第一章27話 オレ5節 『ジン』
一章27話予告編動画
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ルゥガの快進撃の後、学園内の風向きは確実に変わってきていた。
公開演説で生徒会に一発かましたという事実が、生徒や学園全体への大きな影響を生んでいたのだ。
ルーカスの強硬政治を変えることができるかもしれない、そんな機運が高まっている。
オレも以前のように避けられる事も少なくなったように思う。
「そういえばすっかり忘れてたけどよぉ……投票後には進級試験があるんだったなぁ」
ルゥガが思い出したかのように呟く。
オレ達は三人はいつもの流れで食堂に集まり、食事をとっていた。
ここまでくれば選挙対策もほぼないのだが、何かの妨害があった場合や情報共有のためである。
「まあ俺様は、誰が来ても負ける気がしないけどなぁ!」
ルゥガは勝気に力こぶしを作った。
彼は生徒会へのカマしによって大きく自信を得たようだ。
水を得た魚。いや、世界を得た龍だな。などという意味不明なオリジナル慣用句を作り出していた。
前回の事がなくても、ルゥガであれば結局自信は揺るがないような気がするが……。
一方その様子を見ながら呆れたように、しかし嬉しそうにキリエも追従する。
「勿論、私もそのつもりよ」
彼女もこう見えて武闘派、直情的で困ったらすぐ解決手段に暴力を使う節がある。
最初にルゥガと戦った際、キリエが必殺の蹴りを放っていたのをオレは忘れてはいなかった。
まぁこんな環境で競争させられたら無理はないか……。
しかし、進級試験か……どう対応したものかな。
公開選挙の後、ルゥガへの不当のごたごたが明るみに出てしまったので、このまま選挙を続けるか否か学園側の調査や会議があり投票期日が延期されていた。
結論としてはこのまま続投で選挙を行う、ということである。
本来の流れでは新生徒会発足からの進級試験だったのだが、試験が間に挟まった形だ。
この延長ががどう選挙に影響をするか――まず間違いなく何かの妨害はされるだろうな。
恐らくこれは生徒会の意向も含まれているに違いがない。
当選後の進級試験でオレ達を処理するつもりだったのだろうが、今や脅威となったルゥガ陣営を先立って合法的に消し去るつもりだろう。
そんなことをオレが考えていると、近づくプレッシャーを感じ取る。
この息の詰まるような、強大な感覚は……。
振り返るとそこには、なんとルーカス生徒会長が直々にやってきていたのである。
無表情な彼が一体何を言い出すのか……オレは備えた。
「これはこれは、生徒会長様自らのお出ましだぜ……」
ルゥガが先手を取って牽制した。
視線は鋭く、油断はしていないようだ。
それを無視するかのように、会長はオレとキリエに声をかけた。
「さて一年の諸君。不当証明のためとはいえ生徒会室に侵入。機密資料持ち出し、器物損害、他生徒に対する障害。これらはいずれも罪だ」
ルーカスは手を後ろで組むと、短く的確に告げる。
表情はいつものように厳しい無表情で、彼の本意はわからない。
「待ってください。生徒会だって不正をしていたはずです。お相子なのではないでしょうか?」
キリエがいつもの正論を持ち出す。
当然そんなものは通用することはなく……
「勿論、不正を行ったキルトは処分したよ。彼は直に退学になるだろう」
なんの感情も出さずにルーカスは答えた。
自分の失態を部下に押し付け、そして退学にすると言う。
都合で生徒を処刑するというのに、そこには一切の同情や憐憫は無かった。
「……しっぽ切ですませんのかよ。お前の部下だろうが……!」
ルゥガは静かに、しかし深く強く怒った。
彼は横暴な部分もあるが、それは全体の為や信念に基づいた意思の結果でもある。
それが生徒会長立候補、弱者救済という目標に向かっているのだ。
冷徹に、道具を切り捨てるかのように人を使うルーカスの判断に、激しく怒るルゥガの気持ちが伝わってきた。
……オレもルゥガに感化されたのかな。
妙な気分になったオレは、一度気持ちをリセットするため深呼吸をしようとしたが、何故かそれはすべきでないと思った。
「奴が勝手にやったことだ」
「あなた、最低な人間よ」
その冷淡な態度を崩さないルーカスに、キリエの中でも何かが吹っ切れたらしい。
倒すべき悪としてルーカスを再認識したようだった。
「二人は選挙期間が終わるまで謹慎だ。寮内からの外出を禁止する。選挙投票時のみは許可する」
拒絶の言葉も気にかけず、ルーカス会長は淡々と状況報告をしていく。
この男、やはり普通ではないな。どちらかと言うとオレ達に近い存在か――。
「そしてルゥガ、進級試験はとっておきの相手を用意した。楽しみにしておくんだな」
ルーカスはここで初めてルゥガを見ると、侮蔑の感情を露にした。
会長にとって、社会的立ち位置というものは特に大きな関心があるらしい。
自身が上から見下ろすような発言をする時に、彼の本心が見える気がする。
それはあまりにも強大な傲慢だ。
「おいおい、生徒会長はそんなこともできるのかよ? やっぱ生徒会長を目指してよかったぜ、お前みたいなのを楽に排除できるんだからな」
口では相変わらずの軽口で返したが、最早ルゥガの表情や声色は一切笑っていない。怒りと共に敵対心をむき出しにしている。
その言葉を受け、数秒の間無言で会長はルゥガを見つめると、失礼という言葉と共に去っていった。
流石この学園随一の男である。
付け入る隙が、物理的にも精神的にも見えなかった。
――七色の光冠
まさにその名を博すのにふさわしい超人鉄人強人の男である。
オレは敵ながらもその徹底ぶりに、賞賛の念を抱くしかなかった。
………
……
…
その後オレ達は寮に謹慎となった。
魔力性の首輪をつけられ――こんなアーティファクトも存在するのだな……。
領内からは出ることはできない。
「まったく……これじゃ囚人じゃないの」
大仰な措置に、キリエが首輪を撫でながら愚痴る。
仕方ないので、オレ達は寮のロビーに集まるようになっていた。
「さしずめ、オレたちは奴にとっての死刑囚って所だな」
「お前さん……ずいぶんと余裕ありますね……」
ルゥガがオレの発言に少し呆れたように呟いた。
何だ? ただの感想だぞ。別段不思議な事も言った覚えはないが……。
「さて結局はこの後だ。公開演説でかなりの票を得ただろうが、それでも五分五分って感じだろうな……どうするか」
ルゥガは切り替えるように話し出す。
その様子をジッとキリエが見つめ、深く吐き出すように呟いた。
「……もうこちらも不正するしかないわ」
以外にもあのキリエがそれを、悪事を成すと発言したのである。
今までの生徒会からの妨害、ルーカス会長の底知れぬ意に触れキリエも変化したのだろう。
正しいことを正しく行うだけでは、変えられないことがあるという事実に。
「……面白いがそりゃバカだな。失敗のリスクは勿論の事。バレたら俺達のやってきた事全ての意義を失うぜ」
ルゥガが舌を巻いたようにキリエを諭す。
これでは普段のやり取りとは立場が真逆だ。
オレはルゥガがその発言をした事が気になった。
今日はいままでのらしさが感じられない。ここに来てルゥガも弱気になっているのだろうか。
「どちらにせよ、遅かれ早かれオレたちは生徒会に潰されるんだ。ルゥガが生徒会長になる以外もう道はないだろう」
オレはルゥガを見据えた。
その言葉を受けた男は数秒固まった後、いつものようにニヒルに笑った。
「っへ、おまえさんにケツを叩かれるとはな……俺も焼きが回ったぜ」
やはりルゥガは悩んでいたようだ。
頭をかくように照れた後、両手で頬をぴしゃりと叩いた。
「よっしゃ! シンプルにいくぜ! 俺が生徒会長になりたい理由! それは過去にダチが死んでムカついたから、退学システムの見直しするため! ついでに他の生徒達も助ける!」
「本当にシンプルな理由だな」
オレはそれが意外だった、ルゥガはこう見えても頭の中で多角的に状況判断している男だ。
一つの答えを出すために様々な物を結び付けて、常に自分の益になるように動いていると思っていた。
だがその根源たる理由を一転に見据えたその言葉は、なんというか感じ入ってしまった。
この学園にきて、オレも様々な影響を受けている事を自覚する。ずいぶんと人間らしくなってしまったな……。
「ほっとけ。それによ、負けられないんだよ。会長の前にはコガミがいる。おそらく次の進級試験の相手は……ヤツだ。絶対に引けねぇ……!」
ルゥガは倒すべき因縁の相手を既に見据えていたようだ。
つまり進級試験の相手と事は、間接的に相手を殺すという事だ。
ルゥガの中の迷いというのはここが大きかったのだろう。
好敵手か――。
「そうよ、私も親友に報いなくちゃ! こんなことでめげてられないわよね!」
キリエもルゥガの様子に感化されたのか、太ももを軽く叩きこぶしを握った。
「まあ各々の動機はさておき、引けないってのはその通りだな」
「おいィ? まぁ……お前らしいか。それによ、わりーことだけじゃねえぞ」
「何かしら?」
ルゥガは子供が悪戯するような笑みを浮かべると、懐から資料を取り出す。
「俺様の力で、進級試験中の警備枠を一つねじ取ってきたぜ!」
「え、よく取れたわね……風紀委員長は伊達じゃないって所かしら」
「まぁな。もはや生徒会長一強の時代じゃなくなったってことさ。確実に俺たちに向かって風は吹いてきてる」
どうだと言わんばかりに、満足げに目をつぶり両手を広げるルゥガであった。
どうやら完全に調子は戻った様だな。
「流石ルゥガ先輩だな、これでずいぶん手が増えそうだ」
「でだ、ジン。どうせお前の事だ計画の2、3個あるんだろ?」
「そうだな、正直不正ってのはオレも考えていた。先輩のおかげでピースが埋められそうだ……ところでジンと言ったか?」
オレは聞き間違いでないことは理解していたが、ルゥガの真意を問うた。
「前からジンクって言いにくいと思ってたんだよな、なんだよ“ク”って。あだ名だよ、兎に角お前はジンだ。わかったな?」
「まぁ、呼びたいように読んでもらって構わんが……」
「いいわね、ジン……! 私もそう呼ばせてもらうわ」
親しい間柄での略称やあだ名というのは人間のポピュラーなコミュニケーションの一つだ。
なるほど、オレは二人と完全に仲間になったらしい。
なんだか最近オレの心がざわつくことが多いな……。
二人に向き直ると、オレは今回の計画を伝えた。
「オレは二人を信じる、だから二人もオレを信じれるか? 計画はこうだ……」
オレは首を鳴らした。
さて、ここからがクライマックスだ。
一度整理しよう。
ルゥガを生徒会長へ当選させるために、投票選挙で勝たなくてはいけない。
公開演説の結果、一番人気はルゥガになっただろうがそれだけでは現実難しいのだ。
この学園を支配している生徒会長ルーカスが、事実上選挙を操作しており、奴の息かかったコガミが立候補している。
権力を傘にコガミを生徒会長に当選させ、卒業後も実質的にこの学園を支配、いや自分のための兵隊出力装置を作る気だろう。
奴の恐怖と褒美による学園の支配はすさまじく、投票結果は捻じ曲げられこのままでは確実に負ける。
問題の投票紙は個人の魔力で刻印されおり、虚偽や他人が入れなおすことはできない仕組みだ。
これをどうしたものか……。
さらに会長の逆鱗に触れたオレたちは、生活上も雁字搦めにされている状態だ。
オレとキリエは投票日まで謹慎。破れば即退学。
ルゥガに関しては、投票後の集計期間中に行われる進級試験の対戦相手がコガミであることが予想される。
ここで勝たなければ、例え選挙に勝ってもルゥガは退学となりオレたちの負けになる。
そしてオレ個人の目的――秘匿されている学園のターミナルコアへの侵入。
方法は勿論だがいつでもいい訳ではない、タイミングを見極めなければならないのだ。
特に同タイミングで、変質者の動きを止めるのは必須になるだろう。
読んでくれてありがとうゴブ!
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今日は鶏肉のささ身を食べたゴブ!




