第一章5話 ボク2節 『君クソって感じじゃん』
一章5話予告編動画
https://youtu.be/L0ktqVi__tw
――しかし現実は非常である。
辛いバイトに対して持ち直したハルキだったが、少年はどうやっても落伍者であり、それはつまり上手くいかないのである。
いくら気持ちがあってもできない物はできない。
一瞬にして悪魔先輩にポテンシャルを見抜かれたハルキは今や最底辺の単純作業のみを行っていた。
「うっ、うっ、うっ……ボクだけまだノルマが終わらないよぉ」
荒れ果てた作業場で、半泣きになりながら一人で作業を進めるハルキ。
時間はとうに0時を回っている。
案の定の居残り、どうしたってこうなる未来は見えていた。
少年は自身の能力の無さ、現実の辛さ、眠気、そしてなんなら空腹とも戦っていたのだ。
「はぁ……小説を読みたいよぉ……から揚げ食べたいよぉ……なんだったらもう逃げ……ることはできないよね……」
想像するのは天使の笑顔。とおっぱいの感触。
ボクはボクのできる限りのことをするって誓ったんだ。辛いけどもうちょっと頑張ろう。
そんなハルキの純情を張り倒すかのように、突如勢いよくドアが開かれる。
完全に油断をしていたハルキは、咄嗟に作業していた銃弾の山後ろに隠れてしまう。
「(あぁぁ……びっくりした。ボクは何をやっているんだ)」
誰が入ってきたのか、出るタイミングを見失ったハルキはそっと顔を覗かせる。
そこには明らかに、今までハルキがその短い人生において見たことのないタイプの女性が立っていた。
服装は学生制服ではなく、肌を露出した見たことのないような着こなしの派手な服装。
ホットパンツにキャミソールというファッションだったがその名をハルキが知る由もない。
肌は日に焼けたかのような褐色で、髪は派手派手な銀髪。
耳は異様に長く、アクセサリー類を全身に装着していた。
ハルキは戸惑いながらも一つの答えに帰結する。
「(ギャル……?)」
そうだ。
小説の中にたまに登場したギャルといわれるような若い女性のファッションに相当する。
もちろんこの学園ではそのような文化は無く、創作の中だけの存在だと思っていたが現実にそれはやってきたのだ。
「ひーふーみーよー」
どうやらギャルはこの部屋で生産された成果物を確認しているようだった。
「(誰だろう……? 何にしてもここにいつまでも隠れているわけにはいかない。勇気を出して声をかけてみよう)」
ハルキが影から姿を現し、ギャルに声をかける。
「あ、あのぉ~……」
ボクはそれを見てしまった。
一瞬にして少年の顔は恐怖と驚きに歪む。
ギャルはどういった状態なのか、白目をむき口元を吊り上げ嗤っていたのだ。
通常の笑いではない。
明らかに異様な感情を持ってして口からはよだれを垂らし、恍惚といった表情でその感情を全身で表現していたのだ。
「キキキキ……! ココココぁ、っはぁ……! ぇひひゃはっははぁぁ……! ホォッホォオォゥ……!」
手をわなわなとさせ、悦に入っている異様な彼女にボクは思わすたじろいでしまう。
「ぁぁあぁ……なんなんだこの人。おかしい。おかしいよ。変態……だ……」
そのハルキの様子をやっと認識したのかギャルの表情が切り替わる。
「あっれ~君だれちゃん!? バイトの子、かな? こんな遅くまでご苦労様であります!」
これまた異様であった。
一瞬にしてテンションの高い口調に変化した彼女は敬礼をしてハルキを見据える。
「あ、あのあの、ボク、アルバイトで、居残りで……あの」
ボクの既知の外、既知外未知かつ異様なスキンシップにハルキはたじたじになってしまう。
「んー残りこれ? うわ君クソって感じじゃん?」
ハルキが作業をしていた銃弾を見てギャルは率直で無慈悲な感想を述べる。
「あうあうあうあぁぁぁ……」
感情の洪水に襲われたハルキの言語野はもはやとっくにオーバーヒートしていた。
確かにハルキの作っていた弾は、明らかに不均等かつ低品質で商品としてはとても許容できるレベルではなかったのだ。
見ず知らずのしかも理解できない謎の存在にそれ言及され、どうしたらいいかわからない。
「とりま、これはこれでいいっしょ」
彼女がその不良品に手をかざすと、外から見ても一目同然に良くなる。
ちぐはぐだった魔力が整えられ均等になり、商品としてのクォリティが格段に上がっているのがわかる。
「えっ!? ボクの作ってた弾がすごくよくなっている……」
ハルキの視点では何か魔法を使ったように見えたが、弾の魔力を込めたとも思えなかった。
この人異能力を使ったのかな……?
見つめる視線に気が付いたのか、ギャルがこちらに向き直り近づいてくる。
「そんなに見つめるなヨ! 火傷しちゃうぜぇ?」
ウィンクをしながら茶目っ気をだす彼女の歩み寄りは止まらず止まらず。
「ええ!? 近いですって!」
ほぼ接吻のような距離感でもって止まる。
壁際に追い詰められたハルキの顔を手で押さえ、ギャルはその目を見開き見つめてきた。
「うぅーん? ぁぁ~ん?」
彼女の息が至近距離でかかる。
最近おかしなことが多すぎるよ、ボクはなんでこんな人とこんなことになってるんだよ。もう明日朝覚めたら全て夢になってないかな。そういえばおなかすいてたんだから揚げ食べたいなあ。あれまって、この人眼が
「(宝石みたいだ……)」
ボクは彼女の目が宝石のような独特の光彩を放っているのに気が付いた。
その煌めく目によって、自身の中の中まで見透かされているような気分になってくる。
「ほぉ! いいのもってるじゃん。やけるなー、磨けば超~光るって」
たっぷりとハルキの目を観察した後に、ギャルはニッと屈託のない笑顔でそう告げた。
「まあ今日は遅いしもう帰っていいよ、ご苦労様おーちん!」
ボクの肩を強く叩きながら、元気よく告げてきた。
「お、おーちん……?」
それってボクのことだよね? 聞きなれない言葉がでてきたぞ。
ていうか痛い……。
「オークっぽいからおーちん。じゃね! あでゅ~!」
笑みとピースサインを送られながら、扉が閉められる。
帰っていいよと言ったわりには、自分が先に退出していった……まるで嵐みたいな人だな。
ボクは帰り際の思考が、全てギャルに囚われていた。
……オークってファンタジー小説に出てくる豚みたいな種族のことだよな。ボクは豚って事か……まあ否定はできないんだけども……
「はぁ……なんだったんだ、あの人……」
◇◆◇◆◇◆◇
それから、数日が経過した。
辛いながらも何とかバイトは続けられており、頑張った分フィルミさんに今日もお礼を言われる。
「はい、今週のお金だよフィルミさん」
「ありがとう、ハルキ君!」
いつものように手をぎゅっと握られる。
かわいい彼女の体温と温もりがそこから伝わってきた。
ああ。ボクはこのために生きて、頑張っているんだなあ。
「君はやさしいままでいてね」
フィルミさん、君のその笑顔のためならボクは何でもできるよ。
………
……
…
変化はそれだけではなかった。なんと仲間達から再評を受けたのだ。
「なんか最近お前イキイキしてるな。元気っつーか」
食堂にて、いつものメンバーに言われた一言だった。
「そうなのかな。ボクイキイキしている?」
意外な方面からの予想外の評価にボクの心は、花開くように明るくなるのを感じた。
「ああ、前のおどおどしているよりは全然いいぜ」
「お、おうぅぅ……」
褒めらられる事に慣れていないボクは、他人からの肯定になんとも言えない幸福感を感じる。
「あとはそのボクってのを変えようぜ。なんかへなちょこって感じ」
「お、おれ……やっぱだめだ変だ、言えないよ」
「はははやっぱ、お前らしいな~」
明るい笑いが広がっていく、話題の中心になれたという自負。自身の最近の自己肯定感により。
ボクの日常はいまだかつてない絶頂を迎えていた。
最高の多幸感と、頬が痛くなるような自然な笑顔。
いつかボクは俺になれるのかな。
俺って言えたら、本当の自分になれたら、もっと幸せなのかな。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
ちなみに、今日は塩サバを食べたゴブ。