第一章16話 オレ3節 『勝手気ままな二枚舌』
一章16話予告編動画
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ルゥガ陣営の三人は、合法的に選挙活動ができる事になった事を祝し、寮内――ジンクの部屋でささやかならが祝勝会を開いていた。
菓子を持ち込み、先日の決闘にについての話で盛り上がっている。
「ちょっと今でも信じられないわね。先輩が異能力を使えたなんて」
飲み差しのビンから口を離し、嬉しそうに話すキリエ。
異能力か、オレも自分の物以外は数度しか見たことの無い代物だ。
確かにあの同時詠唱には正直オレも驚いた。
いかにこの学園でもあれ真似をできる者は存在しないだろう。
「おいキリエ! そりゃないぜ? 見ただろ俺様の水蒸気爆発! 今思い出しても、くぅ~しびれるねぇ!」
ルゥガが自分に酔ったように、肩をすくめながらにんまりと笑う。
「あぁ勝敗その物も重要だが、先輩がああいう勝ち方をした、というのも大きいだろうな。会長候補者としての強烈なアピールになったのは間違いない」
とは言ったものの不安感はぬぐえない。
ギャラリーを沸かせるためとはいえ、こんな序盤で手を見せてしまってよかったのだろうか。
いずれもっと適切な場所でカードを切る必要があったのではないか。
オレは、勝利ムードに完全に酔い切れず邪推してしまう。
「てめぇ何をスカしてんだよぉ! こういう時はなぁ素直に喜べばいいんだぜ!」
そんなオレの心境を感じ取ったのか、ルゥガがじゃれあいながら、オレの頭に腕を回し締め付けてきた。
いわゆる、ヘッドロックだ。
「すまなかった、離してくれ先輩」
その様子にキリエが楽しそうに微笑む。
そういえば、彼女のこんな顔を見るのは初めてだ。
いつも何かに怒ったり、眉をひそめているイメージだったが、こういう表情を見ると年相応のかわいらしい一面もあるのだなとオレは関心する。
「まぁ俺様がすげーのは当然として、お前らだってよくやってたぜ? 正直よくあんなに枠を持ってこられたなというのが正直なトコだ」
「そうよ、ほんっっっとに大変だったんだから!」
スイッチが入り、キリエがいつものぷりぷりモードに変わる。
彼女が怒りやすいというのを棚上げにしても、足元を見た理不尽な要求が多かったのも事実だ。
少々可哀そうな部分も無きにしも非ずといった所だが、彼女の目的――学友退学の件と阻害魔法を組み合わせ、オレはこの件でキリエの操縦スキルを格段に上達させていた。
「やはり現生徒会への不平不満があったというのが大きいのだろうな、その怨嗟が形となって結果につながったといった所か。――ところで離してくれ」
オレの悲痛な嘆きは、乙女の一言によって流されることになる。
「そういえばずっと気になっていたのだけど、ハオラン先輩とコガミ先輩との因縁、聞いてもいいかしら?」
なんという事だ。オレもその話には興味を強く持ったが、この状態を脱出しなくては話を聞くどころではない。
「確かにそうか、お前らには話しておいた方がいいだろうな」
ルゥガの表情は一転真剣な顔つきに変わる。
それはおそらくルゥガの会長を目指す理由そのものについてだろう。
オレは抵抗を試みながらも、話に耳を傾けた。
「元々俺は現会長派はとは仲が悪い。ルーカスの権威主義、エリート主義、強硬的な学園政治とは、俺の性格上折り合いが取れるわけがなかった」
「想像に難くはないわね……」
キリエが相槌を打つ。
ガキ大将よろしく手下を連れ、校内で好き放題しているルゥガの様子がありありと浮かんでくる。
むしろ今までよく退学にならずにいられたものだ。
「知っての通り? 俺はやる奴だ。体制に反目するように対抗し、勉学、魔法、政治、根回し、なんでもそつなくこなせた」
「なるほど流石だな先輩、そろそろ離してくれないか」
最早、ルゥガは思い出の中に浸りきりオレの声は届いていないようだ。
しみじみと目をつむり、過去を想起している。
「もちろんバカも沢山やったぜ? 生徒会に対するボイコットとかよぉあん時が一番楽しかったなァ! この辺だなハオラルやコガミとダチになったのは」
「ダチ……?」
キリエが眉をひそめ、考えるように拳を顎の前に持ってくる。
三人の関係性について、訝しんでいるようだ。
たしかに先日のやり取りをみれば、ダチと言うにはいささか矛盾した関係性だった。
話しぶりからすると、旧友というような関係だったのだろうか。
「まァー、竹馬の友? 同じ釜のなんとかってやつだな。全員性格は違ったが、何かを持ってるやつらだったぜ。現状を変えたいっていうかさ、何か熱いものをもってたんだよ。いやぁ若かかったねぇ」
過去に友好関係があったという三人をキリエは意外に感じたのか、黙して真剣に話を聞いている。
「俺ァすぐに風紀委員長にも抜擢された、民意ってやつでな。飛ぶ勢いでよ、次の生徒会長は確実って言われてたんだぜ? あの時の万能感は最高だったなぁ。でもまぁ多分この時俺は、おかしくなってたんだと思う。イキって過激な事ばっかやってよ、次第にダチ共が……俺から離れ始めたんだ」
ニヤついたルゥガの顔に影が落ち始める。
「コガミがよぉずっとあいつ生徒会派だったンだなぁ……いやぁ最初からじゃねぇな。合理的に考えて正しい方を選んだって所か、コガミだけじゃねぇ。途中何人かが鞍替えした」
ルゥガが悲しむように、ふぅーと深いため息をつく。
やめてくれ、オレの耳にかかってこそばゆいのだが。
「俺は正直焦った、失ったと思ったんだ。コガミ達を、俺の正義を取り戻したくてよ。行動の過激さは増していった、その結果甘えた足元をすくわれたんだ。――今度はハオランにな」
………
……
…
これはルゥガ記憶。昨日のことのように鮮明な記憶が蘇る。
打ちっぱなしのコンクリート空間、学園のデッドスペース。
そこに机やら木箱やらを持ち寄り勝手気ままに学生たちが占拠していた。
ルゥガ派の秘密の場所だ。
アジトに怒号が飛び交う。
そこに対峙していたのはルゥガと分離した勢力――ハオランだった。
「悪いなルゥガ」
ハオランが俺を見据える。その表情から感情は読み取れない。
「なんで……お前ら俺を売って……どうしてこんなこと……! 俺たち上手くやってたじゃねぇかよォ!?」
俺は悲痛な叫び声を上げる。
愕然とする俺は二人目の、仲間の、親友の、ダチの離脱に、どうしようもなく狼狽していたのだ。
感情を爆発させ、ただただ疑問をぶつける事しかできなかった。
「うるせぇ! お前がいると俺は! ずっと! 二番なんだよ!」
ハオランも感情を吐露する。
「……ふざけろ、あいつは退学になっちまうんだぞ」
感情に押しつぶされ状況が、動機が、ハオランが理解できない俺は震える声で呟いた。
今回ハオランの裏切りによって計画はご破算に、そしてダチの一人が退学になる事になったのだ。
「……それでもだ」
行動を顧みないハオランがそう告げると踵を返す。
去っていく背中に俺は何もできない……。
俺は絶望に打ちひしがれ、膝を折るしかなかった。
「くそッ、くそ! くっそぉぉぉおおおお!!」
俺はただ、悔しさに、嘆きに、怒りにそして、自分の不甲斐なさに慟哭するしかなかった。
その後すぐに謹慎になって、俺は退学になったあいつの最後にすら立ち会えなかったのだ……。
結局全部俺のせいだ、ハオランの行動を許したのは、俺が天狗になっていたからだ。
あいつの俺を見る目、気持ちには気づいていた。だけど生徒会にかましてる方が俺には重要だった。
見なかったことにしてたんだ。結果で全て報えている気がしていたんだ、馬鹿だよな……?
気持ちよかったぜぇ。自分の実力の証明と周囲の羨望。自己肯定感。
そこをすくわれたんだ。ハオランじゃないコガミでもない。
――あの生徒会長にだ。
俺は一人になったが、折れちゃいねぇ。
牙を研ぎ、いつかそれをルーカスに突き立ててやる……!
そのためには力が必要だ。一つの力では足りない、もっと、もっとだ! もっと力が必要だなんだッ!
………
……
…
ルゥガは器用にオレにヘッドロックをかけつつも、両掌からそれぞれ火と水の魔法を発生させた。
熱いが、髪が濡れるのだが。
「で気が付いたらよ、この異能力――【勝手気ままな二枚舌】が発現してたってわけだ」
話の区切りに、しばしの沈黙がオレたちの間に流れた。
キリエは話を聞き感動したのか、静かに泣いている。
オレは一人ルゥガの背景に納得していた。あの能力や性格で宙ぶらりんになっていたのはこういう事だったのか。
まさに出る杭は打たれるという事だ。
人間の性格と能力というのは密接に相関しているという例でもある。
優秀ゆえに天狗になり、そして栄光を求め、地に落ちた。
そしてめげずに今も天を見上げている。
――人間とはなんて非合理な生物なんだ。
「そして改めて誓ったんだ。退学になったあいつにそして俺自身のために、次の生徒会長になって今の腐敗した学園をぶっ壊すってな」
キリエが無言で頷く。
話によって感極まった様子で、心を強く打たれたようだ。
こういった感情もまた、人間の非合理さをオレは感じてしまう。
「ふぅ~柄にもなく語っちまったぜぇ」
ひと段落したということでルゥガがいつもの調子に戻る。
オレはその隙を見逃さなかった。
万力の力を込め脱出を試みる。
「……ッ! そろそろ……! 離してくれッ」
ルゥガの油断をつきオレは激しく抵抗した、そしてロックが外れる。
ついにやった! オレは拘束から抜け出したのだった!
「ルゥガ先輩……感動しました。正直あなたを舐めてかかってましたごめんなさい。ガラにもなくそんな情熱と意思を持った人だったなんて……」
鼻声になったキリエが涙を拭いながら、ルゥガに賞賛を向ける。
「よせよ、痒いじゃねーか」
ルゥガは照れたようにキリエにウィンクをすると、なんとか脱出したオレを素早く再補足し今度は足回りを固めた。
オレは無様にもエビぞりの形となり、ホールドされる。
これは、スコーピオン・デスロック! 通称サソリ固めという奴か……!
「くそっ……離せッ!」
「……ッ! そーいやキリエもダチの為に俺に協力してたんだよな。いいぜ、ガラにもなくついで教えてやる」
「え、本当に? でもいいの? 公開演説までって約束じゃ」
キリエは戸惑いながらも、希望を見出し。顔を明るくする。
「正直お前らの枠取りに助けられた部分もでかいからな、まぁ黙って聞いとけや」
「……ありがとう」
胸に手を当てたキリエは再び涙をこぼした。
「お前のダチはな、学園の秘密に迫ったから退学させられたんだ。地下は知ってるな? 立ち入れば即退学とされているあそこに侵入したんだ。俺はそん時、当直の見回りでよ。見つけて追いかけたんだが逃げ込まれちまって、その後は何も分からんのさ」
「学園の地下……秘密……」
キリエは自分に刻み込むように言い聞かせている。
ついにここまでやってきた成果を得たのだ、彼女はどのように考えているのだろうか。
そんな事よりも、どのように考える前にオレを助けてくれ。
「俺も根掘り葉掘り聞かれたぜぇ、流石に地下に行くほど俺は馬鹿じゃねえっての。潔白を示すのにすげー大変だったよ」
肩を竦めると、ついにルゥガはオレに話しかける。
「でスカシ君? お前の本音を言えよ。俺も話したんだ、お前も腹を割って話せ。ずばり何が目的なんだ?」
「(……そろそろ隠し通せないか)」
オレは決心し、心内を話す。
――あくまで言える範囲で。
「オレはこの学園の秘密を知りたい。オレ達が毎朝魔力徴収されてる魔力、卒業後の就職先、月に一度の強烈な外出禁止令、そもそもこの学園はどにあるのか? そして、オレたちのルーツについてはタブー視されているだろう? 多分これら以上の何かが学園というか、この世界にはある。それをオレは知りたいんだ。あんたを当選させたら、生徒会長権限で学園長に面会させてくれ」
オレは畳みかけるように説明をする。
「(まあ半分しか言ってないけど、嘘は言ってないな)」
値踏みするようにジロリとオレを見ると、いつものようにルゥガはニヒルに笑う。
「ふん、正義感とか義憤を持つようなタイプじゃねーよな? 好奇心は猫を殺すってやつかお前」
「その通りだッ!」
――来た! この瞬間だ。オレはルゥガの気が緩んだその一瞬のスキを見逃さなかった。
背筋に渾身の力を加えると、文字通り飛び跳ねるようにルゥガの関節技から脱出することに成功した。
今度はこちらの番だ!
オレはすかさずルゥガの右腕に飛び掛かると、両足で挟み込みホールドしてそのまま寝技に移行する。
これぞ王道! 腕挫十字固の構えである!
「グッやるな……! 頭よさそうなのに、案外バカじゃねーか。いいぜ、バカなやつは嫌いじゃねえ。で、キリエはこの後どうするよ?」
オレの返答に納得したのか、組み伏せながらも今度はキリエを問いただす。
「当然手伝うわ。元々約束は公開演説まででしょ? まだ途中だし、それに鼻持ちならない生徒会もぶっとばしたい、もとい一泡吹かせたいの。そして私の目的、なぜ彼女が地下に向かったかは分からなかった、けどこから先に進むには学園その物の謎に迫る事。つまりルゥガ先輩を生徒会長にするのが一番早そうだもの」
その返答に満足したかのように、ルゥガはニカりと笑う。
空いた左腕を振り上げガッツポーズを取った。
「はは! いいぜぇ! お前もバカだったか! よっしゃ3人でかましてやろうぜ!」
「ええ」
「わかった」
今日を境にルゥガ陣営は一体感を強固とし、めでたく晴れて仲間になったのであった。
「イデッ! イデデデッ!! お前強く締めすぎだろッ!」
………
……
…
学園某所、生徒会長ことルーカスは奇抜なポーズ――ヨガにて精神集中を行っていた。
報告を受けた今回の決闘結果について思案している。
「(なるほど、あの程度ではヌルかったか。さしずめ叩いても叩いても湧き上がってくるゴミムシといった所だな。――さて次の手だ)」
いつもの無表情の奥では、巨大に肥えた自我が溢れんばかりに軋みを挙げていた。
読んでくれてありがとうゴブ!
ゴブリンのやる気を上げるために、よければ
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
今日はそうめんを食べたゴブ~
しかも、エビの天ぷら付きゴブ!