第一章20話 オレ4節 『悪いな』
一章20話予告編動画
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――そしてその日。
選挙戦において最も重要とされる、公開演説の日がやってきた。
当日の全授業は休みとなり、全学生がホールに集まり新時代の生徒会役員候補の演説を聞くというものだ。
壇上に登る当事者だけではなく、学園内においても最重要なイベントの一つである。
ホール内にはルゥガ、テリオス、オガミを含む演説者、現生徒会、選挙管理委員会、もちろん現生徒会長ルーカスの顔ぶれも並んでいた。
学園ホールは広く、最大収容量500人以上の大きいものだ。
段々状になった会場には二階席があり、今回のような学園行事での集会からコンサート、演劇、歌劇など文化的な活動にも使用されていた。
文化活動など魔法に何の役に立つのかと考えなくもないが、魔法とはつまりイマジネーションである。
読書や音楽など、イメージが魔法の威力を底上げするというのが通説だった。
異能力の発現にも、その人物の強い経験や感情が寄与すると言われている。
「さてどうなっちゃうのかねぇ……」
暗がりので腕を組みニヤつく人物がいた。
風紀委員長の腕章をつけたルゥガである。
いつものバカップル二人の姿はここにはないようで、今のところテリオス陣営と風紀委員だけで警備をするつもりのようだ。
要所要所に警備が立ち、何かあった場合すぐに動けるように待機している。
会場内は、波乱の選挙戦における大山とも言える公開演説に皆々が浮足立っているような空気感だった。
生徒で溢れたホールが、じわじわと熱気を高めていく。
どのような演説が、そしてどのような攻防が行われるのか。
半ばエンターテインメントと化したそれに生徒たちは期待感を膨らます。
――そして時間がやってきた。
選挙管理委員会の司会進行と共に各々の演説が始まていく。
そして、やはり予測されたように散発的な問題が起こり始めた。
ヤジを飛ばしたり、突如照明が落ちたり、生徒会の息のかかった風紀委員がわざと誤認して騒ぎ立てる等々。
勿論その程度の妨害は織り込み済みである。
「おいたはいけませんわね!」
「それは罪だよ、故に僕が断罪する」
「オレ テリオス様 スキ」
「ひゃっはー!」
バラエティ豊かなテリオス陣営の奮闘により、それらはすぐに鎮静化させられていく。
皮肉なものでそれら妨害工作は、現生徒会派の立候補者演説の際には起こる気配はなく、少なからずそれがルゥガ達警備陣の小休止時間になっていた。
「(弱小同士協力したのか。まあこのくらいはやるだろうと思っていたがな)」
眼鏡をかけた妨害の仕掛け人――コガミが今までの工作が上手くいかなかった事をさしも気にした様子もなく構えていた。
その隣には対面を気にした様子もなく、筋骨隆々ルーカス会長が無表情で佇んでいる。
「(まだまだ僕達の仕込みはある、この程度で上手くやったと思うなよ……ルゥガ)」
その光り輝く眼鏡の奥で、忙しそうに連携を取っているルゥガを睨んだ。
………
……
…
――一方、数十分前校庭にて。
いつかの侵入事件を彷彿させる二人組、バカップルことジンクとキリエが走っていた。
現在一番の問題。ルゥガの演説時間を延長、いや。修正をする為である。
オレは今一度考える。
ルゥガの演説時間が短くなったのは、生徒会側のでっち上げの報告による評価のせいだ。
公開演説中は選挙管理委員会や生徒会関係者全員がホールに集まっている。
つまり敵が一か所に集まっている状態だ。
オレ達は今回、こちらが警備側であるという事を逆手に取って、演説には参加せずある場所を目指していた。
――敵の本丸、生徒会室である。
演説中なら生徒会室に忍び込めると踏んだのだ。
公開演説に狙いすましたルゥガの評価を落とすための改ざんは、間違いなく急ごしらえだ。
その嘘をつくための嘘は必ず誤魔化し切れない。敵の不正証拠を見つけ、直接叩き込んでやる狙いであった。
つまりオレ達は、公開演説中にルゥガの評価値を元に戻すという作戦に出たのである。
「(……と思っているのだろう? 当然対策済みだ。お前たちはここで終わりだよ……)」
コガミは内心ほくそ笑む。彼はルゥガ陣営の二人が会場にいない事を既に看破していたのだ。
その隣ではルーカス会長が険しい無表情で、どっしりと構えている。
「(我々の布陣を破れるならやってみるがいい……)」
外の対応はコガミなら、生徒会の守りはルーカスが担当という訳である。
男の心中で、その邪悪な感情が蠢いていた。
………
……
…
オレ達二人は生徒会室がある建物に走る。
日中の構内には誰もおらず、その静けさに奇妙な胸騒ぎがしてきた。
――妨害の予感が高まる。
「ッ!? キリエ止まれ!」
オレはキリエを制止し、障壁魔法を展開する。
『我を守れ。』
『魔力の盾よ。』
魔法と魔法のぶつかり合い激しい音が響き渡る。
オレの障壁魔法が砕かれ、魔法の残滓が煌めき霧散していった。
「こんな三下みたいなこと言いたくねぇんだけどよぉ」
残滓と巻き上がった土煙が晴れ、オレ達の前に数人の生徒が現れる。
「オーレオール先輩にたっぷり飴ちゃんを貰ったからな、これはやるっきゃねえってな、てかお前もわかってんだろ?」
生徒数人を引き連れ、余裕ぶって話しかけてきた人物は二人があの夜に戦った男――キルトであった。
「ぁっ」
キリエが思い出したかのように小さく声を上げた。
「ここを通れると思ったか? それは無理だ。何故なら学園12位の俺がいるからなぁ!」
男は大見得を切り魔法陣を構える。
即座に詠唱することはなく、こちらの反応を伺っているようだった。
というよりも相変わらず自分に酔っているようだ。
「(順位が上がってるな)」
オレは何とも言えない感情になった。
あの余裕、イキリがなければ間違いなく強者だろうに。
学生ゆえの経験の無さからくる甘さだろう。
あの夜は暗闇だった、さらに覆面をしていたオレ達の正体はバレていないはずだ。
オレはまずは落ち着いて状況を把握していく。
相手の人数、配置。どのくらい真剣なのか。殺る気なのか? そうでないのか。
「おい、情報によるとこいつは認識阻害を使う。防御を怠らなければ子供騙しだぜ!」
「それであなたやられてたじゃないの」
キリエが呆れたように呟く。
まずいな、余計な事を言ってくれる。
「ん? 認識阻害魔法、バカップル……まさか……」
その言葉と共に記憶が解けていく。
キルトは点と点がつながった様子で声を荒げた。
「てめぇら! あの時の夜の!」
勿論あの後オレは、記憶を曖昧にする阻害もかけていたのだが、この出会いによって完全に記憶が戻ってしまったらしい。
「あの時は油断しただけだ、一度学習した俺はつえーぜ!?」
それでもなお、心意気強くオレ達を迎え撃つ構えのようだ。
時間が惜しい、オレはキリエに話しかける。
「隠れているのも含めて8人。ここはオレが担当しよう」
「でも大丈夫なの? 想定よりも多いわ」
キリエは心配そうに瞳を揺らす。
「いや聞けよ! 何かっこつけてんだ!」
男は無視されたことに憤慨している。
オレは火ぶたが落とされる寸前に、キリエの背中を押して送り出した。
「あとは任せろ、いけッ!」
その言葉にキリエが迷わず駆け出し、揺れる髪が遠のいていく。
「やらせるわけねぇだろ!」
その声と共にキリエの頭上から魔法、おそらく第三階位のソレが襲い掛かった。
その軌道、威力は間違いなく彼女を打ち抜くモノである。
『其は何物にも揺らがない。』
『彼の物を守れ。』
『魔力の盾よ。』
オレは分かっていたように、障壁魔法を展開する。
彼女を貫くはずだった魔弾は盾に防がれ、拡散し消失していった。
「何ッ!? 完璧な奇襲だったのに、お前どうやって?」
遅れて男が着地する。
隠れていた男は心底驚いたようにオレを見た。
どうやらこの中ではこいつが一番強いらしい。
その巨大な魔力量を見る前に、オレの経験からくる直感がそう告げている。
「悪いな、これくらい寝ててもできなきゃもう1000回は死んでるぜ」
オレは無表情で首を鳴らした。
キリエは完全に振り切った事を認識し。
意識を走りに集中していく。
「あとは任せろって……」
キリエは自身の意識に余計なものが入っている事に気が付いた。
頭の中に先ほどのジンクのセリフが響き渡っていく。
「なにそのくさいセリフ、ちょっと惚れるじゃない」
否応なしに気恥しげな笑みがこぼれる。
なんだか、あいつと出会ってから退屈しないな。
キリエは建物に到着すると歩みを止めず、そのまま迷いなく突入した。
「っち、まあいいかァ! あっちはあっちでやべーのがいるからな。楽できるに越したことはねぇ、さぁやらせてもらうぜッ!」
キルト以下8名は全員でジンクに襲い掛かってきた。
――1分後。
最後の一人、キルトが地面に倒れる。
以下8名はジンクの前に呆気なく敗れ去ったのだ。
「危ないな、最後は気合で破ってこられそうになったか」
オレは片腕を負傷しながらも、彼らを圧倒していた。
人数差、戦力差がありながらオレが勝った理由――。
それはただの事前準備である。
つまり勝負は始まる前に終わっていたのだ。
今日までの時点で、この8人には認識阻害を受けないという認識阻害を既に仕込んである。
生徒会員でもなく選挙管理委員会などの立場がある生徒ではなく、かつ他派閥に所属しておらず、戦闘能力が一定以上あり、更にこういう汚れ仕事ができる、あるいはやるしかない生徒。
必然的に対象は数人まで絞られた。
教室で、廊下で、トイレで、食堂で、シャワー室で、寮で。
学園生活の中で準備する時間や機会はたっぷりあった。
オレは彼らに触れ、あらかじめ阻害魔法を仕込んでおき、ただ起動したのだ。
奇襲位置が分かったのもこの為だった。
「阻害魔法はたしかに防御に弱い、だが防御をする前にかければ関係の無いことだ」
オレは首を再び鳴らした。
倒れている生徒、ニンゲンをじっと見ていると心が深く冷たく沈んでいくのを感じる。
これからまだ選挙は続いていく、邪魔もまだ入るだろう。
――こいつらを今ここで殺しておくか。
オレの心が冷徹な機械になっていく。
安全への渇望、勝者としての権利、捕食者としての義務。
過去に何万回も殺した動きを体が腕が心がトレースする。
オレは手刀をキルトに突き立てた。
がしかし、全身に電流が流れオレの行動は阻害される。
オレは久々の痛みに顔をしかめると、少々落胆した。
「やはり殺意までいくとだめなのか……」
殴られた痛み、腕の怪我、激辛ラーメン、それら身体上の痛覚はない。
しかし、この制限による痛みはオレ本体が受けるようだ。
オレは短く息を吐き切り替えると、キリエを追いかけ走り出した。
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日は鯖と牛乳を飲んだゴブ!




