第一章33話 オレ6節 『弱者たちの牙』
一章33話予告編動画
https://youtu.be/2q7ZTjwNlaA
コガミを倒し、無事に進級試験を切り抜けたルゥガ陣営だったが、その表情は暗く――。
「一応はあいつの言う通りになったが……」
いまだ戦闘の生傷癒えないルゥガが暗い面持ちで言葉を途切れさせる。
いつもの集会には二人しか顔が見えていない。
ルゥガ、そして――。
「信じましょう、ジンは間違いなくやってくれた。私はそれが違えたとは思えないわ……」
キリエはやはり暗い表情で答える。
ジンクが提案した作戦は、自らの退学と引き換えに不正票操作を強行するというものだった。
あの日以来ジンクは消え、数日後に退学処理になったという事だけを聞き及んだ。
「逆に言えば、退学になるくれーの何かをやったって事だぜ。ここは盛り上がる所じゃねーの? まぁあいつならそんな事そもそも気にしてなさそうだけどな」
ルゥガのカラ元気に追従するようにキリエも微笑む。
「たしかに、けろっとして『作戦なんだから当然だろう』なんて言いそうよね」
二人は答えの見えない状況に不安を抱きながらも、小さな希望を胸に湛えていた。
――そして開票日。
ホールに全校生徒が集まっている。
波乱の選挙戦に緊張と期待感でざわついた空気感が、皆々を包んでいた。
選挙管理委員会会長こと糸目男が登壇し、結果発表が始まる。
「……テリオス君93票、コガミ君131票、ルゥガ君126票、無効票12票。以上最多得票のコガミ君が当選し、次代の生徒会長に選ばれました。おめでとうございます」
票数が投影魔法によって大きく表示された。
ぱちぱちぱち。
その結果発表に控えめな拍手が広がる。
おかしい、やはり全体としてはルゥガ当選ムードだったはず。
決闘が、公開演説が、そして進級試験が。全てがそういった機運に繋がっていたはずだ。
情熱を持った生徒は皆、大小そういった感情を抱かずにはいられなかった。
「ちょっと待ちなさいよ!」
集団の中から大声が上がる。満を持してキリエが待ったをかけたのだ。
「ま~た君かぁ……選挙を混乱させるのはやめてくれたまえよぉ」
糸目男の悪態にも怯まず彼女は答えた。
「この投票は様々な噂が立っています。実際ルゥガ先輩は妨害を受けていました。委員会には正直不信感があります! ここでちゃんと、皆の前で開票するべきではないでしょうか?」
「バカなぁ……君は私達を疑うというのかなぁ?」
キリエの抗議に、会場が騒めく。
熱に充てられる者、興味がない者、興味本位で焚きつける者、なんでもいいから終わりたい者。
「私はルーカス現生徒会長が、その権威を使ってこの投票に不正を働いたと思っています」
キリエは会場に来ていたルーカスを真っすぐに見据え、はっきりとそう宣言した。
生徒のほとんどが黙認の禁忌をこの場で、公の場で口にしたのである。
その狂言とも言えるような、自死のような言い草に再び会場がざわついた。
「無礼ですよぉキリエ君。生徒会長がそんなことするわけがないでしょぉ。私への批判ならまだわかりますがぁ……」
「であればこそです。潔白証明の為、皆の前で開票してください」
キリエはブレず、引かず、慄かず、そこに確かに意思を持って高らかに告げたのである。
その毅然とした態度は、それだけで人を惹きつける魅力があった。
勇気と態度に充てられ、続く様に野次が、生徒会に対する積年の恨みが爆発していく。
「そうだ! 証明して見せろ!」
最初に一人の生徒が立ち上がると、次々と生徒が叫び始めた。
「ここで開票しなさいよね!」「会長の不正を許すな!」「オレ テリオス様 スキ」「いいぞーッ!」「っていうかあの子かわいくない?」「単位くれー!」
収拾がつかないレベルで、まるで雨後の筍のように叫びが次々と湧き上がっていく。
それは学園至上類を見ないような、生徒達による恨みの大合唱であった。
「(く、嫌な風向きだ。公開選挙や先日の試験、そしてコガミへの無理追試のせいで生徒会に対する批判が……ここまで民意が大きく動きすぎている。個人に対しては恐怖と飴で操れるが、大衆という大きな波まではもはやコントロールしきれん。くそっ、ここまで私が足を引っ張られるとはな……)」
ルーカスは自身の強硬政治による反動をここで受ける羽目になったことに内心悪態をつく。
こちらを伺っていた糸目男に向けて頷き、行動を指示する。
「静粛に、皆さん静粛にお願いしますよぉ~」
その言葉を受けても静まらない生徒達は勢いづいてゆく。
糸目男は焦ったように、野次騒音に向けて発言した。
「いいでしょぉ~、私も私や委員会を疑われるのは本意ではないのですよぉ……ここで今、開票を行いましょぉ」
その提案を受けて、5分後やっと会場は静けさを取り戻しつつある。
どうやら近くにいたという理由でベリルベッゾ先生がお目付け役として抜擢されたようだ。
「なんでベリルがこんなめんどーな事……いやまぁ生徒の自主性を受けてそれの面倒見るのが教師の役目なのだ……」
彼女は全然納得していない様子でボソボソと登壇し、ついに開票が始まった。
「(大丈夫だ。あの後、投票箱は私がしっかりと管理していた。小細工は一切できていないはずだ。あの箱が開票されても何も問題はない。あれはシュレディンガーの猫、タロウウラシマの玉手箱、パンドラの箱の類ではない。私にとってのクリスマスプレゼントなのだ……)」
ルーカスの額を冷や汗が伝う。その内心紡がれた言葉たちは、この学園の一般生徒が知らない文化や知識の物ばかりである。
男は、思わず饒舌になっている自分を自覚できてはいない。
追い詰められながらも、揺れそうになる自身を必死に言葉で支えていた。
「(ジンク……ジンクよ、貴様はこれを想定していたのか? まさかな……)」
開票は進んでいき、そして再集計が終わった。生徒たちに緊張感が高まっていく……。
「コガミ君128票、ルゥガ……129票……」
吐き出すように、認めたくないように、震える声で糸目の男が呟いた。
「ぉ? やっぱ間違えてるのだ。つまりルゥガが次の会長ってことなのだなぁ」
先ほどのやる気の無さはどこへいったのか、思わぬ逆転にベリルベッゾは愉悦の笑みを浮かべて、それを全校生徒に知らしめた。
「やったぁ!! やったわよルゥガ! ジンッ!」
その瞬間キリエが歓喜に飛び跳ねる。
髪は乱れ、しかしそれを気にした様子はなく感涙に感動に感情に身をゆだね、何度も何度でも飛び跳ねている。
それをきっかけとするように、瞬く間に大きな歓声と騒めきの波が会場に広がった。
「いやったあああ!!! 勝ったぜぇえぇぇ!?」「ひゃっはー!」「新会長誕生よ!」「ぇぇ? ルーカス負けたのかよ雑魚じゃん」「うぉー! うぉー!」
その歓声は、今日一番の声となり響き渡る。
今までの圧政が、ルーカスが、あのオーレオールが敗れたのであった。
「馬鹿な……ばかな……ッ!」
その結果にルーカスはいつの間にか席から立ち上がり、ぶつぶつと繰り言を呟く。
顔面蒼白になった男は屈辱に溺れながら、自身の正義が、権威が、存在が瓦解していくのを感じていた。
「見たかよぉ!? これがお前の圧政に押し付けられていた弱者たちの牙なんだよッ!! 高慢ちきにふんぞり返っていたお前の足元をすくってやったぜ!? お前さんのその歪んだ顔を見たかったぜぇぇぇぇ!!!!」
ルゥガは最大のカマしに、勝利の雄叫びを、歓喜を、カタルシスを、全身で表す。
前席の背もたれに足をかけ、いつもの両指差しをルーカスに向けている。
生徒代表ならざる素行の悪さも、今は今だけは、あの無敵不落の会長を下したという事実によって誰もが喝さいで迎えていた。
どういうことだ。
理解不可能! 理解不可能なのだっ!
なぜだ……。
……訳が分からない。
何故だ、いつこうなった?
やはり、すり替えをしていた?
もちろん今不正を行ったわけがない、奴は死んだ。
私がこの手で殺したのだ。では以前に……?
いや、箱は開けられていない。魔法防御も完璧、阻害も一切受けていない。絶対だ。
例え事象干渉系の異能力であろうと、不正は行う事はできないはずだ。
――箱は開けられていなかったのだ……ッ!!
そもそも、用紙は投票者毎の魔力が込められている。
これは指紋のようなもので、簡単に変えられるものではない……!
後から変更などできないのだぞ。
……まて。
まて、待つのだ。
つまり、そういうことか? 後からは変更できない!
「(そういうことかッ!!)」
私は確かに一度集計をして、票差を確認した。
この時点でコガミは128票、ルゥガは129票だった。
今現在のように一票差で我々は負けていたのだ。
その差を覆すため、私は成績下位のゴミ生徒かつルゥガに投票した3人を見繕い脅した……。
『このままの票を入れて退学になるか。もしくは間違いを認めて進級するか……?』
その結果3人が鞍替えし、コガミ131票、ルゥガ126票。
当初の結果通りになったはずだ……。
ここで確かに5票差がついたはずなのだ。そして私は封印魔法と施錠を行ったのだ。
その後ジンクとのやりとりがあり、そこから開票まで一度も箱は開けられなかった。
……開けられなかったのだッ!
――つまり、前提その物が間違ったのだ。
ジンクの不正はなかった。
奴はただ投票箱を奪って、それだけだ。それだけで何もしていなかったのだ。
つまり最初から私が圧力をかけた3人全員が投票先を変更しなかったということか。
いつもの私であれば、ジンクを殺した後間違いなく発表までに再度確認をしていた。
しかしジンクのブラフによって、疑心暗鬼になった私は箱を開けなかった。
「(いいや、開けられなかったのだ……!)」
あの時やつの行った投票箱を盗むという行動は、
“箱を私に開けさせて、票の操作をするためのブラフ”
ではなく……。
“そのブラフを私に意識させ、既に決着した箱を開けさせないようにするというブラフ”
……だったというのか。
ブラフ(開けさせない)の為のブラフ(盗み)。
私が読むことを読んだのか……。なんという男なのだ。ジンク、貴様は……。
騒音の中、項垂れたルーカスに向かってルゥガ以外にも勝ち誇っている生徒がいた。
先ほどキリエに続いて糾弾した男子生徒――以前会長にエセンタルを奪われた少年である。
「これがお前が見下した“ちっぽけな”俺たちの力だよ……!」
興奮冷めやらぬ中、会長交代式が進められる。
「……では……頼もしい新生徒会長を祝して……!」
ルーカスは震える手で、生徒会長バッジをルゥガに手渡した。
壇上の男は表面上いつものように毅然としつつも、若干の動揺が声から伺える。
二人はそのまま握手をすると、生徒から喝さいが巻き起こった。
――オーレオール王国、滅亡。
ここでルーカス政権は文字通り終わりを迎えたのであった。
周りには聞こえないような声のトーンで、ルーカスが口を開く。
「貴様は一体何をしたのだ。ルゥガ……どうやって私の圧力を捻じ曲げたというのだ……」
「はぁ? まだわかんねーのか? 俺はただ仲間を信じた、そしてお前がツバつけそうなやつに頼み込んだだけだ。俺が絶対良い会長になるから、クソ会長の圧力に負けないでくれってな」
その返答にルーカスは衝撃を受け一瞬思考が停止した。
ただ、お願いしただけだと……?
退学と進学の天秤よりも、ただの希望を選んだというのか?
あの底辺の生徒たちが……?
……。
ジンクは盗みをブラフに使い、私に何もさせなかった。
キリエはルゥガを守護し、そしてルゥガはただ真摯に投票者に話をしただけだと。
その上で……。
私は数々の不正をした上で――負けたのか……。
業を。私は踏みつけた弱者達から返されたというのか。
……。
ルーカスの中から恥辱と敗北感が薄れていく。
完敗。その二文字が、自身の中に貯まりに貯まった混沌と悪辣を吹き飛ばすように広がっていった。
……まるで、空虚だな。
「心から祝福しようルゥガ生徒会長、今回はやられたよ。今は認めようじゃないか。今だけはな……」
いつもの覇気をルゥガに飛ばすが、それは当然のように、完全に打ち負かされた心を見透かされたように届くことはなかった。
「何を上から勘違いしてるんだ? 俺はいずれお前自身も倒す。お前の弱点も知ってるんだぜ? オーレオール」
ルゥガはニヒルに笑い飛ばした。
その体は以前よりずいぶんと大きく見える。
「……ふん、やって見ろ小僧が。せいぜい卒業までの一年間うまくやれよ」
ダメ押しに威圧するルーカスの言葉はもう届かない。
完全勝利したルゥガは、既に次にやるべきこと事を捉えていた。
「(これで学園の秘密に迫れるぜぇ……待ってろ、ジン……ッ!)」
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はタケノコを食べたゴブ!




