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得たいの知れない恐怖

 まばらな街灯がうっすらと辺りを照らし始めた。明るい道にはほど遠く、交差点から交差点までの角に一つずつしかない。

 一人歩きなどしたいとは思えないほど暗く、そして人影もない。夜中でも人が溢れる都会とは大違いだ。


「二人とも帰るよー」

「まったくこっちの気も知らないで元気な奴だな」

「主なら、どうにかしろよ」

「俺と()()|とは、そういう関係ではない」

「そうか……。あんたにその気はなくても、(おさ)は十分にその気だったけどな」


 私の自転車の後ろを、シンと戒が歩く。なにかをけん制するように、お互い表情は硬い。


 私も戒と仲がいいわけじゃないけど、シンと戒はそれ以上ね。こういう光景を見ると、シンは誰にでも優しいってわけじゃないって分かる。

 でもこの話が出ているちょうどいい機会ね。ちゃんと戒に伝えないと。


 自転車をこぐのをやめ、私は戒たちの方へ振り返った。


「戒に言おうと思ってたけど、私は次の長になるつもりないからね」

「おまえ、それ本気で言ってるのか」

「本気も何も、こんな小さな町の長になったところで別にメリットがあるわけでもないし。私は父さんがどうしても帰るっていうから仕方なくついてきただけで、高校を卒業したら友達のいる向こうに帰りたいもの」


 長候補は現在二人。私が辞退すれば、すんなり戒に決まるでしょう。元々、怪異とかそういうのに無縁で来たし、たまたまシンが力を貸してくれていたから切り抜けられただけ。

 そんな心もとない私が長になったところでなんの意味もないだろう。


「長を断ることがどういうことか分かってるのか?」

「ただの権利の放棄でしょ? それになんの力も知識もない私がなったところで、意味がないでしょ」

「まぁ、千夏は使えないからな」

「シン、それ言い方。もっと、別の言い方あるでしょうに」

「ははははは。でも、本当のことだろう?」

「それはそうだけど……。ということで、あの場では言えなかったけど、長になる気はないから」

「……」


 私の言葉に戒の眉間のシワがますます深くなる。

 

 せっかく断ってるのに、なにも怒ることもないのになぁ。自分が長になれるんだから、もっと嬉しい顔すればいいのに。


「おまえは本質を分かってなさすぎだ千夏」

「本質? 長になるってことが?」


 この町の一番の大地主であり、堰の役目を果たす一族。確かに私は、自分のことなのにあまりにも何も知らなさすぎる。今まで興味を持ったことも、疑問を持ったこともなかった。


 そう考えると、少しおかしくは思う。なぜ父にも祖母にも私は聞こうとしなかったのか。

 自分が長という立場を押し付けられるかもしれないのに……。急に怪異が見えてどうしたらいいか分からないというのに。


「なんで私はこの状況を無意識に受け入れようとしてたんだろう。怪異が見えることだって、本来は普通ではないことのはずなのに……」

「千夏、それを考えるのか?」


 そのシンの問いに私は小首を傾げる。


 シンの言い方は、まるで考えてはいけないように思えた。しかし考えようとすればするほど、体がぞわぞわする。そう自分の家に入るあの瞬間のようななんとも言えない感覚だ。

 そして私は今からその家に帰るというのか……。


「ん-。今日は辞めとく。せっかくさなちゃんのお母さんに、さなちゃんがお母さんもお母さんと乗る自転車も大好きだったコト伝えて心がほくほくしてるのに、嫌な気分になりたくないもの」

「嫌な気分……か」

「……」

「なによ、二人ともそんな暗い顔して」


 少しは考えろってことなのかな。でも二人とも呆れているようには見えないし。


 私は再び前を向くと、自転車をゆっくり漕ぎ始めた。先ほどよりもペダルが重いのは、きっと気のせいではないのだろう。それはまるで、私の今の気持ちを反映するかのようだった。

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