第一章18話 オレ4節 『持ち時間は一分』
一章18話予告編動画
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ルゥガとハオランのと決闘から数日後。
オレ達三人は情報共有も兼ねていつものように学食に集まっていた。
「中々に面倒ではあるな」
オレは最近の学園生活について素直な感想を述べた。
決闘以降、本格的に生徒会もとい選挙管理委員会に睨まれる事になったようで
オレとキリエは、学園の素行評価が最低ランクにまで落とされてたのだ。
「しかたないわ、こうなることはわかっていなのだから」
キリエは目をつぶり、表情を顔に出さずに答える。
意外だったな、いつものように激昂しているものかと思っていたのだが。
「……なんて思っているんじゃないでしょうね? 私だって我慢するときはするのよ」
自分が怒りやすいという事には自覚があるらしい。
――学園素行評価が下がるとどうなるか。
それはつまり、学園生活における様々な制限を受けるという事だ。
あらゆる施設の優先権、使用時間、奉仕作業、果ては入浴時間など様々な制限が課される。
勿論月々貰える小遣いも少ない。
この評価は当然不当であるが、それが生徒会に立て付くという事なのだ。
「ようこそぉ~! 俺の世界へ~!」
ルゥガがいつものニヒルな笑いを浮かべると、両手を広げオレ達を歓迎する。
「はぁ……私も落ちたものだわ。まさか先輩と同じ位置に立つことになるとは……」
こめかみに指を当て、キリエは消沈する。
あれだけルゥガの素行に文句をつけていたのだ、形だけでも同ランクになったという事実にキリエのプライドが傷がついたのであろう。
「くくくッ、缶コーヒーもろくに買えないぜ」
それはルゥガが身をもって証明していた至言である。
人間は生活のランクが上がる分にはいくらでも問題ないが、一たび下がれば過去の当たり前が心の障害となり以前問題がなかった事ですら、一々ストレスを感じざる得ないのだ。
「評価か……殺して奪えれば楽なのにな……」
オレは思わず本心をこぼす。
「お前ガチトーンでイキナリ何サイコな事言ってんだよ。こえーよ」
ルゥガは意外だったのか、オレの発言に身を引きながら驚いた。
しまったな、この学園では命のやり取りはご法度。
他人の人生や命は尊重して然るべきであった。
オレは深堀される前に話題を切り替える。
「そういえば最近皆に避けられている気がするんだが、気のせいだろうか?」
「あたりめーでしょうが。オレ達は生徒会を敵に回してるんだぞ。一年って言ったってそろそろ皆、処世術を覚えてくる頃だろーがよ」
ルゥガはやれやれといった感じで肩を竦める。
なるほど学園生活的な制限以外にも、友好関係にも影響が出るか。
いまだ何をやったわけでもない状態でこれだ、選挙戦が進めば孤立は避けられないな……。
「なんだお前ぇ、スカシ冷淡ロボット感情なし男かと思ってたけどよぉ……。人に避けられるとか気にするんか? 人間の感情があったんだなぁ!」
ルゥガが下品にダハハハと机を叩きながら笑い出した。
オレはその危ない冗談に、視線をそらしながら返す。
「まぁ気にしてないっすけど」
「でぁっはっはっはっ、気にしてるじゃねーかぁww」
更に爆笑するルゥガ。
オレは暫く沈黙していたキリエを観察する。
彼女はなにか沈んだ様子で地面を見ながらぶつぶつと呟いていた。
「……ぼ……じゃない……」
生活の変化や選挙活動での無理が祟り、体調不良になったのだろうか。
オレは彼女の異常事態を感じ取りキリエに声をかけた。
「どうしたキリエ、大丈夫か?」
「ぼっちじゃないから! 別に元々避けられていて、気づいてなかったわけじゃないんだから!」
勢いよく顔を上た彼女は、目にいっぱいの涙を貯めこちらを睨んでいた。
…………
……
…
オレ達が楽しい談笑をしていると、昼食の購入可能時間がやってくる。
座るために席は取らなくてはいけないが、評価システムの制限により無駄な時間を潰さなくてはいけない。
これは地味にやっかいな事だ。
「いつも同じの選んでたのに、最近は選ばないね」
オレが配膳を待っていると、学食の配膳員が声をかけてくる。
……面倒だな。
「ただの気分ですよ」
オレが簡素に答えると、その様子を見逃がすまいと青年の瞳が鋭く光ったように見えた。
「まるで別じ……」
「まぁ育ちざかりですから。趣味趣向も変わりますよ」
オレは彼の言葉を遮り、配膳されたパトゥルジャン・サタラスを受け取るとそそくさと立ち去った。
…………
……
…
オレ達三人はローテーションで食事を購入すると、やっとありつけた昼食を始めた。
「まぁ……(もぐもぐ)……ぶっちゃけまだ劣性だわな……(もぐもぐ)……コガミ強すぎ、てか生徒会、てかルーカス……(もぐもぐ)……やっぱ公開演説が……(もぐもぐ)……決め手になるだろうな……」
ルゥガが下品に口に物を入れながら話す。
それを見て、あからさまにキリエが嫌な顔をするが声には出さない。
ここ数日のやり取りで無為を悟ったのだろう。
「そうね現状の空気感だと、やはりコガミ陣営が強いのは確かだわ。確定票は無理だとしても、実際はほとんどの票は移ろいでいる、生徒会に対する不信感でね。その浮いてる票をどこまでひっぱってこれるかは公開演説にかかっているといった所かしら?」
冷静に現状をキリエが分析指摘する。
オレが考えていた事とほぼ一緒だ。
だがそれだけでは正直弱いだろう、それにつけて他に何かが必要だ。
「それな!」
ルゥガはスプーンでキリエを指し、言葉と共に口の中の物を飛ばす。
キリエはそれを見ると、すかさず椅子を離した。
何者かが近づいて来る気配がする。
そちらを見ると選挙管理委員長――ねっとりとしたしゃべり方をする糸目男であった。
オレ達が応援会登録したときに対応したあの男子生徒だ。
「やぁ~ルゥガ陣営の諸君~! 人気出てるねぇ! 公開演説の話を持ってきたよぉ」
前回と同じように間延びした様子で、うさんくさくこちらを歓迎している。
「おう待ってたぜ、詳しく教えてくれよ」
糸目男は資料と共に、比較的丁寧に公開演説について説明する。
存外普通の対応にオレは身構えた。
……これは何かあるぞ。
「でねぇルゥガ君。君の持ち時間は一分だからねぇ」
――来たな。
「オイ。一分って言ったか? なんでそんな短いんだよ」
ルゥガも分かってはいたようで、驚きこそはしなかったがその言葉に訝しんだ。
「この学校は実力主義なんだぁ、君の素行評価は最低、さらには度重なる不祥事の発覚ぅ。今や君の総合評価は全生徒の中でも最低クラスなんだよぉ」
「はぁ? 不祥事? 何かの間違いだろ」
既に内心理解していただろうが、ルゥガは無理にでも噛みついた。
「選挙管理委員会を疑うのかい? 時間は有限なんだぁ。君みたいな無能な人間には時間も与えられないって所だろうねぇ……いやぁ残念残念~」
ガタリ。
キリエが無言で立ち上がり、男の胸ぐらをつかみ引き寄せた。
鬼神のそれという顔で糸目男を睨みつけている。
中々の胆力だ。オレはその瞬発力に内心敬意を表した。
「……おいやめろ、分かってるだろ」
ルゥガが怒りを込めた声で静かに制す。
いやはや怖いねぇなどと軽口のまま糸目男は立ち去っていく。
「だって、許せないじゃない……こんなの、フェアじゃないわ……」
キリエは怒りに肩を震わせ、拳を強く握り締めている。
オレはキリエの手を掴んだ。
『キリエ分かってるだろ、これがあいつらのやり方だ。オレ達は学園の秘密に迫るため。お前の友人の退学の謎を知るため勝たなくてはいけない、耐えろ。』
オレの阻害魔法を受けたキリエは、ぼうっとした様子になり頷く。
「……そうよね。私しっかりしなくちゃ……」
オレは密かに達成感を得る。
キリエ操縦検定があれば、オレは一級クラスだろう。
そんなオレ達の様子をルゥガは片目で見守りながら、残りの食事を片付けていた。
たったったった。
足音と共に今度は小走りで生徒会役員の記章を付けた人物がやってくる。
初めて見る男だ。
今日は忙しいな。
「いやぁどうもどうも先日君が倒したハオラン君がねやっぱり風紀委員長にふさわしいのは君だといってねあ僕は生徒会員でそれを伝えに来たんだけどとにかくおめでとうルゥガ君きみは風紀委員長に戻ったからその報告だよ」
異様にせせこましい男は、文字どうり一息で言葉を吐く。
とんでもない早口で、話した内容が後から頭に入ってくるような感覚だ。
「なんだぁ? こいつ」
流石のルゥガも泡を食ったかのような素っ頓狂な声をあげる。
「評価はともかく事実上の実力は確かだしマニフェストも素晴らしい君を風紀委員長に戻すことになんら生徒会は異論はないやったねそしてこれから風紀委員長っていうことだから見回りとか管理とかまぁきみは今までやってたし問題ないかとにかく公開演説当日は君が警戒をするんだよ不正や妨害があってはいけないからね」
嵐のように一気に告げると、男は嵐のように立ち去っていく。
唖然とオレ達はその背中を見送った。
「効率的ではある」
オレは率直に褒めた。
「あなた、そんな事気にしてる場合じゃないでしょう? 分かってるの? この状況を」
まずいキリエの怒りがまた上昇してきている。
この女瞬間湯沸かし器か何かか?
「はぁ~当日の警備担当ときたもんか。こりゃ邪魔するぜって言ってるようなもんだな」
口をすぼめ、ルゥガが椅子によりかかる。
流石のルゥガ様もこれにはお手上げといった様子で、いつもの余裕はなさそうだ。
「こんな事許されていいんですか? 皆おかしいって思ってるでしょ」
キリエが愚直に端を発する。
「もうほとんどの学生がわかっている。だけど逆らえないんだよ。それほど生徒会長という立場、いやオーレオール様が強ぇーんだよ」
目を掌で覆い、嫌な事実に蓋をするかのようにルゥガは愚痴を零した。
「だがどうする? 現状の風紀委員はもう全員鞍替えさせられて、生徒会の息がかかってるとみて間違いないな」
「か~わざと問題を起して、風紀委員の仕事をまっとうできなければツバをつけられる。つーかマッチポンプよぉ~」
両こぶしを頬にあて、観念したかのように天を仰ぎ見るルゥガ。
「私たち三人だけで妨害を防ぐって事? 流石に無理でしょう」
「それだよそれぇ! しかも、一番ガチ妨害が来そうな俺様の演説中は、お前ら二人しかいねーんだぞ」
「そして、その警備不首尾を理由にまたペナルティなり何なりというわけか」
オレは畳みかけられた状況を整理するため、しばし考を巡らせる。
現状の問題点についてだ。
①応援会に対するペナルティ + 元々あったルゥガのペナルティ + 通常の風紀員業務によって時間的な労力を取られる。
②公開演説中は邪魔ありきで当日の警備を三人行わなくてはいけない。防げなければアウト。
③肝心要のルゥガ演説時間が一分で、更にそこに妨害が加わる。
これは、なかなかえげつないと言わざるを得ない。
本格的にルゥガ陣営を潰しに来たといっていいだろうな。
三人に重い沈黙が流れた。
しばらくしても、オレ達に妙案は浮かばない。
時だけが過ぎていく……。
ああ、今日はいい天気だ。
キリエは頬杖を付きどこか遠くを見つめていた。
オレはとりあえず目の前にあったパトゥルジャン・サタラスを黙々と口に運び、そのねっとりとした舌触りを楽しむ。
やはり美味いなパトゥルジャン・サタラスは。
「どぅぃ~すっかねぇ~……」
ルゥガと言えば頭部に手を回し、完全にだらけた様子でグダグダと、とぐろをまいている。
我々は完全に停滞していた。
――そこに今日三度、来訪者がやってくる。
「まったくルゥガ陣営のこのやる気の無さはなんだ」
いきなりの罵倒にルゥガは席を立ちあがり怒りを露にした。
「あぁ? てめぇ何もんだぁ!?」
――あぁ、これは暇だから絡みにいったな。
オレはルゥガの嘘怒りを分かるくらいには彼の理解を深めていた。
「誰だって?」
その男、テリオスは前髪をキザに払った。
「そうだな、君たちの救世主といった所かな?」
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はブロッコリーと納豆を食べたゴブ!