いやいや勘違いだよ
アルバイト仲間を集めて宴会をした
賑やかしで流しているテレビは世界の不動産を紹介する番組だった
みんな話に夢中でテレビを見るでも無く聴くでもなしBGMというにもお粗末な話だ
その番組の中でとある外国の古城が売りに出されているらしい案内があった
レポーターは不動産の売買ならこの人というテンションの高い芸人さん
この芸人さんも海外のロケの仕事ということでやけに気合が入って張り切っている
1600年代に建築されたこの古城は領主のなんとか伯爵が生涯をかけて創ったものらしい
当時の貴族の肝いりの建築物だけあって細部の装飾は凝っているのが解る
何気なく見ていた宴会のメンバーもそれとはなしにテレビを意識しだした
次々建物の内部も紹介されていった
しかし、見とれているけれど古城探訪の番組ではない
あくまでも売却不動産物件紹介の番組だ
凄い、圧巻、庶民にはまったく縁のない話だ
ゆうに30分の枠を使い紹介されたこの古城と言う名の不動産物件の売却価格が発表された
「では発表します!」
その前にCMに入った
CM後「では発表します!」の場面から始まった
「1600年代に建築されたこの古城・・・云々かんぬん・・・・ずばり150億円です!」
「へぇ~150億円か・・・想像もできない金額だなぁ」
「だいたい固定資産税とか電気代とか維持費もどれくらいかかるんだろうね?」
確かに庶民にはまったく関係ない話だ
「でも、これを買えるだけの財力のある人がいるんだろうね?周りにはいないけど」
その場はため息というか、諦めと言うか、初めから期待していない状況で過ぎた
テレビでは「続きまして日本の高級住宅地の売却物件のご紹介です」と場面が変わった
同時にレポーターが少しテンションの低い人に変わった
「築30年のこの物件はバブル時代に20億円かけて建設されました」
「へぇ~日本でもこんな時代があったんだな」
基本の間取りは11SLDKで浴室が3つ、地下には完全防音が施されたカラオケルームもある
先程の150億円の城に比べれば、時間枠は流石に短い
「では、この高級住宅地のバブル当時20億円かけて建てられたこの物件の売却価格は!」
また、CMに入った
CM後「売却価格はずばり1億5千万円です!」
宴会に集まったメンバーはそれぞれ顔を見合わせ
「おお!」
「流石に150億円なんて高すぎるけど、20億円の物件が1億5千万円とは安い!」
「それも日本の物件だしね」
急に話が盛り上がりだした。
これを手に入れたら、ああだのこうだの勝手に妄想で楽しい会話だ
みんな安さに浮かれているようだ
150億円の話が1億5千万円の話になったとたんにそうなった
ここで整理して考えてみよう
ここにいるメンバーはアルバイト仲間だ、不動産物件売却の話はリアルタイムの話だ
150億円であろうが、1億5千万円であろうが条件は同じはず
条件とは?
「いや無理でしょ?」
人は途方もなく大きな金額の話をした後に、それよりは小さい金額の話になると可能性を感じる気がするようだ
身の程知らずだと言うことを忘れさせてくれる勘違いもたまには幸せかもしれない