第一章30話 オレ5節 『ド根性なら負けねぇよ』
一章30話予告編動画
https://youtu.be/vkUON58-lww
――満員の試験会場。
俺達は勝手気ままに、試験を開始した。
「(コガミはあれでいて優秀な奴だ。低階位じゃまともに通らねー……。ここはしょっぱな水蒸気爆発でいくしかねーぜ!)」
俺は両腕に集中し、同時詠唱を開始した。
しかしそれを分かっていたように、コガミの速攻魔法が俺を直撃する。
「確かにお前の水蒸気爆発は強力だよ。だけど使えると使いこなせるは違う。いかに強力でも発動できなきゃ意味がない」
コガミは眼鏡を押えた。
やつは衝撃系の第二階位魔法を速射して俺の詠唱を妨害したのである。
周囲の生徒達から歓声が上がった。
ついに俺達の――会長決定戦が始まったのだ。
「く、さすがに楽はできねーか」
そこからはお互いに遠距離魔法の応酬であった。
俺は火と水の第二階位魔法を織り交ぜながら、隙を見て第三階位を放つ。
しかしコガミはそれを全ていなしながら、こちらに大きい隙を作らせないように適度に攻撃をし返していた。
俺は攻める攻める攻めるが……次第にコガミの攻撃頻度が上がっていき、反面俺の防御頻度が上昇していく。
魔法の打ち合いとは、つまり攻撃と防御のバランスである。
俺の魔力割り振りは攻撃6防御4、コガミはその逆だ。
相手に決定打を与えるには、このバランスを崩し相手の防御力を超えなくてはいけない。
「(流石、学年最優等と言われるだけはあるぜ……! 別に奇策を使わなくても、教科書通りでただの数値の差、力相撲だけでつぇえ……!)」
俺の頬をやつの衝撃魔法が掠め、すんでの所で攻撃を躱す。
背後にあった白い壁が壊れ、すぐに修復が開始された。この訓練場の特性である半永続的な修復魔法が発動したのだ。
ついに俺はコガミの攻撃を受けきれなくなってきており、回避を行動の選択に入れ始めていた。
つまりそれは、やらなくてはいけない行動の幅が増えるということで、敗北への一歩を踏み進めるという事である。
「どうした口ほどにもない、二枚舌が泣いているぞ。見せてみろよ」
自分優位で戦闘を行っていたコガミは、軽口を叩いた。
畜生あのアーティファクトずりーだろ、魔法のキレがよすぎるぜ……。
「いやはや、ありがたいね」
俺は意味深に肩を竦め、軽口を叩いた。
やつはその隙を見逃さず、衝撃魔法を俺に放つ。
「何を……ふざけている……」
俺はコガミの攻撃を、なけなしの魔力――障壁魔法でなんとか防ぐ。
激しく二つの魔法がぶつかり合い、消滅した。
目の前で衝撃魔法の残滓が煌めきとともに消えていく……。
俺はついに準備が整い、コガミに高々と勝利宣言する。
「勝ちを確信したのさ、おまえが余裕ぶって、確実に勝てる方法を選んでくれたおかげでよぉ……」
きたぜ――水蒸気爆発、発動。
熱せられた水蒸気が一気に溢れ、一帯を覆いつくしていく。
俺は【勝手気ままな二枚舌】によってその合成魔法を発動したのだ。
「あじっじぃ!」
「いつの間に?」
「詠唱してたか!?」
「ぎにゃぁぁぁぁぁ!! またなのだーッ!?」
周囲の生徒は俺の水蒸気爆発の発動に驚いたように騒ぎ立てている。
あいつらから見たら、俺が詠唱なしで突如魔法を発動したかのように見えたのだろう。
「(何も水蒸気爆発は両手で発動する必要はねーんだよ。俺の二枚舌はあくまで魔法放出を同時に行えるだけだ。ハオラン戦では右手で水の放出と維持、左手で火を使って加熱して同時発動した。今回もあえて開幕で水蒸気爆発は両手同時でしか発動しかできないと印象付けさせ、まあコガミが対策してくる前提だが……。右手でだけでコガミと戦闘。その間に左手でで水魔法の圧縮→火炎魔法で加熱を行った。同時に行えない分発動はとんでもなく遅いし、とんでもねーコスパわりーがな……)」
俺は目論見道理の展開に叫んだ。
「つまり、合成魔法は片手でも使えンだよぉ!」
水蒸気が周囲の空気に冷やされ、じょじょに晴れていく……。
爆心には、奴が――コガミが健在だった。
「まったく、このくらいやってくれるとは思っていたよ、腹立たしいがね」
「……まじかよ……」
奴は今まで見たことの無い、おそらく障壁魔法――のオリジナル? に全身を包まれていた。
クリスタル状の形をして黄金に輝くそれは、ご丁寧に装飾が刻まれている。
あれで防いだのか……。
「これで完勝とはいかなくなったか……。できればまだ使いたくはなかったのだがね。認めようルゥガ、お前は強い」
コガミは再び眼鏡を押えた。
――【知らぬ存ぜぬ】
コガミの一度見た魔法は、原理を理解していればダメージが激減する。
ルーカス生徒会長の政治下でコガミが悪政をも是とし、歪みは認知せず、毅然として執政してきた事によって生まれた異能力。
現生徒会長にはその善悪混淆とした態度に、次の為政者として見出された。
コガミのアイデンティティそのものである。
「ルゥガが片手で戦っていたのは分かっていたよ……。何かあると思ってはいたが、まさか水蒸気爆発を片手で使えるとはね」
俺は奴の異能力に歯を食いしばる。
これが奴の奥の手か――。
「そもそも、僕は安定志向の防御型だからね。全魔力を集中すれば、いかにお前の攻撃が強力でも受け止められる。ただお前と削りあいをして、魔力の総量で勝てばいいのさ。さぁ……なぶり殺しの時間だよ!」
そこからは崩れるような展開だった。
コガミは無理をせずに、ただひたすらに防御を重視しつつ余裕があるタイミングでのみ攻撃をしていく。
俺は奴の用意したレールに乗せられ少しずつ、そして確実に削られていった。
「勝ちを確信したって? もう一度言ってみろよ二枚舌ぁッ!!」
奴は時折起こる俺の左手の水蒸気爆発の兆しを見逃さず。的確に左手を攻撃し、水蒸気爆発の魔力を集中させないようにして妨害してきやがる。
畜生こいつめちゃめちゃ器用じゃねーか!
まさに優等生の名に恥じない戦いってか……。
いつしか戦いは、コガミの一方的な攻撃へと変わっていった。
防御と回避一辺倒になったルゥガは、もはや徐々にとは言えないような速さで加速度的に削られ消耗していく。
魔法が弾け、煙の中からルゥガの体が浮かび上がった。
ルゥガはついに防御も回避もできなくなり、背中を曲げゆらりと両手を降ろしている。
息を荒げ、体の節々からは血を流し、オールバックの整った髪はすでに垂れ下がっていた。
明らかにもう戦闘限界である。
「へへへ……痛てーじゃねーか……」
男はいまだ折れず、相手を不敵に笑った。
「何故諦めない!? お前には僕を倒すだけの魔力はもうない。戦闘による消耗! 過負荷何による鼻血! 立っているのがやっとだろう。見苦しいぞ……お前は負けたんだ、素直に認めろよ!」
コガミはあきらめの悪いルゥガに怒声と衝撃魔法を浴びせた。
その攻撃は、避ける事すらできないルゥガを直撃する。
轟音そして衝撃による煙と、魔法の残滓が飛び散っていく……。
それでもまだ、男はそこに。
勝つために立っていた。
「……えて……」
ルゥガが呟く。
「なんだって?」
「……教えてやろうか、それはよ」
ルゥガが血だらけの顔を上げる。
ボロボロになりながらも、その男の目は炎のように輝き、まだ勝利への意思を燃やし続けていた。
「俺は俺だけの意思で立ってるわけじゃねーからだ。生徒会に貶められた奴。これから退学になる奴。過去に退学になった奴の気持を今、ここで、俺が背負ってるからだ……。ハオランをそそのかしたのはおめーだろ? 気にしてないとか言ってみたけどあれは嘘だ、やっぱめちゃ後悔してる……。だったら俺は負けられねえよな……!」
「……ッ!」
観客席の中から二人の戦いを見守る男はその言葉に息を詰まらせた。
「……お前が死ねば結局一緒だぞ!」
「へっ……へへへへへっ……!」
「何を笑っている!」
コガミは敗色濃厚なルゥガがまだ不敵に笑っていることに、途轍もない胸騒ぎを感じていた。
追い込んでいるのはこちらなのに、逆に追い詰められているような感覚……。
そうだ、いつもこいつは最後に何かカードを用意していた。
まさかまだ勝つ手を残しているのか……!?
「もう一回言うぜ、俺の勝ちだぜ」
「……戯言を」
そういいながらもコガミは、今や確信している何かに全身全霊を持って備えた。
「俺の片手水蒸気爆発を防ぐとはな。“それくらいやってくれるとは思っていたよ、ムカつくけどな”」
「さっきから、何を言っている……」
どうくる? いつくる? もう発動しているのか?
まだ僕の魔力は4割も残っている。
何が来ようとも【知らぬ存ぜぬ】で防げるはずだ――!
「だからさっき言っただろ? 余裕しゃくしゃくになったお前は、俺の予想通りに確実に勝ちに来た。おかげで十分に時間を稼げたぜ、上を見な」
ぼろ雑巾のルゥガがゆっくりと、上空に指差す。そこには――。
「なにッ!」
そこには何もなかった。
驚かせてくれる、何もないじゃないか。
そもそも何かしていたら、僕が見逃すはずがない……!
「何もない。そう見えるだろ? やっぱりおめーは優秀であって最強じゃねーってことだ」
ふざけるなよ……!
僕がもう一度上空をよく見ると、確かに魔力による小さな火が、一センチほどのそれが空気中に燃焼しているのがわかる。
……なんだ……あれは……
「ドカンだぜ……!」
ルゥガが不敵に笑い、両指を火に向かって指さした。
一瞬にして会場全体が激しい衝撃に飲み込まれる。
刹那の光/爆炎/衝撃/破壊/破壊/そして破壊/腐った卵の匂い/叫び声/泣き声/一部感嘆。
コガミの上空を爆心としたそれは、そんな事お構いなしに会場全体をめちゃめちゃにした。
対魔法耐性があるはずの会場の屋根は吹き飛び、生徒達にも少なからず影響が出ている。
後に分かった事だが、死傷者まではいかずとも反応が遅かった生徒、未熟な生徒にケガ人が多く出たという。
ここにいる生徒は全て魔力持ちだ。魔法には皆一定の耐性があった。その上で直撃せずともこの有様だ。
それでも皆、あの魔法とルゥガには敬意を払い問題になる事はあまりなかったという。
一帯に焦げた匂いが広がる……。
爆心地にいたコガミの全身はボロボロに燃え尽きており、ふらふらと辛うじて意識を残し立っていた。
全ての魔力を防御に当てた上で、耐えきれず魔力を全消耗させてていたのだ。
熱によって歪み壊れた、眼鏡だった物を押えながらもコガミは吐血する。
「(なんだあの攻撃は……。一体何が……水蒸気爆発ではない。それならば僕の異能力で防げていたはずだ……!)」
「……ずいぶん男前になったじゃねーかよ。こっからは根性比べといこうぜぇ……?」
煙の中から姿を現したルゥガも少なからず余波のダメージを受けており、とうに限界を超えているのが分かった。
その奴の、敵の、僕のライバルの姿を見た瞬間。
――僕の体が勝手に動いた。
「ルゥガァァッッ!!!」
奴は僕の突進を真っすぐ見つめ、そして拳を顔面で受け止める。
メキリと。
嫌な音が僕の拳から、そしてルゥガの顔面から聞こえた。
奴はみじめなで不細工な歪んだその顔で不敵に笑うと――。
次の瞬間僕の視界は黒に染まり、火花を散らした。
やつが、ルゥガが。僕を殴り返したのだ。
「ド根性なら負けねぇよ」
僕はそのまま力が入らず、吹き飛ばされるように地面に倒れ込んだ。
意識が、世界が薄れていく……。
「……お前の敗因 注意細心 その安全志向 その完全希望 傲慢 冗談 これはマジだぜ勝負事 これは勝ち負け絶対はない Yeah……!」
ルゥガはコガミをゆっくりと両指差し、ゆっくりとラップを刻んだ。
「……おまえは絶対安全に勝とうとした事によって、そこを俺に漬け込まれたんだよ」
その様子を見ながらベリルベッゾが全身を焦がし、咳込みながらもよろよろと歩ていて来た。
「げほげっほッ……! おまえルゥガ……ゲホッ……。 流石にこれはやりすぎなのだ……! ……はいでも……勝者ルゥガなのだ! うわぁオキニの服がぁ……」
その勝利コールを受け、いまだ阿鼻叫喚とする会場に少しずつ歓声が伝播していく……。
一体何が起こったのか。
答えそれは――水素爆発である。
ルゥガは準備していたのだ、全て最初から。
戦いが始まった当初、左手で水蒸気爆発を操作して、右手で戦闘をしていたように見えたが、実はすべてブラフである。
“二枚舌に腕の制限はない。”
戦闘と水蒸気爆発の攻防の裏で、別の水素爆発の術式を行使していたのだ。
それぞれが、魔法を途切れさせないように細かく精密に、まるで魔法術式のジャグリングのように。
通常では不可能な事であったが、二枚舌の能力と、ルゥガの卓越したセンスであればそれを可能とした。
まさに二枚舌。ブラフを重ねた巧妙な戦術である。
「(つまり、二枚舌ならぬ三枚舌ってとこか……人力だけど。まったく死ぬかと思ったぜ。やっぱガチるとつれーわ……)」
勝利を受け大の字に倒れ込むルゥガの横に、数センチほどの穴がポカリと深く開いていた。
――それは第三者の攻撃である。
ルゥガを殺そうと放たれたその凶弾は、何故か彼に届くことはなかったのだ。
この会場でその事実に気が付いている猛者が3人ほどいたのだが、それぞれが秘匿したことによって、この件は一切明るみに出ることはなかったのである。
――一方、構内。
「つ、つぇ……ッ!」
一方、構内。 テリオスの前でキルトが倒れていく。
彼の召喚した、腐り姫なる魔法はまるで絶叫を上げるかのように地面に溶けていった。
私は美しく、よどみなく前髪を払いながら横を見た。
今回共闘……といっても彼女が殆ど倒したが、大暴れしていたゆいにゃは疲弊しつつも、他の生徒たちを圧倒しその残骸の上で勝利の雄叫びを挙げている所だった。
「勝ちましたお姉さま! ゆいにゃにちゅーして下さい!」
凄まじく、そしてすばらしいな……彼女のキリエ君に対する執着っぷりは。
私の気持ちは表面上勝利の喜びと、ゆいにゃに対する興味で溢れていたが、どうにも気分が優れなかった。
「(これは……怒り……)」
胸に手を当てた私は、心の奥底で怒りに震えている自分を見つけた。
……そうか……私は……。
ルゥガ陣営に与した事。選挙の正当性を守り抜いたことに誇りを感じていた。そこに一切の曇りはない。
しかし――私は負けたのだ。ルゥガ陣営、コガミ陣営を私の潔白さで打倒し、この学園を正しき道に導けると確信していた。
だが何故か今、私は直感的にこの選挙で負けたことを自覚した。
その理由は分からない、だが私の正義を確かにルゥガは上回ったのだ。
「ふ……我ながらなんてセンチメンタルな」
私はこのような敗北で諦める男ではない。そのような甘えた道を歩んできたつもりもない。
今後の学園生活の中で私の覇を示せばいい事。
私は深呼吸を一度すると、再び美しく前髪を払った。
「ふ……我ながらなんてセンチメンタルな」
私はこのような敗北で諦める男ではない。そのような甘えた道を歩んできたつもりもない。
今後の学園生活の中で私の覇を示せばいい事。
私は深呼吸を一度すると、再び美しく前髪を払った。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日は牛丼大盛りを食べてしまったゴブ……ホブゴブリンまっしぐらゴブ……。




