第一章25話 ボク5節 『学園はボクたちに何かを隠している』
一章25話予告編動画
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全身にケガを負ったボクは、暫く包帯と薬が友達の生活を送っていた。
そんな状態のボクを散々友人にからかわれたものだ。
「マジで何やらかしたんだよお前~?」
ボクが食後の薬を飲んでいると改めてからかわれる。
何故こんな状態になったのか、当の本人ですらあまり理解できていないのだ。
退学と引き換えに緘口令を敷かれたボクは何も伝える事はできない。
ただ、えへへ……と愛想笑いするしかなかった。
そうだ。
昨日の事をボクは思い出し聞いてみた。
「……親の顔を見たいって奴?」
本当の使い方とは少しズレている気がしたが、それでもボクの好奇心は抑えることはできなかった。
「おや……? なんだ親って? ハルキは時々わからん言葉を使うよな」
帰ってきたのは当然の疑問である。
ボクは普段から、趣味の小説の影響で色んな言葉を知っている方……だったと思う。
時頼、単語や慣用句が皆に通じないことがあった。
「(やっぱり皆も知らないんだ……)」
ボクは隠された事を掘り起こしてしまったという、その事実に少し興奮していた。
よせばいいのにボクの中にむくむくと好奇心が膨れ上がっていくのを感じる。
………
……
…
「何だその言葉は……? ベリルは知らないのだ。変な知識つけてねーで精進するのだ、このままだと退学になるのだ」
はぁ……今はそれは関係ないじゃないか……何もそんなに言わなくても……。
勇気をだして質問してみたが、一蹴されたことにボクは少し傷つく。
ボクの知りうる中でそういう事に一番詳しそうなベリルベッゾ先生に聞いても同じかぁ……。
「はぃぃ~すみませぇん……」
返り討ちにあったボクは撤退を選択せざるを得なかった。
この時立ち去るボクの背中を、先生が見つめていたことに気が付くことも無く……。
「(じゃあこの言葉は誰も知らないのかな? でもだって、本になってるし……あの倉庫は図書館はないような書籍ばかりがあった。なんでわざわざ隠してるんだ?)」
ボクは中庭をトボトボと歩きながら考える。
隠すっていうのは……知られると困るから?
……誰が?
誰ってそれは学園なのかな?
強烈に匂い立ってきたその秘密に、今やボクは興奮を感じていた。
ボクは世界の秘密に触れてしまったのかもしれない。
知らない言葉、幼少期の記憶がないこと、毎朝回収されるボク達の魔力、学園の外、謎の機械。
これらから導きされた答え、それは。
――学園はボクたちに何かを隠している。
そうだ、そうなんだ。
ボクはこの学園しか世界を知らない、出た事もなかった。
今まで考えることもしなかったよ……これは記憶の改ざん? 封印かも……。
ボクは時間をかけて、学園の地形を調べる。
やはり以前外に出た時と同じように、外周はドーム状の壁になっており囲まれているようだった。
学園の端なんて、今まで意識したこともなかったよ。
広かったから気づかなかった? 行く必要がないと認識していた?
いや生徒が、そうならないように細工されていたんだ記憶に意識に……。
そして外の世界の存在、多分あの夜の経験でボクだけが気づけたんだな。
「(この学園は閉じられているんだ)」
ボクの頭がどんどんと冴えていくのがわかる。
いや違うな、これが通常なんだ。
今、元に戻って行っているんだ……!
この学園は生徒を管理していて、それは異常な事なんだよ。
小説を読んだから、ボクだけがその価値観に気づけた。
そうなんだっ……!
「はぁ……やめよう」
数分後、学園端のベンチの上でボクは完全に消沈していた。
冷静に考えて、この秘密を追い続ければ退学になるじゃないか。
折角退学を延長してもらったのに、別方向で退学になったら意味がない……。
「(……止めよう……ボクはボクだ。何もできない未熟なボクがそんな秘密を追ってどうするんだ?)」
人には分相応というのがある。
退学にならないよう低空飛行で自己研磨するのに精いっぱいなのに、これ以上背負ってどうするんだ。
ボクは俺じゃない、小説の中の主人公じゃないんだ……。
「……よし!」
ボクは太ももを叩くと、人知れず決心した。
たとえ世界に秘密があっても、今は平和に生きている。
別に何も悪いことじゃない。
それでいいじゃないか。
それこそボクじゃないか。
ボクのそんな決心を挫く様に、横から声がかけられた。
「おーい、こんな所にいたのだなハルキ」
エプロンドレスを着た、今日もかわいらしい子供先生事ベリルベッゾ先生だった。
「え、ベリルベッゾ先生、何でこんな所に……?」
普段ボクは人に話しかけれる事自体が珍しい。
それがこんな学園の端で、しかも先生に授業以外で話しかけられたのは初めてかもしれない……。
ボクは強烈に嫌な予感がしてくる。
「どうなのだ? たまには一緒に食事でも食べないのだ?」
予感は的中した、こんな所まで追いかけてきて食事に誘うなんて。
これは絶対に何か裏があるぞ……。
平穏に生きていくと誓ったばかりなんだ。
「え、いいです……」
ボクは無意識に目を逸らしながら、その提案を断る。
先生は満面の笑顔で、ボクの肩に手を置いた。
「ハルキはから揚げが好きだったのだよな?」
………
……
…
「……」
数分後、ボクの眼前には大盛りのから揚げが湯気を立てて鎮座していた。
はぁ……ボクは何てダメな奴なんだ……。
結局からあげの魅力にに負けた……。
だってしかたないじゃないか、から揚げなんだもの……そういえばあの日以来食べてなかったな……。
「先生と同伴なんて珍しいね」
なんて学食のお兄さんにまで声をかけられちゃったし……。
なんでそんな所まで見ているんだよぉ。
ボクは何故か怒りが湧いてきた。
いやいや、まったくボクの情緒はどうなっているんだ。
「で、最近どうなのだ?」
から揚げを食べ始めたボクに、先生は頬杖をつきながらだるそうにそしてジト目で聞いて来た。
「……な、何の事です……?」
ボクは自分でも挙動不審な声で返答してしまう。
その様子に先生は更に訝しんだ目で見つめてきた。
ま、まずいよ……
「学園生活の事なのだ」
「何で……そんなこと……」
ボクは問い詰めるようなその雰囲気に泡を食い始める。
落ち着けボク、まだ何か言われたわけじゃないんだ……。
別にやましいことはしてないはずだ……
「ベリルは担任なのだ? ハルキの事を心配してもいいじゃんなのだ。お前があのきついバイト続けてるの知っているのだ、魔力にも影響でているんじゃないのだ?」
確かにボクの魔力は格段に成長していた。
魔法の訓練を改めて始めた影響もあっただろうけど、やっぱりあのバイトの影響が大きかったと思う。
成長の末、早上がりするようになったボクに悪魔先輩は、文字通り悪魔的な仕事の割り振りをしていた。
「おぅ? おうおう、お前よハルキよぉ……そんなにできるならよぉ。もっとやれんじゃねぇの? なぁ?」
煙草の煙を吐き出しながら、悪魔じみた恐怖の笑みとともに仕事を増やされる。
今現在ボクのノルマは通常の1.5倍になっていたのだ。
「……お陰様で、調子いいですよ」
ボクはバイトの事を思い出し、少し嫌な気分になりながらも事実を報告した。
「へぇ、いいじゃないのだ? ハルキは雑魚魔力だったから心配していたのだ」
相変わらず切り口は鋭いが、初めてベリルベッゾ先生に褒められたことでボクは少し照れる。
やっぱり人に賞賛されるのって慣れないや。
ボクは内心嬉しくなりながらも答えた。
「ありがとうございます……!」
「所で……」
ボクの油断を付くように、先生がボクの横に来て肩に手をまわしてきた。
え、近い。近いよ。最近人に密着されることが多いなボク……。
ぁあ……なんだか特に好きでもない匂いがする、先生ってこんな匂いなんだ。
「夜さ、あの倉庫入ったのだ?」
「……え?」
ボクは想像だにしていなかった話題にドキリとする。
背中に冷や汗が伝っていく……。
ベリルベッゾ先生がボクの耳元に口を近づけ小さく囁いた。
「いやぁ、あんな場所誰も入らないと思うけのだけど、あの倉庫は生徒侵入禁止なのだ? 一応なのだが、ハルキ本好きみたいだからそこの書物とか読むんじゃないのだ」
ボクは一層青ざめる。
やっぱりあそこは入っちゃいけなかったんだ……。
この言葉は分かった上での牽制だということは、ウブなボクでも理解できた。
「……わかりました。気に留めておきます……」
ボクはただ怯え、そう答えるしかなかった。
「そうそう、子供は素直が一番なのだぁ」
ベリルベッゾ先生はボクから離れると、いつものように気だるげな雰囲気に戻った。
「(親を知らないのに子供を知ってるって事はやっぱり、この前の事は嘘なんだ……)」
ボクは珍しくそんな鋭いことに気が付いてしまった。
その自覚がボクに謎の勇気を与える。
本当によせばいいのにボクは余計な一言を聞いてしまった。
「ところで、ボクたち卒業したらどうなるんですか?」
「……それは人によるのだ、ハルキはまだ一年なのだ? そんな事より今度の進級試験に備えるのだ。兎に角余計なことはするな、わかったのだな?」
ボクの質問への回答に、先生はそんな事を使った。
やっぱり何かあるんだな……ボクの中で学園への疑念が再燃してく……。
まずい。まずいよこのままじゃ好奇心に殺されちゃう。
「……了解です」
再びボクは肯定するしかない。
そんなボクをどう思ったのか、先生は数秒見つめた後、ボクの肩を軽く叩くと立ち去っていった。
「……はぁ~」
何とか乗り切ったボクは大きなため息をついた。
やっぱり良からぬ事になっちゃったな。
これであの倉庫は使えない、つまりボクの小説生活は水泡に帰した……。
「(あーぁ、ボクの唯一と言っていい楽しみが……図書館にある本はどうも固くて、なんだかワクワクしないんだよなぁ……)」
いやいや。
ボクはぶるぶると頭を振って、気落ちを切り替えた。
今大事なのは、今後の学園生活の事である。
結局、今がよくても進級できたとしてもダメなのだ。
ベリルベッゾ先生はあんな風に言っていたが……やっぱり何かあるよね。
ボクは勇気を出して、三年生に声をかけてみた。
以前のボクからしたら途轍もない行動に、成長を感じてちょっと嬉しくなる。
「ほとんどの生徒はエスカレーター式に魔法使い部隊に入れられるって話だぜ」
なるほど……部隊かぁ……。秘密事項でこれ以上言えないらしい。
ボクは先輩にお礼を言うと、再び考えを巡らせた。
「(部隊? 戦うんだよね? 誰と?? それって外の世界にいた機械と? 無理だよぉ、ボクは戦いなんてできない……)」
そもそも望んでボクはこの学園に入っていない、んだと思う。
ましてや、戦いなんてできるわけがないんだ。
まずいぞ……卒業までに生き残るのも難しいだろうし、なんとか脱出しないと。
ボクは地下であった事を思い出す。
「(はぁ……嫌だ……)」
死にたくない、あんな痛い事以上なんだよね? 絶対に無理だよ……。
助かりたい! 生きていたい! そんでもってから揚げを毎日食べるんだ……!
ボクはまるで壊れたおもちゃのようにその場をぐるぐるし始めた。
同様に頭の中もぐるぐる回転させ、考えに考えを巡らせたけど……
「何も思いつかないよぉ……」
学園はそもそも物理的に閉ざされてるし。
この事実に気が付いているのは生徒会以外だと多分ボクだけ。
相談するような、小説に出てくるような真の仲間もいない。
うーん……。
生徒会の人は怖すぎるし……
うぅーん……?
……。
……。
さっき先生に奢ってもらった揚げ美味しかったな……。
「そうか!」
ボクは突如閃き、嬉しさにその場で小さくジャンプしてしまった。
そうかそうだよ先生だ!
ベリルベッゾ先生は、唯一学校と生徒を繋いでいる。
彼女を追えばいいんだ! 何か分かるかもしれない!
だけどボクは隠密魔法や認識阻害魔法も使えない……
それとなーく、ばれないよーに追跡してみるしかないぞ。
ボクは決意し、ベリルベッゾ先生の後ろをつける事にした。
――そして放課後。
毎日授業が終わったら、先生はどこにいくんだろう……。
ぼくはそろりそろりと、柱から柱へ、影から影へ、先生を追跡していた。
「(こっちは校舎でも普段全然使われてないような、空き教室がいっぱいある所だ……)」
――えっ!?
意外な人物、フィルミさんがベリルベッゾ先生を教室に呼び込んでいるのを見てしまう。
なんだ雰囲気が……あの夜に副会長と会っていた時と同じ表情をしている……。
「ベリルせんせっ! 待ってましたよぉ……」
部屋から、フィルミさんの扇情的な声色が聞こえてくる。
ボクはおずおずと扉に耳を立てた。
「で? 要件はなんなのだ?」
ベリルベッゾ先生が、感情の読めない声色で質問している。
一体何の話なんだ……!
ボクは一言も聞き漏らすまいと、鼻息を荒くし聞き耳に集中した。
「次のぉ進級試験なんですけどぉ……フィルミ楽して進級したいんですぅ……ハルキ君あたりと組ませて楽らせてくださいよぉ」
ドクン。
彼女の口からボクの名前が出た瞬間、鼓動が高鳴るのを感じた。
そして、言葉の意味を理解する。
「まったく、しょーがねーのだ。じゃあ、いつものよこすのだ」
進級試験でボクと組ませる……?
つまりそれは、ボクとフィルミさんが戦うって事?
この学園の進級試験内容、それは。
――同級生と一対一での決闘である。
敗北すれば、即退学。
つまり、殺されるのだ。
「はぁい、わかりましたぁ……」
ちゅ……ちゅぱっ……じゅるぅ……
怪しい音が部屋の中から聞こえ始めた。
「(またなのか……またなんだねフィルミさん……)」
心が絶望に染まっていくのが分かる。
ボクを裏切り、殺そうとしたフィルミさん……。
またボクを利用しようとしているんだね。
またボクを裏切るんだ。
またボクを殺そうとしてるんだね……。
いつの間にか少年は座り込み、静かに涙を流していた。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
きょうはタケノコ食べたゴブ!




