して言う。
「まあ、そう言わずに。王族ともなると建前上貧相には見せれないという困った環境がありまして・・・。これでも控えめにさせたんですよ。」
「これでもか・・・。庶民と違いすぎるのも考え物だな。」
苦笑しながら志郎が言った。アーレフが同意しながら言う。
「そうですね。ですから私は旅をしていたときのほうが好きなんですけどね。まぁ流石にこれからはそんなこともあまり出来ませんけれど。」
「あ、ミル様~これも美味しそうですよ~、あ、こっちもいいなぁ。」
レネアはすでに自分の世界に入っているようであった。ミルが苦笑しながら言う。
「レネアちゃんまだですよ~。きちんと我慢しないと、ご褒美はお預けですからね~。」
「お待たせしましたわ。」
セレナが惺とラミュアを連れてやって来た。二人に席を促してから自分も座る。
「遅かったですね、セレナ。」
アーレフがセレナに言う。セレナが答えて言った。
「申し訳ありませんわ、お兄様。新しく出来たお友達と会話が弾んでおりましたの。」
「ほう、それは良い事ですね。最近セレナは城の者に文句ばかり言ってたそうですから。」
アーレフが皮肉っぽく言う。セレナは顔を赤くしながら答えて言った。
「お、お兄様!それは・・・。ま、まぁ、確かにそう言うときもありましたわ。でも、今は充実していますのよ。」
「ふふ、それは何よりですね。まあ、今度は晶さんもいますからより話し易い人は増えるでしょう。」
アーレフはそう微笑みながら答えて言った。続けて言う。
「さあ、食事の準備もできましたし、人も皆揃いました。これにて夕食を始めることに致しましょう。」
そう宣言して夕食が始まった。
「ところで。さっきから不思議に思ってたんだが。」
志郎が言う。神がそれを聞いて答えて言った。
「何?」
「いや、神の色違いの子が居ないか?髪の色だけ変えたら神そっくりに見えそうな子が居るんだが。」
志郎はそう言った。皆がそこに注目する。
「あれ?さっきまで居られましたっけ?ミルは気づきませんでした~。」
ミルがそう言う。レネアも頷いた。アーレフが言う。
「先ほど、一人分増やしておいて欲しいとおっしゃってた方ですね。どちらさんでしょうか?」
「玲というのよ。仲良くしてあげてね。」
神がそう言う。玲が立ち上がり皆に向かって挨拶をした。
「母上の紹介に預かりました。杜玲と申します。不束者ですが、皆さんよろしく御願いします。」
そう言って玲は深々とお辞儀をした。志郎は絶句する。
「・・・神・・・これは何だ?」
「見ての通りだけど?」
神はけろっとして言う。志郎は慌てつつ言う。
「俺は創った覚えはないぞ?」
「それはそうよ、あなたとの娘じゃないもの」
神はあっけらかんと言う。アーレフは苦笑しつつ言った。
「神さん。結構それって衝撃発言だと思うのですが、どちらとの娘さんですか?」
「そうね、晶と縁が深い人よ。ああ、晶ってのはそこにいる日向晶ちゃんのほうね。発音が同じだからちょっとややっこしいけど。」
神はそう説明した。晶は吃驚しながら言う。
「私ですか?私は全然知らないんですけど・・・」
「まあ、あなたが気づいていないときに「彼」は居なくなったからねぇ」
神はそう言った。その台詞でアーレフは気づいて言う。
「グラニデウスさんですか。」
その答えに神は肯定した。志郎は驚いて言う。
「魔族の力と融合させたのか。」
「そうよ。」
神はそう答えた。苦笑しつつ志郎が言う。
「全く、何かやりそうだとは思ったが・・・いきなり浮気かよ。」
「ち、違うわよ!誰が浮気なんかしますか。折角知り合ったからやりたかった「実験」を提案しただけだもの。そんなことする訳ないじゃない。」
神がむきになって否定する。苦笑しつつアーレフが言った。
「まあ、落ち着いてください。志郎さんもいきなりそういう言い方はひどいかと。傷ついたことは分かりますが男性のほうがまずは譲歩して言い分を聞いてあげるべきですよ。」
アーレフにそう言われて志郎は苦笑しつつ言った。
「ああ、すまない。なんか悪い風に考えてたな。神は俺たちを驚かそうとしていたのは分かっていたんだが・・・。すまない、神。」
「いや、いいのよ。あなたの気持ちを、あまり顧みなかったあたしも悪いわ。」
神もばつが悪そうに答えて言う。その姿を見ながらセレナが言った。
「あらあら、そう言いつつ、夫婦で惚気られては困りますわね。」
「あ、いや、これはそう言うわけでは・・・」
志郎が苦笑してそう答えた。神は顔を真っ赤にしつつ俯く。玲が言った。
「私はここに居ないほうがよかったのでしょうか?」
それに答えて全員が言った。
「それは絶対にない。」
少しの間の後、笑いが起こった。しばし皆が笑った後、アーレフが言った。
「まあ、そういう結論ですから問題はないですよ。玲さん。しかし、名前が似てるとややこしいですね。」
「あー、ごめんなさいね。あたしはその場のノリで付けるほうだから・・・(^^ゞ」
神が苦笑しつつそう言った。玲が答えて言う。
「私はその場のノリで創られた訳か。」
「あ、いや・・・玲ちゃん、そんなところで闇の力解放しないで・・・(^^ゞ」
神が焦りつつ言う。晶が驚いて言う。
「あの・・・さっきと話し方が違われてるのですけど・・・」
「私のことですか~?」
玲がそうやって答える。晶はそれを見て頷いた。苦笑しつつ神が言う。
「玲は完全に「力」を融合させてないから、右目が閉じている状態では闇の側が左目が閉じている状態では神の側が強く発揮されるようになってるのよ。両目のときが一番融合している状態なんだけどね。」
「ですから、私はこのように眼の色が異なるのです。」
玲はそう言って皆に立ち上がって眼を見せた。惺がそれを見て言う。
「玲、美しい眼だな。見入ってしまいそうだ。」
「ありがとうございます、お姉さま。」
玲はそう答えた。苦笑しつつ志郎が言う。
「確かに、突拍子もない実験だな。神らしいとも言えるが。」
「う、五月蝿いわよ。」
神は顔を赤くしつつそう言った。アーレフと晶は微笑ましくそれを見ていた。
「羨ましいですわねぇ。お兄様はこういうのを一杯見続けてたのですね。」
セレナがそう言った。苦笑しつつアーレフが言う。
「まあ、お前は閉じ込めておいて私が外を出歩いていたことは謝るよ。しかし、父上にとってはお前は唯一の愛娘だ。そこは大変だが理解してくれ。」
「理屈は分かりますわ。でも、感情まではついていきませんわ。」
セレナはそう言いはぶてる。ミルがボソッと言った。
「セレナ様、はぶてた姿が可愛いですねぇ。」
それを聞いてレネアが言う。
「あー、ミル様駄目ですよ~。ミル様はレネアだけを見てくださいね~。」
そう言って、ミルに抱きつく。ミルは慌てながら言う。
「ちょっと、レネアちゃん、ここでは駄目ですよ~。」
「なら、後でうんとしてくださいよ~。」
レネアが言う。ミルは苦笑していた。
「さて、今回集まってもらったのは言うまでもないのですが・・・」
アーレフはそう言って話を切り出した。続けて言う。
「私と晶さんとの結婚式のことです。父上と話し合って五日後に行うことに取り決まりました。」
それを聞いて志郎が言う。
「五日後か、結構早いが準備とかは大丈夫なのか?」
「はい。実は、以前から基本的な準備はすでにしていたんですよ。父上は。」
アーレフはそう答えた。セレナが驚きながら言う。
「兄上、それは本当ですか?」
アーレフは頷きつつ答えた。
「ええ、私だけでなくセレナのものも基本的にはすでに準備されています。元々父上は用意周到な方で私たちが生まれたときからいろいろ準備するのが好きな方なんですよね。言い換えるなら準備することに喜びを見いだしている、見たいな感じでしょうか。」
「なるほどね、町の区画整理でも思ったけどあなたの父上は余程緻密な計画が好きな方なんでしょうね。」
神がそう言った。セレナが気づいたように言う。
「そういえば、計画も父上は立てますけど、とっさのときの対応も素晴らしいですが兄上、あれはどうして?」
「それは簡単です。父上はそこまで基本的に想定されているからです。もちろん全てを行うと大変ですから原則とガイドラインをしっかり整えるという意味ですけどね。」
アーレフは説明しつつ言った。志郎が感心しながら言う。
「いや、実は一つ一つがんじがらめに規則を作るほうが作るほうは楽なんだがな。守るほうはくそ面倒なんだが。お前の親父さんの方法はルールを策定するほうが大変でそれに従うほうが優しいという、優れたやり方なんだが言い換えると非常に難しい方法なんだけどな。」
「とても素晴らしい方なのだな。」
ラミュアがそう言った。アーレフとセレナは照れていた。そんな二人を神は微笑ましく見ていた。
「早いのは嬉しいが、アーレフ、お前はもう聞いているか?刺客の話を。」
志郎が話を切り出して言った。アーレフが答えて言う。
「はい。父上や、近衛隊長から聞きました。まさか私だけでなく王族全員かもしれないとは、私も考えていませんでしたよ。」
「もしかしたら、帝国の関連かな。」
神がボソッと言った。志郎が考えつつ言う。
「ふむ、確かに可能性は高いな。政治、経済的に安定しているこの国を無理やり奪う必要を感じるのはそこくらいのものだろう。しかも、王族に数多くの不幸があれば付け入る隙は出やすいからな、向こうはそれを狙ってるのかもしれないし、万が一そこの仕業とばれたとしてもそれを根拠に攻め入るとでも考えていたかもしれないな奴等なら。」
「志郎さんは帝国の人たちもご存知なのですか?」
セレナが志郎に聞いた。苦笑しながら志郎が言う。
「あまり知りたくはなかったがな。冒険者である以上そっちのほうにも詳しくなってしまってね。当時は一応人間として一流冒険者だったからな。今は三流の神だが。」
そう言ったので、晶がくすりと笑った。
「ふう、美味しかったわ。五日後か、ならそれまで何をしましょうかね。皆でしたい提案とかある?」
神がそう言った。それに答えて惺が言う。
「母上、宜しいか?」
「言いなさい、惺。」
「ありがとう。兵士達と一緒に修練がしたい。もちろん力はセーブする。」
惺はそう言った。神は面白そうに惺を眺めながら答えた。
「いいけど。どうしてそうしようと思ったのかしら?」
「あ、うん。一緒にやると楽しそうだったからだ。もちろん、父上やラミュアとやるときも楽しいのだが、なんと言うか・・・別の楽しみ、というか・・・うまく説明できないな。」
惺はそう苦慮しつつ言った。神は微笑みながら答える。
「いいのよ、自分なりの答えを見つけたのだからね。じゃあ、惺はそれでいいのね。他はどうするのかしら?」
「ああ、神すまない。俺は旧友のところに行って来る。腐れ縁なのでな、いろいろ積もる話をしてくるよ。」
志郎がそう言った。神は頷きつつ答えた。
「分かったわ。昔の大事な人なんでしょうしね。友人は大事にしないとね。」
「すまないな。」
志郎が再度そう言った。ミルが手を上げて言う。
「あの~。あたしはレネアちゃんと一緒に居ますね~。」
「ミルはそれで確定よね。」
神は言い切ってしまった。ミルは頬を膨らませながら言う。
「マスターそれはひどいですよ~。」
「でも、レネアちゃん捨てろって言ったら出来ないでしょ?」
冷たく神は言い放つ。ミルは困惑しつつ言った。
「そんなこと無理に決まってるじゃないですか~。こんなに可愛いのに~。」
「重症ねこれは。」
神が呆れつついった。皆は微笑んでいた。アーレフが言う。
「私たちは仕度がありますし、王族として戻った以上公務もありますのであまり私的には動けないと思います。」
「でしょうね、気にしなくていいわよ。もとより想定内だから。」
神はにこやかに言った。ラミュアが言う。
「マスター、私も惺と一緒に行動しても良いだろうか?」
「いいわよ。あなたが自分で選ぶのなら問題はないわ。」
神はそう答えた。玲が最後に言う。
「母上。私は母上と共に街に繰り出そうと思うのですが。」
「あら、玲もそう考えてたのね。いいわ、一緒に行きましょう。」
神が微笑みつつ言う。アーレフが苦笑しつつ言った。
「また、何か企んでますね。」
「まあね。」
神が悪戯小僧のように微笑んだ。
「では、食事もそろそろ皆さん終わり始めたようですし、終了した方からお部屋のほうにお戻りください。また五日後にお会いいたしましょう。」
そう言ってアーレフは話をまとめた。
神は志郎と共にベットに入っていた。娘達は別の部屋である。
「しかし、いきなり二人目とは思わなかったぞ。」
志郎が苦笑しながら言う。神は済まなそうに言った。
「志郎、怒ってる?」
「へ?いや、怒りはしないさ。発想がすごかったから怒るとか以前に、先にやられちゃった、見たいな感じかな。ちょっと表現が変だけどな。それに、なんていうか、玲も可愛いしなお前にそっくりだし。」
志郎はそう言った。神は顔を赤くしつつ言う。
「馬鹿・・・。」
「ああ、俺は馬鹿さ。お前と一緒になる選択をした馬鹿な男だよ。」
志郎はそう言って神を抱き寄せた。神はそのまま志郎に包まれていった。
外では風が吹き抜けていた。
神の独断とも言うべき行動でレミアルト王都に来た一行。今度はここで、様々な出来事に遭遇することになる。何が起ころうとしているのか?
次回「玲」。
貴方にも良い風が吹きますように。