杜(あかなし)神(しの)
このお話は段落ごとに人称が変わる場合があります。また、台詞の括弧書きが誰が言っているかについても書いてある場合と、書いていない場合があり多少分かりにくい場合があります。会話シーンが多いので些か見づらい点が多々あると思いますが、初心者故に生暖かい目でご覧になってください。
小説 風の吹くままに
第一章 杜神
荒涼とした草原にあたしは立っていた。
見渡す限り何も見えないほどにあたりは平坦で静かだった。
ふと見上げると一輪の花が咲いていた。
名前は知らないが、見たことのある花だった。
凛として、力強く大地に根を張っており、小さいながらも存在感があった。
「それはあなたです。」
ふと声が聞こえた。振り向くと初老に見える老人がたたずんでいた。
いつの間に?そう悩んでいるとさらに老人は語った。
「悩むことはありません。ここは現実ではない世界、そう、あなたの心のうちの世界で語らせてもらっているだけですから。」
心?つまり、夢でも見ている、と?
しかし、あたしは今ここに立ってるのがはっきりとわかるほど認識できている。
夢ならこうもはっきりしたものだろうか・・・。
「迷うのも無理はありません。あなたの知らないところであなたは選ばれあなたに使命が与えられました。あなたの意思に合うかどうかにかかわりなく。これは宿命とも言うべき事柄なのです。」
老人は淡々と説明していった。
「つまり、あたしは別世界に召喚され、そこで活動しなければならない、と?」
要約するとそういうことらしい。
「簡潔にいえばそうなりますね。あなたはこれから、あなたの知らない世界で旅をしていただかなくてはならないのです。しかし、以前の世界のような無力な者ではありません。その世界を左右しうるほどの力が与えられます。それをどう使うかはあなた自身にかかっているのです。」
いきなり突拍子もない宣告に、あたしは面食らった。
異世界に召喚され巨大な力を持って旅をするように・・・そういきなり言われて、はいそうですか、と納得できるほうがどうかしている。戸惑っていると初老らしく見える老人はさらに言った。
「戸惑われるのはもっともなことです。かの方はこのようなことが大変お好きな方で、私どもをいつも困らせる方ですので。ですが、ご自分で対処できるだけの力が与えられますのでそう困ることは無いかと思いますよ。」
「はぁ・・・」
あたしは情けないような、肯定の返事をしてしまった。彼もどうやら特定の存在からの指示で動いているようである。「神」がいるとすればそういう方からなのだろう。あえてだめもとで彼に聴いてみることにした。
「その方は、なんという名前でどういう方なのでしょうか?」
初老の人物は少し困った顔をしながら答えた。
「お名前を語る事は許されておりませんので、今回は御遠慮させて下さい。恐らくあなた方が「神」と呼ぶ存在である、とだけ言い含めておきます。われわれを含めあらゆるものに関係される方です。」
そう話してくれた。
「神」か。まぁそうなるだろう、超自然的な介入など「神」やそれに近いものでしか不可能な話である。
「話の内容はわかったわ。で、どうすればよいのかしら。」
あたしはそう答えて、今後どうすればいいのか聞いた。その返事に初老の風体の人物は、少し驚いた様子で答えた。
「お早い肯定の返事で、正直驚いております。大抵このような突拍子もない内容を語ると、大抵の方は拒絶や、無理解を示されますので。」
まぁ、そうだろう。いきなり現れて(しかも幻のような状態で)「神」の使いです。これから起こることを理解してください。対処する力は与えておきますから。などと、つっけんどんに言われても、信じる信じない以前の問題であるだろう。その人物は話を続けた。
「あなたは、杜 神という名の人物として、その世界で過ごす事になります。初めは旅人として始めますが、どう過ごすかはあなたの自由です。というか、あなたにはほぼその世界に対する全権が与えられているので、どう過ごすかはあなたが決めることができます。」
そこまで語ったときあたしは話を遮った。
「ちょっと待って。それって、あたしに「神」になれということ?」
彼は軽くうなずいて答えた。
「簡単に言うとそう言う事になりますな。何をするのもあなたの自由です。制限はほぼないと思っていいでしょう。ただ、世界を根底から崩すことを行うとそこに存在できなくなりますので、強制的にそこから戻ることになります。注意点として、あなたご自身は寿命が無い存在となるので、そのまま、そこにいる人間と長く生活するのは大変難しいということだけは言い含めておきます。」
突拍子も無い内容に、あたしは唖然とした。何をするのもいい世界、といえば聞こえはいいが、要するに、力は与える、後は勝手にして来い、というようなものである。
「なんともねぇ・・・まぁ、やると言った以上やってみるけど、どうなることやら・・・まぁ、それが先方の見たいことなのかしらね。」
彼は、あたしがそう言ったのを聞いて、多少驚いた様子で答えた。
「先見の明がおありですな、かの方のご意思もお分かりのようですな。では準備が出来次第お送りしましょう。」
気持ちを落ち着けてから、あたしは彼にお願いすることにした。彼はそれに答えてあたしを送り出してくれた。
光の只中をあたしは抜けていった。新たな世界へ杜神として。風のように吹き抜けるために。
次回「始まりの丘」。神の旅は始まったばかり彼女は何を考え何を決めるのか。次回も良い風が吹きますように。