第一章29話 オレ5節 『お前を今から、殺すことだ』
一章29話予告編動画
https://youtu.be/pk_-o9TvlzY
カチコチと時計の針が進んでいく。
ルゥガの進級試験が始まろうとしていた。
――ルゥガ視点。
ついに自分の番がきたようだ。
俺は係に呼ばれ、気合を入れ立ち上がった。
「よっしゃいくぜ!」
試験会場に入場すると割れんばかりの喝さいを受ける。
ここに来るのは二回目か――
30メートル四方の白い壁に囲まれた対人魔法訓練場だ。
見下ろすように周囲には、生徒たちがひしめいていた。
進級試験とは、生死をかけた殺し合い。つまり強制決闘システムといってもいい。
対戦の結果、誰が落ちるのかが分かるのだ。やはり見世物としての性質が強く、当事者ではない人間にとっては学園最大級の人気イベントであった。
しかも今日は、ルゥガとコガミの対戦カードが噂されており、その期待度は計り知れないものがある。
それは事実上の選挙決戦となっており、公開演説もかくや満席、いやそれ以上の熱気に包まれたすし詰めとなっていた。
俺の対面に浮かび上がった影は――もちろんコガミである。
腕には、ガントレット型のアーティファクトを装着しているのがわかった。
ルゥガは知る由もなかったが、それは生徒会が以前押収したエセンタルである。
「よーコガミ、すげー客だなぁ。これは賭けても儲からんぜ、オッズ100:1のクソ試合だからよぉ……。さっそくやろうやァ!」
俺は低い声で怒りの演技を忘れず、コガミへのカマシを入れた。
「何を言い出すかと思えばくだらない……会長の心配性にも困りものだよ。妨害なんてしなくてもボクが負けるわけがないのに……」
コガミは何かを俺に向けて投げつけてくる。
キャッチして確かめると、それは魔力回復用のポーションであった。
ふん……相変わらず高慢なやろーだぜ。
「は、お前よゆーだな? さては俺を舐めてやがるな?」
「正直お前とは正々堂々本気でやりたかったんだよ。どちらが学年最強かしっかりと順位付けしておきたかったんだ」
メガネは腕を組みながら威勢を張る。
奴は昔から俺に勝つことに拘っていた。
それこそが付け入る隙か……。
「おいおい、生徒会長になろうって奴がずいぶんと志が低いんだな? 学園最強の間違いだろ」
「っは。相変わらず貴様は……言うじゃないか」
コガミが怒りを抑えるかのように眼鏡を上げた。
効いてる効いてるゥ!
これだから、真面目ちゃんはいじりがいがあるぜ……!
「それに正々堂々ってなら大丈夫だ。こんな事もあろうとちゃんと70%までは回復しておいた所だからよ。まぁそれだとちょっとこっちが有利すぎるか?」
俺はニヤ付きながら受け取ったポーションをその場に投げ捨て、足でたたき割る。
本当は85%くらいまで回復していたが、まぁそれでも俺の計算ではやれる見込みがあった。
これでコガミが怒れば、この後が楽になる――。
「吠えたな下郎が!」
案の定やつは俺の挑発に乗っかり、魔力を貯め始めた。
その様子を見た今まで黙っていたジャッジ――ベリルベッゾの野郎が試験開始を宣言した。
「おわわ……勝手に始めるなのだ! これよりコガミとルゥガの進級試験を開始するのだぁ!」
その小さい体を精一杯広げながら、試験開始を宣言した。
あんたが賭けの胴元で、俺達のやりとりを配信してギリギリまで賭けさせてたのは知ってるんだよ。
まったく小悪党が、何が教員だよ笑わせる……。
まぁお陰で、俺も十分煽れたからいいけどよぉ!
――俺は必殺の詠唱を始めた。
………
……
…
――キリエ視点。
私に迫ってきた腐食魔法が何者かによって切り払われる。
それを成した存在、それは以前ルゥガ陣営と協力関係にあったテリオスであった。
「婦女子に複数人でかかるなんて、まったく美しくないね」
いつものキザたらしく前髪をかき上げ登場した彼は、得意の武器顕現魔法――長剣を振り払った。
その姿はまさにナイトのそれ、魔法騎士と呼ぶにふさわしい美しくもキザな登場である。
「先輩、ありがとうございます」
私は彼の動きに惚れ惚れする。
レーザー状に顕現されたその剣は、切り払いの際のみ出力が上がっていた。
私のように一気に魔力を使い果たし装備を作るのではなく、必要な際に必要な分出力するというものだ。
合理的で美しい魔法と所作に、思わず私は女子として心囚われそうになってしまう。
「なんだぁ!? なんでテリオス王子がここにいるんだよ?」
キルトが驚く。
なるほど、テリオス王子ってあだ名なのね……状況の切迫具合とは裏腹に、私の中で彼の呼び方が確定した。
王子は生徒会への情報網から私達が不当に妨害されてることを聞き、協力を仰ぎ出てくれていたのだ。
もちろん是非もない、ルゥガ先輩は最後まで抵抗していたが手が多いに越したことはない。
もしルゥガ陣営が勝利した際の、テリオス陣営の政治発言権を代償に仲間に引き入れたのである。
「またナイトが出てきて守るのかよぉ……でもまあ王子は個の戦闘力特化だからな。俺達全員でかかれば大したことないんじゃねーの?」
人数有利は変わらず8:2、何人かと刺し違える事はできると思うが、まだこちらの勝ち目は薄かった。
――このままでは。
「――!――!」
遠くから叫び声が聞こえる……その誰かは何かを振り回しながら、この渦中へと一直線に飛び込んできた。
「キェェェェェ!! お前ら、お姉さまに何しとるんじゃぁぁぁぁぁッ!!!!」
既にイバラの顕現魔法を出現させている彼女は怒髪天となり、まるで大量の濁流が押し寄せてきたように集団へ攻撃を開始した。
「何だこいつ!?」
「グァッ!」
「やべーぞこの女!?」
本当は避けたかったけど背に腹は代えられないというもの……一応彼女にも応援を頼んでいたんだけど……。
イバラを使い敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げる彼女の形相と意気は凄まじい。
思わず私は、味方になるとこんなにも頼もしいのかと感心してしまった。
一日デートと言う代償を支払う事になってしまったが、これは必要な事なのよキリエ……! 代償以上の効果……かは定かではないケド……。
「ここはもう私達だけで大丈夫そうだね。キリエ君、君の役目を全うしてくれ」
テリオス王子がうやうやしくエスコートするような所作で、開けた道に手を向ける。
「行ってきます!」
本当にこの人はキザそのものなんだから……私は少し可笑しくなりながらも駆け出した。
「さて……私にも面目というものがある。イバラの彼女と同じ働きはできないが……少なくとも学園11位の君を抑える事くらいはできるだろう」
「何を決めてやがんだこのキザ野郎が……!」
テリオスがキルトを見据えると、まんまと出し抜かれた11位は怒りを露にしていた。
「てめぇを倒して、あの女を追う! そんで終いだよ!」
ここに熱い戦いの火ぶたが切って落とされた。
この時、走り出したキリエを密かに狙っている存在がいた。
そう、以前と同じく建物の上から狙いをつけていた生徒である。
ジンクの阻害魔法なしの彼は、今度こそキリエを倒す事ができたはずだった。
しかしそれでも、彼の目論見はやはり再び水泡に帰すことになってしまう。
死角から近寄った男に、背後を取られてしまったのだ。
「てめぇ……裏切るのかよ……!」
頭の後ろに魔力を押し付けられ、ただただ両手を上げ降参するしかない。
ちくしょう……また上手くいかねーのかよ……。
「元より、俺は誰の命令も受けない」
背後を取った男――ハオランは短く答えると、降参した生徒の後頭部を殴りつけ気絶させた。
「(これで借りは返したぞ……次こそ俺が勝つ……だからルゥガ、お前は死ぬな)」
………
……
…
――ジンク視点。
「お前こそ分かっているのか?」
【罪に問えない不正行為】!!
オレは異能力を発動した。
「……一体何をしたんだ」
ルーカスがオレの異能力発動を感じ取り、警戒しながらもこちらを観察する。
「まだ気づいていないのか? もう既にオレの票操作は終わっているんだぜ?」
オレはカンペ発動と同時に阻害魔法をかけていたそれを、手に持っていた物を見えるようにした。
この部屋にやってきたのは、これを手に入れるためだった。
――選挙の投票箱である。
「何ッ!?」
ルーカスは驚きのあまり、表情を歪ませた。
即座に怒りを露にし、目を見開くと強烈な殺気を開放する。
魔力を込められていないはずのそれはオレを含む部屋全体に広がり、彼の異様な胆一色に染め上げた。
「(またか、またなのか……。奴は一度私の元から資料を盗んだ。また盗んだのか。また盗んだと言うのか! この! 私からぁッ!)」
まったく恐ろしい相手だ、耐性のない人間であれば、間違いなくここから逃げ出すか、気絶していただろう。
この魔法とは関係のない覇気。彼の元来持っている生物的な能力とも言えるそれは戦場や政治の場では大きく役にたっただろうに……。
残念だったな、オレには効かないが。
一方ルーカスは瞬時に切り替え、思考と対策に移行する。
「(……いやブラフだな、施錠もしっかりされている。二重三重の魔力防御もされている。それが発動した形跡はない……。例え強力な異能力であろうとも、例えば票の中身を書き換えるなどの魔法は許さないはずだ。そもそも票操作が終わったのなら、わざわざそれを私に教える必要はないのだ。奴は何かの手段で投票箱を盗んだ、だがそれだけだ。その後は何もできていないはずだ……。私を疑心暗鬼にさせその箱を開させる、そこで何かをしようとしているのだろう……小僧が……」
ルーカスは相手の目論見破れたり、というような面持ちで顔を上げると笑い始めた。
「はっ……はっはっはっはっ! 見事っ、見事だよジンク。普通の相手なら、ここで勇んで箱を開封してしまっていただろうな。残念だったな貴様の目論見は外れたぞっ」
オレは心を閉ざし、相手に目的を気取らせないように挑発した。
「好きにしろ、オレの目的は完遂した」
「……ぬかせ……それにだな、もっと単純明快な解決方法があるぞ」
ルーカスはいつもの無表情に切り替えると、オレを冷たい目で見た。
「お前を今から、殺すことだ」
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ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はナタデココブドウ味を飲んだゴブ!




