地に残る未練(六)
「で、これが知り合いと迷子か」
シンとさなちゃんを見つけた戒は、大きなため息をつきながら額に手を当てた。まともな反応といえばそれまでなのだが、なんとなく気まずい。
「千夏、地図借りに行って変なもんまで拾ってくるなよ」
呆れているのは、シンも同じようだ。戒を見た瞬間から、明らかに機嫌の悪さを隠そうともしない。
「いや、これは、その。私が地図だけでは迷子になるんじゃないかって……、つまり兄心? みたいな」
「ぶっ。なんだ、兄心って」
シンのツボだったのか、兄心の一言で、口元を押さえながら笑い出す。なにに対してウケているのかは全く分からないが、これでとりあえず、一人は大丈夫そうだ。
「兄心って、おまえ、もう一度小学生からやり直したらどうだ」
「いやいや、戒さん。どうだと言われても、親ほど離れてないんだから兄心以外ないでしょう」
「だってよ、残念だったな。おにいちゃん」
シンが私の肩を叩きながら、声を出して笑っている。私の兄ポジションを取り合っているのかと思いきや、どうやらこれは逆のようだ。
「そんなに、私の兄ポジション嫌なんですか?」
「あはははは。や、やめてやれよ、千夏。ああ、苦しい。こんなに笑ったのは久しぶりだ」
「シンも、なんでそんなに笑っているのよ。って、そんなことより急がないと日が暮れちゃう。まずはさなちゃんのおうちへ行こう」
シンの横に停めてある自転車に手をかける。先ほどまであれだけ重かった自転車は、まるで動くことを許可されたように普通の重さだ。これなら、私が圧してもそれほど時間はかからないだろう。
「……おれが押すから、代われ。お前のスピードでは、日が暮れる方が先だ。なにをするつもりかは知らないが、関わった以上は最後まで見届ける義務があるからな」
「くくく。さっすがだなぁ、兄の鏡だ」
「そういうおまえは、契約していないのならば、いる必要性はないと思うが?」
戒がいくら睨み付けても、飄々とするシンにはなんの効果もないようだ。
ただ、戒の言う契約とはなんのことだろう。あの対価のことを言うのだろうか。しかし契約と呼ぶには、少し形態が違うような気がする――――
「争っている場合かい? 日暮れるよ」
「うん、そうだね。道祖神さんの言う通りだ。二人とも揉めるなら、私1人で行くから」
今わからないことを考えていても、仕方がない。時間がないのだから、さなちゃんのことだけに集中しないと。
シンと戒は私の顔を見たあと、それ以上なにを言うこともなく歩きだした。
小刻みですみません(;Д;)
明日も更新します。




