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対価は添い寝

「あの後の夜から、神隠しに追いかけられる夢を毎晩見るの。初めは、トラウマか何かになって見ているのかなと思っていたんだけど、日を追うごとに神隠しとの距離が近づいてきてる気がして」

「あの日からすぐってことは、今日で三日目か」

「うん」


 昨夜はもう、手を伸ばせば届いてしまうのではないかというくらいの距離にまで神隠しの気配を感じた。もし今日また眠ってしまったら、今度こそは捕まってしまうかもしれない。夢だと思いつつも、夢だとは到底思えないような怖さがそこにはある。


「千夏、神隠しの顔は見たか?」

「振り返ってないから、見てないよ。ねえシン、でもこれって、夢なんじゃ……」

「夢だと思えなかったから、わざわざこれを用意したんだろ」


 シンが供えてあった本を(ふところ)にしまう。そうだ、夢とは思えないからこそ本を買いに行ったのだ。ただ懐にしまうあたりがなんとも言えない光景ではあるが、今はツッコむのはやめておこう。


「そうだけど」


 ただそれを認めてしまえば、曖昧だった恐怖が現実味を持つ。それが嫌だったのだ。夢だと思い込めば、どれだけ怖くてもなんとかできると思えた。しかしあれが夢ではなく本物の神隠しというのなら、私だけでは対処のしようがない。


「神隠しといえど、こっちの世界にいる以上は段階を踏まなきゃ(さら)うことは出来ない。まずは対象を追いかけて追い詰め、恐怖を埋め込み、顔を見せることで追いかけられている者にそれを自覚させる。その上で捕まえ、こっちの世界から妖の世界へ引き込むのさ」

「でも、あの時ちゃんと逃げ切ったはずなのに」


 シンと二人で手をつなぎ、神隠しの作った回廊から確かに逃げ出せたはず。それなのに、今度は夢の中まで追いかけてくるなんて。


「よっぱど、お前が欲しいんだろ、あいつらは。しかもあの時、お前の持っていた人形をお前の代わりとして使ったから、そこから辿って追いかけてきたんだろう。まったく、しつこいこった」

「ちょっと、何帰ろうとしてるのよ」


 本以外にも供えたものを、両手に持ち、そのまま竹林へと消えていこうとするシンの着物のすそをつかむ。何か問題でも? と言わんばかりに、シンが怪訝そうな顔をするが、私だってここで引き下がるわけにはいかない。


「相談と説明が終わったんだから、フツー帰るだろ」

「いやいやいやいや、相談と説明だけでその対価は少しもらいすぎでしょう。さっきの説明だと、私今日にでもつかまっちゃうよね」

「んー、まあ、そうだろうな」


 悪びれもなくシンがサラっと返す。


「そうだろうなじゃないし。助けないにしたって、せめて逃げる方法を伝授するとか、なんかないわけ」

「そこは根性で」


 怪奇に根性論なんて、今まで一度だって聞いたことないわ。誰がどう考えたって、適当に返事をしていることは分かるだろう。この前の時に気まぐれで助けただけだと言われていたから、今日だってある程度は分かっていたけど、それにしてもひどいと思う。


「お、おまえなぁ、そんな顔したって、毎回は助けないと言っただろ」

「エロ本まで買ってきたのに」

「これは相談料と前回の足りない分だ」


 確かに前回助けてもらった分は何も払ってないも同然だけど。


「女子高生と添い寝」

「は?」

「だから、女子高生と添い寝させてあげるって言ってるの。これなら、足りるでしょ」


 今日捕まるのが分かっていて、一人でなど寝れるわけがない。本当は男の人と一緒に寝るなんてありえないけど、背に腹は代えれないし、どのみち人でもないから問題ないだろう。


「……」


 シンは考えるように、眉間にシワを寄せたまま私を見た。そして視線を上から下まで、何かを確認するように移動させる。


「乳がな……」


 シンが言い終える前に、私はすかさずすねを蹴り上げる。


「っいってー。おい、一応神の一種だって言ってるだろう。そう何度も足蹴にするなよ」

「発育途中だって言ってるでしょ。それに女子高生と添い寝なんて、もう一生出来ないかもしれないのよ」

「ったくしょうがねーなぁ。今回だけだぞ。夜行くから、窓開けとけよ」

「そんなこと言って、興奮して鼻血出さないでね」

「ばーか」


 強い風が吹き抜け目を閉じた瞬間、シンの姿はまた忽然と消えていた。


 ただ約束は守ってくれる。そんな気がした。ただこのそわそわした気持ちのまま、どうやって夜まで過ごそうか。考えれば考えるほど、頭の中はそのことで埋まっていった。


「……やめた。コンビニ行こ」


 諦めて私は歩き出す。後ろの竹林でシンが呆れている姿がなぜか思い浮かび、思わず自分でも可笑しくなってきた。

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