表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/37

第一章3話  オレ1節 『まぁ色々あるんだろ、男には』

一章3話予告編動画

https://www.youtube.com/watch?v=5T3SBh0ANYM

「うおおおぉぉぉっ!!」


 オレ(ジンク)の声を遮るようにダダダダという騒音と叫び声が廊下から響き渡ってくる。

 自己強化魔法を足にかけたのか、その音は数秒で資料室にたどり着いた。

 激しい音を立て、ドアが乱雑に開かれる。

 ジンクとキリエ、二人が準備する間もなくそこに現れた存在。

 それはさきほど気絶させた風紀委員だった。


「よう! さっきはやってくれたなバカップル共! 油断したぜぇ」


 目が軽く血走った男はいかにも臨戦態勢といった状態で、今にも飛び掛かってきそうだ。

 頭の後ろに大きなこぶをつくり、それは正面からでも見てわかるような大きな物だった。

 悪いな先輩、恨みはない。

 ジンクは風紀委員の様子を油断なく観察しながらも、心の中で素直に謝る。


「付き合ってない! ってか回復早ッ」


 キリエが突っ込みを入れる。今心配するのはそこなのだろうか。

 オレはこの後の展開を冷静にシミュレートしていく。


「はっはー、俺は学園16位! 不死身のキルト様だぞ!」


「……」


 周囲の温度が下がっていく。気温の事ではなく、三人の空気感といったところか。


「16位ってすごいかしら?」


 判断に困ったかのように眉を顰め、キリエが疑問を口にする。

 この女天然の気があるようだ。


「二年だ! バカップル女! ってか二年で16位ってすごいだろ!!」


「たしかに、すごい才能と努力だ」


 俺は素直にキルト先輩を賞賛する。なるほど実力がある相手は嫌いじゃない。

 先ほどは運が悪く一撃で倒されてしまったが、本来の力はその程度ではないのであろう。

 彼の体の中に蠢く魔力をオレは感じ取っており、少し興味が湧いてしまう。


「あなたってもしかして天然?」


 オレの返答に、どこかで聞いたワードで返されてしまう。


「おいおい、お前らの息の合った漫才なんて見せられてこっちは嬉しくねーんだよ。まあいい。認識阻害なんてしょぼい魔法、そうそう使うやついねーから油断しちまったぜ。今は五感すべてをガッチリ防御してるから、最上級阻害だってくらわねー!」


 キルトは親指で自身を指さすと、意気高揚どっからでもこい! といったポーズをとった。

 改めて確認すると見た目だけではなく、彼の魔力は明らかに高ぶり全身を覆っているのがわかる。

 これでは阻害魔法は一切かけられないだろう。


「確かに、あんたにはもうかけられないようだな」


「さっきは効いたぜバカップル男、調子に乗ってくれたな。少し痛い目に、そうだなぁ……。前歯の二、三本は覚悟してもらおうか」


 不敵に男は笑い一歩踏み出す、その瞬間。


「あんたにはかけられねーけど、下」


 オレが地面を指を刺すと同時にそれが発動する。

 魔法発動時の残滓が飛び散り、魔法の鎖が地面の魔法陣から出現した。

 死角かつ近距離で発動した鎖に、キルトは避ける暇もなく巻き取られていく。


「なァッ!? これは束縛魔法! の設置型かッ!! なんで気が付けねぇ!」


 ボギッ。

 オレは自身の首に手をあて音を鳴らす。


「人間は一つの事に集中すると、他のことが見えなくなる。あんたは自分を守ることを意識しすぎたせいで、かえって足元の罠が見えなくなってたのさ」


「(上手い! 威力や範囲を重視される学園で、評価が低い認識阻害で上級生相手にここまでやるなんて……)」


 キリエは自身の胸がすくのを感じていた。

 今までの無礼を払拭するような、それは一切の混じりけなしの感嘆の念である。


「もごもご……くそがああああああぁ!! 俺は、俺は16位だぞおおおおぉ!!」


 キルトは全身を鎖に巻き取られ、その中でもごもごと悪態の叫びをあげている。

 これで朝まで動くことはできないだろう。


「じゃあ、調べものの続きをしよう」


 オレはキルトに背を向け、資料に近づく。


「……とはならないのが、さすが俺様だぜ」


 魔法が打ち砕かれる気配と共に、魔法の残滓が一帯に飛び散る。拘束魔法が内側から破られたのだ。


設置式束縛トラップなんて雑魚用の魔法、しかも第二階位程度俺様にはきかねーんだよ。てめぇ、久々にキレさせてくれるじゃねえか……。逆に落ち着いちまったよぉ」


「まずっ……!!」


 キリエが思考し行動しようとしたその瞬間。

 ガギリという嫌な音を立てて横を何かが、ジンクが吹き飛んでいく。

 直後、背後の壁にぐしゃりと叩きつけられた音が聞こえてきた。

 いつの間にか目の前には、直前までドアの前にいたはずのキルトが佇んでおり、その構えた拳からは発動した魔法の残滓が解けていっている。

 つまるところ、一瞬にして一撃をもって、ジンクを殴り飛ばしたのだった。


『過ぎ…ッ!』


 頭を割るような衝撃。

 回し蹴りによって、魔法を唱えようとしたキリエも資料棚に叩きつけられる。

 棚と一緒に吹き飛ばされ、倒れた体にいくつもの資料がバラバラと降り注いでいく。

 魔力で蹴りを辛うじてガードしたが、呪文を伴わず指向性を持たないそれは障子ほどの効果しか持たず。

 その一撃でキリエを戦闘不能状態に陥らせた。


「おいおぃ、この期に及んで詠唱とかまじか? 低学年か?」


 また嫌な音が部屋一帯に響き渡る。

 吹き飛ばされた先の床でジンクが何かをしようとしたが、やはり一瞬で制されてしまったようだ。

 瞬時に踏みつけられ、吐血している。


「ぎぁっ……ひゅっ……ひゅっ……」


 足に圧迫され呼吸がままならないジンクを尻目にキルトが叫ぶ。


「おいおいおいおい、俺様にここまでさせておいてまさかその程度なのか? ふざけンなよ? 進級試験までに取っておこうと思ったが、本気で殺してやるよ」



『怨嗟の中から()でし悪辣。』

『鬱憤まき散らす大瀑布。』

『天に糞、地には唾棄、人には最上の死を。』

『乞わせ、請わせ、恐わせ、壊せ。』

『全てはお前に捧げる供物。』

『熟れ果てよ────腐り姫。』


 膨大な魔力と共に、ゆっくりと禍々しい魔法が形成されてゆく。


「(これは第六階位魔法(さいじょうきゅう)! しかもオリジナル……!!)」


 朦朧とする意識の中、初めて見る最高位魔法にキリエの生存本能が震えている。

 迫りくる確実な死に、戦意や逃げるなどという考えは全て消え去り。ただただ恐怖により体が縛られていた。


「他に仕掛けておいた認識阻害魔法も全部解かされてる!! やべぇ建物ごと全部溶けてく!!」


 ジンクが部屋の隅で情けない声を上げている。


「あああ!! 溶けていく溶けていく! ああぁぁぁ!!」


「はぁ~~~~。やっちまったぜぇ。本気を出しちゃった。あえて16位キープは大変だったからな。まあ明日からは孤立するだろうな、さらば俺の青春学園生活」



………

……


 周囲には再び夜の静寂が訪れた。


「……なんかしみじみしてるわね」


 虚空に向かって大仰にため息をつく16位を、憐れみながらキリエが体を起こす。


「まぁ色々あるんだろ、男には」


「あんな長詠唱いきなり通るわけないわよね。肝心の認識阻害用の防御も解除しちゃってたし……」


 オレはスキだらけになった詠唱中に、阻害魔法をかけたのであった。

 二人は埃にまみれた体を叩いていく。

 今度こそ完全に勝利したという意識により、安堵感と疲れが押し寄せてくる。


「そうだな。それよりお前、胸隠した方がいいんじゃないか」


「なっ」


 少女は三度、顔が燃えるのを感じる。

 不完全な魔法は一部発動しキリエの制服胸元一帯を溶かしていのだ。


「早く言いなさいよ! バカ!!」



………

……



 ギッギッギギッ。

 壊れた秒針が歪な音を奏でていた。

 キリエははだけた胸元の応急処置として、持ち込んだ覆面を着る事で隠している。

 先ほどの戦闘で荒れた資料室だったが、なんとか必要なものには被害が及ばず情報を洗えていた。


「(ぅうん……。書類にはそれとなく、ぼかされて消されている……。退学者の名前すらないわ。ここに無かったらどうすれば……。待って、事件そのものは無かったことになってるけど、その時間に何かを見たという目撃情報は別にある! 希望がつながった……! 良かった、本当に。まだ追えるんだ……!)」


 一転した安堵にキリエは涙ぐむ。その様子をオレが見ていると、すぐに自身の姿を客観視したのか少女はごまかすように口を開いた。


「それで、あなたは何? 学園の……見取り図?」


 ――やはり隠されているか。


 建物の配置から考えて、おそらく地下。この女を使うか。

 オレは怪訝そうな顔つきのキリエをチラりと見つめる。


「な、なによ。」


「オレも学園の秘密を探らなきゃいけないんだ。合理的に判断して協力しよう」


 オレはキリエに向き合うと正面から目を見据え、誠実に本心を語った。

 先ほどの件を思い出したのか、キリエは少し恥ずかしそうに視線を外す。


「いいの? 私は個人的な事だけれど……」


「この学園がどういう風に事件を隠蔽しているかを追えば、芋ずる式に学園の秘密を探ることに繋がるはずだ。頼む協力してくれ。」


「そうかしら? そうかも……。まあいいわ協力しましょう」


 虚ろな目でキリエがあいまいな返答をする。

 出会ったばかりの相手に粘膜接触キスをさせるとはな。

 オレはあの時、解除魔法以外にもう一つ魔法をキリエにかけていた。


『オレの発言を都合のいいように解釈しろ。』


 こいつといい、この学園の奴らは甘すぎる……。

 無表情なオレは首をボキリと鳴らした。

 ――静かな達成感を感じながら。




「ひれ伏せ!! オレ様は学園1位だぞ!! 何ィ!? 裏ランキングだとォ!?」






■認識阻害魔法のポイント

①相手が油断をしていないとまず無理、少しでも魔法的防御をしていると通らない。

②明らかに現実的ではない阻害はできない。いきなり水中だと思わせる。意見を大きく変える。自殺したいと思わせるなど。

③肌と肌が触れて発動すると効果が高い、特に粘膜接触。

④応用として、物や設置型魔法を道に落ちてる石程度の取るに足らないものと認識させられる。注意深く見渡したり、変えた石が魔力的に巨大であれば誰でも気が付く。

⑤使ってるやつの印象が悪い&学園での魔法評価は低いので、オレはおすすめしてない。

読んでくれてありがとうゴブ!

ゴブリンのやる気を上げるために、

よければ【ブックマークに追加】や下の【★★★★★】で応援してくださいゴブ!

反応があると、とってもうれしーゴブ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 笑いあり、魔法あり、お色気?あり 色々揃った面白い作品です。 最新話を先に読んでしまったので、この後のバトル展開も楽しみです! 予告動画までも凄いです! [気になる点] コロコロ視点変更…
[良い点] ジンクが認識阻害魔法を駆使して、キルトさんを無力化する流れが読んでいて楽しかったです。キルトさんも天然で良いキャラをしていますね。味わい深いキャラクターだったと思います。 [一言] キリエ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ