冒険者
結婚式も無事に終わり一旦街に滞在する事に為った神達。
其処で彼女達が出会う出来事とは・・・。
小説 風の吹くままに
第十章 冒険者
ラミュアは街を歩いていた。それなりに人通りが多い通りを歩いていたが、ふと、ある建物が気になり、そこに入っていった。それを見つつミルが言った。
「最近ラミュアちゃんは積極的ですねぇ。」
晶はそれを聞いて答えて言った。
「確かにそうですね。でも、いい傾向じゃないですか。お話に聞いたところではラミュアさんは完全な神さんの作品ではないと伺いましたけど。」
「そうですねぇ、魔道具を基本に創られてますからねぇ。でも、そのうち完全な意味でラミュアちゃんになりますよ~。」
晶の質問にミルはそう、意味深に答えた。晶はその意味がよくはわからなかったが、
「はぁ、とにかく見守ってれば良いと言う事でしょうか。」
と、答えた。ミルが微笑みながら言う。
「そうですねぇ、あ、あたし達も少し離れてラミュアちゃんについていきましょうか~。」
そう言いながらミルはラミュアが入った建物に入っていった。晶もついて入っていく。
そこは、ただ眺めると普通の酒場にも見えた。しかし、中に居る人たちが一般人には見えなかった。ラミュアは初老の男性がカウンターに座ってるのを見て隣に腰掛けた。ラミュアを見て初老の男性が言う。
「おやおや、こんな場所に可愛いお嬢さんが珍しい。お前さんも冒険者かな?」
そう言われて、ラミュアは、自分のこととは思えずその男性を見た。そして言う。
「私のことか?」
ラミュアがそう答えて男性は頷く。ラミュアは少し考えてから答えて言った。
「冒険者とは何か?」
ラミュアがそう言ったので、酒場では大きな笑いが起こった。ラミュアは何が起きたか理解できずにきょとんと見ていた。男性が言う。
「なんと・・・そう言うことも知らずにここに足を運ばれたのか。お前さんはどういう身分の人物なんだろうな。」
「私か?私はマスターの剣だ。」
ラミュアは素直にそう答える。その答えを聞き男性は多少険しい顔をしながら言った。
「マスター。剣。・・・・・・お前さん、魔法生命体なのかな。」
「詳しくは知らない。私はマスターにより創られた。そして剣としての使命が与えられた。今は、自由に過ごせといわれてるのでこうやって話している。」
ラミュアはそう説明する。機械的だが、分かりやすい説明をするので男性は苦笑していた。
「そうか・・・冒険者についてだったな。冒険者とは、普通の人では行わない、戦いや冒険を行う、いろいろな依頼をこなす「万屋」のような商売だな。やる事柄が多岐にわたるので一言で説明するのは難しいかも知れぬな。」
男性はそう言った。ラミュアが答えて言う。
「なるほど、記憶する。剣志郎のような存在を指して言うのだろうか。」
ラミュアが志郎の名前を出したので酒場はどよめいた。男性が言う。
「その名をなぜ知っている。彼は冒険者でも一流と言われた男。最近行方が知れてないらしいが。御主は知っているのか?」
「志郎はマスターと一緒だ。今は一緒に行動しているはず。」
ラミュアはそう答えた。男性は驚いて言う。
「ほう。彼が他の人物と一緒にな・・・。ぜひ会ってみたいものだ。」
「分かった。話をして今度つれてくる。」
ラミュアがそっけなく答える。苦笑しつつ男性が言った。
「そうか。ありがとう。ところでお嬢さんお名前はなんと言うのかな?ああ・・・私はディルサイヴ、もう老齢だが魔法使いという立場のものだよ。」
「私か。私はラミュアという。」
ラミュアが答える。その答えに感心しつつ男性が言う。
「ラミュア(刃となる者)か。良い名を与えてもらったな。」
そう言われてラミュアは素直に頷いた。男性はそれを見た後で続けて言った。
「で、何が知りたいのかな?」
そう言って、ディルサイヴはラミュアと会話を始めた。
ミルと晶は少し離れたテーブルでラミュアを見ていた。
「本当にラミュアちゃんは勉強熱心ですねぇ。」
ミルが感心しつつ言う。晶が苦笑しながら言った。
「見るもの聞くものが新鮮みたいだからかもですね。」
その意見にミルも頷く。二人が座ってる席にドワーフが一人やってきた。
「お嬢さん方、ご一緒してもよろしいかな?」
二人は頷いた。ドワーフは二人の向かい側に腰を掛ける。そして言った。
「どうして今日はここに来なさったのかな?ここは冒険者ギルドなんぢゃよ。」
そう言われて、晶は納得しつつ言った。
「ああ、なるほど。それでいろんな種族の方が一同にいらっしゃるのですね。」
そう、ここにはいろいろな種族のものが居た。きわめて珍しいものでは妖精族や竜族の亜種と思われるものまで居る。ミルが感心しながら言った。
「ほえ~。ラミュアちゃんはだから興味を持ったのですかねぇ。」
「私には分かりかねますけど。でも楽しく話されてるみたいですよ。」
晶はラミュアの様子を見ながらそう言った。ラミュアはディルサイヴといろいろ会話をしているようだった。ドワーフはラミュアのほうを見た後でミル達のほうに向き直り言った。
「なるほど、あのお嬢ちゃんと一緒なのか。ところでな、わしはラグレムと言うんぢゃが今は暇でのう。良ければ話し相手になってもらえんかの?」
そう言いつつ、酒場のマスターにエールを注文していた。苦笑しつつ晶が言う。
「長時間でなくて良ければお付き合いいたしますよ。」
「あ、ミルも大丈夫~。」
ミルがあわせるように言う。そうしてこちら側でも談笑が始まった。
志郎は周囲を歩いてる人々に目が行っていた。人間以外にも様々な種族が歩いている。ぱっと見ただけでもドワーフ、エルフなどが居た。人間とは全く違う種族としても竜族の亜種、妖精族や小人族など、多岐に渡る。ふと、冒険者時代を思い起こしていた。
「どうしたの、志郎?」
神が、志郎の様子に疑問に思いそう言った。志郎が苦笑しつつ言う。
「何、ちょっと昔のことを思い出してな。」
「へぇ。聞かせてくれるの?」
神が興味深そうに言う。志郎は苦笑しながら言う。
「あまり自慢できる話じゃないが・・・そうだな、そこで休みながら話すか。」
そう言って、日よけに立っている樹を指差した。神は頷き、二人はそこに座る。
「そうだな・・・どこから話すのがいいかな。」
そう言って、志郎は話し始めた。
「なるほど。楽しそうだな。」
ディルサイヴから話を聞きながらラミュアはそう言った。そしてこう言う。
「私にもできるのかな。」
そう言われて、ディルサイヴは驚きつつ言った。
「御主、冒険者をやりたいのかな?」
「そうだな・・・やれるのならやってみたい気もする。」
そうラミュアは返事をした。ラミュアの言葉を聞いてディルサイヴは感心しつつ言った。
「まことに不思議だな。魔法生命体とは思えないほどの反応だ。お前のマスターとやらにも会ってみたいものだ。」
ディルサイヴがそう言ったのでラミュアが答えて言う。
「分かった。マスターに聞いてみる。」
そう言って二人は会話を続けた。
「まぁ、そんな感じでぢゃな。わしが突っ込んでいってのう。奴に叩き込んだわけぢゃよ。」
ラグレムは過去の自慢話に花が咲いていた。苦笑しつつ晶が言う。
「この手の話はなかなか終わりませんからねぇ・・・」
ミルが答えて言う。
「大丈夫ですよ~。いざと言う時にはラグレムさんに「寝て」もらいます~。」
そう言われて晶は苦笑した。ラグレムは、エールを飲みつつ「話」を続けていた。
「ふ~ん。」
志郎の話を聞きつつ神がそう言った。志郎が苦笑しつつ言う。
「どうした、面白くないか?」
「いや、そうじゃなくてさ。」
「ん?」
「今も大して変わらない生活してるじゃない。」
「ああ、確かにな。」
そう、依頼されてやってるわけでなく、自分たちから問題に突っ込んで、だが。ふと、神は考えて言った。
「ならさ。あたし達も「それ」をやりましょうか。」
「え?」
「だから冒険者稼業もついでにやろうってこと。志郎は元々やってたんなら顔も聞くでしょ?」
神にそう言われて、志郎は苦笑しつつ言う。
「まぁ、そりゃぁ、顔は聞くが・・・。」
「何か問題でも?」
「問題というか・・・お前をどう説明していいやら。」
「あなたの妻でいいじゃない。」
「そう言う問題なのか?」
「まさか全て言うわけにも行かないでしょ?」
「そりゃそうだがな・・・。」
「一箇所に留まらなければ大丈夫でしょうしね。」
「そうだな。」
志郎がそう言ったのを見て神は結論付けて言う。
「なら今日は帰って、皆で話し合いましょう。アーレフたちの賛同も得たいしね。」
「ああ、そうだな。」
そう言って、二人は立ち上がり、宿を取っている酒場に向かって行った。
「楽しかった。できるなら、また話がしたい。」
ラミュアはディルサイヴにそう言った。会話が一段落つきディルサイヴもにこやかに笑顔をしながら答えて言った。
「そうだな。私も楽しませてもらったよ。できればまた話がしたいものだな。」
そう言ってディルサイヴは握手のための手を出した。ラミュアが答えて手を差し出す。二人は固く握手を交わした。
「そろそろ「寝て」もらいますかねぇ。」
ミルはそう言っていた。晶も頷く。ラグレムはまだ延々と「話」を続けていた。と、突然倒れこむ。晶がいう。
「あらあら、ラグレムさんは寝入って居まいましたか。ご主人、御代はここに置いておきますからラグレムさんの分も取って置いてくださいね。」
そう言いつつ、晶は十分すぎるお金を置いてそこを後にした。
神が帰るとアーレフがすでに宿に戻っていた。
「あ、お帰りなさい。デートは楽しめましたか?」
アーレフがそう言った。神は顔を赤らめつつ答えた。
「ま、まあね。アーレフこそ楽しめたのかしら?」
「はい。貴重な書物をいろいろ拝見させてもらえましたよ。」
アーレフは嬉しそうに言った。神が答えて言う。
「それは良かったわ。そうそう、相談があるんだけど。」
そう言いつつ、今までの経緯を含めて神はアーレフに話し始めた。
「ただいまですぅ。」
「今、帰った。」
「ただいま戻りました。」
三人は、そうやって帰還を報告した。神が答えて言う。
「お帰り。三人も楽しめたかな?」
「あ、はい。いろいろ楽しませさせて頂きました。」
晶がそう答える。ラミュアが神の前に来て言う。
「マスター、御願いがある。」
「あら、ラミュアが御願いって珍しいわね。何かしら?」
「志郎と一緒に冒険者ギルドという場所に行ってもらいたい。」
ラミュアの台詞にきょとんとして神が聞いていた。そしてしばらくして笑いながら答えて言う。
「あは。これって偶然なのかしら?ね、志郎。」
神はそう志郎に賛同を求めて言う。志郎が言った。
「全くだな。面白い一致だな。」
アーレフは微笑みながら見ている。ラミュアは何のことか分からずにきょとんとしている。神が笑い終えると話を続けていった。
「ああ、ごめんねラミュア。あたし達もそこに行こうって、さっき話してたところなのよ。それに関して皆に提案があるから聞いてもらえる?」
皆は頷き、神の話を聞くことにした。
「という風にしたい訳なの。どうかしら?」
神はこれまでの経緯と、これからやりたいことを皆に提案した。ミルが答えて言う。
「いいんじゃないですかねぇ。あたしはマスターの意見に賛成です~。(それに反対しても何か言われそうですし・・・)」
「ミル、何か言った?」
「い~え~なにも~。」
アーレフが苦笑しつつ言った。
「私も問題ないと思いますね。場所を固定せずに移動しながらであれば冒険者としても問題ないでしょうし。ただ、そのうち伝説化しそうですけどね。」
晶も意見に同意しつつ言う。
「そうですね、神さんたちは特別ですからあまり派手な活動は控えたほうがいいかもしれないですね。」
「派手、って・・・そんなにあたし派手かなぁ・・・。」
神が答えて言う、ラミュアが付け加えて言う。
「マスター、自覚がない。」
志郎が苦笑しながら言う。
「そりゃ、無理もないさ。昨日今日で「神」になったんだしな。かく言う俺もだから、どうセーブしてよいのやら・・・。まぁ、なるようになるしかないんじゃないか?」
「なんだか、いいように言われてるけど、皆同意って事でいいのかしら?」
神がまとめて言った。全員が頷いて答える。神がそれを見て言った。
「分かったわ。では明日行きましょうか。今日は、この後は自由にしましょう。とはいってもあまり日が暮れるまで時間がないけどね。」
そう言って解散した。
「んじゃ、俺たちはどうする?」
志郎が神に聞く。神が答えて言う。
「そうね~。今度はあたしのお願い聞いてもらえる?」
「ん?何だ?」
神は志郎がそう言ったのを聞いて顔を赤くしつつ言った。
「これから一緒になって欲しいな。」
「へ?」
志郎が分からずに聞きなおしてしまう。神は真っ赤になりながら言う。
「だから!・・・一緒に寝てって・・・」
そう言われて志郎は、苦笑しつつ言った。
「お前・・・まだ日は高いのに・・・まぁいいか。」
そう言って志郎は神を抱き寄せてベットに入った。
朝。始まりは清清しく感じると一日がいい方向に進むように思えてくる。まぁ、その場の雰囲気に流されているとも言えるがそこはそれ、都合の良い方への解釈であろう。神もそう感じながら背伸びしていた。
「今日もいい朝ね~。」
「ああ、そうだな。」
志郎も一緒に起きていた。そして二人は、いつものように修練を始めた。
「今朝もですか。相変わらずお二人は熱心ですねぇ。」
アーレフは二人が酒場の前で修練をしている様子を眺めていた。朝早く起きている街の人たちも立ち止まって見ている。言い換えるならそれ程のものなのである。
「おはようございます。」
晶が起き上がってきて挨拶をする。アーレフが答えて言う。
「ああ、晶さん。おはようございます。階下は相変わらずですよ。」
くすりと笑いながらアーレフは階下を指し示す。そこでは激しく神と志郎が修練をしていた。その様子を晶も見て微笑みながら言った。
「本当に楽しんでいらっしゃいますね。」
「そうですね。神さんたちはそこが素晴らしいんでしょうね。」
アーレフがそう答えるのを見て、晶は頷いた。
「朝食、始めるらしい。二人も降りる。」
ラミュアがやってきてそう言った。アーレフはくすりと笑って晶に言った。
「行きましょうか。」
晶は頷いて一緒に階下に降りていった。
「ふう。久々にすっきりしたわ。」
神がそう言いつつ座席に着いた。志郎がややくたびれた様子で座りながら言う。
「神・・・少しは加減ってものをだな・・・」
「何のことかしら~?」
神がとぼけて言う。志郎は呟きながら言う。
「人生の選択を間違えたかな・・・」
そんなやり取りを見てアーレフと晶は苦笑しながら見ていた。ラミュアが酒場の主人から手渡された食事を並べていく。それを見つつ晶が言った。
「さ、まずは朝食にしましょう。」
そう言われて、皆は食事を始めた。
冒険者ギルド。そこは要するに冒険者のための寄り合い所帯のようなものである。冒険者という稼業がその性質上まとめる存在が無いと悪い方向に作用しやすいために自立組織として生まれたのが発端である。大抵の中程度の街以上に存在し、街の人の些細な問題から竜族と対峙する様な大冒険までいろいろな案件を扱う組織であった。基本的には街単位でのコミュニティだが情報提供の面では各ギルドは比較的緊密に連絡を取り合っていた。アーキレストのギルドも比較的中程度のギルドでカウンターを兼ねる酒場では大勢の冒険者や依頼者が談笑していた。
「ここだ。」
ラミュアはそう言いつつドアを開けて入ってきた。ラミュアの姿を見てディルサイヴが言う。
「ラミュアじゃないか。今日はどうした。」
そう言われてラミュアが答えて言う。
「今日はマスターたちも来た。」
神たちは中に入っていった。志郎の姿を見て一部どよめきが起こる。
「あいつは、剣志郎じゃないか?」
「姿形は奴だな。だが以前と違って見えるが。」
そんな風にいろいろ言われていた。神が志郎に言う。
「そういえば志郎は冒険者だったわね。いろいろ噂が立つほうだったのね。」
苦笑しつつ志郎が答えて言った。
「一応一流扱いだったのでね。お前と出会ってから三流に為りたくなったよ。」
アーレフがそのやり取りを見て微笑む。ラミュアが神にディルサイヴを紹介しつつ言った。
「マスター、彼が昨日話したディルサイヴ。こっちは私のマスター。」
「杜神よ。よろしくね。」
神はそう言って手を差し出した。ディルサイヴは手を差し出し、握手をする。
「よろしく。こうも簡単につれてくるとは、吃驚したな。」
ディルサイヴはそう言った。神が答えて言う。
「単に意見が一致しただけよ。あたし達も冒険者稼業をやってみようかとね。」
「なんと・・・そう言うことか。」
「手続きはどうすればいいのかしら?」
神がそう言ったので、ディルサイヴはギルドマスターを指差して言った。
「彼がここのギルドマスターだ。まずは彼に聞くがいい。」
「ありがとう。」
神はそう返事をして、ギルドマスターの元に行った。
「ほう。いきなり六人も登録とは珍しいな。」
ギルドマスターはそう言った。神は答えて言う。
「あら?チームとか組めば六人って普通じゃない?」
「まぁそうだが、ここは大きな街じゃないからな。比較的少人数のグループが多いのさ。」
「なるほどね。あ、そうそう、六人ワンセットでなくても依頼はこなせるからその点も含めておいて。」
「ほう、相当腕に自信があるようだな。」
「まあね。手続きはこれでいいのかしら?」
「ああ、問題ない。依頼関連はそこの掲示板にいろいろ貼ってあるから見てみるといいさ。」
「ありがとう。」
神は手続きを済ませて皆が居るテーブルに戻ってきた。
「お帰りなさい。手続きは終了ですか?」
アーレフが言う。神が答えて言う。
「ええ。依頼関連は掲示板に張ってあるそうよ。興味があるのからやってみるのもいいかもしれないわね。六人全員でやる必要はないから必要であれば何人かに分かれましょう。」
「わかった。」
「わかりましたぁ。」
「了解。」
「はい。」
それぞれが返答する。志郎が言った。
「で、とりあえずはどうするのかな。」
「そうね・・・ラミュア、あなたは何がしたい?」
神はそう言ってラミュアに聞いた。ラミュアはしばらく考えてから言った。
「ディルサイヴと仕事をしてみたい。」
「なるほど。彼に興味を持ったのね。なら、そうね。アーレフ、晶、一緒について行ってあげていいかしら?」
神はそう言ってアーレフと晶の帯同を求めた。二人は答えて言う。
「分かりました。」
「ええ、いいですよ。」
それを聞き、神はラミュアに言う。
「じゃあラミュア、ディルサイヴに一緒にしてもらえるか御願いしてみなさい。」
「分かった。」
ラミュアはそう言ってディルサイヴの元に行った。
「どうなるか楽しみな組み合わせだな。」
志郎がそう言う。神は答えて言った。
「多分この経験でラミュアは成長するわね。」
「そうなのか?」
志郎が問いつつ言う。神が答える。
「多分、ね。」
ミルが言った。
「マスター、あたし達はどうしましょう?」
「好きなようにすればいいわ。何もしないのも方法よ。」
「え?そうなんですか~?」
「別に掲示板にあるだけが依頼じゃないからね。」
「あぁ、なるほどぉ。」
神に諭され、ミルが納得しながら言った。志郎が補完しながら言う。
「それに、依頼者がこの場に来る場合もあるし、街中で歩いていて事件に遭遇する場合もあるからな、以前がそうだっただろう?」
「ああ、確かに~。そう言うのを処理するのも冒険者の仕事に入れていいんですねぇ。」
ミルが答えて言った。神が苦笑しながら言う。
「正確には、仕事にはならないけどね。依頼を受けた時点が本来は仕事だから。」
「なるほど~。」
頷きながらミルは言った。神が言う。
「さて、あたしも考えない状態でここに来たし。どうしましょうかね。」
そう神が言っていると一人の身体つきのいい戦士がやってきた。
「剣志郎殿とお見受けするが?」
戦士は、そう志郎に言った。志郎は答えて言う。
「ああ、以前はそう呼ばれていたな。今は杜志郎という。俺に何か用か?」
「できるならば、裏の修練場にて一対一での試合を申し込みたい。」
戦士は志郎にそう言った。志郎は神に目を向ける。神は頷いた。志郎は答えて言う。
「了解した。すぐ仕度をしよう。」
それを聞いていたほかの連中が騒ぎ始める。
「裏で試合が始まるぞ!」
そう言って裏に続々と人が行き始めた。苦笑しつつ神が言う。
「刺激が少ないのか、こういうことには皆目がないわね。」
そう言いながら神は席を立ち上がり志郎について行った。
戦士は静かに立っていた。ただ立っているわけではない「気」を練りそれを十分に発揮できるように精錬しているのである。その姿を見て志郎は言った。
「いい戦士だな。」
神も同調して言う。
「そうね、まだまだ伸びそうね彼女は。」
神の言い草に志郎が焦る。
「彼女?!奴は女なのか?」
苦笑しつつ、神が言う。
「なあに、気がつかなかったの?女性よあの戦士は。」
志郎は戦士を見る。全身鎧を着ており顔もフルフェイスの兜で完全に覆っている。目は見えるがそれだけでは性別は分からない。しかも非常に体格はよく、知らないものが見れば男と思うであろう。志郎は苦笑しつつ言った。
「俺にはわからなかったな。」
「彼女は無駄に胸がないから理想的なのよ、戦士としてね。逆にそれが彼女のコンプレックスにもなってるけどね。」
神がそう説明する。苦笑しつつ志郎が言った。
「こういうときはお前がうらやましく思うよ。」
微笑みながら神が言う。
「なーに。心配しなくても、志郎もそのうち分かるわよ。」
「そうか・・・。では行って来る。」
志郎はそう答えて戦士と対峙しに向かった。二人は構えを取る。戦士は手にした刃引きの剣を構える。刃が無いとはいえもろに当たれば大怪我は必須である。志郎は拳を構えた。はたから見れば志郎が圧倒的に不利に見えた。
「どう見ても志郎殿のほうが不利に見えるんだが・・・」
「しかし、あの志郎殿だぞ?今までだって、試合で負けたことは無いじゃないか。」
観客になった冒険者たちはそう語る。
「へぇ、志郎ってかなり強かったのね。」
神がつい、そう言ってしまう。それを聞いた冒険者の一人が言う。
「お嬢さん。知らなかったんですか?志郎さんは冒険者仲間の間でも結構語り継がれてる方なんですよ。」
「なるほどねぇ。志郎があたしと戦うのを躊躇う訳だわ。」
神のその言葉の意味はその冒険者には分からなかった。神のほうが強いなど、理解できなかったからである。神が叫びながら言う。
「志郎!かっこ悪い真似するんじゃないわよ~。」
それに答えて志郎が片手をあげる。それを見て戦士が動いた。
「シュッ!」
すばやい動きで剣が志郎の居る場所に突き刺さる。下手をすれば串刺しである。刃が無いとはいえ金属の武器だ、当たればただではすまない。しかし、志郎はすでにそこにはいなかった。戦士の左側に回る。つまり右手方向戦士にとって利き手側である。はたから見ればそれは不利な移動に見えた。
「なぜ左に?あれでは不利になる。」
観客の一人がそう言う。神は志郎の意図を理解した。
「あの馬鹿・・・。」
神はついそう言っていた。戦士は右手のみに剣を持ち直し横に薙ぐ。志郎をかすめるか、というところで武器は薙いで行く。志郎はそのまま後方には回らず戦士の前方に進路を変える。武器が右に移動したために戦士は状態が不利になった。そこで戦士は自分の身体を回転させ剣に対して左側に回りこむ。そうやって剣を自分に巻き上げて逆に剣を回転させた。志郎はそれを見て、剣が来ることを読み取り後方に下がる。そして少しずつ「気」を集め始めた。戦士が逆回転で剣を薙いできたので志郎は離れることになった。その様子を見て観客は喚声を上げる。二人とも優れた戦闘を続けているからである。しばらくそうやってこう着状態が続いた後で志郎は戦士の懐に入って「気」を叩きつけた。その反動で戦士は飛ばされ地面に倒れてしまう。それにより勝負はついた。周囲では喚声が上がる。
「ふう。終わったぞ。」
志郎は神にそう言った。神ははぶてながら言う。
「馬鹿。」
志郎は面食らって言った。
「な、なんだよいきなり。どうしたってんだ。」
「こんなことなら、彼女のこと説明しなきゃ良かったわ。」
神が不平たらたらで言う。志郎が戸惑いながら言う。
「どうしたんだ?もしかして、俺が彼女にしたことか?」
「分かってるじゃない。」
「いや、神がなぜ怒ってるかがわからん。」
「本当に馬鹿ね。ああいう手の抜き方をされて、相手が喜ぶと思うの?」
「えっ?」
神の意図が分からず志郎は間抜けな返事をする。神が続けて言った。
「志郎。あたしが手を抜いてたときも不満があったでしょ?」
「あ、ああ。」
「なら、彼女もそれなりの腕の持ち主。あなたが、あえて手を抜く動作をしてるのが分かるのなら、どう思うかしら。」
神にそう言われて志郎は得心した。答えて言う。
「そ、そうだな・・・確かに彼女のプライドを傷つけかねないな。俺の配慮不足だった。」
「全くよ。他の一般人にはほとんど理解できてないみたいだけどね。彼女並みの人間には理解してるんじゃないかしら。今度からは気をつけてね。」
「ああ、そうするよ。」
二人がそう話していると戦士が起き上がってきた。そして志郎のほうに進んでくる。
「志郎殿、ありがとう。私ではまるで相手にならなかった。ぜひ今後とも、機会があればお相手を願いたい。」
戦士はそう言った。志郎は戸惑いつつ答えて言った。
「あ、ああ。俺でよければ。」
神は苦笑しつつ二人を見ていた。
「あの娘もいい娘なのね。」
神はそう言った。
「私と?本気で言ってるのかね?」
ディルサイヴはラミュアにそう言った。ラミュアは頷く。ディルサイヴはため息混じりに言う。
「この老人と一緒にか。そなたも物好きだな。」
「だめか?」
ラミュアが問う。ディルサイヴは苦笑しつつ答える。
「いや。わざわざのお誘い喜んで引き受けよう。して、何をするのかな。」
「まだ分からない。それも聞きたくて、ディルサイヴのところに来た。」
ラミュアが率直に言う。微笑みながらディルサイヴは言った。
「そうか、ならこれから探すとしよう。後ろのお二方もそれでいいですかな?」
ディルサイヴはアーレフと晶を見ながらそう言った。二人は頷いて答えた。
ミルは一人で酒場の中に居た。そこに一人語りかけてくる。
「あの~。」
ミルは自分に語られると気づかずにぼ~っとしていた。その人物は再びミルに語りかけた。
「あの~。そこの大きなお姉さん。」
そう言われて、ミルは自分に語りかけられてることに気づいた。
「あ、あたしですかぁ?」
ミルが言う。それに応えて語りかけた人物が答えた。
「はい。冒険者の方なんですよね?」
ミルはその人物を見た。純白のドレスを着て長いブロンドの髪。美しい、とまでは行かないにしても清楚で品のある女性だった。ミルは答えて言う。
「そうですね~。冒険者ですよ~。」
自分ではないかのような台詞に少々戸惑いもしたが女性は肯定の答えを得たので話し始める。
「依頼を御願いしたいのですが・・・」
ミルは驚いて言う。
「あたしでいいんですか~?」
女性は頷きつつ答えた。
「あなたのようなしっかりした女性に御願いしたいんです。」
しっかり、といわれてミルは少々気をよくした。ミルは問いながら言った。
「どういうご用件ですか~?あたしにできるものならいいのですけど~。」
ここで神が居れば、あなたにできない依頼なんてあるのかしら?とツッコミが来るであろう。神は裏手に居るので今はすぐ言えない状態ではあるが。
「私の護衛を御願いしたいのです・・・その・・・詳しいことは別室で二人だけでお話したいのですが・・・。」
女性はそう言って顔を赤らめながら言った。どうやらあまり他人には知られたくない内容らしい。ミルはそれを悟り、ギルドマスターに言った。
「ギルドマスター、お部屋を一つ借りてもいいですか~?依頼人の方とお話がしたいのです~。」
ギルドマスターはミルにある部屋を指差した。ミルは感謝しつつ女性をそこに案内した。
神と志郎は模擬戦を終えて酒場に戻ってきた。
「あら、皆各自行動したのね。」
神が言う。志郎も答えて言った。
「そのようだな。ミルも何かあったようだ。」
神がため息一つ出して言った。
「あたしもたまにはやり合いたいなぁ・・・。」
苦笑しつつ志郎が言う。
「誰が相手するんだよ・・・。」
「それを言わないで・・・。」
はぶてつつ神が答えた。その神を見て志郎は、可愛いな、と思った。
「しかし、まじめにどうするかな。都合のいい依頼なんぞそう簡単には無いしなぁ・・・」
志郎がそう言う。神も答えて言った。
「そうね、別にここでのんびり過ごすのも一つの方法じゃない?」
そう言われて志郎も諦め顔で言った。
「まぁ、そうだな。よし。マスター一杯くれ。」
そう言って早速注文した。呆れながら神が言う。
「相変わらずねぇ・・・。」
答えて志郎が言った。
「これだけはやめれないさ。」
「いろいろあるがいいものはあったかな?」
ディルサイヴがラミュアに尋ねながら言う。ラミュアは掲示されてる依頼を次々と見ていた。その様子を微笑ましくアーレフと晶が見ている。その様子を見ながらディルサイヴが言った。
「そなたら二人はまるでラミュアの両親のようだな。」
そう言われてアーレフが答える。
「そう見えますか?」
「ああ。」
「それは嬉しいですね。私たちも彼女がどう学ぶか楽しみなんですよ。」
「なるほどな。では私も張り切って教師役をやらせてもらうとしよう。」
ディルサイヴがそう言ったのでアーレフは微笑みながら答えて言った。
「ぜひ御願いします。彼女が他人に興味を持つのはあなたが初めてですからね。」
ラミュアは依頼を見ていたが一つの依頼に目を留めた。そしてそれを示して言う。
「これがいい。」
そう言われてラミュアが示した依頼にディルサイヴが目を通した。そして言う。
「ほう・・・魔道具の探索か。面白いものに興味を持つな。」
彼がそう言ったのを聞いてアーレフと晶はお互いに目を合わせた。ディルサイヴは続けて言う。
「依頼者は、ほう、ここの有力者の一人豪商モンティオーネ家か。これは難事件かもしれないぞ?」
ラミュアが答えて言う。
「私では無理か?」
それに答えてディルサイヴが言う。
「いや、私も居るし、お前一人ではないからな。だが、時間がかかるかも知れぬ。このことをお前のマスターに報告しておいたほうがいいと思うぞ。」
そう言われてラミュアは肯定の仕草をしながら答えた。
「分かった、マスターに報告しておく。」
しばらく目を瞑った後ラミュアは言った。
「報告しておいた。マスターもやって来いと言ってくれた。」
ラミュアがそう言ったのを聞いてディルサイヴは驚きつつ言った。
「御主、精神感応で報告できるのか。」
ラミュアは答えて言う。
「言われた内容がうまく理解できないが、恐らくディルサイヴの言ったことのようだ。」
苦笑しつつディルサイヴが言う。
「能力と知識のギャップがすさまじいな。確かにこれは教育のし甲斐はありそうだ。さて、まずは依頼主に会いに行くとするか。」
そう言われて、皆は頷いた。
ミルは女性と一緒に部屋に入り扉を閉じた。その後、沈黙の魔法を周囲に掛ける。これで外からはこの部屋の音は基本的に聞こえない。
「これでよしっと。もう話しても大丈夫ですよ~。音は外に漏れないようにしましたから~。」
ミルがそう言ったのを聞いて女性は驚きつつ言う。
「魔法も使われるんですね・・・素晴らしいです。」
ミルは頭をかきつつ言った。
「たいした物は使えませんよ~。攻撃ならラミュアちゃんとかのほうが役立ちますし~。」
女性はミルが遠慮深く言ってるのを見てくすりと笑って言った。
「遠慮深いのですね。あ、申し遅れました。私はエオーネこの街に住む街娘です。今回大好きな殿方との結婚が決まりました。」
それを聞き、ミルは答えて言う。
「あ、ご丁寧にどうもです~。あたしはミル=フェリシア、マスターの使い魔をしています~。あ、そうだ、ご結婚おめでとうございます~」
エオーネはミルの台詞に疑問を思って聞いた。
「あの、ミルさん。使い魔って何でしょうか?」
「あ~・・・詳しく言うとややこしくなるので省いちゃいますけど~。マスターが創造した特殊生命体のことです~。」
ミルは究極的に省いて説明した。神が居れば、そんなのは説明じゃない、と突っ込まれるであろう。エオーネは理解はできなかったようだが納得しつつ言った。
「はぁ・・・私には難しい内容なのでさっぱりですが・・・マスターと呼ばれる方はすごい方なんでしょうね。」
「そうですねぇ・・・すごいというか・・・一緒に居て楽しいですよ~。」
ミルは正直に言う。逆にそれがエオーネを混乱させることになるわけだが。混乱しつつもエオーネは依頼の内容を話し始めた。
「あ・・・と、まぁ、その話は置いておいて。依頼のほうを進めますね。私はこれから結婚をするわけなんですが実は私に言い寄って邪魔をしてくる者が居るんです。」
「それはいけませんねぇ。」
ミルが言う。エオーネは頷きつつ話を続けた。
「それで、式まで後二週間あまりなのですがその間、私の護衛を御願いしたいのです。もしかするとあの人は私をさらおうとするかも知れませんので。」
「なるほど~。お話は分かりました~。マスターにこのことを報告してから、エオーネさんの護衛に入りますね~。」
ミルが答えて言う。エオーネがあわてて言う。
「あ、あの・・・ですが、私は、その・・・あまり持ち合わせが無くて・・・。」
「?」
ミルはエオーネが何を言おうとしてるのか分からず首をかしげる。エオーネは、意を決して言う。
「あのですね。あなたに差し上げるお金がほとんど無いんです。それでもいいのでしょうか?冒険者の方にこんなことを言うのはおかしいとは思うのですが・・・。」
そう、冒険者はそれで生活をするわけだから代価がもらえない状況で依頼するほうがおかしい。しかし言い換えるなら彼女はそれだけ必死ということである、本当であれば、だが。ミルは微笑みながら答えて言った。
「ミルには無償でも大丈夫ですよ~。マスターに報告しますので少し待っててくださいね~。」
そう言って、ミルは目を閉じる。しばらくしてミルは目を開いた。そして言う。
「報告は終わりました~。マスターも手伝えと言ってくれましたので喜んで手伝わせていただきます~。」
それを聞き、エオーネは涙を流しつつ言った。
「ありがとうございます。本当に、ありがとうございます。頼れるところが無くて、困っていたので、本当に・・・。」
「ああ、泣かないでください~。どうすればいいか、話し合いましょう~。」
ミルはそう言った。エオーネは涙を拭き、ミルと今後について話し合い始めた。
「ふ~ん・・・。」
神はつまらなそうに言う。志郎がその様子を見て神に言う。
「どうした?」
「ラミュアもミルも依頼を受けて二週間くらいかかりそうだって。あたしも何かしようかなぁ・・・」
退屈そうに神が答えて言った。志郎が苦笑しつつ言う。
「何かってお前・・・何をする気だよ。」
「そうねぇ・・・竜退治はこの前やったしなぁ・・・魔族もこの前追い返したし・・・どこかに強い奴はいないかな~。」
神がそう言うのを見て苦笑しつつ志郎が言う。
「おいおい・・・話が大きくなりすぎるって。」
「だって~・・・」
神が頬を膨らませながら言う。志郎はやれやれといった調子で言った。
「全く、しっかりしてると思えば、今度はこうだ。飽きないが疲れるなぁ・・・。」
「ふ、ふん!一緒に来る道を選んだ以上あなたにも付き合ってもらいますからね!」
神はふてぶてしく言った。志郎は苦笑しつつ言う。
「それは重々承知してるさ。今夜はとことん付き合うからそれで今は我慢しろ。」
そう言われて神は顔をほころばせながら志郎に擦り寄りつつ答えた。
「うん・・・そうするわ。」
「こうしてるときは可愛いんだけどな。」
志郎がポツリと言う。目ざとく神が言う。
「何か言った?」
「いや、気のせいだろ。」
志郎がごまかしながら言う。そして志郎はついである酒を飲んだ。神は志郎に寄り添いながらゆっくりと時間を満喫していた。
ラミュアたちは豪商モンティオーネ家に来ていた。応接間に通され四人は椅子に座って依頼主を待っている所だった。
「すごい御宅ですねぇ。」
晶が感嘆しながら言う。
「モンティオーネ家はこの都市でも一二を争う豪商だからな。威厳を保つためにもこういう調度品は必要になってくる。まぁ無駄にあるのはまずいがここの主人は節度があるから好感が持てるぞ。」
ディルサイヴはそう説明した。アーレフが感心しながら言う。
「かなりお詳しいですね。地元で経験が長いのですか?」
「ああ、私はここの生まれなんでね。冒険者としても長くやってるし職業柄魔法使いなんぞやってるから情報にはこだわりがあるからな。」
ディルサイヴはそう答えた。ラミュアがその言葉をかみ締めながら頷いていく。晶はそんなラミュアを微笑ましく見ていた。そうしてるうちに部屋に一人の女性が入ってきた。女性は四人が座ってるのとは反対の椅子に腰を掛けた。そして女性が言った。
「私が依頼主でモンティオーネ家当主シャルフェイメレオン=モンティオーネと申します。長い名前ですのでシャレオンとお呼び下さい。」
そう言いつつ、深々とお辞儀をした。ラミュアがそれを見て言った。
「私は、ラミュアと言う。彼は、ディルサイヴ。そしてその隣がアーレフ。彼女は晶と言う。ぜひ、依頼内容を話して欲しい。」
そう言うラミュアを見てアーレフは驚きに満ちて見ていた。今まで彼女がこのように積極的に話す所は見たことが無かったからである。晶もそれに気づいてアーレフに言った。
「ラミュアさんってあれほど快活に話す方ではなかったと思いますけど?」
「ですね。とりあえず、今は様子を見ましょう。」
小声でアーレフも返し、二人は様子を見守ることにした。シャレオンは用件を話し始めた。
「実は、私の家で、昨年子供が一人亡くなりました。急病ゆえ仕方が無かったのですが知り合いのつてでわが子を蘇らせる事は出来ませんが、似た容姿の魔法生命体なら作れると聞いてそれを依頼したのです。しかし、製作途中で最も重要な核と呼ばれる魔道具が盗まれて売り捌かれてしまったのです。その核を行方を捜していただきたいのです。それには、印章としてわが家の刻印があるそうなのです。依頼したい内容は以上です。」
そう言ってシャレオンは深々と頭を下げた。アーレフと晶はお互いに顔を合わせた。思い当たる節があったからである。ラミュアが答えて言う。
「内容は分かった。こちらで持ち帰って、依頼が達成できそうなら後日また訪問する。無理であるなら、無理だと連絡する。それで宜しいか?」
そう言われてシャレオンは頷きながら答えて言った。
「はい。構いません。大変難しい依頼であることは承知していますので。ぜひ御願い致します。」
そう言って、彼女はそこから立ち去っていった。彼女が去った後ディルサイヴが言った。
「えらく大変な依頼だな。どうするのか?」
アーレフと晶はお互い顔を合わせていたがアーレフが意を決して言った。
「思い当たる節があります。まずは一旦宿に帰って神さんと相談したいのですが。」
「マスターに?」
ラミュアが言う。晶が補足して言う。
「ラミュアさんにも関係することなんです。ですから神さんに聞くのが早いかと。」
「分かった。行こう。」
ラミュアはそう言ってそこを後にした。三人もついて出て行く。道中でディルサイヴが言った。
「なにやら御主達、というよりラミュアに関連がありそうな感じのようだな。」
そう言われてアーレフが言う。
「流石の洞察ですね。恐らくその可能性が高いと思います。」
そうして一行は神が居る宿に向かった。
「なるほどね。」
神はそう言った。ラミュアたちの報告を聞いていたのである。
「と、すると、ラミュアのコアを調べないといけなくなりそうね。」
神が結論付けて言う。晶が疑問に思い言った。
「調べなくてはいけなくなるのは分かりますが、万が一依頼者の物だったらどうするんですか?」
当然の疑問である。神はあっけらかんと答える。
「ラミュアが決めることよ。」
そう言われて晶は納得が出来ず神に言う。
「しかし、コアが無ければラミュアさんは生きていられないんじゃありませんか?それを彼女に決めさせるなんて・・・。」
今にも泣きそうな晶を遮るようにラミュアが手を出しながら言った。
「晶泣かなくていい。」
神は微笑みながら言った。
「もう決めてるのね。流石だわ。」
晶はその言葉が理解できなかった。アーレフやディルサイヴは理解していた。ラミュアが言う。
「マスター、コアを調べてもし依頼者のものであれば取り出して返してあげて欲しい。そして私は作り直すなり処分するなりして欲しい。」
神は再度尋ねるように言った。
「ラミュアはそれでいいのね?」
ラミュアは頷きつつ言った。
「構わない。あの人の悲しみを少しでも和らげてあげたい。」
ディルサイヴはラミュアの様子を見て驚いた。先日とはまるで違う、これほどまでに向上するとは。いったい何が?
「不思議なようね。ディルサイヴ。ラミュアは「普通」じゃないからね。」
神がそう言う。ディルサイヴは知りたいが故に聞いて言った。
「「普通」ではないだと?神殿詳しく教えてもらえんかな。魔術を嗜むものとしてはラミュアのような存在は実に興味深い。」
溜息をしつつ神は言う。
「いいわ。教えてあげる。ラミュアが好いたあなただからね。ただし、他言無用よ。まぁ、他言しても誰も信じないでしょうけどね。ラミュアはね、盗難されていた魔道具の核にあたしが直接創り上げた魔道特殊生命体なのよ。」
暫く、ディルサイヴは何も言えなかった。目の前で、自分達がやりたいことを「やった」という人物が現れたのだから。少し経ってからディルサイヴが言う。
「つまり、コアはともかく他は全て神殿が自ら創り上げたと?」
「ええ。」
神は肯定して答える。ディルサイヴは疑問に思い言う。
「しかし、一介の人にそんな力はないはず。どうやってそんなことが?」
「簡単なことさ。神が一介の人ではないからだ。」
志郎がそう言う。アーレフが更に補完して言う。
「あなたは「神」の存在を信じますか?」
「ああ、もちろん。居なければわれわれは存在できないからな。」
ディルサイヴはそう答える。アーレフは微笑みながら続けて言う。
「そうですね、しかし、我々の基を創始された「神」も事実居られますが、我々の生活圏内で我々に関わりながら身近な存在としての「神」も居られるんですよ。」
そう言われて、暫く沈黙が続く。そしてディルサイヴが言う。
「それが神殿だと?」
「まぁ、そう言うことよ。ラミュアはもしコアを除けば一時的には活動は止まる。しかし、コアはあくまで基本的生命維持と心を再現するもの、しかもラミュアのコアは心の表現が未完成のものだった。だから、あたしが新たに創れば、記憶はそのままで新たなラミュアが出来る。ラミュアはそれを「理解」してるから、さらに、新たに覚えた感情を大事にしたいからこの選択が出来るのよ。晶もディルサイヴも全てとは言えないでしょうけれど理解できたかしら?」
二人とも、戸惑いながらも肯定した。ラミュアが二人に言う。
「大丈夫。マスターが私を創った。マスターは優しい。そんなマスターは晶たちが悲しむことはしない。」
神はそう言われ、顔を赤くしながら言った。
「ちょ、ちょっと、ラミュアまで・・・ったく、何であたしの創るものはこうもお節介なのかしら・・・。」
志郎が言う。
「お前に似てるからだろ。」
「五月蝿い!。」
神は顔を真っ赤にしつつ言った。ラミュアが身体を広げつつ言う。
「マスター、御願い。」
溜息を一つ吐いて神が答える。
「分かったわ。皆は少し離れてね。」
そう言われて、二人を残し皆は少し離れる。神の身体が輝き始めるそして「力」がラミュアに入り始めるそれによりラミュアも神と同じように輝き始め、そうしてラミュアの胸からコアが出てきた。コアは完全にラミュアから離れそれから後ラミュアの包まれていた光が消えた。消えると同時にラミュアは倒れる。
「ラミュアさん!」
晶がそう言って駆けつける。ラミュアは寝息を立てて寝ているようだった。
「良かった、生きてる・・・」
神はちょっと不満げに言う。
「当たり前よ。あたしを誰だと思ってるかしら・・・。」
それを見て志郎が言う。
「まぁまぁ。晶も悪気があって言ってるわけじゃないんだし。」
それを聞いて神が言う。
「逆よ。悪気がなく言ってるから、腹が立つのよ!」
それを聞いてアーレフとディルサイヴが苦笑した。志郎はやれやれと手を広げて見せた。手に入ったコアを神は見た。するとそこにはモンティオーネ家の刻印がしっかりと入っていた。
「なるほどね、盗品としてあれは流れてきてたのか。ということは狙ってた連中は悪用でもしようとしてたのね。」
神がそう言う。アーレフも状況を理解して言った。
「恐らくそうでしょう。ここからレミアルト王都までは距離がありすぎますから正規ルートであそこまでいくとは考えにくいですからね。」
志郎が言う。
「そもそも俺の依頼主とラミュアの依頼主が違う点で問題があるしな。俺の依頼主は正規の依頼じゃなかったというわけだ。そう言う意味では神の側について正解だったな。」
「ま、そう言うことね。これでラミュアの依頼に関しては一件落着かしらね。」
神がそう結論する。
「しかし・・・疑問点が一つある。」
志郎が言う。
「ん?」
「ラミュアの製作されたときの名前だよ。レスフェミュナシュア(神を狩る者)だったよな。結構物騒な名前だったと思ったんだがあれも依頼主の意思なのか?」
神はそう言われて思い出しつつ言った。
「ああ、あれね。アーレフ、依頼主の名前覚えてる?」
突然アーレフに話を振られ、戸惑ったが、少し間をおいて答えて言った。
「えっとですね・・・シャルフェイメレオンさんでしたね。」
「その言葉の意味は何でしたっけ。」
「堕天使。または哀れみ深き魔女。美人だけど悲哀をこめた女性にたまに使われる名前ですね。」
「ま、そう言うことね。」
神はそう結論付けた。意味が分からずに志郎が聞く。
「どういうことだ??」
「だから、そう言う名前をつける家柄ってこと。名家とかではよくあることよ。そして通常では略名を使う。これも大きい家では普通でしょ。」
「ああ・・・そう言うことか・・・」
志郎は得心して言った。
「初めは悪魔崇拝かと思ってたけれどそっち関連で良かったわよ。まぁ、別の場所で悪魔崇拝があって面倒だったけどね。」
神は晶に関連したことを踏まえつつそう言った。ラミュアが目を覚ます。晶が言った。
「ああ、ラミュアさん目を覚ましました。良かった・・・。」
そう言いつつラミュアに顔を埋めていた。ラミュアは状況が理解できずに周囲を見ていた。
「私は・・・?」
「お帰りラミュア、気分はどうかな?」
神がラミュアに言う。ラミュアは答えて言った。
「以前よりも爽快、マスター。おかげで心の表現がしやすくなった。」
「それは何より。晶も心配してるから立ち上がって無事なところを見せてあげなさい。」
「はい。」
そう言ってラミュアは立ち上がる。晶はその姿を見て喜んだ。と、同時に顔が真っ赤になった。
「ちょっとラミュアさん!裸じゃないですか!」
「はい。」
「いや、はい。じゃなくて・・・服を着ないと。」
「しかし、今はない。」
「いやそうじゃなくて・・・」
二人の様子を見てアーレフが言う。
「なんだか、晶さんがお母さんでラミュアさんが娘のように見えますねぇ。」
「ふむ、いい表現だな。」
「確かにいい表現ね。」
志郎と神がそう言って賛同した。その様子を見ながらディルサイヴが言った。
「素晴らしい。私がこんなところを目に出来るとは。本当に素晴らしい。ラミュア殿と出会えて本当に良かった。あなたたちとも出会えて本当に良かった。」
ラミュアがディルサイヴの前に来て言う。
「ディルサイヴ、迷惑を掛けてしまった、許して欲しい。これで依頼は達成できるだろうか?」
「あ、ああ・・・だがなラミュア。」
ディルサイヴは年甲斐もなく赤面しつつ言った。続けて言う。
「先に服を着てくれんかな。」
神たちはそれを聞いて笑っていた。
風が吹いていた。
冒険者としての道も歩みだした神達。
彼女達の行く先に何を見る事に為るのか。
次回「宝物」。
貴方にも良い風が吹きますように。