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第一章22話 オレ4節 『何をした』

一章22話予告編動画

https://youtu.be/iq2lbZ4BrHs

 ――オレ(ジンク)は階段を駆け上がりエントランスを目指す。


 さきほど上の階から大きい魔力のぶつかり合いを感じ、その直後轟音と振動が伝わってきた。

 おそらくキリエと誰かが戦って決着がついたのだろう。


「ッチ」


 自分の見込みの甘さにオレは舌打ちをする。

 滑り込むようにオレはエントランスに到着した。

 そこに立っていたキリエの姿を見て、オレは少し安堵する。


「すまない、オレの想定外だ。まさかまだ伏兵がいるとは」


 オレの様子をみると、何故かキリエは少し顔を赤らめた後すぐに顔色を変える。


「ちょっとあなたの腕、大けがじゃない! しかも前と同じところだわ」


 キリエが血相を変え近づいてくる。

 まったく忙しいやつだな。


「ああ、これか」


 オレは腕の様子を確認する。

 患部には深々と抉れた傷がついており、今でも血が滴っていた。

 通常の体であれば、今頃痛みや高熱で動けていないだろう。


「(この体の悪い点だな、便利ではあるんだが……)」


 オレは軽く手を振りながら、異能力を使って傷を送った。

 近づいてきたキリエが顔をきょとんとする。


「あれ、そんな怪我だった? いやでもでもかなりの怪我よ! 手当しなくちゃ」


 慌てて手当てするキリエにオレは尋ねた。


「何故そこまでして気を揉むんだ? この程度別段死にはしない」


 この程度の傷なら、今まで散々負ってきた。

 治療魔法で手当てすれば、別段なにもないはずだ。


「まったくジンクらしいわね。だって仲間でしょ? 私も貴方のおかげで助かってるし、貴方も私に助けられなさいよ」


 キリエが呆れたように苦笑して答える。

 人間の感情というものは未だに理解できない、一々この程度で騒いでいたらキリがないとオレは思ったが、彼女がそういうなら恐らくそれは正しいのだろう。


「そういうものか」


 オレは自分でも珍しくただ肯定だけをする。

 ここで何か意見を言うのは野暮だと思ったからだ。

 ――仲間か。

 言葉の意味は知っているがおそらくキリエやルゥガとの関係性を考えればそれに当てはまるのであろう。

 正直目的が一緒なだけの行きずり、としかオレは認識できていなかったが、人間というものはそういった関係性に情を抱くという事だ。


「そうよ、スカしてないでこういう時は素直にありがとうって言えばいいのよ」


 トン。

 キリエは珍しく快活に笑うとオレの胸に拳を当てた。

 その瞳の中に映るオレが見える。


「わかった次からそうする(・・・・・・・)。時間が惜しい、行こう」


 オレは簡潔に言いながら生徒会室に向け駆け出す。

 少しだけ感情と言えるようなものが胸の中に揺らいだように感じたが、おそらくそれはオレが感情というものを味わってみたいと思ったが故のバグのようなものだ。

 そんなものオレの中に存在するはずがない、オレはそう結論付けると心に蓋をした。




 施錠されていた生徒会室を魔力を込めた蹴りで破る。

 音と共にドアが開き、割れた破片が生徒会室内に飛び散っていく。


「ついに来たわよ」


 キリエが意気込んでいる。

 その部屋の中は当然ながら無人で、絨毯、机、椅子、本棚、筆記用具、全てが生徒用とは思えないほどの豪華な調度品で揃えられている。

 

「専横ここに極まれりって感じね」


 周囲を見渡したキリエが素直な感想を述べた。


「結構時間を食ったな、急いで探すぞ」


 オレはもうあまり時間が無いことを確認するとキリエを急がせた。

 幸い資料はしっかりまとめられており、探し出すのに時間がかかることはなさそうだ。


「あれ? もしかして、無い……の?」


 数分後、ルゥガの不当評価について記載されている資料がないことにオレ達は気が付く。

 その事実にキリエが青ざめた様子でうめき声を上げる。

 オレは冷静にもう一度資料の位置を確認した。


「確かに明らかにここだけ、必要な資料が足りて居ないスペースがあるな」






 ――一方同時刻。

 公開演説が行われているホール内ではルゥガ達の奮戦もあり、つつがなく行事が進行していた。

 現生徒会長ルーカスは何を思っているのか、表向き無表情でその様子を見ている。


「(……仮に、仮にだ。妨害を突破し生徒会室にたどり着いたとする。だがそれがどうした? そこにあると思ったか? 不正資料がそこにあると思ったか? 機密上持ち出し禁止だから、私がしっかり決まりを守って、この私がそこにただ置いておくとでも思ったか? それはありえない。ありえない事だ。なぜなら今私がここに、持っているからだよ)」


 ルーカスは胸にしまい込んだ機密資料を撫でる。

 当然こんな爆弾をわざわざ放置する必要はない。

 七色の光冠(オーレオール)その人が守る事によって盤石になるのだ。


 内心勝ちを確信しているルーカスの眼に、現在の登壇者テリオスが移り込む。

 本来妨害はここでも行われる予定だったが、いままでのルゥガとテリオス陣営の働きにより封殺されており、妨害するにもできないるようだ。


「(ふん、だから甘いのだ。テリオス陣営がルゥガ陣営と組むというのは十分に読めた線だ。いやそもそも誰が何をしようとしてもうまく行かないように徹底すべきなのだ)」


 ルーカスは横にいる次期生徒会長(コガミ)を内心叱責する。

 この件が終わった後、しっかりと言い含めなくては。


 壇上ではテリオスが演説を終えようとしている状態である。

 流石の人気というべきか、彼が登壇する際には黄色い声が上がっていた。

 演説内容も現生徒会批判を多く含んだものであったが、それをあまり感じさせないような言い回しとニュアンスで磨かれており、古い生徒会を脱し、もう一度綺麗な状態かやり直そうという彼の意思は強烈に生徒に伝わっていた。


 その容姿や声が後押しした演説はカリスマ性を十全に発揮したそれである。

 この演説でテリオスは確実に票を得たのであった。

 しかしテリオス本人はその確かな演説の手ごたえよりも、別の事を気にしていた。


 「(……まだなのか? もう次だぞ)」


 テリオスは時計を確認し次の演説時間が迫っている事を気にしていた。

 ルゥガ陣営は彼にとっても政敵であり、一時的に警備という範囲内で協力し合っただけの関係だ。

 そもそもルゥガ陣営の演説まで面倒を見る必要は全くないのだが、彼の清廉潔白な意思はそのマニフェストに恥じず、ルゥガの正当な演説を望んでいたのである。


「ではテリオス君の演説でした、降壇して下さい。――次は」


「待ってくれ!」


 選管の進行に待ったがかかる。

 それはテリオス自身によるのだった。


「時間外になってしまうが、私は現生徒会長のルーカス先輩に、ある生徒の不当評価疑惑についてお聞きしたい」


 よどみなくそう発言したテリオスの瞳に憂いや迷いは一切ない。

 正しいことをすべきという彼の意思と共にその言は発せられたのだった。

 会場にどよめきが走る。

 ルゥガが不当に生徒会に貶められているという事実は、半数以上の生徒に知れ渡っている。

 しかし現生徒会の強硬策と恐怖支配はそれ以上の鎖となって学園を縛っていたのだ。

 公の場でその件に触れるということは、タブーを超えたタブー。

 ホール内の全生徒が息をのんで会長の次の言葉を待つ。


「そんな事実はない。降壇したまえ」


 厳しい顔つきで、短く簡潔にルーカスは答えた。


「この後演説するルゥガの事だ! 彼は一分しか持ち時間が与えられてないんだぞ!?」


 テリオスはルゥガについて糾弾するが、やはり帰ってきたのは


「降壇したまえ」


 という短い繰り言だけだった。

 テリオスが選挙管理員会のメンバーに誘導され降壇していく。


「ここまでか、すまない……だが……」


 テリオスが小さく呟く、その様子を見ながらルーカスは内心悪態をついた。


「(小僧が、悪あがきを……)」


 所詮お前ら凡夫が何をしようと無駄なのだ。

 私という大海にいくら小石を投げ込んだとしても小動すらしない。

 いやその小石すら私の前では投げさてたまるものか。


「どうやら間に合ったようだな」


 優雅に笑うテリオスの横を長い髪が通り過ぎていく。


「では次の生徒会長立候補者、キリエさんの演説です」


 会場にアナウンスが伝えられる。

 何……キリエ……だと? それはルゥガ陣営の応援会の一年の事か……?

 ルーカスはここで初めて顔を歪めた。


「まて、そんな報告私は聞いてないぞ」


 近くに侍らせていた側近にルーカスが尋ねる。

 ルーカスに迫られた側近は、泡を食ったかのように慌てふためく。


「も、申し訳ありません昨日急遽の登録だったもので報告できてませんでした一生の不覚です」


 ルゥガに風紀委員長再就任を告げた男は、相変わらずの早口で申し立てた。


「馬鹿者が、そういった事は逐一報告しろとあれほど言っていたではないか」


 バギリ。

 木の破片が周囲に飛び散った。

 ルーカスは怒りに顔をゆがめ、座っていた椅子の腕置きを握りつぶしたのである。


「わ、わかりません何故かその事を忘れていたのです一生の不覚です自分でも何故こうなったのか理解できていませんいつもの私ならありえません絶対に」


 顔面蒼白、脂汗を流すその早口の側近は訳も分からずに混乱していた。

 これは……阻害魔法……ジンクとかいう一年の仕業か……!

 ルーカスは状況を理解し、椅子に深く座る。

 なるほど、やってくれたなルゥガ陣営。

 だがその小娘を登壇させて何をする気だ?

 いいだろう、お手並み拝見と行こうではないか。

 ルーカスは落ち着きを取り戻すと、事の成り行きを静観する構えだ。


「……どうしますか?」


 隣のコガミが少し焦ったように伺いを立てる。


「いまだ優位である我々が何かをするべきではない、大丈夫だまだカードはある」


 生徒会役員選挙の登録要項には『公開演説前日までに登録しなくてはいけない』という記載がある。

 ほぼ全ての出馬者は、選挙活動とその割り振りを受けるために受付可能になった当日または次の日にまでは登録を済ませていた。

 選挙活動という流れが後から整備されたために残っていただけの一文、いわば穴であった。

 過去に演説前日というタイミングで登録された事例はない、選挙活動というのは投票に勝つための認知度上昇には絶対に必要な行動だからだ。

 しかし。

 ――ただ壇上に登るという目的であれば別だった。


「生徒の皆さん、私が話したいのはこの生徒会選挙で行われている不当な行為についてです」


 魔法によりライトアップされたキリエが、開口一番に説いたのはルゥガへの不当評価についてだった。

 再び会場がざわめく。

 キリエは持ってきた何かを広げ、公開しようとしていたのだ。

 何かが起こる予兆に会場には期待感が広がっていく。


「馬鹿なやめろっ! 選挙演説とは何の関係もないっ!」


 キリエの行動に、コガミが立ち上がり大声で制止する。


「ここで何を演説するかは当事者の自由でしょ? 私の演説をコガミ先輩が止めるんですか、これは立派な妨害よ」


 鋭い口調の言葉でキリエはコガミを刺した。


「くっ……」


 コガミは閉口し着席するしかなかった。

 確認するように隣のルーカスの顔を見ると、彼は口を横一文字に結び目を見開いて驚いていた。


「会長……?」


「(馬鹿なまさか……あの資料は……確かにここに……)」


 ルーカスは制服の胸元をまさぐった。

 その瞬間投影魔法による拡大された資料が全生徒に映し出される。


「噂になっているルゥガ先輩への不当評価、それをさせるための素行報告書です。先生確認して下さい」


 キリエはたまたま一番近くにいたベリルベッゾ・ゲルトラウデ先生、通称幼女先生に原本渡し確認を取る。


「何ッ!?」


 ルーカスが汗を流し、初めて大きな声を上げる。

 意味もなく何度も繰り返し、何もない胸元をまさぐっていた。


「(無い、無いぞ。馬鹿な、さっきまで確かに、確かにここにあったぞ。なぜそれが、今あそこにある!? どういうことだ、認識阻害? いや食らっていない私が食らうはずはない。最初からすり替えられていた? いやいや、私も、資料も確かにここにずっとあった。何がどうなっている。何をしたのだルゥガッ!!)」


 ルーカスが会場を見渡し、ルゥガを見つける。

 舞台袖にいたルゥガは、いつものニヤつた笑みを浮かべこちらに両指差しをしていた。

 カマしてやったぞというアピールである。

 それを瞬間、烈火の如く怒ったルーカスは無意識に魔力を放出させ、座っていた自身の椅子を粉々に破壊し周囲の人間を大きくたじろがせた。


「何やらあちらが騒がしいですが、どうですかベリルベッゾ先生? これなら評価最低ランクで、ルゥガ先輩の演説時間が一分しか与えられないというのはおかしいですよね?」


 荒ぶる生徒会長の様子に冷や汗をかきながらも、しかし勝ち誇った様子でキリエが尋ねた。

 ベリルベッゾは渋い顔をしながらも、眼鏡を取り出し資料に目を通していく。


「まあ確かに、確かになのだ。これは間違いなく公式の資料なのだ。何故キリエがそれを持っているかは置いておいて、改ざんの後や前後関係が合わない項目がいくつもあるのだ。この場では精査できないけど、これを見る限り少なくともルゥガの素行評価は最低ではなく普通以上はある事になるのだ」


「先生ありがとうございます。このような事を許さないためにも、不当評価の当事者であり現風紀委員長でもある、ルゥガ先輩こそ次代の生徒会長にふさわしいと考えています。私の話に共感できた人は、私ではなくルゥガ先輩に票を入れてください。以上です」


 キリエが強かに踵を返すと、美しい髪が動きに追従する。

 その様子は完全に決まったと言わざるを得ないような絵になっており、ホール内は一瞬静寂に包まれる。

 この後の展開に生徒は不安や期待感があふれ出し、ホールには本日一番の大きなざわめきが響き渡った。

読んでくれてありがとうゴブ!

ゴブリンのやる気を上げるために、よければ

【ブックマークに追加】や下の【★★★★★】で応援してくださいゴブ!

反応があると、とってもうれしーゴブ!


今日はタラの西京焼きを食べたゴブ!

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