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第一章14話 オレ3節 『柔軟なヤンキー』

一章14話予告編動画

https://youtu.be/lIlEAkEwLkk

 ルゥガ陣営は引き続き、三人で選挙戦の戦略を練っていた。

 テラス席に移動し、心地よい昼の木漏れ日が木々の隙間から差し込んでくる。


「これはひどいな」


 ジンク(オレ)は率直な感想を述べた。

 オレ達が確認していたのは、選挙活動の割り当て表だ。

 それは演説可能な場所や期間、ビラを配っていい時間や枚数、選挙活動においての割り振りがまとめられていたものである。


「何よこれ、ほとんど枠が無いじゃないの!」


 キリエが早速怒りに燃え上がると、声を荒げた。

 清廉潔白という文字が制服を着て歩いているような女だ。

 このような不正なことはまったくもって許せない、想像通り鼻息を荒くして憤慨している。

 その問題とはつまり、ルゥガ枠の活動割り振りは殆どが潰されていたのだ。


「俺はこれでも新生生徒会会長候補筆頭だからな、元だけど」


 焦る様子もなく腕を組み、余裕のポーズを取りながらニヤつくルゥガ。

 一年二人の反応やいかにといった具合でどっしりと構えいた。


「しかし、他の候補者のざっと四分の一程度か……明らかに不利だな」


 オレは現実の厳しさを改めて実感する。

 ルゥガが選挙管理委員会そのものから邪魔を受けるという非情な現体制下で、オレ達はどこまでやっていけるのか。

 いまだ戦いは始まったばかりだが、その暗雲に向き合うには何か武器が必要になるだろう。


「こんなのどう考えてもおかしいわ! 直談判して……」


 キリエの顔に向けて待ったの掌が差し込まれる。


「おっと、そりゃ無理だぜ」


 ルゥガはいまだ荒ぶるキリエの言葉尻を捕まえたのだった。


「なんでなのよ?」


 今度はその怒りの矛先が自身に向き、ルゥガはやれやれと肩をすくめた。


 彼女はいままでのこの調子でやってきたのだろう。

 この性格や態度を見て、オレその価値観に無駄を感じざるを得ない。

 感情に身を任せるとはな。

 なぜもっと合理的に考えないのだろうか。


選管せんきょかんりいいんかいは全員が現会長派で俺を潰しにきてる。普段の俺の素行とか、他の優先すべきイベントだのなんだの適当にでっちあげて終わりさ」


 んふぅとキリエが更に大きく鼻息を吐く。

 腕を強く組み、その控えめな胸が強調された。

 この雁字搦(がんじがら)めの状況に、ついに誰も声を出さなくなくなってしまう。


 コツコツコツ。

 そのタイミングで一人の眼鏡をかけた男子生徒がオレ達に近づいてくる。


「聞いたよルゥガ、活動枠がないそうだな」


「おっとこれはこれは副会長、どうもどうも。いやぁ耳が早いですねぇ!」


 大仰にうやうやしく挨拶するルゥガに苛立ったのか、その副会長と言われた男は嫌味で返す。


「ふん、譲って欲しいのか?」


「おう、いいのか? くれよ」


 その惚けたルゥガの態度に、呆れたように現生徒会、副会長――コガミは言い放つ。


「まったく嫌味が通じないやつだな、誰がそんなことをするか」


「常に余裕を持つってのが、お前の信条じゃなかったのか?」


「余裕はある、だがそれを何に使うかは僕が選択する」


 二人の会話は政敵同士ながらも、一定の付き合いを感じさせるやり取りであった。

 ――これは何かあるな。

 オレは二人の会話の流れからそう結論付けた。


「現会長そっくりな歪んだ傲慢さだぜ、神様気どりやろーが」


 鼻を鳴らすように視線を逸らし、今度はルゥガが悪態をつく。

 その言葉に、存外気分を良さそうにメガネを押えるとコガミは返した。


「神か……そうだな、故に傲慢。故に持つべき者の感情だ」


「へっ言ってろよ。でわざわざ嫌味を言いに来たのか?」


「いや君が、応援会に一年を入れたと聞いて笑いに来たのさ。正直見劣りする人選だがこれで少しは勝負になるのかな?」


 コガミが眼鏡の奥から一年二人(オレたち)を値踏みするように見渡す。

 オレは既に自分のカウンター阻害魔法が看破されたということを、その様子から感知した。

 ――No.2(コガミ)か、この男も油断ならないな。


「結局高慢ちきな嫌味を言いに来たってことじゃねぇか」


「敵情視察だ。元々結果は見えているがね。ではな、お互い死力を尽くそうじゃないか」


 コガミは最後までその傲慢な態度を変えず、再びオレ達を一瞥して踵を返すと去っていった。


「なにを嫌味な奴め! マウンティング眼鏡野郎がッ!」


 ルゥガは珍しく本気で憤慨して、その後ろ姿に中指を立てた。

 なるほど、二人はライバルとしてお互いを強く認識しているのか。

 過去に何があったかはわからないが、この二人の執着が悪い結果にならなければいいが……。


「厳しいけど公正な人とは聞いたけど、あの態度は何? それともルゥガ先輩にだけアレなのかしら」


「わざわざ出向いてくるとは、敵対心むき出しって感じだったな」


 オレ達はルゥガの置かれた状況、敵対関係を改めて身をもって知ることになったのだった。



……………

…………

……

 


「決めたぜ」


 掌に拳を撃ち、決心したかのようにルゥガが立ち上がる。

 そして自分に言い聞かせるかのように話し出した。


「選挙活動、ゲリラ的にやってもいいけどよ。他の立候補者の反感を買うし、何より委員会につけこむ隙を与えてしまう」


「だろうな」


 オレはこの後の展開を予想する。

 強硬政治下で、学生の生徒会に対する恨みは確実に高まっている。

 生徒会に鼻を明かしてやりたい。今を変えたい。そんな奴らが選挙に出馬するのだ。

 そしてオレたちの現状。

 そこから導き出される戦略、それは――。


「なんとかして他のやつらに譲ってもらうしかねぇ」


 下唇を噛み締めながら、珍しくまじめな表情でルゥガが決断する。


「やっぱり、それしかないのかしら」


 キリエもその戦略を予想していたようだ、少し不安そうに肘を抱える。


「でだ、お前ら二人で何とか枠を貰ってきてくれ」


 人差し指を立て、いつもの不遜な笑顔を浮かべるルゥガ。


「何故私たちだけで? もちろん手伝うけど、ルゥガ先輩はどうするのよ」


「政敵が直接行ったらもろ警戒されるだろ、しかも俺はこれでも素行不良で売れちまってるんだ。そもそも選挙活動自体の準備もある、お前らが獲得してくれる分のな」


「(なるほどこの男、直情的なイノシシタイプかと思っていたが柔軟さも備えているか)」


 曲者と言われているだけはある。その珍妙なスタイルは伊達ではなく内実を見極める頭はあるか。

 人知れずジンクの中でルゥガの評価が、ただのヤンキーから柔軟なヤンキーへと変わる。


「枠が取れても準備不足の役不足、パフォーマンス不足じゃアフォーダンス、意味がないってな。ま、見てろって!」


 ルゥガは不敵に笑った。






                ◇◆◇◆◇◆◇






「あー確かに、不自然にうちに多く回されてるんだよな」


 オレ達二人は、活動枠を貰うために立候補者巡りをしていた。

 相手はなにも会長候補だけではない、副会長や書記などの他の役職からでも良いのだ。

 この学園はエリート主義、その思想に違わず少しでも高みを目指そうと、生徒会役員希望者は優に30人を超える。


「うーん、毎回同じことやる訳にもいかんしな……まぁ条件次第と言ったところかな」


 少なからずの候補者は多い枠を持て余し気味だった。

 また、やはり黙認となっているルゥガいじめを否とするような者もおり。

 オレ達は思いの他、枠を譲って貰えていた。

 当然タダではなく、それは我々の努力と汗の結晶である。


 その過程で、日数限定スペシャルから揚げ定食を奢るというものがあった。

 ――そう。

 ハルキとの激しい舌戦の末、ジャンケンでジンクは敗北することになったのである。


「(何故あそこでグーを出したのだ……くそ、チョキを出していれば。そしてあの気迫。阻害魔法は、全くと言っていいほど効くそぶりがなかった……)」


 この時ジンクは人知れず強烈な敗北感とぬぐい切れないダメージを受けていた。

 

「おいおい、そんな事で揉めてくれるなよ。また明日でいいから」


「(いや勝負だ。負けたんた。人生において唯一負けた。いままでオレは一度も勝負に負けたことがなかったのに……)」


 依頼者の寛大な了解において事なきを得たのが、当のジンクは人生のどん底であった。

 この敗北を、ジンクは生涯二度と忘れることがなかったという。



…………

……



 勿論上手くいかないケースもあり、筆頭ライバルのコガミ陣営はもちろんの事、有力者のテリオスという美男子もやはり同様であった。


「無理だね、敵に塩を送ることはできない。それに彼は不祥事を起こし身だろう。分相応というものではないのかな」


 さわやかに、そしてはっきりとウェーブがかった前髪を撫でながら言い放つ。

 それに追従するように周りの取り巻きが追い立ててくる。


「そうよ! テリオス様にタカろうなんて、なんて下品なのかしら」

「度し難いな、万死に値する」

「オレ テリオス様 スキ」

「ひゃっはー! なんでもいいけどよぉ! テリオス様に近づく奴はぼくちんゆるさなーい!」


 などなどバラエティ豊かな取り巻きに追い立てられ、取り付く暇もない。

 案の定怒髪天になったキリエを宥めながら、オレ達はあえなく撤退した。


 その他には、代わりにレポートを書く、新しい魔法の実験にされる、愚痴を永遠と聞かされる、キリエが一日専用メイドになる「きりにゃ!」などなど多種多様な交換条件を受け、なんとか二人は順調に枠を得ていった。

 他の立候補者と比べ十全とはいかなかったが、結果なんとか通常の四分の三程度までは回収することに成功したのである。


「うむぅ。よくやったぞよお二人さん」


 唇と鼻にペンを挟み、その成果を聞きながら原稿を見つめていたルゥガは、謎のキャラクター像と共に準備完了したようだった。

 ビラ配り、生徒帰宅時の街灯演説、ポスター張り。


 それから数日間オレ達三人は、一端の立候補者同様に選挙活動をこなしていった。

 興味本位か、それもとも元々ルゥガの人気があったのだろうか、結果として中々に集客と成果は悪くはなかった。


 ――しかし。

 あらかじめ予見されていた事だが、そこにはやはり妨害が入るのであった。








■次世代生徒会長立候補者、人気三名の紹介


・ルゥガ

人気:そこそこ

喧嘩が強く、弁舌も回る。曲者という触れ込みで本来は一番人気だったが

不祥事を起こし風紀委員長を解任、現在はプー。

普段は軟派でヘラつているいが、実際は信念に基づいた男気溢れるやる男。

周囲にはラップなる言い回しがうざがられている。

マニフェストは「弱者の救済」


・コガミ

人気:高い

会長派筆頭、現生徒会副会長。質実剛健を体現しているかのような眼鏡。

成績優秀で性格も少々プライの高さが見えるものの、正しく公平な采配と高い政治力によって人気を博す。

本人が有利になるように、生徒会から優先して表彰や報酬を受け取っているなどの黒い噂が耐えないが、少なくとも学園内でも戦闘勉学政治全てトップレベルの実力者であることは間違いがない。

マニフェストは「正しい学園生活」


・テリオス

人気:そこそこ

いわゆるザ・ナルシストタイプ。

誰がどう見ても美青年で、美しい行動や規範といったものに特に執着を見せている。

ただしそれらは押しつけがましいものではなく、スジを通しちゃんと地に足が付いている熱血漢でもある。

そのギャップや容姿も相まってカリスマ性では学園最上級といっても過言ではない。

ファン票である固定票を多く抱えている。

マニフェストは「清廉潔白な学園へ」

読んでくれてありがとうゴブ!

ゴブリンのやる気を上げるために、よければ

【ブックマークに追加】や下の【★★★★★】で応援してくださいゴブ!

反応があると、とってもうれしーゴブ!


部屋の中に虫がいて一匹倒すたびに復活してくるゴブ。

おそらくは無限コンテニューしてきてるぜこれは……ゴブ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 選挙も熱い中、キリエちゃん、可愛らしいですね。クールなジンクの近くでツンツンしてるのが想像できて、話が進むごとに魅力的になっていますね。テリオス様の陣営も面白そうな人がたくさん見られて、こ…
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