第一章12話 ボク3節 『退学の真実』
一章12話予告編動画
https://youtu.be/Q9o3g1FsSXs
ボクはぼおっとした頭と足取りで作業室に向かった。
当然仕事が手が付くはずもなく、ミスを連発するがそれも全て気にすることできない。
どうしよう、ミスをするのはいけない事なのにそれが悪いとも思えないよ。
「おいィ? ハルキてめぇ今日どうしたんだ? すげぇ目してるぞ」
悪魔先輩が異様なボクの様子を見かねて声をかけてきた。
「……正直もう死にたいです。はぁ……全てが……裏切られた」
今のボクには思考能力が全くなく、脳の代わりに脊椎が指示をだし本心を語ってくれたようだ。
「ふゥー……」
渋い顔をした悪魔先輩が深くタバコを吹かす。
「あのな、よくあるぜそういうこと、お前には経験ないかもしれねぇけど、それが世界の全てじゃねーんだよ。人生は続いていくんだよ。悲しいかもしれないけどさっさと切り替えろ」
それは強者の経験者の遥か高みからの意見だ。
ボクはただ辛くてつらくて、そんな達観した理屈到底受け入れられるものではなかった。
「先輩に何がわかるんですか! ボクは退学になる。終わりですよ……」
思わず怒鳴り声をあげてしまう。だってしょうがないじゃないか、わからないよそんな事。
「俺にあたンなよぉ。っていうかまず諦めンな!」
先輩の叱咤激励にボクは感情を加速させた。
「現実問題としてボクはクズでどうしようもなく最底辺なんです! 無理ですよ!」
「ふゥー……。もーやけっぱちになってんだからめんどくせェな」
先輩がタバコを吐きながら目をつぶり、仕方ないなこいつは、といった表情をする。
この人こんな顔もするんだな……
ボクは怒りの反面、どこかでそう思った。
「おいお前、最初に比べて弾作りできるようになってんじゃん。気づいているか? ここにいるやつらの平均以上だそお前」
最早感情のはけ口として先輩を使っていたボクは
初めて聞いたかもしれない先輩の肯定を無視し、一刀両断してしまう。
「でももうバイトも意味ないんですよ! ボク頑張って来ましたけど、もう意味ない。おしまいです。生きてる意味ない、誰にも必要とされてない……」
その言葉を口きりにボクは再びめそめそと泣き始めてしまった。
はぁ……もう本当に死にたいよ。
「……誰も褒めないなら、俺が褒めるよ」
それは最初で最後に聞いた先輩の優しい言葉だった。
特別な感情を込めボクのためにボクだけを見据えてボクを優しく撫でる。
「お前は頑張ってる。すげえよ。だって事実他より結果出してるし。最初と比べて、できるようになったよ。弾作り」
その言葉にボクは、上手く言えないが、固く委縮した心がやさしく弛緩して許されたような。
光に包まれて、大丈夫だよと言ってもらえた気がして。感動が高まり、別の意味で泣き始めた。
「うッ……ぅッ……ひはッ……ぁぁ……」
「うわ、うざ。いいから今日の分やれよ。はいノルマ」
すぐに先輩はいつもの悪魔モードに戻る。
ドスンと弾の入った箱をぶっきらぼうに机の上に放り出し、他の作業場――戦場に戻っていった。
………
……
…
「お腹空いたな……」
ボクは今日の、最後になるであろうバイトを終え、最後になるであろう晩餐のために食堂にやってきた。
「(先輩の言ってる意味は理解できないかもしれないけど、でも……)」
ボクは泣き目を腫らしながらも少しすっきりしていた。
「(必死で分かっていなかったけど、弾作りちょっとできるようになってたんだ……)」
今やそれがいい事なのか……わからない。
まずは、から揚げだ。
「うーん、ラス1なんだよね。スペシャルから揚げ定食」
いつもの優し気な学食のお兄さんが、困ったように眉を顰め二人を見ている。
最後の一皿になったスペシャルから揚げ定食を、二人のどちらが注文するかということで揉めていたのだ。
一人はボク、そしてもう一人は
「悪いがこれは譲れない、オレにはやらなくてはいけない事がある」
ぶっきらぼうにスカした目つきの悪い男子学生。
――ジンクであった。
「ぼ、ボクだって! 今日はこのために、ボクの人生はこれを食べるために生きてきたんだ!」
心底本心の言葉を吐く、思いの他壮大な言い回しになってしまったが事実そうなんだ。
だって明日退学になるんだし……。
「ちょっと、アナタたちこんなことで揉めないでよ……」
スカした男の後ろから女生徒、しかもかわいい。
髪の長い清廉そうな彼女は対面の男を制止した。
彼女連れなんだ……これはムムム。
なんだかますます負けられないぞ……。
「譲れない、これは絶対だ」
「テコでも動きません!」
両者一進一退、真に迫る気迫で一向に譲る気がない。
「はい、お待ちどう様」
そんな二人の間、カウンターの上に完成した料理が置かれる。
鼻孔を突くニンニクとしょうが、そして揚げたての油のいい匂いが辺り包む。
そこには究極、待ちに待った、出来立てのスペシャルからあげ定食が鎮座していた。
「じゃあ悪いな、これはオレが貰う」
「そんな事言ったってダメですよ! これはボクが食べるんです!」
二人はおもむろにトレーをつかみ、引っ張りあう。
「もうジャンケンで決めたら?」
この食堂のお兄さんの一言によって、激しいやり取りの後、平和が訪れた。
勝利したのは――。
「うっっっまぁぁぁぁぁぃ……!!」
ボクは周囲の目を気にせずただただ幸福を感じていた。
好きだったから揚げ、しかもスペシャルを、この数ヵ月感食べていなかったのだ。
その解放感、期待感、カタルシスはハルキの少ない人生経験において史上最強のそれであり。
幸福の波が、渦が、海が、ハルキの精神の中を覆いつくしていたのである!
まずは300gにもなるぷりっぷりの鳥モモ肉!
それをジューシーに閉じ込めた油と衣が包み。
香り高いしょうゆしょうがニンニクがしょうがが! 調味料が三位一体となり、神となる。
「ぉおぉおお……!! 神サマ!!」
続くは脇を支える豚汁! に入ったほくほくのサトイモを見た? 何という事だ食感の侵略者だよこれは!
キャベツの千切りも一度水に浸してありシャキシャキでたまらない! たまらないよぉお!
そして箸休めの漬物! ああなんということだ清涼感が口の中に広がり、いくらでもから揚げを食べれるじゃないかッ!
そしてマヨネーズだとっ!? ああっなんてことだ! 七味もかけて味変だぁ!!
これは豚でもない……いや鳥でもなく、史上最高の、人類史上類を見ない幸福な料理だよッ!
………
……
…
全てを食べ終わり、そこには蕩けきった幸せおデブちゃんがいた。
「これで退学に……死んでも未練はないよぉ……」
そうだ、そうだったのだ。
この学園において退学というのは、特別な意味を持つ。
『一般的なものだと思われがちだが、それは違う』
つまり、退学というのは。
――処刑されるという事だ。
これがこの学園における退学の真実である。
読んでくれてありがとうゴブ!
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反応があると、とってもうれしーゴブ!
長かったボク3節も区切りゴブ~
次回からオレ編が始まるゴブ!
ちなみに今日はコロッケ食べたゴブ。