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第一章31話 オレ5節 『七色の光冠』

一章31話予告編動画

https://youtu.be/kVB_3Z8fMrw

 ――時間はルゥガとコガミの試合中に戻る。


 キリエは息を切らしながら観客席に駆け込んだ。

 頼もしい仲間たちに送り出されて、妨害を抜けて、私はここまでやってきた。

 ありがとう二人とも……!


 大熱狂。スタンドに入ると会場は予想通り大入りで、これ以上ないくらいに賑わっていた。


 突如、爆発音と共に会場が水蒸気で充満する。

 これは、ルゥガの――。

 対戦を見るとルゥガの水蒸気爆発がコガミに防がれていた所だった。


 大丈夫……! 奥の手はあるって言ってたんだし。

 今は私の役目を果たさなくちゃ……!


 気持ちを切り替えると、私はあらかじめジンクに教えられていた、魔法によってマーキングされている人物を確認する。

 魔力を込めると、私の目に集団の中にいる彼らが明るく浮かび上がった。

 やはり会場に2~3人ほどが来ているようだ。


「(彼らをマークするのが私の役目……! 絶対に邪魔はさせないッ)」

 

 しばらく対象を監視していると、そのうちの一人がやはり妨害目的の魔法詠唱を始める。

 構えていた私はすかさず近づき、風紀委員の名目で取り押さえた。


「ちょっと何やってるんですか……!」


 問答無用。

 私は彼の腕を取ると、魔力によって強化された膂力を使い一本背負いを食らわせた。

 相手は息を吐き出すかのような悲鳴を上げ、そのまま動かない。

 意識の外からの不意打ち。背中から叩きつけられた彼は、一撃を以て気絶したようだ。


 周囲から驚きと畏怖の声、そして視線が突き刺さる。

 私は乱れた髪を払い、周りに見えるように腕章を広げると周囲に言い放った。


「風紀委員です。彼は試験の妨害をしようとしていましたので、打ち取りました」


 必要以上の演出だったろうか? どよめきと共に恐怖が輪になって広がるのが分かる。


「こえーあいつ一年だろ」

「いきなり攻撃するか? フツー」

「り、凛々しい……」


 これが効いたのか、他のマークしていた生徒は息をひそめているようだ。

 私は今更ながら少し恥ずかしくなり、顔が赤くなった事を隠すように観客席の一番上に陣取る。

 腕を組み壁に寄りかかると、マークしていた残りの生徒たちの動向を見守った。


「頑張ってルゥガ、あとは勝つだけよ……!」




 ――一方ジンク視点。


 ジンクに対面したルーカスが、右手を振り払うかのような動きをするとそこに魔力が注がれていく。


『肉体強化。』

『加速魔法。』

『雷光属性付与。』

『魔力一極化。』

『魔力ブースト。』


 彼の手刀が雷光のように眩く輝き始める。


「(名付けて、電影石火――この攻撃をどう捌く? これができるのは学園でも、いやこの世界でも私だけだ」


 ルゥガの二枚舌が魔法の発動経路を二種類持っているとすれば、彼の異能力【七色の光冠ジ・オーレオール】は一体どんな能力なのか――。

 間違いなく複数の魔法を同時に行使している。

 しかもそれぞれの魔法が一流レベル、それを複数重ねたそれは最早異質な物――異次元と呼べるものだ。

 ジンクが今まで見た事のある、個人での破壊という範囲では最高峰のそれであった。


 準備ができたルーカスは腰を落とし、右手を引いて腰だめに構えた。

 殺意と勝負の緊張感が高まっていく……。

 オレはただそれを見ながら構えもせず、準備もせずに立っている。

 一瞬の沈黙。

 視線が交差し、次の瞬間ルーカスが消えた。


 いや、既に彼の攻撃は結果として終わっていたのだ。

 生徒会室の絨毯に摩擦によってジワリと黒線が浮かび、そして火が灯る。

 遅れて爆音と、衝撃が生徒会室の中に乱反射した。

 窓ガラスが割れ、戸棚の中のものが飛び散っていく。


 音を超えたその攻撃は容赦なく、いやそれすらも感じさせる間もなくジンクの胸部を手刀が貫いていた。

 一瞬にして行われた勝負とも言えないようなそれは、ジンクの死という形によって幕引きされたのだ。


「(なんだ? 手ごたえのない。口ほどにも無かったな……)」


 どちゃり。

 ルーカスは右手に貫通したジンクの死体を、振り払うように地面に投げ捨てた。


「(いや、手ごたえがなさすぎる。魔法攻撃をしかも目の前から行ったのだ。無反応というわけにはいくまい。私の攻撃がいくら早くても、肉体は反射的に反応してしまうはずだ)」


 では何故……?

 魔力を使い切っていた?

 先ほどの鼻血は過負荷オーバーロードか。

 何に?

 やはり先ほどの投票箱に不正を……?

 そんなことは無い、私の封印魔法は完璧だ。

 一番注意すべき奴の妨害魔法も私は食らっていない。


 ルーカスは手についた血のりを魔力により焼き切る。

 周囲に蒸気とともに鉄さびの匂いが広がっていく。

 そのまま備え付けのクローゼットを開くと、ずらりと並んだ特注サイズの制服一つを取り出す。


 ……いやいや転移魔法は魔力消費が多い。

 それで魔力を使い果たしたのだ。奴にはそれで精一杯なのだ……。

 もう終わったことだ。もうこいつは死んだ……終わったのだ。


 ジンクの死体を見ながら、ルーカスは新しい制服の袖を通す。

 そこに改めて生徒会長バッジをつけなおした。

 音を聞きつけやってきた生徒会員に、掃除と生徒会室修復の指示を的確に出しながらも、いまだ心は先ほどの戦いに囚われている。


 ……。

 最後まで崩さなかったやつの余裕が気になる。

 何か、何かがありそうだ……。

 本心では今すぐ箱を開けて確かめたいのだ。

 が、死んだ後に操作できる何かだったらどうする……?

 馬鹿な。自分の死を代償に何かを成すなど、ありえない。

 やつは確かに頭が切れたようだが狂人ではないはずだ……。


「(それに、再封印にはしかけた私でも、かなりの時間と魔力を要する。それほど強大な防御をかけたはずなのだ)」


 そうだ大丈夫だ、やつではどうしよもなかった。

 何も問題はない。すべて解決した。

 ……。

 考えても仕方がない。


 ルーカスは部屋にあった魔道駆動の連絡用子機を取り上げ、番号を押した。

 ぴぽぱと小気味よく音が鳴る。

 ガチャリ。


「はいこちラ、地下研究室でス。なんでしょうルーカス君」


 動物のような甲高い声色にルーカスは少し嫌悪感を見せると、とつとつと状況説明を始める。


「生徒会室に侵入者が入った。一年のジンクという男だ。奴は罪を重ねて謹慎中の身でありながら選挙妨害を企て、さらに暴力により反抗してきたのでやむを得ず生徒会長特権で処断した。分解槽へ捨てろ」


「はーそうですカ……。また派手にやりましたネェ……そんなんじゃドットレッド様になんて言われるカ……いや言い過ぎでしたカ。領分越え失礼。ではいつもの手筈デ」


「そのように」


 ルーカスは子機を置くと思考を切り替える。

 さてこれで最大の懸案は片付いた。

 問題は進級試験だな……。


「ではここは任せるぞ」


「了解ですともぉ~、不詳選挙管理委員長の私めがここは承りましたぁ。どうぞルーカス様はご随意にぃ~」


 私は部下に生徒会室と投票箱を任せると、割れた窓枠に足をかけ飛行魔法を展開する。

 1分と経たずその足で試験会場へ到着した。

 場面はクライマックス。コガミがルゥガを追い詰め、今にも決着が付きそうな状況である。

 どうやら仕込んだ3つの妨害は全て不発したようだ……。

 その上で私はコガミが勝つと確信していた。


 「っち、コガミ……これだけ時間をかけているとはな。手段に拘るのは奴の悪い癖だ……むっ……」


 私はそれにすぐ気が付いた。

 奴らの頭上。

 空中で小さな小さな火がゆらゆらと何かを燃やしている事に。


「(これは水素の性質を持った魔力燃焼……か……? 水素は単一ではそれほど燃焼せず、炎は特に見えにくい。それゆえに魔力の探知も非常にし辛く、更にそこに阻害魔法がかけられていた。会場でこの事実に気が付いている者は殆どいないだろう。ただでさえ試合に熱中しているのだ。私も途中参加の為たまたま気が付いたに過ぎない……。このまま水素が燃え続けるとどうなる……?)」


 ――そうかッ!


 時限式の水素爆弾か。

 空気と混ざる事によって初めて水素は激しい爆発を起こす。

 魔力で水素の性質を持った魔力を閉じ込め、気が付かれないようにゆっくり圧縮させていく。

 それを燃焼させつつ、少しずつ空気と混ぜていき……。

 最後に空気と混ざった水素に引火し、激しい爆発を起こすというカラクリか……!


「(合成魔法による水蒸気爆発は聞いていたが、それをブラフに使い油断させたところに感知しづらい水素爆発を起こす気なのだな!)」


 コガミはそれに気が付いた様子はない。

 この場で教えれば、コガミの不戦敗になってしまうだろう。


 ……。

 私は即断した。

 右手に魔力を貯め、見えにくい風魔法を圧縮していく。その上に阻害魔法をかけた。

 針のように鋭く小さいそれは、達人レベルでなければ気が付くことはできないだろう。


「(私が暗殺とはな……)」


 その極限まで研ぎ澄まされた針を、更に風魔法で作った発射台に乗せ、ルゥガに狙いを定めた。

 超高等技能で放たれたそれは、最高の一撃となって誰にも気づかれることなくルゥガの体を貫くはずだった。

 しかし私の手首は何者かによって掴まれる。


「止めなさい!」


 鋭い叫び声に横目を向けると、そこにはルゥガ派の小娘――キリエが私の手首を掴んでいたのだ。

「(無礼者が……)」

 娘は不遜にも私の攻撃を留めただけでなく、そのまま手首を捻ろうと力を入れてくる。

 所詮は一年の魔力、私はそれを異に返さず少し魔力を込めると振り払った。


「おや、これはキリエ君。いやいや私も少し二人の戦いに興奮してしまってね。思わず魔力を高めてしまったようだ。勘違いさせてしまったようで申し訳ない」


 私は態度を崩さずに、キリエを威圧した。

 ――邪魔をさせるものかよ。

 キリエや周囲の人間が私の放った圧に怯んだ瞬間。

 私は左腕で生成した先ほどと同じ針を、ルゥガへと射出した。

 無音で発射されたそれは、タイミングや阻害魔法、威力、精度、それぞれがこれ以上にないくらい完璧である。

 これには目の前にいるキリエですら気が付かなかっただろう。絶技と言ってもいい。


「さて、もう決着が着きそうだ。一緒に二人を見守ろうではないかね」


 私はキリエに向けていた視線を改めて試験中の二人に戻す。

 想定では奴の倒れる様を、私は見届けるはずだった。

 ここでコガミは――私は勝利したはずだったのだ。

 しかし、現実はそうではない。そうではなかった。

 私の針は何故かルゥガの数センチ横に着弾していたのである。


「(馬鹿な……私の狙撃は完璧だったはず……)」


 次の瞬間ルゥガの水素爆発が発動し会場を包んだ。




 その狙撃に気が付いていた人物は、会場内に三人いた。

 一人は当然狙撃者のルーカス。

 二人目はハオランその人であった。

 キリエへの狙撃を防いだ後、先早に会場入りした彼は対戦中の二人の状況や会場の状態をつぶさに観察していた。

 元より彼は風魔法による狙撃が得意だ。

 いかにもな会長の登場、そしてその動向を見逃すはずはなかった。

 ルゥガに届くはずだった凶弾は、ハオランの弾道狙撃によって防がれたのである。


「(流石会長……こっちは完全に弾くつもりだったが、ズラす事しかできなかったか……。まぁあんたの狙撃が正確で助かった)」


 二人の決着がついた事を確信し、男は満足そうに笑うと、爆発直後の阿鼻叫喚の渦へと溶け込んでいった。


 そして最後の一人は――ジャッジ事ベリルベッゾである。

 勝利宣言した後の彼女は、今回の賭けの売り上げ、ルゥガの隠し玉、そして狙撃の順番に想いを馳せていた。


「(ほげー……。見えにくい風系の魔法を極限まで圧縮。阻害魔法に加えてそれを無詠唱なのだ……。すげーのだオーレオール。流石レッド様の最高傑作、あんなの真似できんのだ。報告は……なんもなってないし。まあめんどくせーからいいのだ)」




 決着による歓声と悲鳴、怒号が入り混じる中。

 毅然とした面持ちでルーカス会長は障壁魔法をゆっくりと解除する。

 彼のガードしていた一帯は爆発の影響を全く受けていなかった。

 周囲との差に気が付いた周りの生徒たちが、おずおずと驚きと感謝の声を上げている。

 ルーカスはあの爆発を瞬時にガードしていたのだ。

 その出力、反射速度は最早神業の域である。


「(私を妨害するとはな……ジンク最後の入知恵といったところか……。まあいいコガミの退学など、いくらでももみ消せる。多少は無理をすることになるが、権威を使い追試させてやればいいのだ……)」


 近くでキリエが勝利に歓声を上げながら飛び跳ねている。

 ――ッチ。

 コガミの愚か者め、そもそもお前が勝てば全て完ぺきだったものを。

 肝心な所で負けるとは、これは奴の評価を見直さなくてはいけないな。


 まぁいい多少手順は変わるが、結果として変わる事は無い。

 民意を多少失っただけだ。出た杭は後から握りつぶせばいいのだ。

 卒業する私には軍事顧問という輝かしいキャリアがある。そしていずれは……。

 その邪魔だけは誰にもさせはしない……。


 男は静かに策謀を巡らせるのであった。

読んでくれてありがとうゴブ!

ゴブリンのやる気を上げるために、よければ

【ブックマークに追加】や下の【★★★★★】で応援してくださいゴブ!

反応があると、とってもうれしーゴブ!


今日はチーズとマカロニのなんかよくわからないやつ食べたゴブ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 舞台裏面白かったです。権謀術数とそれに対して動いた人たちの決死さに胸を打たれました。一方で背後に蠢くものたちの姿も垣間見れて、先が楽しみになりました。 [一言] キリエちゃん、一本背負いと…
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