第一章21話 オレ4節 『とことん一本気』
一章21話予告編動画
https://youtu.be/vcQ-x7VUeQw
某真赤な誓いを流しながらバトルを見てほしいゴブ!
――長い髪を揺らし想いを馳せる少女。
キリエは廊下を疾走しながらも改めて自分の心を量っていた。
この不当で不信で不快な選挙を勝つならここしかない。
そのためにルゥガやジンクそしてのテリオス陣営の協力を得て今私はここにいる。
ここが公開演説を勝ためのターニングポイント。
皆の想いを受け、まさに勝利への道を先頭で走っているのだ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
全身が酸素を求め、肺が血液に空気を送り込んでいく。
――感覚が研ぎ澄まされて、体が先鋭化していくのを感じる。
まるで一本の槍となったかのような錯覚。
私は今、現生徒会長派に対する義憤、仲間への信頼、そして親友への熱い想いに体を突き動かされていた。
人を想う心、そして寂しいを教えてくれたあの人に報いるため
「私は今、私の正義を実行しているッ!」
吹き抜けのエントランスに出る。
ここを抜ければ目的の生徒会室までもう目の前だ。
そのキリエの想いを塞ぐように、最後の関門が――その女生徒が待ち受けていた。
「やっぱり、そんな気がしたのよね……」
壁によりかかり地面を見ていたその女子生徒は、顔を上げキリエを見据えた。
した瞼に赤みがかったアイラインを引き、暗いリップという独特なメイク。
切りそろえたボブヘアーをゆらし、口にかかった髪を払う。
その気だるげな雰囲気は精神的な疾患、何か病んでいるかのような雰囲気を醸し出していた。
「あなたは……」
キリエは思い出す。その地雷女こと――ゆいにゃを。
「何で? ゆいにゃが先にお姉さまの事が好きだったのに……奪うなんて、傷ついたのに……」
ゆいにゃは階段の上からキリエを虚ろ気に見下ろす。
「またそういう話? 今は……いえつまりそういう事なのね」
キリエは一瞬呆れたが、すぐに考え直す。
ゆいにゃとは過去に親友を取り合った犬猿の仲だった。
もちろん、こちらにはそんな気はないが向こうに言わせれば泥棒猫という事になるらしい。
話が通じない相手を避け続け、逃げ続け、それが今こうして立ち塞がっている。
生徒会も厄介な人物を抱き込んだものだわ。
「あなたのお姉さまはもういないのよ、割り切って新しい恋を探しなさいよ」
私は無意味と感じつつも正論で返す。
「(……ぁっ……)」
その自分自身の言葉にハッとし、動揺している自分に気が付く。
今言った言葉はまさに自分に言い聞かせてるような気がして、今こうしてここにいる理由がブレる気がして、一番こだわってるのは私の気がして
――そうだったんだ。
私自身が一番割り切れてないんだ。
だからこんなに必死で、彼女の影を少しでも追いたくて、ここまで来たんだ。
「そんな酷いこと言うのやめてよ! それに今はコガミ様が私を必要って言ってくれたの!」
一気に声を荒げるゆいにゃの様子に、今度こそ私はあきれ果てた。
口では親友の事を言いながら、既に新しい寄生先を見出している彼女に同情の余地はないわ。
「結局、あなた自身の為じゃない」
「ふざけっ、ふざけないでよ! あんたにゆいにゃの何が分かるの!? 傷ついてこんなに悲しくて辛くて苦しくて……もう嫌ッ!」
激情に駆られたゆいにゃは子供のように拳を振り下ろし、周囲に溢れるほどの魔力が高まってゆく。
私に向けられていたそれは禍々しく、彼女の憎悪が執念が怨念が、嫌と言うほどに込められていた。
最早彼女との戦闘は避けられないわね。
「あの人のためにも、ゆいにゃ絶対に負けないからッ!」
その言葉に私も同調するように魔力と意思と決意を高めていく。
なにが辛くて苦しくてよ……ッ!
一々こっちはあんたのメンヘラに付き合ってらんないのよ!
「上等じゃないの……!」
この娘を乗り越えて、私は親友の死を乗り越えて、そしてその先の道を歩いていくと決心する。
この勝負、絶対に負けられない。
「問ッ!! 答ッ!! むぅうううよぉおおおぅッ!!!!」
叫び声を上げたゆいにゃは魔力を最大限まで高めると、詠唱を開始した。
『ああ恋よ、どうしてこんなにも苦しいの?』
『愛しの王子様は来てくれないわ。』
『それなら、私が捕まえに行ってあげる。』
『例えこの手が真っ赤に濡れても。』
『来て、茨の鞭。』
ゆいにゃの周囲に小さなユリが咲き誇り、次第にそれが枯れていく。
魔力が意味を持ち、指向を持ち形成されていく。
彼女の周囲を取り囲むように、茨のついた5本のツタが現れた。
ゆいにゃがその一本に触れると、それらはまるで意思をもったかのように躍動し、ゆいにゃの怒りのままに周囲にあった大理石の柱を粉々に吹き飛ばした。
「(私と同じ武器顕現魔法……! しかも第五階位!)」
ゆいにゃは切りそろえた前髪の奥から据えた目でこちらを覗き、静かに怒りながらも呟いた。
「出しなさいよ、待っててあげるから。あんたのちんけな獲物を……」
異様な空気を醸し出すゆいにゃに私は一歩も引く気はなかった。
ますます気に食わないわね、上から偉そうに……!
私は胸に手を当て詠唱を開始した。
『過ぎ去りし過去はもう戻らない。』
『だけど私は忘れないわ。』
『けれど私は突き進むわ。』
『顕現して、正義の戦乙女。』
私の体がまばゆい魔力の光に包まれると、羽があしらわれた兜、胸当て、そして巨大な突撃槍が装着される。
美しい装飾の入ったそれらはキリエの端正な容姿をより引き立てており、まるで一枚の絵画のようであった。
女神のような戦装束に身を包んだ私は短く息を吐くと、敵を見据え腰を落とし構える。
「「勝負ッ!」」
二人の声と同時に鋭く疾く、一陣の風が駆け抜ける。
――速攻ぉッ!
私は迷いなく突撃し、10Mそこそこの彼我を一息に詰め寄る。
衝撃。
しかし私の攻撃は、三本のイバラによって防がれた。
「(この鞭思った以上に素早く、そして固い……!)」
じわりとキリエの中に焦りという墨汁が広がっていく。
何度か突撃するが、やはり同じように防がれてしまう。
「(正面切っての突破は難しい! ていうかそれが私の強みなのに……!」
キリエの突撃は実にシンプルなものだ、全身全霊を込めての一点集中。
故に強力、故にそれは強力無比のはずだった。
しかしそれでも突破することが、できない。
攻めあぐねたキリエにイバラの鞭の応酬が襲い掛かる。
「口ほどにぃッ!」
「手足もなくぅッ!」
「毛ほどにぃッ!」
右へ左に、上に後ろに。
まさに縦横無尽、二重三重の連続攻撃。
ただの魔力を乗せた打撃であったが、対するキリエも物理特化。
単純な数値の差は、実力の差であり、そして勝敗の差を指していた。
ゆいにゃのイバラ攻撃が連続していく。
初めはそれでもキリエが攻めていたが、それらは全て防がれ、次第に攻防が逆転していき……
対応できなくなったキリエを、ついにイバラの一撃が捉えた。
「きゃッ!」
その威力は凄まじく、吹き飛んだキリエは壁にめり込むように激しく叩きつけられた。
本人に自覚はないが、恋心による激しい情動とキリエに対する憎悪により、この瞬間ゆいにゃの魔法は不安定ながらも異能力の域へと達していた。
初めて詠唱した第五階位魔法だったが、それは当然のように発動しイバラも本人に呼応するように激しく強かに躍動しいている。
休む暇もなくキリエに追撃の鞭が迫る。迫る。迫る。
数秒後、キリエは防戦一方であった。
女神は今や流血し、埃と汗に薄汚れ、肩で息を切っている。
顕現魔法による魔力の大量消費、攻撃、加速、防御。
――この時点で残り魔力は二割を切っていた。
「(このままじゃ、じり貧で負けるッ……!)」
敵の満身創痍を見たゆいにゃはここが攻め時と畳みかけた。
「恋する乙女は無敵なのよッ! あんたはここで沈みなさいッ!」
ゆいにゃが手をかざすと、それに連動して5本全ての茨が襲い掛かる。
――しかし。
「なんでっ!?」
ゆいにゃが驚きの声を上げる。
瞬間キリエが身をこなすと、器用に槍先でイバラを絡めとったのである。
「いい加減目が慣れたわよ……!」
「ちょこざいぃぃ!」
ゆいにゃの相貌が怒りに歪んだ。
二人はそのまま綱引きのように引っ張りあう形で膠着する。
「……恋くらいで自分に酔っていい気にならないでよ! 私だって負けられない想いがあるッ!!」
「ふざけないで! ゆいにゃの気持ちの方が上に決まってるもん!」
「私の方が上よッ!」
一進一退の綱引きは続き、二人の口喧嘩はエスカレートしてく。
「ゆいにゃは、あの笑顔になら全てを捧げられる!」
「だったら私はあのキスに全てを捧げるわ!」
キリエは無意識の自分の叫びに再び驚く。
私は親友の為に、その想いを一番に戦っていたはず。
しかし今口から出た言葉はあの夜の事で、つまりさきほど別れたあのニヒル男の事だった。
なんであいつが今――。
「な、なんですって、キスまで……」
ゆいにゃは動揺する。
夢見がちで初心な部分が彼女にはあった様だ。
初めて私は手ごたえを感じ、勝機はここしかないと畳みかけた。
「……しかも舌よ」
私は自分で言いながらも激しく赤面する。
こんな状況で、こんな恥ずかしい嘘をつく羽目になるなんて……!
「し、舌……」
油断。
唇に手を当て、完全にゆいにゃは自身の魔法制御から手綱を緩めた。
それを見た私はすかさず魔力を込めると、勢いよく茨を振りほどく。
「しまっ……」
迷いなく一直線に私は彼女へ突き抜ける。
しかし、その槍先はゆいにゃへ届くことはなかった。
激しい魔力のぶつかり合い。
目の前で魔力の火花が散っていく。
私の突撃は、新しく顕現したイバラによって防がれたのだった。
「6本目……ッ!?」
隠し玉に私は驚く。
そのまま私たちは密着し丁々発止とぶつかり合う形となった。
「舐めないでよね! もう疲れたし終わりにするからッ!」
弾かれた5本の茨が大きくうねり、私に襲い掛かってくる。
――このままじゃやられるッ!
私は目をつぶり、次に来る敗北という痛みに震えた。
瞬間頭の中に様々な思い出が駆け抜けていく……
ルゥガの人を舐めた笑顔。
はぁ、あの先輩の事は最後まで好きになれなかったな。性格最悪。
ジンクの首を鳴らす様子。
こいつも結局意味不明、いつも斜に構えて煮え切らない。決めるところはきめるけど女子に対する気遣いが無いのよね。
そして最後に、親友――ソニアの顔。
片目が隠れた髪型と同じように、いつもミステリアスで雲をつかむような性格だったな。
孤立していた私にも話しかけて、初めて友達になってくれた娘。
いつの間にか一緒にいるようになって……そしてそして、私やっぱりあの娘の事。
――大好きなんだ。
「こっちはとことん一本気ぃぃぃッ!!」
私は目を見開くと、残った魔力を槍先に込める。
「(この娘急に!? 抜かれるッ! 全ての茨を防御にッ!)」
ゆいにゃは攻撃しようとしていたイバラを全て重ね、防御に全霊を込めた。
キリエの全身が光り輝き、背中に羽を形どった大量の魔力が形成され放出されていく。
噴射される羽が勢いを増し、徐々にイバラの防御一本一本が吹き飛び始めた。
「私の想いよッ!! 貫けええぇぇぇぇぇッッ!!!!」
その言葉、魔力の全放出によってついにその槍先はゆいにゃに到達した。
衝撃と轟音。
瞬間、建物そのものを吹き飛ばす勢いで、ゆいにゃは弾かれたピンボールのように壁から壁へ叩きつけられる。
そして最後に地面に叩きつけられ、動かなくなった。
「はぁッ……はぁッ……私の勝ちよ……どっちも、ね」
私が勝利宣言と共に槍を掲げると、それに合わせたように武装が解け魔力が拡散していく。
全魔力の消費に私はそのまま床にへたり込んだ。
やったわよ……私は……。
瓦礫や土埃が落ち着き次第に視界が晴れていくと、鼻をすする音が聞こえ始めた。
「うっうっ……負け゛たぁ……、絶対にぃ……負けないって誓ったのにぃ……死にだいぃ……」
みじめに泣き叫ぶゆいにゃはメイクが崩れ、戦闘後の体と共にひどい形相になっていた。
私は体を引きずりながら彼女に近づくと、声をかける。
「ちょっと、泣くことはないじゃない」
「ずるるるぅっ、厭だぁ絶対に嫌われる。もう嫌われるのは嫌だよぉ……」
私はあまりにも酷い彼女に同情を感じ、涙を拭った。
この娘も誰かのために、こんなに一生懸命になって戦ったんだ。
誰かを想う強い気持ち、今なら私もわかるかも。
「あなたはそんなになるまですごく頑張ったじゃないの。こんな事で嫌われるようだったら、そいつがクソなのよ。私だったらいつでも話聞いてあげるから」
その言葉を聞くと一転、ゆいにゃは急に泣き止むと目と声を輝かせて私を見る。
「えっ優しい! 可憐で強くて! キリエお姉さまッ!」
あっこれはまずい、戦闘の高揚でセンチメンタルになりすぎてこの娘の気質を忘れていた。
「きもいから、やだ」
私はゆいにゃに無慈悲な追い打ちをかけた。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!




