第一章32話 ボク6節 『ボクはボクだ』
一章32話予告編動画
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「よ、よし……!」
ついにボクは決心した。
この答えを出すのに随分と悩んで時間がかかったけど……。
ボクは、俺になるために前に進むと決めたんだ。
それをするためには、ある人に協力してもらわなくてはいけないぞ。
「なぁーるほどなのだ」
ベリルベッゾ先生はボクのお願いを、よくわからない表情で目をつぶりながら噛み締めている。
「まったくしょーがねーのだ。できない子ほどかわいいっていうのだからなぁ……今回は特別なのだ」
「あ、ありがとうございます!」
かわいい子そのものみたいな存在に、その言葉を使われたボクはなんだかもやもやしてる。
でもこれで根回しはOKだよ。見ていてね……フィルミさん。
――ボクは君をこ、殺すよ。
慣れない言葉に、意識にボクの心はチクリと痛みを感じた。
さぁ、本も読めなくなったんだ。逆に試験に集中できるってもんさ。
訓練と計画を練るぞぉ……!
「(これはつまんなくないのだ、ハルキ)」
やる気を出して去っていく生徒の背中を、ベリルベッゾが優しく見守っていた。
………
……
…
そういえば色んなことが起こりすぎて全然気にしてなかったけど、今は選挙期間だったな……。
少し時間のできたボクは、張り出されていたそれぞれのポスターやマニフェストを確認していく。
このルゥガって人、顔は怖いけど弱者救済って言ってる……。弱者ってボクみたいな生徒の事だよな……。
……この人に票しようかな。
そんな風にボクが悩んでいると、一組の男女が廊下を歩いて来る。
ボクは邪魔にならないようにあわてて壁に避けた。
「私たちはルゥガ先輩に投票するのは確定として、問題は浮いてる票をどう獲得していくかよね」
「まぁそこだろうな」
あ、あの人たちは……から揚げの時……
ボクはあの時の攻防を思い出してなんだかムカムカしてきた。
必死だったのに邪魔するなんて……!
から揚げカップルと同じ投票先に投票しよとしていた事が、ボクはなんだか嫌なってきた。
当てつけで違う投票先にしてしまおうか、どうせボクはすぐに退学になるし。
学園政治なんてボクには関係ないんだ……!
……。
……。
「(はぁ……やめよう。逆恨みだよ。そんなことしても意味はないんだ)」
このルゥガへの一票が、思わぬ所で活きる事はボクは知る由もなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
そして数日が過ぎ去った。
大寒が過ぎ去り、少しずつだが春の芽吹きが感じられるようになってきた頃。
選挙投票が終了し、ついに試験の時はやってきたのだ。
「(はぁ緊張する……やれるだけやったつもりだ……頑張れハルキ!)」
ボクは無理やりカラ元気を出すと、ゆっくりと進級試験会場へと入場した。
そこはルゥガ達が進級試験で戦った30メートル四方の対人魔法訓練場と同じものである。
魔法のライトにボクは目を一瞬くらませるが、それよりも気になるのは対戦相手。
やはりそこには、ボクを殺すため、ボクを使い切るため。
――フィルミさんが立っていた。
「…………」
お互いに沈黙で会話する。
ここまでいろんなことがあったな……。
ボクは緊張と興奮で少し涙ぐみそうになるが、なんとか抑え込む。
彼女への憎愛の気持ちに少し混乱してしまった心を、静かに少しずつ殺していく。
観客席には少なからず生徒が多く集まっていた。
やはり人の盛衰を見るというのは、それだけでエンターテインメントなのである。
二年になってからの学園でのポジションも、ここでの成果が大きく寄与するといっても過言ではない。
この時、観客の中に何故か学食のお兄さんが来ている事はボクは気がつかなかった。
「さて! ルール説明なのだ」
ジャッジは当然ベリルベッゾ、子供先生である。
見た目は普段と変わらないよう振る舞う彼女だったが、内心穏やかではなかった。
「(目をかけてる二人の生徒同士の殺し合い、気分がいい物じゃないのだ。どっちにも負けてほしくはないが、ハルキの成長如何次第なのだろうな……)」
二人に確認が終わり、ベリルベッゾがコールする。
「では二人とも準備はいいのだな?」
「はい」
「は、はい!」
ベリルベッゾ先生はまるでうなずくように、改めてボク達を見ると声を上げた。
「では試験開始! なのだ」
両者速攻はなく、じりりと相手の様子を伺う。
フィルミさんの表情はやっぱりあの夜見た時の雰囲気だ。
怖い……。
いつもの可憐な笑顔は彼女にはない。
試験中だというのにボクは思わず、心の中のボクが好きなフィルミさんに手を伸ばしてしまった。
「な、なんでボクを騙したの……?」
「……なにそれ、ここまで来て聞きたいのはそんなことなの?」
フィルミさんの声が震えている。
それは怒りによるものなのか、あるいは――。
「わたし、ハルキ君を殺そうとしたんだよ。殺したいとかムカつくとかないの?」
あ、あれ……。
思っていた回答とは違うぞ。
君はボクを恨んだり嫌いで、それでボクにそれを叩きつけて。
ボクは君を嫌いになって、戦う事ができると思ったのに。
そんな後付けの打算がボクの中に廻った。
なんで、フィルミさんはボクの意見を聞きたがっているんだろう……?
「だって、だって気になるら……」
「それは騙しやすいからでしょ……この学園はそういう実力主義なんだよ。弱肉強食、弱いものが強い物に食われる。君は弱い、だからあたしに食べられたんだ。わたしもかつてはそうだった……ッ!」
何故かフィルミさんは感情をむき出しにした。
おかしいな、なんでこんな事になっちゃったんだろう。
「そっか、じゃあボクのせいなんだね。ボクが弱いから裏切られても仕方ないんだね……」
「はあッ? 何それバカじゃん……バカすぎる。そうやって自分抑え込んで、キレて見せろよ、このバカ豚……ッ!」
フィルミさんはさらに深く激情し、少し泣きながら子供のように両こぶしを振り下ろした。
ボクはその様子に完全に狼狽えてしまう。
こんな女の子の、彼女の感情をどう受け止めたらいいか分からず。
ボクは口をパクパクとさせるしかなかった。
「殺しても死なないなら、わたしの都合の為に使い潰してあげるから……死んでよハルキ君……ッ!」
彼女はそう叫ぶと、怒りと共にボクに向け魔法を詠唱した。
『押しつぶせ、圧縮せよ。』
『射て、衝撃。』
あわててボクは第二階位の障壁魔法を展開する。
衝撃。
二つの魔法と魔法がぶり合い、そして拡散していく……。
「……ッ!? 障壁……魔法……? 君魔法が使えないんじゃなかったの?」
彼女はボクの魔法に心底驚いたようだ。
ボクが魔法が使えるようになっていたことは、ベリルベッゾ先生にお願いして今まで秘密にしていたんだ。
「あの、これできるようになったんだ」
ボクは少し恥ずかしくなりながらも、やってやったぞという満足感に満たされていた。
その余裕とも取れるボクの感情を認識した彼女は、怒りを膨らませたように両手をかざした。
「ハルキ君の癖に……! 第二階位の魔法が使えるくらいでいい気にならないでよね……ッ!」
『此は動転境地、青天の霹靂。』
『その圧力で世界を潰せ。』
『押しつぶせ、圧縮せよ。』
『射て、衝撃。』
来た、第四階位魔法!
ボクは何度も練習していたように、早口で詠唱を重ねた。
『魔力の盾よ。』
『魔力の盾よ。』
『魔力の盾よ。』
『魔力の盾よぉッ!』
彼女の衝撃魔法が、その最大の威力をもってボクを飲み込もうと襲い掛かってきた。
ボクの展開した四枚の盾は二枚まで一気に粉砕し、三枚目も一瞬耐えたがすぐに砕ける。
辛うじて4枚目で持ちこたえているが、それもすぐに割れそうだ。
ボクは一度深呼吸をして、すぐに再度詠唱を重ねた。
『魔力の盾よッ!』
『魔力の盾よッ!』
『魔力の盾ぇ……!』
これがボクの全力全開。計7枚の魔法盾である。
すごい魔法が使えないなら、数を重ねてすごい魔法に近づける。
ボクはこれをミルフィール防御と名付けていた。なんだか美味しそうだな……。
お互いの魔法が打ち消しあい、その残滓が霧散していく。
「「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」」
ボク達は肩で息をする。正真正銘、互いの全力を出し合い。そこに妙な間が発生した。
「……こういう事も……できるよ……」
ボクは何か話さなきゃいけない気分になって、戦闘中にもかかわらず話しかけてしまった。
彼女はボクの言葉にはっとしたように歯を食いしばり、怒りで返答を返した。
「調子に乗らないでよハルキ君ごときが……君はわたしに良いようにされてればいいの……!」
彼女の怒りを改めて感じたボクは、なんだか逆に落ち着いてしまい。
当初の目的を完遂できる気分になった。
勇気を出そう。
がんばるぞ。
「じゃあ行くよ」
ボクはそう言うと彼女に歩み寄った。
「……こないでよ」
彼女の衝撃魔法がボクの防御に防がれる。
「くんなッ!」
魔法が防御に防がれる。
「くんなよバカ豚……ッ!」
もはや最後は詠唱もせずに、未成熟な魔法がボクの障壁魔法に防がれた。
フィルミさんは後ずさりながら、会場の壁にボクに感情に追い込まれてしまった。
「はぁッ……はぁッ……はぁッ……」
彼女はボクを睨みながら息を上げている。
いまやボク達の距離は1メートルほどまで迫っていた。
ここまで来たよ、フィルミさん。
「……で、どうやってわたしを倒すの? 言っておくけどこの間みたいに、銃弾を使った削りあいなんて無駄だからね。魔力量的にわたしが勝つから」
フィルミさんは追い詰められながらも、ボクを嘲笑するように諭した。
ボクは馬鹿にされる事は慣れていたけど、今日はなんだか……少し怒ったかもしれない。
今、追い詰めているのはボクなんだよ……。
ボクは少しためらいながらも、懐に忍ばせておいたそれを取り出した。
「ううん。きょ、今日は銃があるから」
――銃。
それはボクがバイト先で作っている弾を撃ち出すもの。
人類最新のアーティファクト、魔力が無くても誰でも使用可能な兵器。
人によっては侮蔑や忌避の対象だったけど、ボクにはそんな事わからない。
だって魔法がそもそも使えなかったんだもの、努力なしで結果が出せるならそれはすごい事じゃないか。
「ば、バイト先でチェック用の奴を借りてきたんだ……フィルミさんお願いだよ、こ、降参して……」
ボクは彼女に銃口を向けたが、もはや手も声も震えている。
脅しと言うにはあまりにも脆弱なそれは、けして誰にも届くことはないだろう。
「……君は、わたしを殺せないよ」
フィルミさんにもそれが伝わったようで、真剣な目をしてボクを見ている。
うぅぅ……ボクはここまできて、彼女にあんなことまでされて、まだ迷っているのか……?
なんてボクは本当にダメなんだ……。
『キモイいんだよお前。』
――あの夜の言葉がフラッシュバックする。
「うわぁッ!」
発砲音。
ボクは自分でも気持ちがまとまらないうちに発砲してしまった。
あ、あ、あ、ごめんなさ……
「熱ッ……い!! はぁッ……はぁッ……やっぱ殺せないじゃん……」
顔を狙っていたボクの銃口はいつの間にか彼女の肩に向けられていた。
肩を押えるように座り込み、激痛に汗をかきながらも、フィルミさんは勝ちを確信してこちらを睨み見上げている。
ここまできてボクはやれないのか……彼女を殺すことができないのか……。
ボクは、なんて弱いんだ……。
『そのボクってのを変えようぜ。』
ボクは……ッ! 俺は……ッ! 本当の自分に……ッ!!
トリガーに手をかける。
『君はやさしいままでいてね』
……。
……。
……。
二人の息遣いが交差する。
「……やっぱ撃てないよ。ボクはボクだ」
ついにボクは俺に生まれ変わることができなかった。
諦めと自傷の涙が頬を伝う。
「……本当に、バカだね君は……」
フィルミさんが痛みに顔をしかめながらもゆっくりと立ち上がった。
彼女も懐から何かを――一振りのナイフを取り出す。
「わたしのクソ惨めな人生に報いるためにも、わたしはここで終われないんだよッ!!」
彼女はもう戦意喪失したボクに向かってナイフを突き立てる。
ぁあ、フィルミさん君の事を天使だと思っていたけど……違ったんだね……。
君もボクみたいに悩んでいたんだね。
――彼女にすがった報いだ、受け入れよう。
ボクはフィルミさんを受け入れた。
ズブリ。
「ぁぁぁっ! 熱い! 痛いぃぃ……ッ!!」
ボクはお腹に深々とささったナイフの痛みに、地面を転がりまわる。
全身から汗が吹き出し、息が上手くできない。
ああ痛い痛い痛い! なにも考えられない……ッ!
「今わかったよ。君はわたしなんだ、ハルキ君。君は唾棄すべき過去のわたし、だから君のことが気になって、君のことがこんなに憎い」
――消えてよ、ここで。
彼女はそう言うと、地面に転がるボクを蹴り飛ばし、魔力を両手に込め始める。
先ほどの第四階位魔法でボクを消し去ろうとしているようだ……。
最早痛みも感じなくなってきたボクは、だらしなく体から力が抜けていく……
彼女の様子をぼうっと血だまりの中から見ていた。
まったく酷いことを言い放題してくれるなぁ……。
でも言い返せないのが、俺じゃない今の弱いボクってことなのかも。
あーあ、本当に嫌になるよ。なんで最後までこんなんなんだろう。
……やっぱ死にたくないよ。
血出すぎだし、涙も鼻水も出すぎだよ……恥ずかしいなぁ……
そして寒いよ。
これが死かぁ……。
あれ。また走馬灯が見える。
前回と同じだね。ボク本当に何もできていないよなぁ……。
あーあ、スペシャルから揚げ美味しかったな……からあげ……
からあげ。
「から揚げェェェェェェッッッ!!!!」
突如ボクの涙から魔力があふれ出した。
「(なんでッ!? 動ける状態じゃなかったはず……完治した? そういう感じじゃなかったよッ!?)」
フィルミはハルキの豹変に驚きながらも、詠唱中の魔法を止めず打ち切る判断に出た。
全身から膨大な魔力を立ち昇らせ、ゆっくりとハルキが立ち上がる。
「ボクは本当の自分になりたい……! 弱虫でもいい! 泣き虫だって構わない! 俺じゃない、ボクがボクだと自信を持って思えるボクにッ!」
ボクは全て無意識で行動していた。
いまや消え去ったお腹の傷にも気が付いていない。
敵を倒すには力が必要だ――そうだ。あの時見た巨大な魔法陣をもう一度――。
ハルキが片手を上げると、そこから膨大な魔力が上空へあふれ出し形どっていく。
直径10メートルのそれは、以前と同じように黄金にまばゆき輝やいている。
その超強大な魔力の塊に、そこにいたハルキ以外のすべての生命が、畏怖と観念と敬意を直感的に魂に刻み付けられた。
「嫌だ……ッ! わたしはこんな所で、“馬鹿な私”は捨てて、新しいわたしになるんだ……ッ!!」
泣き叫ぶフィルミ渾身の魔法がハルキに直撃するが、それを大きく超える強大な魔力の奔流により、まるで綿あめのように一瞬で溶けていく。
諦め悪く、すぐさまフィルミは第二階位魔法を連射するが、その全てが無為と化した。
……。
……。
……。
数秒が経過した。
その強大な魔法陣は何も起こす様子がない。
周囲もザワつきはじめる。
「……でどうなるの?」
「やばくない? 逃げた方がいいよね」
「早よ撃てや!」
しかし、それは前置きなくゆっくりと発動……いや倒れ込み始めた。
――フィルミに向かって。
「アルティメットギガファイアァッ!!!!」
ハルキが無意識に叫ぶと、魔法陣によってフィルミに影が落ちていく。
その膨大な質量、魔力量によって、まるで巨大な建造物が倒れこんでくるような衝撃が――死が、彼女に迫った。
「(いやッ! まだわたしは終われない……! こんなところで死にたく……ッ)」
轟音。
観客席を少し巻き込みながらも、それは着地した。
しだいに倒れ込んだ魔法陣が解除され、膨大な魔力が霧散していく……。
一帯はまるでサウナのように、溢れた魔力によって息苦しくなる。
ハルキはその様子を虚ろな目でフラフラと見ていたが、突如思い出したかのように腹の痛みで飛び上がり。
「から揚げェッ……!」
とよくわからない叫びを上げながらも失神した。
完全な沈黙である。
奇妙な、いや異常な魔法に結果に衝撃に周囲は無言で包まれた。
「ハルキの勝ちなのだ……」
静かにベリルベッゾが宣言すると、歓声ではなくざわめきが観客に広がっていく。
その動揺の中で彼女はすぐに救護班を呼びつける。
二人を回収させながら、冷静に今起こったことを思案していた。
あれは異能力なのだよな……? どういう能力なのだ……超回復。一時的に回復した?
ありえないような、大きい魔法陣はどうなのだ?
これは二つの異能力なのだ?
いや異能力の気配は一つだったのだ……。
ハルキのやろー、なかなかすげーのを発現させたみてーなのだな。
ベリルベッゾは、久々に感じたワクワク感に体を震わせる。
「(これは、めちゃくちゃつまらなくないのだ)」
この会場に同じくもう一人、歓喜の念を抱いている存在が観客席にいた。
それは何故かここに見に来ていた――食堂のお兄さんである。
白髪の彼は慈愛の籠った赤い目で、勝利したハルキに優しく拍手を送るのであった。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はホイコーローを食べたゴブ!




